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番外編 おパンツ狩り② sideアリス

「あーはっはっはっは!! おパンツ狩りの始まりだああああああっ!!!!」


 彼の声高な宣言に、私は耳を疑う。


「チルフィー! あなた彼になにをしたのよ!?」

「あれ、おかしいでありますね。風の極みは相手を心身ともにリラックスさせる効果があるであります。極まれに混乱などを引き起こすから気を付けろと族長は言っていたでありますが……」

「じゃあ、これが極まれの混乱効果なんじゃないの!?」

「え~、でも極まれにでありますよ? そうそう起きないハズであります」


 私達が話している間、彼は当然のように上半身裸になりラジオ体操第二をしている。その上空を浮遊しているチルフィーに、私は言う。


「現に起こっているじゃない! 変態が更に変態になっているわよ!」

「そうでありますかね? いつもと変わら――」


 チルフィーが言い切る前に彼の魔の手が伸びる。


「な、なにをするでありますか!」


 胴体を指で掴まれ、チルフィーの可愛いらしい緑色のワンピースの裾が捲られる。

 そしてあらわる薄緑の綿のパンツ。彼はそれを真剣な眼差しで見つめる。


「おパンツ拝見致すで候!!」


 彼が言う。


「いやあああであります! 離すであります!」


 チルフィーが叫ぶ。


 前から、下から、後ろから、横から。360度自在にチルフィーを動かし、彼はパンツを眺める。

 おパンツ狩りと言う割に脱がそうとしないのは、彼の最後の良心なのだろうか。


 いえ、彼はパンツが好きなだけなのね……。自由自在にパンツを拝見する事が、彼にとってのおパンツ狩りなんだわ!


 と考えていると、静かに彼が口を開く。


「シルフ族 パンツ狩られて 知る裸族」


 俳句……。いや、川柳だろうか?

 パンツをじっくり見られながら川柳を詠まれたチルフィー。ぐったりとしてその場に倒れ込む。


「も、もうお嫁に行けないであります……」

「あーはっはっはっは!! チルフィー! 裸族はいいぞう!」


 彼はもう一度、高笑いをする。そしてその視線が私に飛ぶ。


「次はアリス! お前だぞう!!」


 対象が私に変わった瞬間、私は全速力でジャオン2Fを走る。


 絶対にイヤ! パンツを見られながら川柳を詠われるだなんて絶対にイヤ!


 しかもなんという事だろう。私は今、黒いタイツを穿いていない。

 黒いミニスカートを捲られれば、そこには彼にとってのユートピアが広がっている。

 お風呂のあとに穿いたのは、確か洗濯しておいたブタちゃんのパンツ。

 一度、彼に手に取ってマジマジと見られたが、パンツその物を見られるのと穿いているのを見られるのでは訳が違う。


「ぜーーったいに嫌よ!! 彼が正気になるまで逃げ回るしかないわね!」


 攻撃して彼を傷付けるのも絶対にイヤ。それならば逃げ切るしかない。


「出でよ玄武! 飛べ黒蛇!」


 決意を胸に秘めた私の背後から、黒ヘビちゃんが迫る。

 巻き付かせて私を引き寄せるつもりだろう、そうはさせない。


「回避! 風の加護発動よ!」


 私はフワリとジャンプをして黒ヘビちゃんから逃れる。次の瞬間、黒ヘビちゃんは軌道を変え、下から私に迫って来る。


「なっ……! 私の行動を読んでいたの!?」


 最初から私に巻き付かせるつもりなんてなかったのだ。彼の狙いは……。


「イヤあああ!」


 黒ヘビちゃんの頭が私のスカートを捲る。その瞬間、彼がニヤけた表情をする。


「相変わらずブタのおパンツか! じっくり拝見するのが楽しみだぞう!」

「お黙り変態! 誰が捕まるものですか!」


 変態の猫が可憐な小鳥をいたぶるように、彼は少しづつ私のパンツを楽しむ気だ。

 なんという変態かしら。もうホントこの人どうしようもない。


「まあ、混乱で暴走しているっていうのもあるわね……」


 再び駆け出した私は呟いでから、エスカレータを急いで下りる。

 そしてジャオンから出て噴水の傍を通り、外の階段を上ってショッピングモールの2Fを駆ける。


「どこかテナントの中に入って隠れないと!」


 ランジェリーショップが目に入り、私はそのドアを開けて中に飛び込む。1Fのランジェリーショップよりも中高生向けの物が豊富にある店。


 鍵を掛けようか迷ったけれど、そうしたら中にいるって言っているようなものなので止めておく。


「あっ……タイツがあるわ! これを穿けば最悪、見られてもダメージが少ないわね!」


 私は握っているゲートボールのステッキを床に置き、急いでタイツの包み袋を破る。

 そしてスカートを脱ぎタイツを穿いた瞬間、彼の足音が聞こえる。


「静かにしないと……ってこれ、ニーソックスじゃないの!」


 両脚に穿いてから気が付いた黒いニーソックス。


 これは駄目、可愛すぎる。黒いミニスカートと黒いニーソックスを穿く絶世の美少女。そして少しだけスカートを捲れば見えてしまうブタちゃんのパンツ。


「可愛すぎてあの人、更に暴走してしまうわ!」


 しかし脱ぐ暇を彼は与えない。ランジェリーショップのドアが静かに開く。


 なんでここが分かったのかしら!? ……奥に隠れないと!


「で、出て来いアリス……ジャバウォックを俺が左手に封じているうちに……!」


 なんか変な設定を盛っている。その左手のジャバウォックで私のスカートを捲るつもりかしら!?


