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90 立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花

「剣閃!」


 床の黄色いマークに向け、俺は宙をダガーで真一文字に斬って剣閃を放った。


「……ダメだな。やっぱ稲妻的なのだけか」


 しかし、雷マークはなんの反応も示さなかった。


 炎マークは俺の狐火、水マークはアリスのアイス・アローに反応して輝きだしたが、少なくとも今の俺とアリスでは雷マークを輝かせる術は皆無と言えた。


「雷の魔法、誰か使えないのかしら。これじゃ階段まで行けなそうよ」

「出会った人でか? ……どうだろうな、ってか異世界転移してから10日ちょっとで戦いに長けてる人とあんま絡んでないからな」


 えっと……ボルサ、アナ、レリア……とゴンザレスさんか。


 戦いに長けている人イコール死ビト3体と戦って勝てそうな人……というアバウトな考え方をしてみた。


「この中だとレリアが幻獣使いだけど、あいつも俺と同じで雷的な幻獣なんて住まわせてないしな……」


 あと、戦えなくても魔法的なものが扱える人……チルフィーやシルフ族と、ソフィエさんぐらいか?


 と考えていると、ふと1人だけ雷属性を扱える人物が頭に浮かんだ。


「……そういや、ピエロが雷の幻獣を使役してたな」


 高電圧で俺を焼いた爪。あれならば床の黄色い雷マークは文句を言わずに光り輝き、階段までの道を示すなんらかが現れるかもしれない。


「ピエロって、金獅子のカイルのこと? その辺にいないかしら!」

「いないだろ……。ってか、いたらまた襲われるからいて欲しくないわ」


 そうなると、やはり今回の月の迷宮はここまでという事になる。


 俺は眉間にシワを寄せて考えているアリスの肩に手を置き、アリスの頭上であぐらをかいているブタ侍に帰還魔法を命じた。


「そうでござるな。くしくもここは階段部屋でござるから、次もここから挑戦出来るでござる。また英気を養ってから挑戦すればよい」

「でも、雷魔法が無いとまた来ても同じ事よね。ここは私がガチャガチャから出すしかないわね!」

「ガチャガチャか……。なんかミニティッシュが出始めたし、なによりお前、氷魔法ばっかだろ……」


 昨日ガチャガチャを回した時、俺とアリスがそれぞれ1個ずつ引いたミニティッシュを思い浮かべた。


「あのティッシュもタワシのようにハズレって事なのかしら?」


 眉間のシワが無くなったアリスが言った。


「タワシは俺が魔法ガチャガチャを回したら出たから……まあタワシ=才能無しで扱えないって事だろうな。となると、ティッシュも単純にハズレじゃなくて被りって事だと思う」

「被り? もう持っている魔法だったって事?」

「ああ、多分な」


 と頷いてから、ブタ侍に目で合図を送った。


「では帰還するでござる。戻れブタ!」





 月の迷宮4層から帰還した俺達は、そのままジャオン2Fのゲームコーナーに向かった。


「ショッピングモールHP回復させとこう」

「6個入れれば満タンかしら?」


 言うよりも先に、アリスは小さい方の両替機に月の欠片6個を投入していた。


「残り10個はどうする? あの黒いガチャガチャを回してみる?」

「あれ1回メダル10枚だよな……。そうするとまたオケラになっちまうからな……」


 と言いながら、俺はゲームコーナーを見回した。


 未だプレイしていないゲームの数々。

 もしかしたら、それらの一つ一つがUFOキャッチャーやパンチングマシーンのように意味があるのかもしれない。そう考えていたが、月の欠片にあまり余裕がなく触れられずにいた。


