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8.【同年、宮廷魔術院にて筆頭宮廷魔術師が予言する】

視点変更回。宮廷魔術院サイド

 宮廷魔術師の証である白色のローブを身に纏った男達が神妙な面持ちで宮廷魔術院内の会議室の円卓に着いている中、同じく白色のローブを纏った赤髪の青年が入室してくる。青年のローブには筆頭宮廷魔術師の証である霊木の紋章が銀糸で刺繍されていた。


「今から話すことは他言無用で頼む」


 年若いにも関わらず老成した面差しをした筆頭宮廷魔術師グスタフ・スターク・ベルヴィルは円卓の前に立ち口を開く。


「私に前世の記憶があるのは誰もが知っているだろう。その私の前世の話を聞いてもらいたい。私はこの国ウィスカニーグの未来の時代を生きていた」


 筆頭の発言に対して息を飲む者、内容の突拍子のなさに怪訝な顔をする者など反応は様々だ。だが筆頭は意に介した様子もなく悠然と語り続ける。


「それはある者が魔獣を世界に呼び込み、世界に混沌をもたらした悲惨な時代だった。私たちは魔獣を呼び込んだものを魔王と呼んだ。魔獣と呼ばれる魔法を用いて人に害をなす化け物が世界中に蔓延りいくら討伐してもまたどこからか沸いてくる。人々は抗うも疲弊して衰退し国は滅んでいった。私はこの国の未来をそんなものにはしたくない」


 筆頭が話に一息つけるとすかさず老年の宮廷魔術師が声をあげた。


「魔法でできることには限界があるというのに、そんな荒唐無稽なことが起こるとは到底思えませんな」

「古代の変種の魔珪石プエルデイの伝承は知っているか?」

「まさか実在するとでも仰るおつもりか?」

「そうだ。未来で使用済の状態で発見された。そして魔獣が世界にもたらされた原因だとも結論付けられた」


 筆頭は宮廷魔術師達を見渡して反応をうかがう。宮廷魔術師達がそろって不信感から目を伏せる様を見て苦笑する。


「そもそも私が前世として未来の記憶を持っているということに不信感を覚えているものもいるだろう。今まで前世があっても過去の時代の記憶を持って生まれたもの達ばかりだからな。前例がなく信じられないのは仕方がない。証人を呼ぼう」


 筆頭の合図で室内に入ってきたのはこの国の王ケネルム・ケンバルド・ウィスカニーグだった。宮廷魔術師達が席を立ち臣下の礼をとろうとするのを手で制すると円卓の席に加わった。


「なぜ陛下がここに?」

「私は筆頭宮廷魔術師ベルヴィルの予言をこれまで何度も聞いてきた。初めは半信半疑だったがこれまでの間にベルヴィルが予言したことのほとんど全てが的中している」

「的中しなかった予言もあるのですよね? ならばそれは推測が当たったのに過ぎないのではないでしょうか?」


 未だに訝しい目で筆頭を見る宮廷魔術師の一人が恐る恐るといった呈で国王に進言する。


「当たらなかったのはベルヴィルが介入した出来事だけだ。まずは第一王子エドガー殿下の暗殺の阻止。近衛騎士の謀反をあらかじめ知っていたベルヴィルにより阻止された。ああ、あの手腕は素晴らしかった。ベルヴィルが最年少で筆頭に任命されるきっかけとなったから皆も覚えているだろう?」


 国王は筆頭の様々な手柄話を語る。そのたびに宮廷魔術師達は感嘆のため息をもらし驚愕をあらわにした。


「そしてエードバーク鉱脈の粉塵爆発から誘発された落盤事故。あの時前もっての避難誘導と霊木フェムテラピアをエードバーク鉱脈で備蓄しておくよう進言したのも筆頭だったな」

「あの時はまだ一介の小姓に過ぎなかったにも関わらず私の進言をお耳に入れて頂けたこと感謝しております」

「まさか、エードバーク鉱脈の英断まで当時12歳の筆頭のお手柄だったとおっしゃるのですか?」


 宮廷魔術師が驚きのあまりに席を立ちかける。だがそれを咎めるものはいなかった。


「そうだ。私はその災害が起きることを筆頭の予言から知ったのだ。そのお陰で事前に霊木フェムテレピアを伐採しエードバーク鉱脈で保管することに踏み切れた。その結果は皆が知る通り、甚大な被害だったにも関わらず死者を出さずに収束させることができた。筆頭の予言で一体どれ程の者が命を救われたことか」

