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俺とアリスの異世界冒険手帳~ショッピングモールごと転移したのはチートに含まれますか!?~  作者: 底辺雑貨
六部 第一章

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321 失われたその機会

 俺たちはサラマンダーの目撃情報を得るために街に出たわけだが、レリアはとにかく、アナと行動をともにするのはなんだか随分と久しぶりのように感じた。彼女は黒のレザー・コートを纏い、長い脚を効率よく運んで俺たちの先頭を歩いていた。腰には当然オウス・キーパーを帯剣している。亜麻色のラフなショートヘアーは凛々しく、しかし時折覗かせる横顔は、彼女が美しい女性であることを俺に再認識させていた。


「どうした、ウキキ殿」と彼女は前を向いたまま俺に尋ねた。「わたしの頬っぺたに何かついているか?」


「いや、綺麗だなって思って」


 たぶんすぐに耳が赤くなるだろうなと思ったら、やっぱりリンゴのように真っ赤になった。彼女は並みの戦士を寄せつけないほど強い騎士でありながら、超がつくほどの恥ずかしがり屋なのだ。二十五歳。俺より四つ年上だが、大いにアリだなと俺は思った。なんだかアナに対して毎回こんなことを考えている気がする。


 クリスとこうやって街を歩くのも久々だった。大狼の赤ちゃんであるクリスは、とてとてと短い歩幅で俺の隣を一生懸命走っていた。彼女の真っ白い毛並みは、両親から受け継いだ模様をありありと浮かばせている。背中のX字は父親から、そしてお尻のダッシュ記号は母親からだが、それらは俺とアリスがクリスの両親に負わせた致命的な傷と完全に一致している。

 今にして思えば、両親が命を繋ぎ留められたのは、母親の胎内にいたこいつが傷の一部を引き受けたからではないだろうか? 突拍子もない考えだが、フェンリルの孫ならそんなことをやってのけてもそれほど驚くことではないように感じられた。まあ、だとしても本人は覚えていないので、無意識的にではあったと思うが。


 街角を右に曲がって薄暗い裏通りに入ると、そんなクリスが俺の頭に語りかけた。


――おいうぬ、気づかぬか? つけられているぞ


 それと同時にアナが立ち止まった。クリスの語りを聞いたわけではない(クリスと脳内会話できるのは俺だけだ)、彼女はたぶんずっと前から尾行者に気がついていたのだろう。


 それはいかにも強盗的な生業に精通していそうな二人組だった。背の高い男と背の低い男だったが、その風貌をちゃんと見定める前に吹っ飛んでいった。レリアがイエティを使役して速攻で片付けてしまったのだ。


「お、おい……いいのか? もしかしたら善良な帝国市民だったかもしれないぞ?」


 レリアは腕を下げ、そのままの流れで薄いピンク色のウェーブがかった後ろ髪を払った。


「そんなはずありませんわ、どうせアナ様のオウス・キーパーを狙う輩よ」とレリアは言った。「アナ様といるとよくあることですの。わたくし、もううんざりしていますわ」


「いや、でもお茶の誘いって可能性もなくはないだろ?」と俺は言った。そんなわけはないが、どうしてか口を突いて出てしまった。

「それでも結果は同じことですわ。爵位もない下民がわたくしとアナ様を誘うだなんて、それこそ死に値すると思わなくて?」


 十三歳の少女から辛辣な言葉が吐き出され、俺はしばらくその整った美しい顔立ちを俯瞰的に眺めないわけにはいかなかった。あれ、こいつこんな奴だったっけ? と俺は思ったが、しばらくしてから思い出した。そうだ、初めて会ったときも、俺のことを舐め腐った態度で『さえない男』と評すような奴だったんだ。


 アナは壁に叩きつけられた二人に近寄りながら、レリアにかすかな微笑みを送った。


「もう輩につき纏われるのはわたしの責任ばかりではないだろう。レリアだってヴァングレイト鋼の剣を腰に下げているではないか」

「あらアナ様、でもわたくしはまだ人前で抜いたことはなくってよ?」、レリアはレイピアのような細剣を収めている鞘を少しだけ持ち上げた。「持て余し気味ですもの。まったく、お父様も余計な重荷を授けてくださったものね」


