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33 近いドアの向こうに

「ふんふんふ~ん。早速遊びに来たのであります! プリン全種食べるであります!」


 俺とアリスは最初にチルフィーを発見した時と同じように、エントランスホールの階段で隠れながら閉まっている北メインゲートにやって来たチルフィーを監視していた。


「見られているとも知らずに鼻歌交じりね……と言うか、なんで隠れる必要があるのよ」

「俺達がチルフィーを歓迎したら、侵入を防ぐスキルの確認が出来ないだろ」


 ノリ半分で待ってたら本当にノコノコと来たな……。


 と、期待通りにやって来てくれたチルフィーを嬉しく思っていると、更に期待以上の行動にでた。


「あれれ? ドアが閉まっているのでありますか……でも無駄なのであります! シルフは透明な物は厚くなければ通過出来るのであります!」


 そのままチルフィーはガラスのドアに突進した。


 しかし風の侵入さえ許さないそのドアは、突進したチルフィーをものともせずに振動音すら響かせなかった。


「あれれれれ? こんな近いドアの向こうに行けないなんて、おかしいであります! こんちくしょうであります!」


 緑色のポニーテールをぶん回しながら、チルフィーはゲートの前で飛び回っていた。


「なんか可哀想よ、もういいでしょ?」

「ああ、入れてやろう」


 俺とアリスはゲートに駆け寄り両開きのドアを開け、飛び回っているチルフィーを歓迎しながら迎い入れた。


「試すような事をして悪かったな、さあ入れ」

「お勧めのプリンをピックアップしておいたわよ! 一緒に食べましょう!」


 そう言うと、チルフィーは俺達に気が付きアリスの頭に着地した。


「お勧めのプリンでありますか! 食すであります!」


 そのままアリスとチルフィーはジャオンへと歩いて行った。


 その後姿を一目見た後に、俺は開きっぱなしになっているドアから狼の住処の方向を眺めた。


 結局、狼達は噴水の水を飲みに来なかったみたいだな……。

 ドアは閉めさせてもらうけど、まあ歓迎するからいつでも来てくれ。

 遠吠えすれば気が付くから……。


 届くはずのない想いを狼達へ向けて発信し、ドアを閉めてから鍵を掛けた。


(プリンプリンプリンつむじプリンプリン臭いプリンプリン)


「うわあああ!」


 突然、耳元でアリスの囁くような声が聞こえ、俺は声を上げて驚いた。


「今の……もしかして風の便りか? ……あいつなんで好きな物を囁いたんだ」


 1分後に届くか1年後に届くか分からない風の便り。それが今回は数時間で届いたようだ。


「こうやって届くのか……面白いな!」


 俺は振り返り、2人を追いかけるように足を速めてジャオンへと向かった。





「美味しいであります! 羽が落ちる程に美味であります!」

「こっちも美味しいわよ! 脱腸しそうになるくらい!」

「シルフは頬じゃなくて羽が落ちるのか……アリスは脱腸するなら食うのやめろ」


 俺は和室で、リュックから次々と出てくるプリンを食べまくっている2人を眺めていた。

 チルフィーが速攻でショッピングモールを訪れたように、アリスも今夜のうちに再びシルフ族の隠れ家にお裾分けに行くつもりだったらしく、いつの間にか赤いリュックに大量のプリンを詰めていたようだ。


「あなたは食べないの?」

「いや、俺はそんなにプリン好きじゃないからいいわ。ってかアイスが食いたいな、流石に溶けてるからな……」

「チルフィー次はこれよ! 余りは私が食べるから、全種類制覇出来るように少しずつ食べるのよ!」

「おい……俺のアイストーク無視か」


 まあいいか。


 と、俺は2人を放っておき、元々持っていたメモ帳を1ページずつ切り取って冒険手帳に糊で貼るという地味な作業を続けた。


「あっ……くそ、濡れて脆くなってた部分が破れた……」

「あなた、なにをしているの?」


 破れた部分を補修していると、再び俺に興味を持ったらしいアリスが声を掛けてきた。

 

「手帳とメモ帳の合体だ。……俺の手帳の美学を聞きたいか? ならば教えよう。この先、手帳の全ページが埋まろうとも、俺は次の手帳に浮気したりはしない。俺達の冒険手帳はこの1冊のみだ。ん? それではもう記入出来ないだと? 確かに記入出来ないと困るよな。しかし安心しろ、そうなる前に新しい紙を糊で貼ったりして、継ぎ足し継ぎ足しでページを増やしていく。そして段々と厚みが増すのを快感に思う時が、きっとお前にも来るハズだ。分かったか? これが俺の手帳に対する美学だ」

「頑張ってチルフィー! もう少しで全種類制覇よ! 少し飛び回ってお腹を空かせなさい!」

「無理であります! もうお腹いっぱいであります! 残りは隠れ家へのお土産にするであります!」

「おい……俺の美学も無視か」


 くそっ……ガキには手帳の良さが分からないか。まあいい、完成だ。


 俺は子供と虫を放っておき、合体を終えた手帳を1ページ目から順に捲った。

 そして、3つの月の軌道イメージを描いたページで指が止まった。


「今は一番小さい月が四の月……これが三の月とほぼ同じ大きさに見えてくるのが2か月後……そしてそれが、約半年続く死ビトの活性期である円卓の夜の始まりか……円卓ってこの惑星の事なのかな……」


 再びページを捲っていき、今度は村に行く際に俺とアリスの持ち物を記入したページで指を止めた。


「あ、そう言えばアリスのパジャマ、俺のリュックに入れたままだったな……」


 ボディバッグをゲットしてから必要な物以外入れっぱなしのリュックを引き寄せ、中に入っているアリスのパジャマを取り出した。

 それはアリスの赤いリュックに入らないからと、俺のリュックに無理やり入れられた物だった。


「おいアリス、今夜パジャマ着るだろ? 置いとくぞ」

「ええ、ありがとう。ちゃんと綺麗にたたんでおいてちょうだい」

「はいはい……」


 言われた通り薄いピンク色のパジャマを綺麗にたたんでいると、ふとアリスの匂いが漂った。

 匂いと言うより香りと言った方が正しいような、そんな元気な子供らしいアリスの香りを感じた瞬間、散らばっていたパズルのピースが一ヶ所に纏まった。


「消えた俺のシャツ……その行方と犯人が分かったぞ……」


 俺はその場で立ち上がり、神を睨むように天井を見上げた。そして言ってみたい台詞ベスト5にランクインされているものを呟いた。


「犯人は、このショップイングモールの中にいる!」


 少し噛んだ。


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