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俺とアリスの異世界冒険手帳~ショッピングモールごと転移したのはチートに含まれますか!?~  作者: 底辺雑貨
三部

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91 ああ、高校3年生

 夜中のショッピングモールを静寂が支配していた。


 それはエスカレーターの中腹でこちらを向いて立っている少女を俺が認識しても変わらなかった。


 次の瞬間、金色の長い髪が空中で舞った。


「っ……!」


 フワリとジャンプをして俺の胸に飛び込んで来た少女は、俺が驚きの声すら発せないでいるのを気にもせずに、切り揃えられた前髪の下の表情を歓喜を表すものに変えた。

 

 その表情は、アリスの表情リストの59番目に分類されるものだった。


 えっ……!? アリス!?


「お前アリスか!?」


 我ながら、おかしな事を口走ってしまったと思った。

 アリスは今、和室で布団に包まって寝ているし、なにより目の前の可愛くも美しい少女は小学5年生のアリスと違って高校生ほどに見えた。


「そうよ! 7年後の私よ!」


 あっていた。


「って……えっ!? 7年後!?」


 しかし、疑問が含まれた俺の一言に返される言葉はなかった。事情を説明される気配もなかった。


 目の前の7年後のアリスは歓喜の表情を曇らせ、突然泣きっ面に変えた。


「おい……。どうした?」


 返事はやはりなかった。


 7年後のアリスは俺の胸に顔をうずめて、ただ静かに泣いていた。体を震わせていた。


 とりあえず、その震えだけでも抑え込んでやろうと、俺は華奢な体を強く抱きしめてから良い香りのする後頭部にオデコを重ねた。


 ……こんなに泣いてどうしたんだ?

 ってか、マジで未来からやって来たのか……?


 聞きたい事は色々とあったが、今は黙って胸を貸してやる事にした。

 


 暫く静寂の支配を許していると、未来アリスは突然うずめていた顔を上げた。


「ぐふっ……!」


 急に浮いた後頭部は強烈な頭突きとなって、俺のオデコを襲った。


「痛え……お前、いきなり頭を――」


 痛みを感じた鼻の下で、今度は柔らかい唇の感触を感じた。

 すぐにそれは、キスなのだと気が付いた。


 ……マシュマロ?


 そういえば、俺はとある噂話を聞いた事がある。

 女子の唇は柔らかく、それはマシュマロのようだと。


 その話を聞いた当時高校3年だった俺は、部活の帰りにいつもみんなで寄って買い食いをしているコンビニに入ると、一目散にお菓子コーナーまで歩きマシュマロを手に取った。ピンク色の物だ。


 いきなり外で試す勇気は無かった。こういうのはコソコソと自分の部屋でやるに限る。

 しかし、その慎重さが仇となった。家の玄関を開けて早々、コンビニ袋に入っていた女子の唇の代替品は口寂しいという浅はかな理由により姉貴に奪われた。


 それ以来、その事は忘れていた。

 悲劇を思い出させたのは、7年前のショッピングモールに突如現れた18歳のアリスの濡れた唇だった。


 長い間重なっている唇はやがて自然と離れ、俺の鼻先に未来アリスの吐息がかかった。


 超絶イケてる俺の初めてのキス。それは、『少ししょっぱいマシュマロのようだ』という感想をもって終了した。


「って……おい。と……突然キッスすんなよ」


 顔が火照っていた。体も火照っていた。

 必死にニヤけそうになるのをクールダンディに見えるように装った。


「なによ! ニヤニヤとして凄く嬉しそうじゃない!」


 バレていた。


「……俺のファーストキッスを奪ったお前も、当然ファーストキッスなんだろうな?」

「舐めないでちょうだい! 私は二度目よ!!」


 しまった。歴戦のキス王という設定を盛るべきだった。

 と考えると同時に、その相手に殺意を覚えた。俺の目は今、赤く輝いている事だろう。


「……ああ、俺キッス二億回目だったわ。ところで……なんで金髪なんだ? それに、それメイド服か?」


 今更ながら未来アリスの恰好に疑問を抱いた。

 金髪もさることながら、水色のメイド服も疑問に値する恰好と言えた。

 

