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俺とアリスの異世界冒険手帳~ショッピングモールごと転移したのはチートに含まれますか!?~  作者: 底辺雑貨
六部 第二章

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451 成り果ての姿

 俺が初めて黒鎧のデュラハンと遭遇したのは、月の迷宮五層だ。そこで未来からやって来た十八歳のアリスと協力し、一度はその怪物を退治した。しかしデュラハンは転生することができる。今とは違う別のどこかで。その際、撃破された原因となる個所を改良し、能力を引き上げることが確認されている。つまり倒されれば倒されるほど強力になるという、悪夢のような死ビトの亜種なのだ。


 二度目は暁の長城だった。まだザイルと敵対していたころのことだ。アナとやっとのことで撃退したが逃走を許してしまい、そしてその数時間後に上半身だけの姿で現れた。俺は一人で、たしか時の迷宮からの帰途だったと思う。黒鎧のデュラハンは死にかけており、俺は激しく消耗していた。結果、俺は黒翼によって肩からほぼ丸ごと右腕を切断され、通念的な死を迎えた。死因はおそらく出血多量によるショック死となるのだろう。三度目の正直という日本で生まれた諺は、あろうことか黒鎧のデュラハンの味方をしたわけだ。


 そして、思いがけない形で四度目が巡ってきた。今、目の前でザイルが黒鎧のデュラハンと戦っている。深い森の奥にある、まるで大きめのリングのような開けた場所だ。東の空から薄い冬の陽が射し込んでいる。常緑樹の葉がざわめくように大きな音を立てている。どちらも目立った外傷は確認できなかった。しかしザイルの息遣いや擦り切れた外套が、ここまでの戦闘の熾烈さや経過時間の長さを物語っていた。


 最初に両者の間に割って入ったのは、ガルヴィンの精霊魔法だった。炎がデュラハンを包み込み、残り火が拡がって羊歯を燻す。ザイルはとくに驚きの表情を見せなかった。彼は俺たちの存在にずっと前から気づいていたのだ。


「ガルヴィン、お前はおれの教えたことを学んでいないようだな」とザイルは炎のなかに視線を打ち付けたまま口にした。「攻撃を加えるなら相手の力量を読んでからにしろ。マナの無駄だ、おまえの精霊魔法ではこいつに効かん」


「それは――」と俺は横から口を挟んだ。「それは、あんたがこれまでに炎の精霊魔法を浴びせ続けてきたからじゃないのか?」


「そのとおりだ、強き者ウキキ」とザイルは言った。「何度か火焔でこいつに止めをさしたことで、耐性をかなり上げてしまった。無論次の遭遇を考慮し、少しずつ手加減を加えていたがな」


「なら、100の力なら今でも瞬殺できるってわけか?」

「ああ。もし今発揮している100の力とやらが、120に相当していればだがな」


 回りくどい言い方だ。つまり全力の炎でもすでにじり貧だということだ。それにしても、ザイルは今まで何回こいつと戦ってきたのだろう? 何度討伐し、転生させてきたのだろう? 前に黒鎧のデュラハンに執念深く追われていると、こいつは自ら明かしていた。この首無しの化物は、オパルツァー帝国第四代皇帝の成り果ての姿という話だ。きっと執拗に追跡される理由は、ザイルが次代の皇帝だということが関係しているのだろう。


「昨日ザイルが飛空艇に戻らなかった理由は、これでありますかね?」と俺の頭の上でチルフィーが言った。「まさかとも思うのでありますが、一晩中戦っていたのでありますか?」


「無駄口をたたくのはここまでだ」とザイルはチルフィーの質問には取り合わず言った。「ウキキはウキキの敵に集中しておけ。ガルヴィンの精霊魔法でもそいつになら通用する、二人でなら撃退できなくもないだろう」


「俺の……敵? どういう意味だ……?」

「デュラハンに追われる者は、おれひとりではないということだ」


 最後までうまく聞き取ることができなかった。空からガルヴィン目掛けて杖が降って来たからだ。いや、それは杖と呼ぶにはあまりにも穿貫することに特化していた。これを一瞬目にしただけで否が応にも連想する相手がいる。そう――領主の残り僅かな命を奪った、憎き紅衣のデュラハンだ。


