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4.アンブローズ7歳。魔力の色を知る

 ディーン先生から魔法を教わるようになって二年たった。最近は魔法の簡単な実技を交えながら座学が進んでいた。そしてとうとう教科書の最後のページの解説が終わる。


「魔法の基礎理論については一通りこれで終わりです。最後に各魔法について軽く確認します」

「もう一通り? 魔法で何でも願いが叶えばよかったのになぁ」


 魔法が万能ではなかったというがっかり感から最近このセリフを何度も言ってしまう。魔法について詳しくなっていくほどにそんな気持ちが強くなっていく。そのたびに先生は苦笑した。


「クレメント様。発生魔法と干渉魔法についてそれぞれ説明してみてください」

「発生魔法は空気中から現象を発生させて行使する魔法です。火、水、風、雷などを発生させられます。干渉魔法は媒体に影響を与えて行使する魔法です。土、草を媒体にするのが一般的です」


 クレメントは相変わらず完璧だが最近私に対してよそよそしい。部屋にも授業が開始する寸前まで入ってこなかった。

 先生は私に視線を移して問いかける。


「ではアンブローズ様、療治魔法とはなんですか?」

「自分の身体の傷を癒す魔法です。他者に対して使うことはできません」

「それでいいのかなぁ?」


 何が間違っているのか分からずクレメントを見る。けれどクレメントは呆れたように私を見るとすぐに視線を逸らしてそっぽを向いてしまった。仕方ないので間違えているのは分かるがその魔法についてさらに話す。


「えー魔力は傷が出来た際に傷口に集まる特徴があります。そのため魔法を使える人は療治魔法を一番初めに覚えます」

「アンブローズ様が話されているのは治癒魔法ですよ」


 私が間違えているのに先生は微笑んだ。先生は私の覚えがよくなると間違えたときを喜ぶようになった。教え甲斐があるからだろう。


「治癒魔法と療治魔法の二種類があります。治癒魔法は自分の怪我を癒す魔法です。対して療治魔法は他者の身体を治癒する魔法です。療治魔法にはフェムテラピアの枝が媒介に必要で広義では干渉魔法にあたります」

「ああ、どっちも傷を治す魔法なんだから一緒でいいのに」

「全然違う魔法ですよ。治癒魔法は昔は生理現象として扱われて魔法に分類されなかったほど簡単なものだけど、療治魔法はフェムテラピアという霊木の枝を媒介にしないと使えない魔法です」

「どうして自分以外の人を治すにはフェムテラピアの枝が必要なんですか?」


 クレメントが教わったことをさらに掘り下げる質問をする。


「それはね、魔力には人それぞれ色があるからですよ。色の違う魔力を流し込んでも身体には馴染まないんですよ」


 先生は鞄から無色透明な原石と真珠色の骨のようなものを取り出した。


「これが何か分かりますか?」

「ガラスと骨に見えます」

「話の流れから少し推測しましょう? クレメント様は分かりますか?」

「骨みたいなのはフェムテラピアの枝ですかね。ガラスの方は分かりません」


 先生はクレメントが私を真似て骨、ガラスと表現するのに苦笑いする。


「もしかしてもっと高価なものですか?」

「高価なだけじゃなくて貴重でとても神聖なものですよ。この国にはフェムテラピアとマスミスティカという二種類の霊木があり、フェムテラピアは枝が、マスミスティカは化石が魔導具として扱われています」


 先生はガラスを手の平に乗せた。するとガラスが深緑に染まっていく。水の中に染料を流し込んだかのような変化に目を見張る。でもガラスは個体でどう見ても液体ではない。


「この石の名称は魔珪石といいます。貯蓄器という魔力を貯めこむ器官があるマスミスティカが化石化したもので魔法を込めるとそれを恒常化させることが出来ます。魔珪石に込めた魔力が尽きるまで魔法が発動し続けます」


 先生は私たちによく見える様に魔珪石を机に置いた。魔珪石からは微風が吹いてくる。色が少しずつ淡くなっていき透明になると微風が止まった。


「暑い時にこれに風の魔法を込めて置いておくと涼しくてとてもいいんですよ」

「貴重で神聖なのにそんな使い方していいんですか?」

「魔法を使うという行為自体が神聖なものとされているから問題ありません」

「それなら私もやってみたいです。どんな色なのか気になります」

 魔珪石の扱い方になんだかとても釈然としないものを感じるが便利ならそういった使い方をしてしまうのも仕方ないのかもしれない。それに私の魔力が何色なのかも気になったので蟠りは流すことにした。


「そうですね。二人ともやってみましょうか。それではクレメント様からどうぞ。ほんの少しだけ微風の魔法を込めてみてくださいね」


 私より先にクレメントが優先される。少し不満を感じるが私が失敗して問題が起きた場合クレメントが試せなくなってしまうかもしれないので仕方ない。



 クレメントが魔珪石を受け取って数秒すると魔珪石が紫色に染まり始めた。


「きれいな紫色! 魔力の色がつくと宝石みたい」

「宝石かと言われれば宝石かもしれませんね。希少ですし魔力が入ると輝いて美しいですしね」


 言われてみて魔力を込められた魔珪石自体が微かに発光しているのに気づく。クレメントの込め方の要領がよかったようで数秒で無色透明に戻った。私も気合をいれて微風の魔法を魔珪石に込める。


「赤! かわいい」


 最近、屋敷に他所の人がいない時に好んで着ているドレスの色に似ていた。とても好きな色だった。気合をいれてしまったせいか無色透明に戻るまで数分もかかった。


「次はこちらのフェムテラピアの枝を通して魔珪石に魔力を込めます。よく見ていてくださいね」

 先生はフェムテラピアを杖のようにして魔珪石にあてた。すると魔珪石は輝き始めるが色はつかず無色透明のままだった。使用したフェムテラピアはぽろぽろと崩れて砂になった。


「フェムテラピアには濾過管という魔力を無色化する器官があり、このように魔力を誰にでも馴染む無色の魔力にすることが出来るんです。人は自分の力では魔力の色は落とせないので療治魔法を使う際には必須なんです」

「私もやってみたいです!」

「ああごめん。フェムテラピアの枝は一本しか持ってこなかったんです」

「魔珪石は何度も使えるのに霊木は一度しか使えないんですか?」

「たしかに。どうしてですか?」


 クレメントの鋭い質問に便乗する。私も掘り下げた質問がしたいけど中々思いつかない。


「どちらも容量を超える魔力が流れると壊れて使えなくなります。ですが魔珪石は化石化する際に溜まっていた魔力の影響で貯蓄器が変質して、人の魔力器と近いものになるんです。手に収まる大きさの石でも人ひとり分の魔力量を貯められる容量があるんですよ。ただ魔珪石でも容量を越えれば壊れてしまいますので小さなものを使用する際は込める魔力の量に注意が必要になります」

「もし人に魔力を無理やりながしたらどうなるんですか? 砂になることはありますか?」


 個人的にいい質問ができたと思ったが先生は顔を引きつらせた。隣にいたクレメントも私から離れて距離を取る。


「人の魔力器は強いので壊れることはありませんが、魔力欠乏とよく似た症状が引き起こされます。……やってみたいなんて言わないでくださいよ」

「言わないです」

「人は他人の魔力が少しでも混じると体調不良を起こします。絶対に人に対して直接魔力を流してはだめですよ」

「分かってます」


 先生から何回も念を押される。私のイメージの改善は中々うまくいかなかった。

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