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47 貴重なメダルそうなので

「ぎゃあああああああ!」


 ショッピングモールの和室内に響くアリスの悲鳴。俺はそれで目が覚めた。


 とても良い目覚めとは言えなかったが、抱き枕の抱き心地は悪くはなかった。と思ったら、抱き枕ではなくアリスだった。


「ああビックリしたわ……。起きたら誰かに抱き着かれていて驚いたけれど、あなただったのね。じゃあどいてくれる?」

「その落ち着いたリアクションもどうかと思うぞ……。ってか、半裸のエルフを抱きしめてる夢を見てたのに、いつの間にかトーテムポールに変わってたのはお前のせいか」

「なんで私を抱きしめて見る夢にトーテムポールが登場するのかしら」

「いや、体の突起物がほぼゼロだからだろ」


 俺はアリスに落とされた小さなキューブの衝撃で完全に目が覚め、そのまま和室の電気を点けて、引き戸を開けた。


 バックヤード内は薄暗かったが、搬入口であるシャッターを一気に開けると、眩しい程に外の光が差し込んで来た。今日もいい天気のようだ。


「雨が降ると死ビトが湧きやすくなるらしいし、この異世界の天気って重要だよな……」


 俺は独り言を一つ。その後に纏めて置いてあるタオルを1枚取り、そのままジャオン2Fへと向かった。


「おーいアリス、先に顔洗いに行ってるぞ」

「待ちなさいよ! 私も行く!」


 パジャマ姿のまま足早に和室から出て来たアリスと、その頭の上でまだ半分寝ているチルフィーの姿を確認すると、俺はバックヤードのドアを開けた。


「今日はどうする? 月の迷宮行く前になにかする?」

「ああ、取り敢えず飯食ったらゲームコーナーで色々かな」


 ってか、まずはショッピングモールHPの確認だな……。

 それが一番気を付けるべき点だ……。


 発言の補足を脳内で済ませ、そのまま止まっているエスカレーターを上った。

 しかし、アリスはなにかを考えているようで、エスカレーターの前で立ち止まっていた。


「どうしたんだアリス?」


 俺が聞くと、アリスは何度かその場で跳ねた後に、フワリとジャンプをして俺の胸に飛び込んできた。


「出来たわ!」

「えっ……今のチルフィーの風の加護か?」


 エレベーターの下から俺の元へとなると、2メートル程ジャンプをした事になる。しかしチルフィーは風の加護を発動した様子はなく、そのアリスの行動に驚いていた。


「違うわ! 自己流の風の加護よ! 出来そうだったからやってみたの!」

「自己流って……チルフィーからラーニングしたって事か? ……凄いなアリス」

「あ、あたしが徹夜で特訓した風の加護が……なんだか悔しいであります!」


 チルフィーはポニーテールをぶん回しながら言った。





「さあ! 朝食も済んだしゲームコーナータイムよ!」


 アリスが赤いリュックのポケットから、月の欠片を少しガサツに取り出しながら言った。

 アリスの小さな手で掴み切れる量ではないので、半分は俺が頂いた。


「よし……まずは1つメダルに交換だ」


 俺はそのままレジカウンターからゲームコーナーへと移動し、大きい方の両替機の投入口に月の欠片を投げ入れた。そして高い音とともに出て来たメダルを掴み、ブタブタパニックの前へと歩いた。