「大変だアリス、ハートの女王に見付かったぞ! 早くここを出て俺と逃げよう!」


 そう言う彼は、まるでチェシャ猫のようにニヤニヤと笑みを浮かべている。


 一歩ずつ彼が私に近づく。


 一番奥の棚の隅で小さくなって隠れている私を彼が見付けるのは、もう時間の問題。


「おーパンツ見ようぜ~! おーパンツ見ようぜ~!」


 オーシャンゼリーゼーと歌うように、彼は言う。不覚にも、私は「ぷぷっ……」と可愛く吹き出す。


「そこかアリス! 観念しろ年貢の納め時じゃあああ!」

「イヤよ! 早く正気に戻りなさい、この変態!」


 言いながら、私は迫る彼をすり抜け、ランジェリーショップの入り口を走り抜ける。

 そしてそのまま2Fの手すりをフワリとジャンプをして飛び越える。


 しまった……! どう着地すればいいのかしら!?


「出て来いや木霊!」


 私が地に落ちる直前、彼が空中を駆けて私に腕を向ける。


「戻れ木霊! ……出でよ玄武! 飛べ黒蛇!」


 今度こそ黒ヘビちゃんは私に巻き付き、彼の体に引き寄せる。

 そのまま優しく胸に抱かれて、私は無事に1Fへと着地をする。


 いや、無事とは言えないかもしれない。彼を下敷きにしている。

 しかも背中から落ちた彼の顔にお尻をつけて座っている。


 しまった。彼にとんでもないご褒美を授けてしまった。


 と思いながら、彼を心配して体を揺する。


「大丈夫!?」


 大丈夫らしい。彼はなにも言わずにムクリと起き上がる。


「おパンツ拝見するで候!」


 起き上がってから即座に私のスカートの裾を掴み、彼が言う。


「いい加減にしてちょうだい! もうご褒美あげたでしょ!」


 私は握るゲートボールのステッキを彼の頭に振り下ろす。


 撲殺目的じゃないわ! これは彼が正気を取り戻す為の殴打よ!

 叩く瞬間、少しだけ握る手から力を抜いて、私の中のマナを彼に伝えるわ!

 そうね……打撃力4 マナ5 優しさ1ぐらいの分量かしら!


 その瞬間、私の頭の上でブタちゃんが木に登る。


ブヒーッ!


「閃いたわ! アリス・スパーク打撃! ……きっもちイイー!」


 ステッキの先が彼の後頭部を捉える。

 ヒットの瞬間、ピンク色の光が彼の頭を優しく包む。


「あ……アリス……? 俺は……あれ、こんな所でなにやってんだ……?」

「よかった……! 正気に戻ったのね!」


 私達はそのまま見つめ合う。戸惑いながらも、彼は優しく笑みを浮かべる。


「あれ……なんで俺はお前のスカートの裾を掴んでるんだ? これじゃまるで本当に変態みたいじゃないか……」

「気にしないでちょうだい。あなたは混乱して暴走していたのよ」


 次の瞬間、彼は掴んだミニスカートの裾を捲り、私のブタちゃんパンツをジーっと見つめる。


「なんで捲るのよ! アイス・キューブ!」


 私はその変態の上空に氷の塊を出現させる。


「わ、悪かった! つい……! ってか混乱してんだから仕方が無いだろ!」

「もう治っているでしょ! 問答無用よ、落ちなさい!」


 彼の頭に氷の塊が落ちる。

 大丈夫、軽く気絶する程度の大きさ。多分。


「もう……仕方がないわね」


 気絶してその場で横になった彼の頭を強引に掴み、私の膝の上に置く。


 私のお尻の感触を顔で感じ、私のブタちゃんパンツを見て、黒いミニスカートと黒いニーソックスの膝で膝枕をされるこの人。

 なんという幸せな人間なのだろう、今日は彼にとって最良の日となったに違いない。


「今日だけ特別よ」


 安心しきっている表情で私の膝の上で眠っている彼は、まるで赤ちゃんのよう。

 私はその隙だらけの良い臭いのする耳を甘噛みする。



 花の色は 移りにけりないたずらに

 わが身世にふる 眺めせしまに



 私が自分の美貌の衰えを感じた時、隣にいるのがこの人だったら嬉しい。





「最悪の1日だった……。まだ頭がいてえ……」


 夜のショッピングモールの和室で彼がテーブルに肘をつき、手に顔を乗せて言う。


「技を閃くのって凄く気持ちが良いのね……。確かにあれは依存症になってもおかしくないわ。あなたは暫く技ガチャガチャ禁止よ、それでなくても既に剣技1つ閃き待ちなんだし」


 私は膝の上でクリスを寝かしながら言う。


「閃き依存症か、悪夢を見ていた気分だわ……」

「あなたにパンツを見られながら川柳を詠われたチルフィーはショックで隠れ家に帰ったわよ? あとでちゃんと謝りなさい」

「それは悪い事をしたな、でも覚えてないのが残念だ……。って、お前またドリルの隅に落書きしてるだろ」


 ついていた肘を伸ばし、私の計算ドリルを引き寄せて彼は言う。


「……これ、なんの絵だ? 算数にまつわってるのか?」

「なにかしら……。と言うか、私いつの間に描いたのかしら……」


 魚が2匹と木が書いてある。全然覚えがないけれど、とても芸術的で上手いこの絵は確かに私のタッチだ。


「ヒラメと木……それにタイの絵かしら」

「上手いけどまつわってないな……。まつわる絵じゃなくてどうする……って、計算をしろ」


 ヒラメ、木、タイ……。


 なにかしら……。


 なんだか暑くなってきたわ……。


 それに少し視界が歪む……。





 ……ヒラメキタイ。


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