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俺とアリスの異世界冒険手帳~ショッピングモールごと転移したのはチートに含まれますか!?~  作者: 底辺雑貨
二部

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59 偽りの勝利

 どれくらい気を失っていたのか、俺は気が付くとショッピングモールの天井を見上げていた。


 厚いガラスの天井の向こう側では、大小さまざまな星が夜空に輝いていた。

 その星の1つが流れ星となってフレームから外れると、俺は状況を理解して起き上がった。


「ピエロ……あの野郎どこ行きやがった! ……痛っ」


 辺りを見回してピエロを探したが、もう姿が無かった。


 後頭部が少し痛んだ。手で恐る恐る触れてみると、凝固した血液が後ろ髪の一部を纏めて固めていた。

 かなりのケガだったようだが、今は傷跡すら無いみたいだ。


 噴水の元に横たわっていた状況と合わせて考えると、ピエロが俺をここまで運んで噴水の水を俺に飲ませたとしか考えられなかった。


 よく見ると、X字に裂かれたTシャツに少量の血液が付着していた。

 自分の血かとも思ったが、気を失う直前にピエロに放った鎌鼬の事を思い出した。


「鎌鼬……ちゃんとピエロの脚を斬ってくれたんだな……。これは相打ちという事で、あの戦いは引き分けだな」


 あの金獅子のカイル扮するピエロと引き分けた事は快挙とも言えた。

 若干、判定が甘いかとも思ったが、どう考えても引き分け以上はあるだろうと考え直した。

 いや、俺は本来の戦闘スタイルではなかったので、これはもう完全勝利と言って差し支えないかもしれない。よし、スコアは+3としておこう。


 と考えていると、足元に雑誌の切り抜きで作られたメモが置いてある事に気が付いた。

 俺はその、色々なページの文字を繋ぎ合わせて書いてある事を声を出して読んでみた。


「『迷わず落ちろ、行けば分かるさ』……なんだこれ、ピエロが置いていったメモだよな……」


 その下には、別の事が同じように文字を繋ぎ合わせて書いてあった。だが途中で面倒になったのか、一部は手書きのカタカナのようだった。


「『安心シロ、私はシンニュウ者ではナイ。誰もココにはハイレナイ』……って、なにが言いたいんだ?」


 まさか、ショッピングモールのシールドスキルの事を言ってるのか……?

 確かにピエロが入って来た事で凄い不安になるけど、それが杞憂とでも言いたいのか?

 ってか、じゃあピエロはどうやって入ったって言うんだよ……。


 色々と訳が分からなかったが、取り敢えず俺はそのメモをズボンのポケットにしまった。


「って、なに落ち着いてるんだ俺!」


 と言うと同時に、俺はジャオンの和室まで走り出した。謎のメモよりもピエロよりも、まずはアリスの安全を確かめたかった。



 和室の引き戸を開けると、そこでアリスはちゃんと眠っていた。

 胸を撫で下ろしながらアリスのオデコに手を当てると、熱が下がっているようだった。

 少し顔に汗を掻いていたので、脇に置いておいたタオルで拭きとった。


「よかった……。やっぱだだの風邪だったみたいだな……」


 ピエロはアリスにはなにも危害を加えてはいないようだ。

 であれば、金獅子のカイルはなにをしに来たのだろうか? あのメモを残す事が目的だったのだろうか?


 俺はアリスの少し乱れた掛け布団を直してから、手帳に先程のメモを貼り付け、起きた出来事をなるべく詳細に記入しておいた。


 そうしていると、アリスが俺のシャツの裾を掴んだ。起きたのかと思い声を掛けたが、無反応だった。


「無意識で掴むって、どんだけ握り心地が良いんだよ」


 俺はシャツを離させ、代わりに俺の手を握らせながら言った。

 

 アリスの小さな手は、抜群の握り心地だった。





「出でよ玄武!」


カメエエエエッ!


 俺は玄武を使役し、ジャオン2Fのエスカレーの上から下に向けて腕を構えた。


「飛べ黒蛇!」


シャアアアアッ!