「これはなんでありますか?」


 アリスの頭からブタブタパニックの上部に飛び移ったチルフィーが聞いた。


「これは……まあショッピングモールの操作端末のようなもんだ」

「操作端末……でありますか」


 よく分かっていないチルフィーへの説明をアリスに任せ、俺はさっそくメダルを投入した。そして気になっているHPの項目までブタを叩いた。


◆マジック・スクウェア POWER◆

■■□□□□□□□□


「えっ!? なんでこんなに減ってるんだ!?」

「どうしたの?」

「いや……一昨日レベルアップした時はパワーMAXだったよな? それなのに1日半でこんなに減ってるぞ……」


 俺は半日で1マス減るものだと思っていた。しかし、それだと5マス分の消費の説明がつかなかった。


「もしかして、月の迷宮が原因?」


 ……。


「知ってた! アリスも気付いたか! そうだよ月の迷宮に入ると5マス消費するんだよ!」

「嘘おっしゃい! あなた、また知っていた振りをしているでしょ!」

「うんうん、そうだな。お前は本当に客観的に見て可愛いな。よし、小さい方の両替機に欠片を入れてHP回復だ!」


 俺は歩きながらジーンズのポッケから残りの月の欠片3個を取り出し、投入した。


「一気に3個入れたぞ? 少し大き目のがあったから、結構回復しただろ?」

「凄い! 5マスも回復したわよ!」


 再びブタブタパニックの前まで歩き確認すると、アリスの言う通り5マス回復して8マスになっていた。

 同時にショッピングモール経験値も増えていたが、こちらはレベル1の時よりも伸びが悪いみたいだ。


「とりあえず安心だな。でも、月の迷宮で5マス消費するとなると、中でドロップが悪かったらマイナスになりそうだな……」


 俺は言い切った後に、天井を睨み付けた。


「降りて来い、神! やる事が一々セコイぞ!!」

「あなた、なんで毎回見上げながら叫ぶのよ……」

「神は天にいると相場が決まってる……。まあ、気を取り直してガチャガチャするか。月の迷宮行くならUFOキャッチャーをアリスにやらせて強い魔法人形ゲットしたいけど、あんま余裕ないからな」


 既に歩き出していたアリスは、残っている月の欠片4個を大きい方の両替機に入れた。


「2枚ずつね! あ、チルフィーもガチャガチャ回してみる?」

「いえ、あたしはいいであります。と言うか、なにがなにやらサッパリであります」

「チルフィーが回しても魔法やら獣やら出るんかな……実験の為にやってみるか?」

「いえ、貴重なメダルそうなので、また今度そのメダルに余裕が出来たらやってみるであります!」

「そっか、じゃあまた今度だな」


 俺はチルフィーの言葉に返してから頷き、ガチャガチャの前まで歩いた。


「獣ガチャガチャよ! 今度こそ獣ガチャガチャで可愛い幻獣ゲットよ!」

「あっ! よせ回すなアホ!」


 俺が止める前にアリスは獣ガチャガチャにリベンジマッチを挑み、出て来た白いカプセルを開けた。


「お前シルフの族長の話を聞いてなかったのか! せっかくブタのパンツ譲でもマナだけはエグいのに、幻獣と契約したらマナが俺みたくなるぞ!」


 と焦っている俺の言葉を全く聞いていないアリスの手には、馴染み深い小さなタワシがあった。


「きいいいい! またタワシ! またタワシ!」

「……きいいいい! じゃねーよ……。でもハズレで良かったな……」


 いや、違うか? アリスが獣ガチャガチャを回すとタワシばかりだ……。

 これはもしかして、素質の無い者が回すとタワシしか出ないんじゃないか?

 それなら多分、俺が魔法ガチャガチャを回したらタワシが……。


 と考えたが、メダルが勿体ないので試す訳にもいかず、俺は結論を先へと伸ばした。


「よし、次は俺が回す。どいてろトーテムポールコンビ」

「それ、意味が分からないけれど、凄くムカつく呼び名ね……」


 アリスのチョップを背中に感じながら、獣ガチャガチャにメダルを投入した。


ガチャッ……ガチャッ……


「……白カプセルか」


 出て来たカプセルを取り出しながら、俺は色についてグチをこぼした。それ程までに、俺もアリスもこのゲームコーナーのガチャガチャに馴染んでいた。


「まあ、白だから使えない幻獣って訳でもないか……鎌鼬も木霊も白だったしな」


 喋りながら白いカプセルを開けると、中にはキツネのミニチュアが入っていた。

 そのキツネの大部分は特に変わってなかったが、1ヶ所のみが明らかに異質と言えた。


「尻尾が燃えてるみたいに赤いな……」

「可愛い! 凄く可愛いじゃない! ズルい!」


 俺の獣ミニチュアを見て毎回同じリアクションをするアリスを放っておき……今回は背中にチョップも来た訳だが、とにかくアリスを放っておき、俺はキツネのミニチュアを見つめたまま契約を待った。