 アナはまた微笑んでから男の一人に向き直り、厳しい顔つきで頬っぺをぴしゃりと平手打ちした。そして失っていた意識を戻した男にサラマンダーの特徴を教え、見ていないかと訊ねた。し、知らない、と背の低い男は言った。しかし、背の高い男は俺たちに有益な(あるいは有益かもしれない)情報を与えてくれた。褐色肌の少女の話なら、どこかで誰かから聞いた気がするぜ。たしか五日前にどっかで見たって話しだ。いや、それ以上は覚えちゃいねえ。す、すまんな……。


 すっと立ち上がり、アナは一段といかめしい目つきになって二人の男に言い放った。


「そうか、一応礼は言っておこう。しかし、もう二度とこんな真似をするな。わかったら黙って去れ」


 片手を腰にあててモデルのように姿勢良く立つアナを前に、男たちは尻尾を巻いて逃げていった。俺はちょっといいことを思いつき、端っこを狙って大蝦蟇を使役した。


ゲコゲコッ!


 顕現した大蝦蟇が鬼姫・陰を空に向けて吐き出す。俺は回転して落ちてくる短刀を掴み取り、抜き身のまま腰ベルトのあいだに挟んだ。


「そうだった、ウキキ殿もヴァングレイト鋼の武器の持ち主だったな」とアナは言った。「しかし、何故わざわざ携行する気になったのだ?」


「こんな調子で輩をおびき寄せて、効率的に情報収集しよう。あいつらあんなことをやるだけあって結構な情報通っぽいからな。アナの一本だけなら固唾を呑んで我慢するとしても、三本ならもっと飛び込んでくるだろ?」


 おもしろいですわね、と言ってレリアも細剣を抜刀した。そして小さな妖精が人間界で手に入れたまち針を腰に差すように、鞘の反対側に携えた。ヴァングレイト鋼を鍛えて造られた刀身の外見的特徴は、その滑らかな輝きにある。見る者が見れば、すぐにお宝だとわかるだろう。輩ホイホイには打ってつけのアイテムというわけだ。


 それから俺たちは市街を歩きまわり、クリスが疲れて俺に抱っこを強要するころには結構な数の獲物がおびき寄せられた。強盗目的の輩が三組、そして真っ当な金銭での取引を要求する身なりの良い紳士淑女が八名といった具合だった。


 時刻は十二時ちょっと。クリスでなくともさすがに歩き疲れてきたので、俺たちは軽食が取れる喫茶店に入って集めた情報を整理することにした。

 しかし、店内は混みあっていた。見たところ空いてるテーブルはなさそうだった。別の店を探そうと立ち去る寸前に、後ろから声をかけられた。


「あれ? あれあれ、あ~れ~? ウキキ君じゃないですか?」


 俺は後ろを振り返った。男も椅子の背もたれに腕をかけて振り向いていた。白いアフロがたぷたぷと揺れ動いている。それは、このオパルツァー帝国の第六継承者だった。





 彼は広々とした中央のテーブルに一人だった。俺たちの状況を見知ると合席を勧め、ウェイトレスを呼んで勝手に注文を終えた。


 第六継承者はアナとレリアのことを個人的に知っていた。彼はファングネイ王国で盛大に挙げられたレリアの姉の結婚式に招待されていたのだ。


「せっかく主賓として招いて頂いたのに、その節は参列できなくてスイマセンでした」と彼はすまなく思っていなそうな口調でレリアに言った。「いやね、歯痛がとんでもなく酷かったもので、ホテルで横になっていたんですよ」


 それが嘘であることを俺は知っていた。その頃、この男は一人で遺跡をまわっており、そして時の迷宮の牢屋に閉じ込められている俺とアリスから月の欠片をまんまと騙し盗ったのだ。