 エスカレーターの下に置いてあるレンガに黒蛇が噛み付いた。

 すると、俺の腕に巻き付いた黒蛇の尻尾の先から軽い振動が伝わった。

 その瞬間、俺が少し腕を引くと、レンガをくわえたまま黒蛇が急速に縮んだ。


「ふう……。今度は成功したか……」


 黒蛇が空中で放したレンガをキャッチし、呟いた。


 既に何度も玄武に巻き付いている黒蛇の使い方を練習していたが、気性の荒い黒蛇の扱いは中々難しく、思ったようにはいかなかった。

 噛み付かせる他に対象に巻き付く事も出来るようで、ある程度は俺の意思に従ってくれるが、まだまだピエロのようにはいかないみたいだ。


「でも、俺の腕に絡み付くの止めてくんねーかな……」


 玄武に巻き付いている黒蛇を飛ばすと、その瞬間に俺の腕に移動して巻き付いてから飛んで行くようだ。

 俺はヘビが大の苦手なので恐ろしくて仕方がないが、それでも扱い方をマスターしなければならない。


「玄武のシールドを展開しなければ体力消費はそんな無いみたいだな。でも黒蛇使うと玄武も消えちゃうから注意が必要だな……」


 俺はその点も含めて後で手帳に書いておこうと思い、そのままレンガをゲームコーナーの脇のトイレまで運んだ。


「さて……これでレンガは足りるだろうけど……風呂造りか、ダルいな」


 スマホが示す時刻は既に夜中の2時を越えていた。

 元の世界とこの異世界の時差はそんなにないので、まあ似たような時間だろう。


「ああっ!」


 女子トイレに入り適当にレンガを積んでいた俺は、セメントを忘れていた事に気が付いた。

 防水セメントがあったので大量にカゴに入れたのだが、それをビイングホームのレジカウンターに置いたままだった。


「め、めんどくせえ……」


 と言いながらも俺はエスカレーターに向かっていた。

 アリスの為ならエッサホイサと歌おうかと思ったが、半分は自分の為でもあるので止めておいた。


 何気なく周りに注意しながら外を歩いた。


 まさか、またピエロが現れたりしないだろうなと考えていたが、何事も無くビイングホームに着いた。

 それどころか、物音一つしなかった。草木も眠る丑三つ時という言葉はどうやらこの異世界でも有効らしい。


 俺は中に入ってレジカウンターまで歩き、防水セメントが入っているカゴを手に取ると同時に隣に置いておいた物を改めて見た。


「お風呂沸かし太郎……こんな便利な物が世の中にはあったんだな」


 それはビイングホームに陳列されていた物で、ツボのような形の50センチ程の物体を水中に入れておくだけで沸かしてくれるらしい。


 保温や除菌的な機能もあるようなので、これがあれば24時間お風呂に入る事も可能だ。

 俺は取り敢えず風呂を造ってから運ぼうと思い、3台の沸かし太郎をキープしていた。


「どうせなら広い風呂が良いからな。豪華に3台活用で風呂無双だ」


 俺は独り言を一つ。そしてカゴを持って再び外に出た。





「腰が痛い……もう朝になるし、残りの作業は明日やろう……」


 俺は和室の引き戸を開けながら呟くと、中で大人しく眠っているアリスの元に座ってお茶を一口飲んだ。

 そして丁寧にオデコの冷却シートを剥がして、新しい物を貼り付けた。

 そのままアリスの顔を見つめていると、その綺麗なキャンバスになにか落書きをしてやりたい気持ちが湧き出した。


「まあ、病人だし水性ペンで勘弁してやるか」


 俺はペン立てから青い水性ペンを取り出し、アリスを起こさないように注意しながら瞼に目を描いた。

 それはアリスが計算ドリルのスペースに描いた目の怪物のような芸術性に溢れるものではなかったが、ステータスがカンストしているアリスの寝顔に+3程度の数値を補正した。


 黒でも赤でもなく青いペンなのは、アリスの熱を下げたい一心で色を選んだ俺の優しさだった。

 その俺の男前な優しさにアリスは気が付くだろうか?


「気付く訳ねーか……。まあ熱が下がれば、俺の優しさなんてどうでもいいけど」


 ペンを戻してから再び寝顔を見つめながら呟くと、アリスは目をゆっくりと開けてから静かに口を開いた。


「気付いているに決まっているでしょ」


 その目は、瞼に描いた俺の優しさに溢れる青い目よりも、大きく澄んでいた。


「おはようアリス」


 俺はその頬に触れながら言った。


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