「変装よ! 髪色は魔法で変えているのよ!」

「いや、変装になってないぞ……。ってか、なんで変装が必要なんだ?」

「それを説明する前に見てちょうだい!」


 途中で言葉を切ってから、未来アリスはぱっつん前髪を手で纏めて上げた。


「どっ……どうしたんだその傷! 大丈夫か!?」


 その可愛いオデコには、一文字の大きな傷痕が残っていた。


「古傷だから大丈夫よ! それより、私いつだかに言ったわよね、『大きな傷が付いたところで宇宙一可愛い事に変わりはないわ』って!」


 規模が大きくなっている気がしたが、顔を目の前まで近づけられてツッコム余裕がなかった。


「どう!? 私の言った事、正しかったと認めなさい!」

「……ああ、可愛いよ」


 俺はまだ幼さの残る顔を、自分の胸に引き寄せながら言った。


「うふふ。あなた、初めて私の事を客観的じゃなく可愛いと言ったわね」


 顔をうずめたまま未来アリスは言った。同時に俺の臭いも嗅いでいるようだ。


「……そうだっけか?」


 と返すと、突然バックヤードのドアが開く音がした。


「あれ、アリス起きたのか……? あ、現代のアリスの事な。って紛らわしいわ!」


 すると、未来アリスは急に俺から離れ、慌てて近くの棚の裏に隠れた。


「まずいわ! 私は隠れるからやり過ごしてちょうだい!」

「えっ……? アリスと未来アリスが出会うとまずいのか!?」

「そうよ! もしプリティーアリスがプリティービューティフルアリスを自分だと認識したら宇宙がヤバイわ!」


 それは大変だ。宇宙がヤバイらしい。


「ちょっとあなた! こんな夜中になにをやっているのよ!」


 なぜか全力疾走で俺の元まで来たアリスが言った。


「あ……。いや、これから風呂だ。ほら、バスタオル持ってるだろ?」


 そういえば持っていたバスタオルを見せながら言った。


「今誰かいなかった? ものすごーーーーく綺麗な人がいた気がしたけれど」

「いや……1人に決まってるだろ。いいからお前は和室に戻って寝ろ。体が冷えるからちゃんとパジャマの裾をズボンに入れとけ」

「あなた顔が真っ赤よ? 怪しいわね……」


 アリスが背伸びをしながら顔を近づけ、俺の顔を覗き込んだ。


 『万人が絶賛する美少女を3DCGで作ろう』という号令の元、莫大な予算と未来技術を少々でようやく完成したような美貌の未来アリスの原型がそこにはあった。

 まあ、本人からすればただ真っ直ぐ成長しただけにすぎないのかもしれない。


「なにニヤニヤしているのよ!」

「うんうん、そうだな。お前はニャーニャー言いながらクリスと寝てろ」

「ぐぐ……あなた、なんだか自身に溢れた顔をしているわね……。珍しく大人の余裕を感じてムカつくわ……」

「大人になるって悲しい事なんだ。分かったら早く寝ろ」


 そう言うと、アリスは渋々ながらも反転して和室に向かった。

 と思ったら、すぐにまた全力疾走で戻って来た。


「悲しいの!? いえ、それはどうでもいいわ! 忘れていたけれど、私は『お前らを追ってるけど迷った!』というあなたからの風の便りで起こされて心配して来たのよ!」

「……あ、それアラクネの時に送ったやつだわ。今頃届いたのか……起こしちゃってごめんな」

「ごめんなじゃないわよ! 悪いと思うのなら、お風呂前の生の臭いを嗅がせなさい!」


 な、生の臭い……。


 その響きに若干の戸惑いを隠せなかったが、エスカレーターの上の段に移動したアリスはそのまま俺の臭いを存分に嗅いでから、満足した表情で和室へと戻って行った。


「変装の理由はアリスに未来の自分だとバレない為か」


 棚の裏から再び姿を現した未来アリスに言うと、


「7年前の私、ものすごーーーーく可愛いわね……。私の唯一のライバルは私だったって事ね」


 と嚙み合わない言葉を返して来た。


「自画自賛はいいから、そろそろ7年前のショッピングモールにやって来た理由を教えてくれないか?」


 エスカレーターから降り、未来アリスの元に歩きながら俺は言った。

 すると、メイド服のスカートのポケットから取り出した懐中時計を一目見てから、視線をジャオンの入り口に移した。


「あまり時間がないわ! 急ぐわよ!」

「えっ! 急ぐってどこにだよ?」


 俺の腕を掴んで走り出した未来アリスは、金色の髪をなびかせて前を向いたままタイムリープの目的を口にした。


「月の迷宮よ! 5層の宝箱の中身が必要なの!」


 走る事を急に促されて足がもつれて転びそうになったが、俺は必死に未来アリスの走幅に合わせて耐えてみせた。


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