 しかし、レリアはそれが真実でも嘘でもどっちでも構わないようだった。愛想のいい外向けの微笑みが彼女の顔を一瞬覆い、それからツンとした態度で俺の冒険手帳を開いた。俺が今日メモを取ったページを黙って眺めた。


「おや? それはなんですか?」

「手帳ですわ、見ておわかりになりませんの?」とレリアは顔を上げずに言った。「オパルツァー帝国では手帳が珍しいのかしら?」


 レリアの態度に面食らったのはアナだった。楽しげに笑う第六継承者に、彼女は釈明するように説明を添えた。


「我々はサラマンダー……つまり火の精霊の目撃情報を集めているんです。いえ、こんなことを申し上げても、なんのことやらわかりませんね」

「いえいえ、よ~くわかりますよ」と第六継承者は言った。「ウキキ君にウィンディーネのいるルザース行きの馬車を提供したのはワタシなんです。ふむ、しかし今度はサラマンダーですか。それをこの帝国で?『火蜥蜴、バササラ火山奥深くで、世界中の火が絶えぬよう、ひとり火を吹くなり』。たしか古文書か何かにこうありましたが?」


 彼は立ち上がってテーブルに手をつき、まるでババ抜きをするみたいに向かいのレリアの手から冒険手帳を抜き取った。


「ふむふむ、褐色肌の少女――ですか。『五日前に帝国のどこかで目撃され、三日前に安宿の女将が寝る場所と温かいスープを与えた』『警戒して覗き込むような目は赤く、両方のこめかみから角が生えているらしい』。おや、※印で右端にも書かれていますね、よほど大事なことなんでしょうか?『だけどまた少女が増えるのか……。やれやれ、十五少女漂流記が実現するのもそう遠くないかもしれないぜ』。なんです? 十五少女漂流記って?」

「そ、そこは読まないでいい。……ってか返せ」


 俺は手を伸ばして第六継承者から冒険手帳を奪った。本当にババ抜きをやっているみたいだった。


 それからロールケーキとコーヒーが運ばれ、俺たちはそれを食べながらまた話をした。というか、ほとんど第六継承者が一方的に喋り続けていた。しかしそのおかげで、先日どうしてルザースに馬車が迎えにきたのか判明することになった。


「あんたが寄越してくれたのか」

「ええ、そろそろお帰りになるころだと思ったんです。どうです? タイミングバッチリだったでしょう?」


 話を結んでいる途中で、彼の興味は既にアナの腰に携えられているものに移っているようだった。視線がしばらくオウス・キーパーに注がれると、アナはベルトから外して鞘ごと第六継承者に渡した。


「どうぞ、よろしければご覧になってください」


 彼は骨董品を扱うように丁寧に鞘から刃を覗かせ、剣身が鞘の内側を走る音を楽しむようにゆっくりと抜いた。そして右の手で軽く持ち、左の指で剣の腹に触れ、先端までなぞるように人差し指を這わせた。


「素晴らしい。魂が内側に引き込まれていくのを感じます。息をするのも忘れてしまいそうです」


 真剣な眼差しで、第六継承者はそれからしばらくオウス・キーパーの鑑賞を続けた。やがて鞘に収められ、アナの手に返された。


「ヴァングレイト鋼の剣について、アナさんはどれくらいご存じです?」

「あまり多くは知りません。ヴァングレイト鋼鉄は北の大地で採掘される。そして東の国で鍛造され、剣として生み出される。しかしその時点ではあまりにも重く、とてもじゃないが刀剣として機能し得ません。南の国でおまじないをかけられ、やっと羽のような軽さと決して折れない強度を持つヴァングレイト鋼の剣が誕生します。領主様から――いえ、ダスディー・トールマンから賜る際にそう聞きました」


 はい、と口にして、第六継承者はアナの返答をしばらく手つかずの状態で遊ばせた。それからたなびく雲の端を掴むように、「ですが」と継いだ。


「――ですが、付け加えるべき点が一つあります。それは、鍛え直すことはできても、もう新たなヴァングレイト鋼の剣が生み出されることはないという一事です。そのことは?」