 しかし、上空に奴の姿はなかった。代わりに真後ろに禍々しい気配があった。すでに瞬間的な移動を果たしているのだ。ガルヴィンに気を取られた隙に、俺をうしろから殺害する……いかにもこいつが好んで選択しそうな行動だ。


 それに対しての正答はすぐに導き出された。というか、勝手にそう体が動いた。俺は反射神経だけを頼りに翻り、紅衣のデュラハンの貫手を躱す。言葉は悪いが、自分の危険回避を優先したわけだ。だからといって、ガルヴィンを見捨てたわけではない。そして彼女が自分で対処できると高を括ったわけでもない。俺は信用したのだ。ザイルという男を。


「二度はないと思え、弱き者ガルヴィン」とザイルは言った。彼はガルヴィンを庇うような恰好でナイフを振り上げ、紅衣のデュラハンの杖を切り払っていた。装飾の施された、かなり絢爛な長身のナイフだ。刃の発光するような輝きから、ヴァングレイト鋼であることがすぐに見て取れた。


「お前がここで朽ちるようなら、おれはおれの見る目のなさを一生恥じることになる」とザイルは続けて口にした。「生きるか死ぬか、それが問題だ。生きるなら戦え。戦うならマナを燃やすのではなく、冷やせ。精霊と対話しつづけろ。おれの教えの一切を無駄にするな」


 俺はザイルの話を耳にしながらも、ほかのことに思考を割いていた。強烈な違和感の追求だ。視覚器官を持たない相手の攻撃予兆は、俺にも視ることができない。本来なら、俺を仕留めるには絶好の機会だったはずだ。なのに、なんで紅衣のデュラハンは最初にガルヴィンを狙ったのだ? 逆恨みで俺を殺すために来訪したのではなかったのか?


 紅衣のデュラハンの行動理由にそれらしい動機を与えることができないまま、体術による二撃目が繰り出された。俺は腕をクロスし、鋭い蹴りをしっかりとガードする。しかし思いのほか猛烈な蹴撃だった。魔術師のような出で立ちのくせに、かなりフィジカルにも恵まれた奴だ。刹那の攻防ののち、俺はサッカーボールのように力強く蹴り出されてしまった。ゴールネットはガルヴィンとザイルだった。


 突然うしろから激突してしまったことで、ガルヴィンは転びながら反射的に苦言を吐いた。「痛いなあ、なにすんだよお兄ちゃん!」、俺はごめんと謝りつつも、もう一つの違和感の正体を掴み取っていた。紅衣のデュラハンは死ビトを束ねる能力を秘めている。これまでだって、組織立った動きに俺は苦しめられてきた。それなのに、なぜ今回に限って死ビトをけしかけてこなかったのだろう? おあつらえ向きに、森には死ビトがわんさかといるはずだ。なのにどうして……?


 すべての疑問に回答を与えたのは、黒鎧のデュラハンだった。彼は延焼する炎のなかから飛び出し、一瞬で俺たちとの間合いを詰めてきた。背後に眩しいばかりの光をたたえている。黒鎧のデュラハンが身に纏う後光――黄金色の意志だ。まんまと罠にかかってしまったと気づいたときには、すでになんの対処のしようもなかった。俺たちは二体のデュラハンに嵌められ、一か所に集められていたのだ。


 俺は頭上のチルフィーを咄嗟に掴んで放り投げた。「デュラハンの出現をアリスやアナに伝えろ!」、それから一流れにガルヴィンとザイルを一瞥した。「黄金色の意志だ、俺から離れろ……! 巻き添えを食って飲み込まれるぞ!」


 こんなふうに叫ぶのが限界だった。もちろん遅きに失するにもほどがある。黒鎧のデュラハンが放つ光に吸い込まれる寸前で、紅衣のデュラハンの思考が流入してきた。クックックッ……といやらしい嘲笑を漏らしていた。


 ツギハカナラズオマエヲコロス、ソウイッテオイタハズダ……。オマエヲコロスニハ、コンナホウホウモアル……。ソノモノノイシノセカイニシズミ、ナススベモナクオワリヲムカエロ……。


 そこで俺の意識はぷつりと途絶えた。次に目が覚めたとき、俺はガルヴィンやザイルとともに、黒鎧のデュラハンの意志の世界にいた。


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