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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
サイラースの魔女

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サイラースの魔女11

「……治安維持の観点から、突入部隊を止めることはできず……」

 署長が言うが、そんなことは分かっている。

「レイン家が絡んでいるなら、拉致された事は既に把握されているだろう」

 アルフレドは毅然と言った。拉致がばれなくても死体が出れば確実に察知される。

 レイン家……ドラゴンマスターがどういった意図で、この少女を送り込んできたのかは不明だが、何らかの謀略の可能性がある以上対処は慎重にならざるを得ない。

「……どのみち、救出作戦をやらない訳にはいかないだろう。

 くれぐれも、無事に確保してくれよ……」

 最後の部分は、どちらかと言うと祈りではあるのだが、アルフレドは言った。


◇◆◇◆◇◆◇


「艦長。お休みの所申し訳ありません」

 艦内通信が入ったのは、丁度レクシーが艦隊のユニフォームを脱ごうとしていた時だった。

「通信のハーメイです」

「いいえ。大丈夫よ」

 レクシーは答えて、ユニフォームのボタンを留めなおす。

「奇妙な通信を受信したので、ご報告をと思いまして」

 ハーメイは通信部の、外来通信分析官である。

 ルビィの件についてアベルからの通信があってから、普通とは違う通信を見つけたらすぐに報告するように命じてある。

「……傍受じゃなくて受信、と言う事は本艦宛て?」

「アイ。艦長。その通りです……」

 音声が一瞬沈黙。

 ハーメイが手元の資料でも確認しているのだろう。

「……通信が入ったのは、約十分前です。サイラース標準時で午前二時頃になります」

「続けて」

「アイ。艦長。

 受信したのはスターロード経由の通信ですが……パケットだけでペイロードの無いデータを受信しました」

「ペイロードってのは、データの本文が無い。っていう認識であってるかしら?」

 レクシーはレプトラやルビィ程はこの手のテクノロジーに詳しくない。

 こういった細かい情報のすり合わせは大切だ。

 そもそも、艦長への報告にテクニカルタームを使うな、という話でもあるのだが上司のアベルからしてテクニカルタームを垂れ流す為、レクシーは既に諦めている。

 これが処世術という物である。

「アイ。艦長。

 宛先だけが書かれた空の封筒が届いたような物です」

 ハーメイ側も、テクニカルタームを使ったのを反省したのか、突然具体的な例を挙げ始める。

 これもまた処世術か。とレクシーは思った。

「……なるほど。ではその空の封筒をあなたはどう分析する? ハーメイ」

「はい。このパケットは本艦……E5312宛てに送られています。そして艦のファイアウォールをすり抜けて来たので、明確に送る意図をもって送られています」

「つまり空の封筒でも意味があると?」

「アイ。艦長。空の封筒でも、宛先と差出人は書かれていますので」

 なるほど、言われてみれば確かに。宛先が無ければ封筒自体が届かないわけだ。

「もちろん、送信元の分析は終わってるんでしょうね?」

「アイ。艦長。

 送信元はサイラース1です。あまり外向けに使われていないネットワークから、送信されています。

 サイラース1の詳細なデータがあれば、物理的な場所も検出できるかも知れません」

「ありがとうハーメイ。十分後に本国とブリーフィングを行います。それまでに、情報を整理していて。

 後、通信担当の当直……今の時間ならフォルンかしら? に変わってくれる?」

「艦長。フォルンです。

 本国とのミーティングのセットアップでよろしいですか?」

 どうもすぐ隣に居たらしい、超高速通信担当のフォルンが割り込んでくる。

「ええ。超光速機関の使用を許可します。機関室にはわたしから連絡しておくので、準備を進めて」

「アイ。

 ミーティングには、誰をリクエストなさいますか?」

「マストは、マイスタ・アベルとレプトラ・ヒンギス分析官をマストで。

 こちらは、わたしとハーメイが出ます」

「アイ。では、会議室を予約したのち超高速通信の接続に入ります」

「お願い。レクシーアウト」

 レクシーは、通信を切断すると機関部に超光速機関の使う旨を通知。さらに警備部には二個小隊の待機を指示する。


「マイスタ・アベル。目が死んでますよ?」

 まずレクシーはそれを指摘した。

 アベルの姿は明らかに寝起きである。

 レクシーとしては、アベルは完全な夜型ドラゴンであると思っていたのだが、そうでもないのかもしれない。

「なにしろこっちは午前四時過ぎだからな……」

 超光速機関を通して行われる通信は、膨大なトラフィックが確保できるため明瞭な音声に加えて映像の転送も行える。

 これは別に相手の顔が見たい。などという酔狂ではなく、コンピュータの画面の共有などが行えるためこうした会議では有用であると言える。

「……では燃料も勿体ないので、話を始めます」

 なにしろ、通信している間、超光速機関はずっと運転状態である。

 アークディメンジョンに押し上げる対象が情報だけとは言え、その消費エネルギー量は膨大だ。

「ハーメイ。説明を」

「アイ。艦長。