 アナは首を振った。


「事実上、もう不可能なんです」と第六継承者は言った。「アナさんの仰った工程には三つのポイントがありましたね?『採掘』『鍛造』『おまじない』のことです。しかし、もう鍛造技術は失われており、おまじないを施せる祈祷師の血脈も途絶えています。それにそもそも、もう北の大地でヴァングレイト鋼鉄が採掘できるのはごく少量です。とてもじゃありませんが、剣を形作るのには満たない。せいぜい針がいいところでしょうね、ヴァングレイト鋼の針」


 彼は俺たちの想像を掻き立てようとするように、両手を使って縫物をする仕草を見せた。しかし、唐突にそれは終わった。


「要するに、ヴァングレイト鋼の剣はオーパーツと呼ぶべき存在なんです。古代バビチネス王朝と同じ時代に造り出され、現代では数振りを残すのみです。神が気まぐれで遺された遺物、と言い換えてもいいかもしれません。そして――」、彼は俺たちの顔を順番に均等に見た。それからまた続けた。


「そんなものが、どういうわけか今ここに三振りも集まっている。おやウキキ君、もう自分のとレリアさんのは衆目に晒していないのに、なんで知ってるんだ? という顔をしていますね? そりゃ半日もそんなものをぶら下げて歩けば噂になりますよ。そして、帝国領で囁かれる噂はワタシの耳に入るようにできているんです。あまたの目が、そして耳が、見たもの聞いたことをワタシに密やかな事の葉として伝えるんです」


 椅子から立ち上がり、彼は高い位置から俺のことを見下ろした。


「風の精霊シルフ族、ウィンディーネ、サラマンダー、精霊士と大精霊士、そしてヴァングレイト鋼の剣を持つ者が三名……。いったい、今この世界でどんなことが持ち上がろうとしているんです? あなた方は何にそんなに躍起になっているんですか?」


 あるいは本能がそうさせているのかもしれない。俺はどうしてもこいつにガーゴイルの件を話す気にはなれなかった。開きかけた口はひとかたまりの息を吐き、俺の意志とは関係なくまた閉じられた。


「そうですか、ワタシは仲間はずれってことですか」と彼は目を逸らさずに言った。


 その目は、この男がたしかにオパルツァー帝国の嫡男だということを俺に明示していた。温かさを宿す隙間がどこにもない。そこにはただ冷たい光が広がっており、眼力だけで人を屈服させる力を宿している。

 やがて第六継承者は背を向け、俺たちのテーブルから離れていった。店のドアを開けて外に出る瞬間に立ち止まり、振り返った。


「ああそうそう、今思い出しました」と彼は言った。「褐色肌の少女なら、ワタシもこの店に来る途中で見ましたよ。数人の男に馬車に無理やり押し込められていました。あれはきっと、南の国ガイサ・ラマンダの奴隷商の男たちですね。この国に馴染む服装をしていましたが、卑屈な目つきは隠せません。ああ、この情報のお礼はワタシのお勘定ってことでいいですよ。では、またどこかで不意にお会いしましょう」


 あんたは連れ去られる少女を助けようとはしなかったのか? 


 吐き出されるべき言葉はいつまでも喉の奥に苔のようになって貼りつき、ドアの閉まる音と同時にその機会は永遠に失われた。





 奴隷商がサラマンダーを連れ去った馬車はすぐに見つかった。帝国とルザースを結ぶ王の道から少し外れた鉱山地帯の崖の横で、前代未聞の嵐に集中的に吹かれたようにばらばらになっていた。


 アナは眠っているクリスを抱えたままそのすぐそばで馬から降り、瓦礫を前にして目を細めた。


「死ビトの群れにやられたのだな」、アナは車輪と外板の山に挟まれているベルトのような馬の拘束具をオウス・キーパーの先端で斬り裂き、手持ち無沙汰ぎみに前足で地面を蹴っている栗毛の馬を解放した。「乗っていた者はみな命からがら脱出したようだ。しかし、普通の馬車で円卓の夜のなかを移動とは、南の国の連中はよっぽどの自信家か、それでなければただの馬鹿だな」