「神聖視されている霊木を切り倒すという恐れ多いこと普通なら行動に移せません。予言を知っていたからこそ出来た勇断だったのですね」

「勇断などではない。決断することに勇気などいらなかった。何故かはもう分かっているだろう?」

「その時から陛下は筆頭の予言を心から信じていたというのですか?」

「その通りだ」


 宮廷魔術師達の筆頭を見る目から不信の色は消え失せていた。しかしそれと同時に宮廷魔術師達の表情には恐怖の色が帯始める。青ざめた顔の宮廷魔術師が筆頭に問いかける。


「災害そのものを未然に防ぐことはできなかったのですか?」

「それは出来なかった。防ごうとしても被害を小さくするぐらいにしかならなかった。運命には強制力というものがある。どんなに備えても事象に起因することは必ず起きた。未来に記されていた歴代史の年表通りにな。いずれ魔王も必ず現れ世界を破滅に導こうとするだろう」


 筆頭の返答に辺りに沈黙が降りる。


「魔王はどのような人物なのですか? その人物を捕縛すればいいのでしょう?」

「魔王の名は忌み嫌われて私の時代には伝わらなかった」


 溜め息や呻き声が静かに響いた後沈黙が再び降りる。


「だが分かっていることは二つある。一つは多大な魔力量を保持する者だということだ。魔珪石が何でも願いが叶えられるといっても世界を変えるほどの魔法を行使するには元となる魔力も多大な量が必要だからな。それともう一つ。古代の変種の魔珪石の伝承を信じているものだ。配ってくれ」


 場に控えていた文官から黒い魔珪石のついた細い銀製のチョーカーが配られる。チョーカーに錠が付いているのを見て宮廷魔術師達は怪訝な顔になる。


「今ここにいるも者たちは今の条件に当てはまるからな。申し訳ないが裏切りを阻止するためにこれを付けてもらう」

「これは一体なんなのですか?」

「私の魔封じの魔法を待機させた魔珪石をはめ込んだ魔導具だ」

「魔封じとは何なんです? 聞いたこともありません」


 宮廷魔術師の数人が顔に疑問符を浮かべる中、訳知り顔になる者もいた。文官たちは宮廷魔術師達が身に着けた魔道具の錠を閉めて回った。鍵のかかる音が室内に響く。


「それはそうだろう。未来の人間が魔獣に抗うために新しく身に付けた魔法だからな。魔力の流れを崩して魔法を打ち消すことができる。そして行使者に対して使えば魔法能力を一時的に封じることもできる。私が前世から引き継いで使える能力だ」

「筆頭はそんな魔法まで使えるのですか。前世から魔法の能力を継いでいると聞いたことはありますが全く別物の魔法まで使えるとは思っていませんでした」

「強い魔法だと思うか? だが未来ではこんな力があってもなお人は魔獣に苦戦を強いられるんだ」


 筆頭は自嘲気味に笑うと宮廷魔術師たちを見まわして魔導具を装着したか確認する。


「怪しい行動をした者は即座に魔法能力を封じさせてもらう。悪く思わないでくれ。私は何としても魔王の行動を阻止したい」


 宮廷魔術師達の中で魔導具に対して不満を言うものはいなかった。それどころか筆頭を見る視線に畏敬の念が混じる。筆頭の能力は他の宮廷魔術師達と比べて圧倒的だった。莫大な魔力量に未来の記憶、そして魔封じという筆頭ただ一人しか使えない魔法の能力。魔法を神聖視し魔力量を重視している貴族にとって筆頭は信服せざるおえない対象だった。


「魔王が魔珪石プエルデイを見つけて世界の破滅を願うのは今から5年後の冬だ。それまでに何としても魔王を特定しプエルデイを使用される前に回収しよう」


 宮廷魔術師達が賛同の意を表して次々と声を上げていく。この場に絶望的な表情をするものは誰一人としていなかった。宮廷魔術院は筆頭宮廷魔術師グスタフ・スターク・ベルヴィルにより支配されていた。

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