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俺とアリスの異世界冒険手帳~ショッピングモールごと転移したのはチートに含まれますか!?~  作者: 底辺雑貨
三部

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89 武士は食わねど高楊枝

「しっかし……ミノタウロスか、今更だけどこんな生物が本当にいるなんて驚きだな」


 俺は横たわるミノタウロスと巨大な斧を見ながら言った。


「斧と言えば、お前ゲートボールのステッキは持って来なかったのか? 武器だって言って喜んでただろ」

「ああ、ステッキ・オブ・ゲートの事? 忘れたわ!」

「忘れるなよ……。ってか立派な名前を付けたな……」


 なぜか腰に両手を当ててアリスが誇っていると、ミノタウロスが月の欠片を残して光りとともに消え去った。

 俺はそれを拾ってアリスのリュックのポケットに捻じ込み、現れた扉の先に足を踏み入れた。


「おお、宝箱と階段があるな! ブタ侍開けてくれ!」


 言いながら、俺はベルトのケースから手帳を取り出し、宝箱の中身をメモったページを開いた。


「開けブタ!」


 ブタ侍が開錠した宝箱の中には、やはり大理石の板に書いてあった通り月の欠片15個が入っていた。


「豪遊ね!」


 と、アリスは赤いリュックを地面に置いて宝箱の中身を次々と入れていった。


「全部入れたら重いだろ、俺のボディバッグに入れるか?」

「大丈夫よ! 大して重くないわ!」


 少し膨らんだリュックを背負いアリスが言った。


「じゃあ戦利品もゲットしたし帰る――」


 俺が言い切る前に、アリスが階段へと視線を移して言葉を重ねた。


「次は4層ね! ずんずん進むわよ!」

「拙者達を遮る物なしでござる! いざ!」


 と、アリスとブタ侍はなんの迷いもなく階段を下り始めた。


「帰還しないのか……。まあ、まだ時間早いしいいか」


 2人の後に続き俺も階段を下ると、相変わらずの無機質で近未来的な通路が見えて来た。

 そして4層の大理石の地面を踏むと今下り終えたばかりの階段が音もなく消え去り、その空間はただの壁へと変わった。


「うお……」


 俺はその現象への驚きをたった一言で見事に表したが、アリスはそれを全く気にしない様子で通路の先へと歩いて行った。


「リアクション無しかよ……」


 と呟きながらアリスを抜いて進んで行くと、これまでに見た月の迷宮のどの部屋よりも広い空間に出た。


「広いわね、体育館ぐらいありそうだわ」

「ああ、階段もあるな……」


 と言うか、目の前のだだっ広い空間には階段しかなかった。

 それを遮る物もなければ、虚ろな瞳でうろつく死ビトさえいなかった。


「ボスもいないな……。ボス倒さないと階段下れないんだろ?」

「左様でござる。倒さないと階段を覆う見えない壁が消えないでござる」


 アリスの頭の上であぐらをかいているブタ侍が言うと、アリスが階段へと向かった。


「とりあえず階段まで行ってみるわよ!」


 そのずんずんと歩くアリスの足元が、突然光り出した。


「っ……!」


 次の瞬間、俺が立っている入り口から数メートル程までと階段付近の床を残し、他の足場が跡形もなく消え去った。


「ぎゃああああ!」

「アリス……!」


 少女らしからぬ悲鳴が響いた刹那、俺はヘッドスライディングと同時にアリスへと向けて思い切り腕を伸ばした。


 危機一髪。アリスが足場を失って底の見えない闇へと落ちる前に、俺へと伸ばされた小さな手を取る事に成功した。


「あ、あっぶねえ……。おいアリス! 引き上げるから大人しくしてろよ!」

「ええ、引っ張ってちょうだい! ブタ侍ちゃん、しっかり私の髪を掴むのよ!」


 しかし、俺は気付いた。ブタのひづめは物を握るに適していないという事を。


「すまぬ、無理でござる……。アリスを頼ん――」


 長い黒髪を掴むひづめはブタ侍が言葉を紡ぎ切るまで耐えられず、そのまま深遠の闇へと飲み込まれて行った。


「ブタ侍ちゃん!!」

「出でよ玄武! 飛べ黒蛇!」


シャアアアアッ!


