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42 待っていられない

「ところでレリア、私2人が戦っているのを見ていて気になった事があるの」

「なんですの?」


 俺とレリアの従者が翔馬の糞を片付けている最中、アリスとレリアが少し離れた場所で話をしていた。

 その姿を眺めていると、アリスは突然レリアの短いヒラヒラのスカートに手を伸ばした。


「えいっ!」


 そして掛け声と同時にレリアのスカートを捲り、まじまじと中を確認してから掴んでいるスカートの裾を下げた。


「やっぱりね! 戦っている最中チラチラと見えて気になっていたのよ!」


 馬糞を片付け終え、俺は楽しそうにしているアリスの元にかつてないほど素早く駆けつけた。


「なにやってんだよアリス……レリア顔真っ赤にして固まってるじゃねーか……。何色だった?」

「薄いピンクよ! だけれど色は重要じゃないわ! カボチャパンツなのが重要なのよ!」


 ふむ。カボチャパンツか……パンプキンブレイブ家の三女ならではの物だな。


「……って、別にカボチャパンツなら恥ずかしがる必要ねーだろ……短パンみたいなモンだろ? あーワクワクして損したわ、そんなもんおパンツ様として認められるかってんだバカヤロー。あーつまんねー帰りたい」

「なんであなた、そんなにやさぐれているのよ……」


 と楽しく遊んでいると、集会所の引き戸が突然開いた。


「ん? ウキキとお嬢ちゃんじゃないか……そんなところでなにをやってるんだ」


 集会所から足早に出て来たクワールさんが、俺とアリスを見て声を掛けて来た。


「あ、いや……ちょっと豪華な馬車が気になって見てたんです」

「そうか、趣味の悪い馬車だろ? 領主代理の婆さんが好きそうな、ゴテゴテとした装飾だらけだ」


 なかなかに過激な事を言うクワールさんに、周りを気にしながら俺は聞いた。


「そんな事言って大丈夫なんですか? その代理の人が来てるんじゃ……?」

「いや……今日来たのは代理の代理だ。婆さんの甥のうだつの上がらない男さ」

「なるほど……って、それでも聞かれたらまずいでしょ……声大きいっすよ……」


 言葉が通じる前と後ではクワールさんの印象は変わり、結構口の悪いおじさんらしい。

 それでも節々に見せる優しい笑顔は健在で、アリスの頭を撫でながら微笑んでいた。そのクワールさんに1つ聞いてみた。


「クワールさんって歳いくつなんですか? 因みに俺が21歳で、アリスが11歳です」

「ワシか? ワシは62歳になったな。この歳で突然村の責任者にされるとは思ってなかったよ」

「責任者って、村長って事?」


 クワールさんの手のシワを広げながら、アリスが聞いた。


「まあ、そういう事になるな。もちろん代理だがね」


 そのままクワールさんは、村長代理になった経緯や領主代理代理との会談内容を俺達に話した。


 前回村に訪れた時に三送りされていた男性がこの村の村長だったようで、その男性が亡くなったのでクワールさんが村長代理に収まったらしい。

 本人は乗り気ではないようだが、村人達と話しているクワールさんを見る限りは適任と言えるかもしれない。


 会談内容はというと、円卓の夜の期間だけでも村人を城下町に受け入れて欲しいという訴えを直接ミドルノームの城、つまり国にした事についてだったようだ。


 領主側の意見は、そんな事をされたらメンツが立たないだろうという事で、国への訴えを取り下げろと言ってきたそうだ。


 だが、それに対してクワールさんや会談に出席していた村人は、何度領主側に訴えても聞く耳すら持たないじゃないか! と強く反論したようで、結局話は平行線のまま終わったらしい。

 

 余談だが、クワールさんが三送りという単語を出した辺りでアリスは話に飽きたようで、近くでレリアと遊び出していた。俺としては話がスムーズになるので、遠くに行かないなら大歓迎だ。 


