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俺とアリスの異世界冒険手帳~ショッピングモールごと転移したのはチートに含まれますか!?~  作者: 底辺雑貨
二部

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62 騒乱

 とは言え、俺は迷っていた。


 森の上空に昇る煙は俺の第六感を刺激したが、だからこそ危険が伴うのならばアリスやチルフィーに黙って1人で行くべきかと考えた。


 特にアリスは病み上がりなので、尚更危険な目には合わせたくなかった。


「村には今、ボルサやレリア達もいるハズだよな……」


 前にショッピングモールに訪れた時、ボルサは森の結界がどうこうと言っていた。

 あの煙はそれと関係しているのだろうか?


 俺はアリスに告げてから行くべきか結局決められないまま、和室で外出の準備を始めた。

 もし本当に森でなにか起きているのなら噴水の水に浸した包帯が役に立つはずなので、まとめて作っておいた物をいくつかボディバッグに入れた。


 そうしていると、勢いよく引き戸を開けたアリスが俺の丸まった背中に声を掛けた。


「お風呂最高だったわ! あなたも入ったら?」

「あれ、意外と早かったな……」

「ゆっくり入るのは夜のお楽しみよ!」


 まだ髪が濡れたままのアリスが和室へと入り、畳の上に座ってドライヤーのスイッチを入れた。

 ほのかに香るシャンプーの匂いが鼻をよぎった。爽やかなシトラスミントの香りだった。


 やはり黙って村に向かう訳には行かないので、俺は髪を乾かし終えたアリスとチルフィーに見た事をそのまま告げた。


「大変じゃない! じゃあ早く行くわよ!」


 アリスは当然のように、ドライヤーのコードを纏めて結びながら言った。


「まあ、そうなるわな……。お前病み上がりだし、ここで待ってて欲しいんだが」


 くそ、やっぱ言わずに出て行くべきだったか……?

 でもそうすると、俺がいない事に気付いたアリスが1人で村に向かうかもだったしな……。


 と考えていると、赤いリュックを押し入れから出して準備を始めたアリスが口を開いた。

 チルフィーも付いて来る気のようで、アリスの頭の上で正座をしていた。


「あなた、まだそんな事を言っているの? そのクダリはもう飽き飽きよ。それに、なにかが起こっているとはまだ決まっていないのだから大丈夫よ」

「クダリって……お前に言われるとイラっと来るな。まあ俺の杞憂ならいいけど……」

「早く行くであります! 美味しい焼き芋が待っているであります!」


 なにと勘違いしているのか、チルフィーがよだれを垂らしながら言った。

 あるいは、本当にそんな平和的な煙かもしれない。と、俺は希望的観測を抱いた。


「準備OKよ!」


 アリスが引き戸を開けながら言うと、俺はそれに続いて和室を出た。





 草原は静かだった。


 雨後の竹の子のような死ビトは何体か徘徊していたが、それでも昨日と今朝討伐した数よりはよっぽど少なかった。


 俺達はなるべく死ビトの相手はせずに、出来るだけ急いで森へと向かった。

 ハイペースで歩いているアリスは段々と地に足を付けている時間が減っていき、いつ走り出してもおかしくなかった。


「おいアリス、ここから走ったら体力がもたんぞ」

「あら、いつの間にか急いでいたかしら。早歩きを止めるのは私の役割なのに、これでは逆ね」


 素直に先頭を俺に譲りながら、アリスは言った。


 口には出さないが、村の人を大分心配しているようだった。

 俺よりよっぽどこの異世界の人間と親しくしているアリスなので、それも無理はないかもしれない。


 とは言え、段々ハッキリと見えてくる煙を見ていて、俺も逸る気持ちを抑えるのに精一杯だった。

 何故、たかが煙が立ち昇るのを見ただけでこんなに心が焦るのだろうか。

 それはやはり、ボルサが言っていた森の結界が気になっていたからかもしれない。


「物語に結界が出て来たら、それはもう解かれるだけの役割しか持たないよな……」

「結界が決壊すると言う事ね!」


 アリスにしては上手い事を言ったので、俺はなんと返そうか迷った。


「おいおい、お前がそんな上手い事を言うなんて、今夜は――」


 雪が降るぜ、ベイビーと言おうとした。


 言おうとしたが、その瞬間に蜘蛛が降って来たので、俺の『上手い事を言いたい脳』は咄嗟に切り替えた。


「蜘蛛が降って来るぜ、ベイビー!」


 言いながら、アリスを無理やり屈ませてホルダーから抜いたバールで空中の蜘蛛を殴打した。


「なに!? 蜘蛛!?」

「ああ、初めて見る生物だな! 蜘蛛にしてはデカすぎだけどな!」


 俺が思っていたより左手で逆手に持つバールの威力は高いようで、地面に叩き落としたサッカーボール程の大きさの蜘蛛はピクピクと足を動かしてから完全に活動を停止した。


「もう1匹来るであります!」


 チルフィーがアリスの頭上で叫ぶと、俺はその蜘蛛目掛けて右腕を構えた。


「出でよ狐火!」


ボオオォォォ!