「よし! 欠片6個は貯金して、残りの4個でちょっと他のゲームやってみるか!」

「じゃあメダルに替えるわよ!」


 大きい方の両替機に月の欠片を投入し、アリスは出て来たメダル4枚を小さな手で丸ごと握った。


「おい、俺にもくれ」

「あなたは無駄使いするから1枚だけよ! また知らないうちに技ガチャガチャを回してパンツを狩られたらたまらないわ!」

「いや……もう大丈夫だっての」


 しかし財布の紐は固いらしく、俺の手のひらには僅か1枚のメダルしか乗せられなかった。


「まあいいか……。アリスはどれやるんだ?」

「そうね……じゃあ車のゲームをやってみたいわ!」


 既に歩き出していたアリスはそのままレースゲームの座席に腰を下ろし、投入口にメダルを入れた。


「これどうやるの?」

「メダル入れてから聞くなよ……。ハンドル握って操作するだけだ。まあお前みたいな子供じゃビリだろうけどな」


 数分後、峠のレースをエグいドリフトで制して優勝したアリスの姿が目の前にあった。


「優勝よ! 翔馬に乗るよりも簡単じゃない!」

「おお、普通に凄いな……。お、次のレースが始まるぞ」

「今度は首都高ね! 任せてちょうだい!」


 俺は鼻息の荒いアリス放っておき、隣のピンボールをやってみようと筐体にメダルを投入した。


 ……UFOキャッチャーの人形は魔法人形。パンチングマシーンはダメージ計測。

 じゃあ、レースゲームやピンボールにはどんな意味があるんだ?


 と考えていると、レトロな音楽とともに盤面にボールが出た。

 俺は筐体の左右に付いているボタンを押してフリッパーを操作し、ボールを打ち返して得点を重ねた。


「ああっ! くそっ……2350点か」


 高いのか低いのか。

 それすら分からなかったが、まあそこそこの時間プレイ出来たのでそこそこの点数なのだろう。


「って、なんもなしか……」


 不思議なゲームコーナーにあるピンボールだが、プレイし終わってもなにかが起こる様子は無かった。


 レースゲームをやっているアリスに目を向けると峠に続いて首都高も制したようで、左手を天に掲げて喜んでいた。





「楽しかったけれど、結局レースゲームもピンボールもただのゲームだったわね」


 和室で夕食を終えたアリスが、クリスにミルクをあげながら言った。


「UFOキャッチャーでゲットした人形にも意味があったからな……。また後になって分かるかもしれん」

「じゃあ、あなたが私から奪ったメダルでプレイした格闘ゲームにも意味があるの?」

「ある。スカっとした」


 俺はアマゾンの野生児を使用し、電撃ビリビリでボスを倒した瞬間を思い出しながら言った。

 クリアしたら必殺技をラーニング出来たりしないかなと思ったが、さすがにそれは発想の飛躍が過ぎたようだった。


「あの電撃ビリビリなら月の迷宮の黄色い床も輝くだろうな……。って、そういやアリスは残りの1枚どうしたんだ?」

「ジャンケンゲームよ! すったわ!」

「またか……。お前ジャンケン弱いんだからやめとけって」


 クリスに指を甘噛みされているアリスに言うと、突然立ち上がってから両手を腰に当てた。


「そうね! これからは高貴なプリティードリフトクイーンとして生きていくわ!」

「ハマったな。お前こそ無駄遣いすんなよ?」


 俺はそのままその場で寝っ転がり、天井の染みを3つ数えてから目を瞑った。


「眠いの? まだお風呂入っていないわよ?」

「ああ……。月の迷宮で疲れたから眠い……。お前すぐ風呂行くだろ? 戻ったら俺も入るから起こしてくれ」


 アリスは短いセンテンスを返したようだが、それを脳が認識する前に俺は深い眠りについた。



 数時間が経っただろうか?

 突然目が覚めた俺の体には布団が首元まで掛けられていた。


 すぐ隣にはアリスがいた。

 薄いピンク色のパジャマを着ていたが、はだけてお腹を丸出しにしていた。


 俺はパジャマの裾を引っ張って正しい少女の寝姿にしてから、首の下と太ももの裏に手を当ててヒョイっと持ち上げ、赤い敷布団の白いシーツの上に寝かせた。


「風呂……。湯沸かし太郎……」


 半分寝ぼけながらアリスに掛け布団をかけ、洗濯カゴに入っているバスタオルを手に取った。


 そのまま引き戸を開けてブーツを履き、バックヤードを歩いてジャオン1Fに出た。


 そしてエスカレーターまで歩き、一歩目を乗せた。


 二歩目がエスカレーターに乗る事はなかった。


「っ……!」


 エスカレーターの中腹に誰かが立っていた。


 咄嗟に俺は右腕を構え、目の焦点を相手の顔に合わせた。


 金髪ロングでぱっつん前髪の10代後半に見える少女。

 その美しさは、俺の寝ぼけた脳が完全に覚醒するのに十分過ぎる程だった。


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