 馬に跨ったまま後方の死ビトの群れに目をやり、レリアは口を開いた。


「それじゃあアナ様、そんな連中を馬に乗って捜索しているわたくしたちは、そのどちらになるのかしら?」


 アナは死ビトの一体が射た矢をオウス・キーパーで弾き、口許に笑みをたたえた。


「これでサラマンダーを見つけられなかったら大馬鹿者、無事保護できればツイている大馬鹿者……といったところだろう」

「どちらにしても大馬鹿者ですのね」とレリアは言った。「それならウキキ様、せめてこんなところで命を落とす大馬鹿者にはならないよう、わたくしの馬から降りてあの群れを蹴散らしていただけるかしら?」


 俺は最高に渋い顔で頷いた。そう、二十一歳の俺は十三歳の少女の駆る馬にシェアさせていただいてるのだ。


 しがみついていたレリアの腰から手を離して馬から降り、俺はランナーの群れを引き連れるように先頭を駆けている死ビトに向けて腕を構えた。それから後方集団が視野に納まるのを我慢強く待ち、そのすべてにアバウトな狙いをつけて朱雀を使役した。


「出でよ朱雀!」


 上空に顕現する朱雀の羽根が、山風に吹かれる紅葉のように翼から撃ち出された。そして一枚いちまいが様々な軌道を描き、すり抜けるようにして死ビトの首を刺し貫く。


 ボトボトッという音がいくつも聞かれる。明喩でも暗喩でもなく、どこまでも現実的な物理音だった。首を失くした胴体はそこで崩れ落ち、そしていくつかの頭部は地面を転がって崖から落ちていった。


「四聖獣――朱雀。わたくし、ウキキ様が使役なさるところを初めて見ましたわ」とレリアは言った。「お見事と言いたいところだけれど、同じ幻獣使いとしては少し悔しいですわね。ウキキ様はわたくしと戦ったあの日から、どれだけ強くなっているのかしら」


 そんなにいいもんじゃねえよ、と俺は言った。「体力の減りが激しくて乱発できないしな……。それより、歩行の群れがもう追いついてくるぞ。早くここから移動しよう」


 俺はまたレリアの馬に同乗させていただき、彼女のくびれに両腕をまわした。へそのあたりを撫でる恰好になってしまうが、それも致し方ない。好きでしがみついているわけじゃないことをアピールするために再び柴田恭兵的な渋顔を作りだし、「さあ早く」と促した。


 馬車から切り離された栗毛の馬は、アナに尻を叩かれ去っていった。俺はかねてから疑問に思っていたことを、ジト目で俺の顔を見ているレリアに尋ねた。


「そういえば、馬とか動物って死ビトに喰われないのか?」

「今更ですわね……。死ビトは人のマナしか求めていませんわ。だからあの馬はウキキ様を乗せて、どこまでも駆けていけるほど健康でしてよ。今ならまだ全力疾走すれば追いつけるんじゃないかしら?」


 暗に降りろと言っているみたいだが無視をした。レリアは十秒ほど俺の反応を窺っていたが、やがて諦めて前を向き、アナの馬と並走しはじめた。

 しかし、馬はスピードにのる前に突然進路を変えた。だんだんと崖のほうに近づいていった。レリアは慌てて手綱を取るが、馬にはその意思が伝わらない。コントロールを完全に失っているようだった。


「お、おい……大丈夫か?」

「大丈夫じゃありませんわ! この子、さっき見た死ビトの群れに怯えて暴走しているのよ!」


 レリアは必死に手綱を引いていたが、馬はどんどんスピードを上げていった。そして切り立った崖の手前までくると急にぴたっと停止し、そこで鬱陶しい俺たちを振り落とそうとロデオのように暴れまわった。


「っ……!」


 少女の軽い身体はそれに耐え切れなかった。宙に放り出されてしまった。着地するところなんてどこにもなない。少なくとも、数十メートル下方の崖下以外には。


「レリア!」


 俺は考えるよりも先に飛び出していた。落下する彼女を追い、俺は崖から飛び降りた。


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