 横に薙ぎ払った炎が、空中から襲って来た蜘蛛を燃やした。

 そのまま地面に落ちた蜘蛛はその場で燃え続け、裏返って足をシワシワとさせた後に息絶えた。


「降って来たって言うか、あの高い岩から跳んで来たみたいだな……」


 歩いている緩い坂道の先にある岩を指さしながら言うと、アリスは何も言わずに駆け出した。


「おい待て! 危ないから俺の後ろに続け!」

「その岩の上から狼の鳴き声が聞こえたわ!」


 アリスを追いかけて坂を越えると、岩の上で2匹の蜘蛛と戦っている狼の姿が見えた。


「アイス・アロー!」


ズシャーー!


 アリスは風の加護でフワリとジャンプをしながら、その蜘蛛目掛けて氷の矢を撃った。

 射角が限られていて難易度の高い射撃だったが、その矢は見事に蜘蛛を撃ち抜いた。


「もう1匹! アイス――」

「アリス待て! 狼に当たるぞ!」


 アリスは残った1匹の蜘蛛を狙おうとしたが、射線上に狼が入りそうだった為、俺はアリスの手を抑えて下げさせた。


「狼も2匹いたのね!」

「ああ、あいつらは……」


 その2匹の狼は、背中と胸にそれぞれX字の傷痕を持つ狼だった。

 それはショッピングモールで俺が付けた傷で、胸にX字の狼は尻の辺りにもアリスの氷の矢の傷痕があった。


「狼が蜘蛛を噛み殺したであります!」


 チルフィーが声高に言うと、胸にX字の狼が俺達に気付き、高い岩から飛び跳ねて俺達の正面に立った。


――あら、あんた達。久しぶりね。


 と、胸にX字の狼が目で語ると、背中にX字の狼は飛び跳ねて俺達の背後に着地した。


――よく会うな。お嬢ちゃんの氷の矢の助太刀、感謝するぜ。


 魔狼フェンリルの末裔である大狼2匹に囲まれると、恐怖はないにせよかなりのプレッシャーは感じた。

 だがアリスはそんなものは感じないようで、胸にX字の狼の後ろにまわり、自らが貫いた傷痕に手を当てた。


「これ、私のアイス・アローで付けた傷よね。傷痕が残っちゃったのね……」


 アリスが悲しそうな声で言うと、胸にX字の狼が語った。


――あんたを守る為に貫いた傷痕なのに、不思議な事を言うお嬢ちゃんね。


「まあな……これが無かったら、俺はお前に食い殺されてたからな……」


――ふふふ。食べる気は無かったけど、あんたの血肉は美味しかったわよ。


 そう言われ、かつて噛み砕かれた右腕が心なしか痒くなった。

 俺はその痒みを我慢せずに思い切り掻きながら、今一番気になっている疑問を投げた。


「あの蜘蛛はなんなんだ?」


 すると、背後にいる背中にX字の狼が、俺の尻を叩いた。

 剥き出しの爪で俺の尻を傷付けないように気を使ってくれたようだが、それでも少しだけ痛かった。


――アラクネだ。


 背中にX字の狼はそれだけを目で語った。余計な情報のない、短い語りだった。


「アラクネ……蜘蛛の事か?」


――ああアラクネだ。お前、感じないのか? お前は俺達と同じだと思ってたが。


「俺がお前達と同じ……? なに言ってるんだお前……」


――その様子だと、俺達とは違うんだな。なかなか複雑そうだなお前は。


「どういう事だ? なんで俺が複雑なんだ?」


 俺が意味深な言葉の意味を聞くと、X字の狼は短く一つ吠えた。


――またお客さんだぜ。


 X字の狼が顔で俺の視線を誘導した。その先の森の入り口からは、10を超える数の蜘蛛が迫っていた。


――小蜘蛛は体に覆いかぶさって、噛み付きながら毒を注入してくるから気を付けろよ。


 振り返りながらX字の狼は語った。それは共闘の合図であり、蜘蛛との戦いのアドバイスでもあった。


「って、今お前の言葉が目を見ないでも分かったぞ! 直接、俺の脳に語ったのか!?」


――ん? ああ、じゃあやっぱり俺達と少しは同じなんじゃないか? お前自身がそう認識したから聞こえたんだろ。知らんけど多分。


「おい! 大事な事なのに適当だな!」


 俺は蜘蛛に向かって飛び掛かったX字の狼の後に続きながら言った。


 前言撤回。草原は騒がしかった。


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