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俺とアリスの異世界冒険手帳~ショッピングモールごと転移したのはチートに含まれますか!?~  作者: 底辺雑貨
六部 第一章

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424 伏せられた動機と目的

 ホワイトについて思い出すのはそう難しくない。なぜなら要点はごく単純だからだ。彼は肉体を持たない飛来種で、白い影のような形状をしている。あまり長くは外に出ていられないらしい。そのため、普段はザイルの身体に入り込んでいる。『ぼくはザイルの理解を得て、彼を仮宿にさせてもらっている』とは馬車のなかで耳にした彼の言葉だ。『だから、これからは”取り憑いた”ではなく”共存”とでも表現してもらいたいね』。


 目的があってこの惑星ほしに来たとホワイトは口にしていた。それを隠すつもりはないらしい。だがその目的は明らかにされていない。ザイルは『セブンス・センス』と呼ばれる能力の発現と引き換えに、それを承知で彼を内奥に住まわしている。互いにメリットのある関係性なのだ。


 だが大魔導士アリューシャに言わせれば、今一つ気に食わないらしい。彼女は小さなアリューシャちゃん人形に憑依し、椅子の上で静かに目を閉じ考えに耽っている。やがて瞼が開き、緋色の瞳がとんがり帽子のつばの下から俺のことを見上げる。


「小僧は先日までハバキ村に逗留し、オオムカデという飛来種と合遇したな?」

「はい、それなりに色々と話しました。って、なんで知ってるんですか?」

「だいたいのことはこの人形を通じて知っておる。『封魂の法』で憑依せずとも、この目と耳が及ぶ限りのことはな。それで、小僧はオオムカデがこの惑星ほしに飛来した目的を覚えておるか?」


 俺ははっきりと頷いた。「知性を獲得するためです。あいつはそのために歴代のキサラギ家の家長に寄生し、代わりに精力を供給してました」


「そうじゃ」とアリューシャちゃん人形は言った。「オオムカデの動機は明確なものじゃった。いや、すべての飛来種とは本来そういうものなのじゃ。生物由来の欲求、あるいは本能的希求。矮小なる蚊が巨大な人の肌に纏わりつくのと同じことじゃ。強い動機なくして、凍える星の海を渡れるものはいない。たとえ飛来種と言えどもな」


「つまり、ホワイトがその強い動機を伏せているのが気に入らないと?」


「うむ」とアリューシャちゃん人形は言った。「それがつまびらかにならぬ限り、儂は奴を邪悪と仮定する。たとえ目的が善きものであったとしてもな」


 俺はアリューシャちゃん人形の隣に座るチルフィーに目を向けた。彼女は話についていこうと熱心に耳を傾けていた。ほのかに顔が赤いのは、知恵熱によるものかもしれない。


「アリューシャ様はホワイトと話したんですか?」と俺は訊いた。


「ああ、ザイルと屍教の姫が訪ねてきたその場で、少しく会話を交えたよ。念のために屍教の姫――ガルヴィンと言ったか?――を退去させてからな」と彼女は言った。「無駄に長広舌をふるう口幅ったい奴じゃった。それでいて一切の隙がない。語られる言葉のなかに真偽が見えぬのじゃ。拠り所を巧妙に隠しておる。それも、あの飛来種が儂の気に入らない理由の一つじゃな」


「にもかかわらず、大魔導士アリューシャはザイルに認印を付与した」と俺は言った。「大丈夫なんですか? そりゃこの世界を救うのに必要とはいえ、そんな飛来種と共存するザイルを精霊王にして」


 一対の目がチルフィーに向けられた。アリューシャちゃん人形の頭の動きに合わせて、長い銀色の髪がふわっとなびいた。


「儂が彼奴あやつを精霊王にするのではない。忘れたのか小僧、認印はあくまでそれの誕生を認めるだけのものじゃ。ただの前段階に過ぎん。ザイルは字義の示すとおり、四大精霊に王と定められる必要がある。それで初めて精霊の王座に就くのじゃ」


 チルフィーは自分に水が向けられ、少し緊張した面持ちで胸に手のひらをあてた。内に潜む風の精霊シルフィーの反応を窺うように。だがそれらしきものは返ってこないようだった。ケルベロスにやられた傷を癒すために、深く眠っているのかもしれない。


「覚えてますよ」と俺は言った。「認印はあくまで精霊王の誕生を認めるだけのもの。いま世界でもっとも力のある大魔導士と召喚士がそれを与えることができます。それは言い換えると、もし精霊王が世界に害を為そうとしたら、責任を持って討伐に打って出ると表明したことになります。それが、古の時代に締結された、過ぎた力を持つ者たちの誓いのはずです」


 オーベロンとティターニア。それがかつてこの地上に君臨した二人の精霊王の名だ。精霊を率いる王が二人同時に存在したのは、この時代をおいてほかにない。その稀有な事例は争乱を生み出し、世界を二分した。破滅寸前まで世界を追い込み、やがて和睦が結ばれた。それを省みての措置が認印ということになる。いつかまた絶大な力に溺れる精霊王が現れたら討ってもらうためのものだ。


「そうじゃな」とアリューシャちゃん人形は言った。「むろん儂にはその覚悟がある。そしてそれに伴う実行力も有しておる。じゃが、できることならそのような事態は避けたい。まああたり前じゃな。大地が崩壊するほどの闘争を喜ぶ者はいない。世界はすべからくまどやかであるべきなのじゃ」


「どういうことですか? それはもしホワイトを悪性だと断定したら、ザイルが精霊王になるのを阻止するってことですか?」


 アリューシャちゃん人形は短く頷いた。ザイルが精霊王になるのを阻止するということだ。


「いや、でも、そうなるとガーゴイルの起動を防げなくなりますよ。アリューシャ様こそ忘れたんですか? そもそもザイルを精霊王にするのは、この惑星ほしにガーゴイルなんて発動させなくとも、人の力で飛来種の襲来から世界を護れると示すためです」


「忘れてはおらぬよ」と雪の舞う遠い空の下でアリューシャ様は言った。「ともあれ精霊王の降誕は必須じゃ。小僧の言うことに間違いはない。じゃから、ひとつ保険を打っておいた。ザイルとホワイトの目を盗み、当人さえそれと気づかぬうちにな」


「まさか……」と俺は言った。今度は長く頷き、アリューシャちゃん人形が俺の言葉を引き継いだ。


「気づいたか小僧。そうじゃ、屍教の姫にも認印を与えておいた。ホワイトの動向うんぬんによっては、あの娘を精霊王に仕立て上げるのじゃ」


 恋慕に染まるガルヴィンの赤い顔がふと目に浮かんだ。「……そんなの、ボクだってわからないよ」とあいつは言った。「気づいたらザイルのことを、目で追うようになってたんだ」


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