「まったく話にならない連中だよ……。奴らはこんな村の事なんか気にもしてないんだ」


 クワールさんが憤慨している様子で言うと、それが聞こえたらしく、後ろから小太りの男が近づいて来た。


「今の陰口も伯母に伝えときますね。マイナス査定になるとは思いますが、ご了承下さい」

「査定だと? お前らなにを査定してるつもりだ! 話しの焦点は村人の命だぞ!」


 その小太りの男の低い胸倉を掴みながらクワールさんは言った。すると、レリアのようにプレートメイルを纏っている女性が2人の間に割って入った。


「クワール殿! 控えて下さい! そんな事をしたら処置せざるを得ませんよ!」


 女騎士だろうか。レリアよりはしっかりと鎧を着込んでいたが、やはり全身ではなくロングスカートを着用していた。


「……アナさんか。いやなに、領主代理代理の襟が曲がっていたのでね」


 クワールさんが小太りの男の襟を正しながら言うと、アナと呼ばれた女騎士は握っていた腰の剣から手を離した。


「そうでしたか。早とちりをして申し訳ない」


 とアナが言うと、顔をプルプルと震わせながら小太りの男が声の限りに怒鳴った。


「そんな訳ないだろ! おい女騎士! 貴様、誰の護衛で来てると思ってるんだ!」

「……勘違いされているようですが、わたしが仕えるのは、あなたでもあなたの伯母上でもない。真の領主様ただ1人だ」

「なんだと? ……ふんっ、そういう事か。貴様も伯母に楯突こうと言うんだな! ……って! おい貧村のガキ! 人のお腹になにをしてるんだ!」


 いつの間にか小太りの男のお腹をプニプニと突っついているアリスがそこにはいた。


「触り心地抜群ね! ブタちゃんみたいだわ!」


 おいアリス……空気読めって。


「すいませんね……こいつバカなんで」

「バカってなによ! あなたなんかロリコン変態バカでしょ!」

「うんうん、そうだな。そのクダリはあっちで2人でやろう」


 と、アリスの腕を掴んで俺の後ろに引っ張ると、小太りの男は聞き取れないような早口で罵倒らしき捨て台詞を吐いた後に、馬車へと乗り込んだ。

 そして待機していた御者に馬車を出すように命令すると、そのまま村を去って行った。


「おお、翔馬って速いんだな……って、行っちゃったぞ? あんたらあの馬車で来たんだろ、大丈夫なのか?」


 俺がその場に残っているレリアとアナとレリアの従者に振り返りながら聞くと、アナがホっとした表情で口を開いた。


「大丈夫ではないが……まあ帰りはなんとでもなるだろう。あの男と馬車をともにするよりはマシだ。それより……」


 アナは少し離れた場所で退屈そうにしているレリアの元に近づいてから続けた。


「レリア、その髪はどうした? なんだか短くなったように見えるが……」

「ああこれ? まあなんと言うか……イメチェンですわ。それより、国の内輪揉めは終わったのかしら?」


 レリアが蔑むような目で言うと、クワールさんがレリアに対して一歩前に出た。


「国の内輪揉めか……確かに貴族の嬢ちゃんの言う通りだ。円卓の夜まで2か月なのに、未だに避難先が決まってないんだからな……」


 クワールさんはそう言い残すと、アリスの頭をもう一度撫でてから他の村人とともに井戸の方へと歩いて行った。


「いまいち、この人達の関係性が分からないでありますね……」


 アリスの頭から俺に頭に飛び移ったチルフィーが言った。


「そうだな……レリアとレリアの従者がファングネイ王国の人間で、その他がミドルノームの人間って事しか分からん」


 俺が頭の中で相関図的な物を思い浮かべながら言うと、井戸の方へと歩いて行ったはずのクワールさんが慌てた様子でこちらに走り戻って来た。


「大変だ! ソフィエ様と子供達が森でトロールに襲われてるらしい!」


 その言葉を聞くと、その場にいる全員が顔を見合わせた。その中で、1人だけ考える前に駆け出したバカがいた。


 俺の大事な大事なバカだった。


「待てアリス!」

「待っていられないわ! 早く助けに行かないと!」

「もちろん助けに行くけど、場所が分からないだろ!」


 当然図星な為、アリスは走る動作のままピタっと固まった。


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