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85 青は藍より出でて藍より青し

「意外と美味しいわね」


 紙パックの野菜ジュースを一気に飲み終えたアリスが言った。

 それは栄養面を考え俺が渡した物で、1本飲めば1日分の野菜を摂取出来る的な飲み物だった。


「美味しいけれど……」


 呟いてから、アリスは紙パックやペットボドルが並んでいる陳列棚をジーっと見つめた。


「同じ種類の野菜ジュースなのに大きさが色々あるわよ? 私が飲んだこの小さいので、ホントに1日分の野菜足りているの?」

「た、足りてるんじゃないか?」

「ちょっとあなた、飲めと言った割には曖昧じゃない! 足りていなかったらどうするのよ!」

「じゃあ大きいのを飲めよ……。まだまだ在庫あるんだから」

「そうして野菜を摂り過ぎたらどうするのよ! 何事も摂り過ぎは良くないのよ!」


 ど、どうでもいい疑問を持ちやがって……。

 あ、疑問と言えば……。


「そういやアリス、結局お前の髪の毛が変わったって話はなんだったんだ? 今見ても違いが分からんけど」

「もう戻したわよ。鈍感なあなたには教えないわ、せいぜい解けない謎を抱えて眠れなくなるといいわ!」

「戻せる系なのか……?」


 と、俺達はお互い疑問を抱えたまま、ボルサ達が帰った後のジャオンを歩き2Fへと向かった。


 甥によるショッピングモールの視察は三つ星という評価をもって終了となり、晴れて俺とアリスとショッピングモールは領主の敵では無いと判断された。


 まあ、正式な決定は甥が持ち帰った見聞と帳簿で領主代理が判定するようなので、まだ油断は禁物かもしれない。

 とは言え、甥に渡した賄賂であるエロ本の効果は絶大なので、甥は俺達のプラスとなるように領主代理に働きかけるだろう。

 ペンは剣よりも強し、銃は剣よりも強し、エロ本はペンと銃よりも強し、とはよく言ったものだ。


 ってか、そもそも国の脅威であるアラクネを倒した俺達を敵かと疑うこと自体がどうかしてるよな……。


 と歩きながら考えていると、ゲームコーナーの電子音が聞こえてきた。


 アリスは赤いリュックのポケットから月の欠片を取り出し、両替機の脇に設置したステンレスの台に無造作に置いていった。


「あれ、こんなにあるのか?」


 思っていたより多いそれを数えてみると、14個ほどあった。


「領主代理のおばあちゃんに貰ったのと、森の祠に向かっている時に得た物よ。あなたもあるんでしょ? 出してちょうだい」

「いや、俺はないな……お前らを追うのに必死だったし」


 そう言うと、アリスは眉をひそめながらジーっと俺を見つめた。


「ごくつぶしね。将来あなたのお嫁さんになる人がかわいそうだわ」

「誰がごくつぶしだ! それに不測の事態に備えてちゃんと貯金してるわ!」

「あら、あなたにしては考えているじゃない。いくつ貯金しているの?」

「3つだ!」


 俺は親指と人差し指と中指で3を作りアリスに見せた。片手で3を作ると自然とこうなってしまうのは元バスケ部だからかもしれない。


「……少ない貯金ね。それでよくドヤ顔を出来たものね」


 アリスはそう言いながら、月の欠片を小さい方の両替機に投入した。


「あれ、全部入れちゃうのか? HPそんなに減ってないハズだろ?」

「早くショッピングモールレベル3にしたいでしょ? 経験値優先よ!」


 持っていた月の欠片をまとめて入れると、アリスは足早にブタブタパニックへと向かった。


「レベル上がったかしら!? あら、ブタブタパニック動かないわよ?」

「そりゃメダル入れないと起動しないだろ……。お前ブタブタパニックのメダル分を考えてなかったのか……」


 俺はジーンズのポケットからメダルを出し、ブタブタパニックの投入口に入れた。


「そのメダルはどうしたの?」

「前回の残りだ。さっそく俺の貯金が役に立っただろ!」


 完全に無視をしたアリスはおもちゃのハンマーを手に取り、まるでドラムを叩いているかのように軽快にブタブタパニックの操作を始めた。


◆ショッピングモールレベル 3◆

■■■□□□□□□□


「あっ! レベル3になっているわよ!」

「おお、やったな! スキルポイントはまた2ゲットか!?」


◆ソードレベル 1  ポイント 2◆


「このままソードスキル取得する? どんなのかしら?」

「ショッピングモールのソードスキル……見当もつかんな。まあ取得してみよう」