 俺はアリスの手を掴む右手に力を込めつつ、左手を底の見えない闇へと向けて玄武を使役し黒蛇を飛ばした。


 一か八かだった。左手で操る黒蛇には自信が無かった。


「い、痛いでござる! 拙者は餌ではないでござる!」


 なので、巻き付かせる事は諦めて素直に噛み付かせた。


「ブタ侍ちゃん無事なの!?」

「ああ、黒蛇がほぼオートで食い付いてくれた! だからお前は落ち着け! 俺の手から逃れようとすんなアホ!」


 俺の手を振りほどいてブタ侍を助けようとしたアリスを、そのまま全力で引っ張った。

 そして餌となる直前のブタ侍も引き上げようと、黒蛇を縮ませた。


「疑似餌だな……。おい黒蛇、こいつぬいぐるみだから食えないぞ」


 左手に巻き付いている黒蛇に言うと、素直にブタ侍の頭から口を離した。


「うわああああ!」


 と同時に、俺を威嚇してから玄武とともに帰還した。


「び、ビビった……まだ俺を威嚇しやがんのか……。2人とも大丈夫か?」

「ええ平気よ、ありがとう。ブタ侍ちゃんも大丈夫?」

「大丈夫でござる、かたじけない」


 2人はハアハアと息を切らしながら言った。


「でも、床が無くなってしまったわね……」

「ああ……。階段が見えるのに進めないな……」


 俺は20メートルほど先に佇む階段に目を向けた。

 そこまでに足の踏み場は一切なく、背中に羽でも生えない限り先に進めそうになかった。


「また謎解き要素か。さすがに木霊で駆けれる距離じゃないなしな……チルフィーなら飛んで行けるな、そんであっち側のスイッチを押すとかか?」

「でもチルフィー、昨日遊びに行ったら今日は忙しいと言っていたわよ?」

「言ってたな。まあ、スタンダードにこっち側になにかあるかもしれないな」


 と、俺達は床のある入り口から数メートルの壁を入念に調べた。


「……なんも無いな。アリスなにかあるか? って、あったら既に押してるか……」

「ないわね。飽きて来たわ!」

「早いなおい……」


 壁のランダムな直線は所々交差して様々な形を作っていたが、やはり3層のように押せるような場所は無いように見えた。


 俺は飽きてブタ侍の頬っぺたを突っつき始めたアリスを放っておき、もう少し調べようと一度入り口まで戻った。


「ああああっ!」


 すると怪しい箇所を発見し、思わず声を上げた。


「なにかあったの!?」


 アリスが目を輝かせて振り返り、俺の元まで駆けた。


「あったぞ! 聞きたいか!?」

「聞きたいわ! 早く言ってちょうだい!」


 俺は十二分に間を作ってからアゴに手を当てた。


「足場がないなら、飛んで行けばいいじゃない。きっと、お前はそう思った事だろう」

「思っていないわよ」

「そう思わせる事によって、近くの大事な物を見失わせる……そんな性悪な層がこの4層だった訳だ」

「ちょっと待ってちょうだい、思っていないと言っているでしょ!」

「まさに灯台下暗し。俺達が求める物は……アリス、足元を見てみろ!」


 俺はアリスの黒いタイツと黒いブーツの元を指さしながら言った。

 その床には赤と青と黄色のマークがあり、いかにもなにか仕掛けがありそうだった。


「見ないわ! まだ私が思っていないという事が解決していないわ!」

「悪かった。俺が悪かったから見てくれ……」


 アリスの頭に手を置き、俺はやや強引に視線を向けさせた。


「認めればいいのよ。……これね? 炎の模様と水の模様と雷の模様かしら?」


 俺が色を先に認識したのに対し、アリスはその形を最初に口にした。

 すると、フワリとジャンプをしてからアリスはそのマークに手を向けた。


「アイス・アロー!」


ズシャーー!


「うおお!」


 と、俺が突然の詠唱に驚いていると、氷の矢が当たった青いマークが輝きだした。


「こういう事ね! あなたはキツネちゃんを使役して炎の模様を輝かしてちょうだい!」


 くそ……主導権を奪われた。

 でも、そういう事なら……。


「出でよ狐火!」


ボオオォォォ!


 でも、そういう事なら黄色の雷マークはどうするんだ?


 俺は赤く輝きだした炎のマークを見ながら、雷属性が俺にもアリスにもないという事を考えた。


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