――我が名は狐火きつねび


狐火きつねびか……その名の通り、燃えてる尻尾から炎を繰り出すのかな」


 俺は眩しい光とともに狐火が消えた後に、腕を構えながら呟いた。


「ダメ―ジ計測したいけど、メダル勿体ないな……月の迷宮で欠片いっぱいでたら試すか」

「キツネちゃん消えちゃったわね……あなたの体内に住み始めたの?」

「ああ、そうだと思う。また少しだけ体温上がった気がするしな」


 俺が胸に手を当ててその僅かな差異を感じていると、アリスは聞いたわりには余り興味が無かったらしく、魔法ガチャガチャにメダルを投入した。





「出でよ狐火!」


ボオオォォォ!


 俺達は、外のミニステージの壇上で初お披露目会をしていた。


 狐火を初使役すると、一瞬だけ俺の手のひらの前に燃えている狐火の尻尾が現れ、それを振って炎を放った。


「おお、ほぼ予想通りの火属性攻撃か……。もう一度、出でよ狐火!」


ボオオォォォ!


 今度は右手を薙ぎ払いながら使役すると、俺の手の動きに合わせて1メートル程先まで火炎放射器のように炎が舞った。


「キツネちゃん尻尾しか出て来ないのね……可愛いのに残念」

「ああ、それも一瞬だけだな。鎌鼬みたいにこいつも控えめな幻獣か」

「でも便利そうね、お風呂を焚くのに重宝しそうだわ!」


 アリスは村のお風呂を思い出しながら言ったようで、少しだけ顔を紅潮させていた。


「風呂を思い出して顔を赤くするって、器用な奴だな……」


 俺はそのまま、もう1体使役しようと腕を構えた。それはアリスの魔法ガチャガチャの後にもう一度回して得た幻獣だった。


――我が名は青鷺火あおさぎび


 青い火を身に纏った鷺のような鳥は、俺にそう名乗っていた。


「狐火と違って、こっちは検討も付かないな……火って言うぐらいだから、青鷺火も火属性の攻撃なのか?」

「取り敢えず使役してみたら?」

「見たいであります! 色々な種類の鳥が近くの池にいて、よく遊びに行くでありますが、あのミニチュアのような鳥は見た事がないであります!」

「ああ……そいやショッピングモールの周りに鳥が沢山いる池あったな……」


 俺はあの美しい風景を思い出しながら、取り敢えず構えた右腕に力を込めた。


「出でよ青鷺火!」


グワァッ!


 すると、短い鳴き声とともに俺の頭上に青い火を纏う鷺が現れ、首を伸ばしながら羽ばたいて俺に青い炎を放った。


「うわあああ!」


 思わず叫びながらその青い炎を振り払ったが、その甲斐虚しく一瞬で炎は俺の全身を包んだ。


「……あれ、熱くないな」


 そう思った時には既に青い炎は無くなっており、青鷺火も消えていた。


「なんだったんだ……なんで使役した俺に向けて青い炎を放つんだ? もしかして俺を強化してくれたとか……おいアリス、どう思う?」


 アリスにしては珍しく、監督ぶらないで黙っていた。


「おい、聞いてるのかアリス」

「知らないわよ! 自分で考えなさいよ、この変態!」


 アリスはそう言うと、風の加護でフワリと後ろに跳んで俺から距離を取った。そしてその口から、思いもよらない言葉を言い放った。


「いつもいつもパンツパンツうるさいのよ! いい加減、死んでちょうだい!」

「えっ!? どうしたんだアリス? ……お前もパンツパンツ楽しん――」


 言い切る前に、俺はアリスの目を見て愕然とした。


「あなたとの異世界冒険は凄く楽しいわ! ……けれど、死んでちょうだい!」

「あ、アリス……」


 アリスの目は真っ赤に光り、俺に明確な殺意を示していた。


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