 まず、レプトラ分析官には事前に受信したデータを送っていますが……」

 ハーメイが画面に資料を出しながら、説明を始める。

 資料がディスプレイに現れたので、エッグ側の会議室の様子が縮小されて、画面の左下に寄る。

「この通信は、小一時間程前に受信しました。

 空のパケットですが、本艦宛ての通信です」

「ICMPのキャストか何かか?」

「はい。そう思っていただいて問題ありません。

 この通信はピア指定で送信されています」

 アベルの言葉にハーメイは頷き、話を続ける。

「ピア指定を行っている以上、この通信を行った人物はネットワークに関して相応の知識があり、かつ本艦の通信システムに精通していると考えられます」

「つまりルビィか」

「はい。マイスタ・アベル」

 最後にレクシーが同意する。

 レクシーは別に、ルビィに対して『ブラックバス』のシステムを説明したわけでもないのだが、ルビィなら勝手に調べているだろうという予想である。

 なにより、ルビィ以外に探られているなら、それはそれで問題があると言える。

 もちろんルビィに知られているのも問題なのだが。

「……こちらからも質問よろしいですか?」

 これはレプトラの声だ。

「どうぞ」

「ハーメイレポートの分析によると、サイラース1の中からの通信とされてるみたいですが、これはどういった分析を?」

「本艦に着信した、パケットに経路情報が乗っていました」

 レプトラの問いに、ハーメイが答える。

「偽装の可能性については?」

「可能性はありますが……メリットは無いように思います」

「……現地の治安組織の動きはどうなってる?」

 アベルが聞いて来る。

 ……これは何かやるつもりねぇ……

 とレクシーは思った。

 別に嫌な訳ではない。今の所アベルの謀略の類は成功率一〇〇%。負け知らずだ。見ていて楽しいし気持ちいい。

「一応、通信は傍受しています。

 情報分析室に最新情報を問い合わせます」

 ハーメイが壁際に設置されている艦内電話を手にした。

 いくつか言葉を交わして、受話器を置く。

「……マイスタ・アベル。治安維持ユニットが動き出したようです」


◇◆◇◆◇◆◇


「……で、勝算は?」

 黄ばんだ白いカーテンのような布を体に巻き付けたルーシーに問われて、ルビィは言葉に詰まった。

 数秒間考えて、答えを出す。

「ゼロじゃ無いわ」

「……ええ……」

「まあ聞いて。

 放って置いたら、他のサイラースの魔女の被害者と同じくどっかの路地に躯を晒すだけよ。

 なら、一人でも二人でも血祭に上げて、道ずれにするのが正しい姿でしょう」

 ルビィは人差し指を立てて、講釈を垂れる。

 現状の問題は、二つある。

 一つは、何と言っても唯一の出口を、件の白づくめに固められている事。

 白づくめが襲って来ないのは、単にルビィの戦力評価ができないからだろう。戦力評価ができなければ、残るのは三人ばかり殺され内二人は焼死したという事実だけ。恐怖が先だって動けないはずである。

「でもどうして、わたしを助けに戻ったのよ? そのまま逃げてれば……」

「ダメよ。置いていったらあなた殺されるもの」

 普通に考えれば、ルビィが逃げだしたら白づくめ達は証拠を処分して、逃走を図るのは容易に想像が付く。

 その場合の処分される証拠が何かといえば、囚われている女の子たちである。

 それに、逃走する側のルビィにもリスクがある。知らない道を、絶対数のわからない敵から逃げる必要があるのだ。

 ましてやルビィは手負い。逃げ切れる確率はどれほどあるだろうか? そもそもそんなに簡単に逃げられるような場所なのかもわからない。

 だからルビィは一計を案じた。

 いや、二計か。

「でも、ここに居てもその内……」

「そうね。どっちが早いかの勝負になるけど……わたしの読みでは、それほど分は悪くないはずよ……」

 ルビィはそう言って、広場の奥の階段に目をやった。

 ここで言う、分は悪くないというのは、言うまでもなく治安維持ユニットの突撃である。

 何しろ、ここの情報を官憲の代表窓口に流し込んだのだ。

 加えてルビィは、先ほどから魔法を使っている。

 サイラース1に魔法探知設備があるという情報をルビィは持っていないが、普通に考えれば存在するはずだ。

 なんだかんだ言って、ドラゴンには魔法使いが多いのである。

「……分は悪くないって……」

「そんなことより、ルーシーあなたVME無しでも魔法使える?」

 ルビィに問われて、ルーシーは首を振った。

 まあ、これは当然の答えだ。

 ルビィとてアベルに言われなければ、VME無しでの魔法の発動練習などしなかっただろう。

 VME無しで魔法を発動させるのは、それくらい難しく、それでいて意味が無いと考えられているのだ。

「じゃあ、奥へ」

 どのみち、小汚いカーテンを体に巻き付けただけで、魔法も使えないルーシーに戦え、というのは酷である。

 治安維持ユニットが突入してくると仮定した場合、その突入に巻き込まれるのが一番怖い。

 一応、官憲に送った情報の中には、白づくめ達は人間であるという情報が含めてあるが、正確に伝わっているかは判らない。

 あまり信用しないほうがいいだろう。なにしろ自分の命にかかわることだ。

 ここまでやっておいて事故死は御免被りたい。


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