 俺が言い切る前にアリスは操作をしていたようで、古臭い画面にドットでソードスキル取得の旨が表示された。


ソードスキル1シュトク

スキル ヤミヲキリサク


「闇を斬り裂く? どういう意味?」


 頭にハテナマークを浮かばせながら、尚もアリスはブタを軽快に叩いた。

 すると、取得表示画面が切り替わり新たなドットが表示された。


◆7◆


「おいアリス叩き過ぎだ! 変な数字が出たぞ!」

「7? 7回叩いたからかしら?」

「ドラマーかお前は! ……闇を斬り裂くスキルと7か。もしかして……」


 言いながら、俺はアリスを連れてエスカレーターまで行きジャオン1Fに下りた。

 すると、すぐにスキルの効果を目の当たりにする事となった。


「明るいわね! 灯りが着くスキルだったのね!」

「闇を斬り裂いて明るくするって事か……7って数字は明るさのレベルって事か?」


 俺は店内を見回しながら言った。蛍光灯が点灯する訳ではなく、月の迷宮のように壁と天井が直接淡い光を放っていた。


「ジャオンの外も明るいわよ!」


 駆け出しながらアリスは言った。

 俺も追いかけてジャオンから出ると、もう陽が落ちているにもかかわらず元の世界の公園の街灯の下程度には明るかった。

 どうやら、ショッピングモール内部の壁や天井すべてがジャオンの中のように淡く光っているようだ。


「便利だな。これでもう夜中に1人でトイレ行けるだろ?」

「あなたがでしょ!」

「俺は元から行けるっての!」


 お互いムキになってチョップの攻防をしながらジャオンへと戻った。





「クリス! ご飯の時間よ!」


 アリスが大狼の赤ちゃんであるクリスを抱きかかえた。


パクリッ!


 クリスはぬるめの粉ミルクが入った哺乳瓶ではなく、それを持つアリスの指先に噛み付いた。


「違うわよクリス。私の指からはおっぱいは出ないわ、こっちよ!」


 甘噛みしているクリスの口元に哺乳瓶の先を当てると、今度はがむしゃらに哺乳瓶に入った粉ミルクを飲み出した。


「そうよクリス! たくさん飲んで早く大きくなりなさい!」


 俺は和室のテーブルで冒険手帳をパラパラと捲りながら、2人をなんとなく眺めていた。

 すると、カラになるまで一気飲みしたクリスがゲップを一つしてから俺の脳に直接語りかけた。


――まことに美味じゃ。しかし、わらわはこの前髪ぱっつん娘が嫌いじゃ。


パクリッ!


 クリスはもう一度アリスの指先に噛み付いた。


「うふふ。クリスったら、また私の指をおっぱいだと思って甘噛みしているわ」

「いや……アリスとおっぱいは到底結びつかないワードだと認識してるぞ。それは嫌われてるから噛まれてるだけだ」

「いい加減な事を言わないでちょうだい! ありとあらゆる生物に好かれる高貴な私に対して失礼よ!」

「まあ、そう思うなら思っとけ……」


 でも、なんでクリスはアリスを嫌うんだろうな……。

 あんなに可愛がって率先して世話をしてるのにな……。


 と考えていると、再びクリスは語った。


――わらわは召喚士が嫌いじゃ。母上や父上や祖母はこの娘を好いていたようじゃが、この娘も憎き召喚士の1人じゃ。だからわらわはこの前髪ぱっつん娘が嫌いじゃ。


 召喚士は魔狼フェンリルを戦いに導いた存在だから……かな。


 俺は召喚士を憎む明確な理由は敢えて聞かず、クリスの頭を撫でながら言った。


「まあそう言うなって。アリスはお前の事が大好きなんだから……」


パクリッ!


 今度は俺の指先に噛み付いた。これは甘噛みではない。繰り返す、これは甘嚙みではない。


「いてえ! クリスお前! 牙的なのが刺さったぞ!」


――うぬの事も別に好きではない。調子に乗るな、このたわけ。


「誰がたわけだ! それに俺の事をうぬって呼ぶな! ボスと呼べボスと!」

「あなただけ会話出来てずるいわよ! じゃあ私の事はアリスお嬢様と呼ばせてちょうだい!」


 俺達の訴え虚しく、クリスはアリスの腕からピョンと飛び跳ね、和室の隅に置いた座布団の上で寝転んだ。


「寝る姿も可愛いわね。一緒に寝たいわ」


 アリスは猫のように身を低くしながらクリスに近づき、モフモフの尻尾に触れた。


「ああ。それに、もう狼らしい牙が生えてるんだな……。普通の狼より成長が早いのかもな」


 クリスは横目で尻尾に触れるアリスを見たが、そのまま何事も無いように目をつぶり寝だした。

 噛み付かないところを見ると、どうやら尻尾に触れる事は許可したようだ。


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