32 素晴らしきかな、ショッピングモールレベル2!
シルフの隠れ家から戻った俺達は、例によって片栗粉防衛の確認と後始末をしてからバックヤードの和室に向かった。
2回目の片栗粉防衛の結果も陰性であり、侵入者はいないように思えた。
しかしチルフィーの前例があるので必ずしもとは言えないのが困りどころだった。
「すぐに夕食にする? それともゲームコーナーから?」
アリスは畳に座って右手で箸を持つようにし、左手に2つの鉱石の欠片を乗せていた。
「じゃあ……まずは飯だな。アリスも腹減っただろ」
「そうね、じゃあ月の欠片はしまっておくわね」
ああ、そうだった。
月の欠片っていうんだったな。
アリスがしまおうとしている月の欠片を目で追いかけた。それは食人花からドロップした物で、族長に見せたら正式名称とその意味を教えてくれた。
月の欠片は文字通り月の欠片で、正確には光に当ててキラキラと輝く部分を指すらしい。
それをなぜ食人花や死ビトがドロップするのかは分からないが、それなりに価値のある物だと言っていた。
モンスターを倒して月の欠片を得て、それを換金して生計を立てている者までいるらしい。
それを2つもドロップした黒い薔薇の化け物である食人花は、レアモンスターだったのかもしれない。
事実、あれを初めて目撃したのは10日程前で、突然湧くように現れたと言っていた。
「今回の月の欠片でショッピングモールレベル上がりそうだな」
「経験値あと1マスだったから、1個で上がるかしら? もう1個はどうする?」
「いや……確認するブタブタパニック用のメダルが必要だから余裕はないな」
もし、俺達をショッピングモールごと転移させたのが神であったとすれば、なんとセコイ神だろうか?
操作端末であるブタブタパニックぐらいはメダルなしで扱わせて欲しいものだ。
「まあ、とりあえず食料持って2Fに行くか」
「ええ、じゃあタイツを穿くから外で待っていてちょうだい」
はいはい。好きだな黒タイツ……。
まあ俺もどちらかと言えば好きだけど……。
そう思いながら、引き戸を開けて和室を出た。
*
夕食を終えた俺達は、軽く後片付けをしてからゲームコーナーに向かった。
3日目の夕食は生鮮食品をほぼ処分した後とは言え、まだまだ豪華だと言えた。
これがそのうちカップラーメン1個の生活になるかもしれないと思うと侘しい気分になったが、カップラーメンをすするアリスの姿を見てみたくもあった。
まあ、そうなる頃にはこの異世界で食料の確保ぐらいは出来るようになっているかもしれない。
「さてと、じゃあ早速レベルを上げるか!」
「いよいよショッピングモールレベル2ね! ……と言うか、ショッピングモールレベルってなによ!」
「それは言わない約束だアリス。俺もそれを言う度に疑問を感じている」
俺は経験値のマスが黒く染まる瞬間をアリスに見せてやりたく思い、今回はアリスにおもちゃのハンマーを握らせて俺が両替機前担当となった。
「メダルを入れて経験値の表示に移動したか?」
「したわよ! 月の欠片を入れちゃってちょうだい!」
少しだけ緊張しながら、俺は小さい方の両替機に月の欠片を投入した。
「あっ! 経験値のマスが全て埋まったわ!」
「おおやったな! じゃあレベルの表示まで操作して移動だ」
アリスが一生懸命叩いているブタブタパニックの元まで小走りしながら言った。
「見て! レベル2になっているわ!」
◆ショッピングモールレベル 2◆
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「感動的だな……ついにショッピングモールレベル2だ!」
そのままアリスにショッピングモールスキルまで移動するように言い、シールドを叩かせた。
◆シールドレベル 1 ポイント 2◆
□
「おおポイント2になってるな!」
「2ポイントあればショッピングモールのシールドスキル1を取得出来るわね! ……と言うか、ショッピングモールのシールドスキルってなによ!」
「そこは俺も遠慮せずに疑問を投げる。……まあ2にしてみよう。決定ブタ叩いてみろ」
「決定ブタってどこ?」
「左から2匹目のブタだ」
俺が言い切るのを待たずにアリスは決定ブタを叩いた。すると、古臭い画面のドットが一度全て表示されてから初めて見るドット表示に変わった。
シールドスキル1シュトク
スキル シンニュウシャヲフセグ
「侵入者を防ぐ? ……マジかこれ、防いでくれるのか?」
「ショッピングモールに入れなくするって事かしら?」
「そのままの意味なら多分そうだな……可能なのかそんな事が」
という疑問を口にした後に、可能か不可能かで言えば可能だろうなとは考えた。
魔法や幻獣、それに技を閃かせるようなガチャガチャが置いてあるこのゲームコーナーなら不思議ではないだろう。問題はその方法だった。
「ちょっとゲート行って調べてくるか」
「まだ1ポイント残っているわよ?」
「ああそうか……次のシールドスキルは5ポイント必要なのか……」
俺は新たに表示されたドットを見ながら言った。
◆シールドレベル 2 ポイント 1◆
□□□□□
「じゃあソードかマジックのレベルを上げてスキル取得する?」
「そうだな、そうしてみよう。まずはレベル1スキルを取得して、その傾向を見とかないとな」
ソードかマジックか、そのどちらかで俺は悩んだ。シールドは即決だったが、決め兼ねたのでアリスとせーので言ってみる事にした。
「せーの……」
「ソードだ!」
「マジックね!」
……。
「マジックにしよう。そう言われてみればマジックの方が有用な気がする」
「英断ね」
そのままアリスは慣れた手付きでレベル1マジックスキルを取得した。操作方法をもう覚えたようだ。
マジックスキル1シュトク
スキル ゲンゴシキジソウゴリカイ
「おお、言語識字相互理解!」
「この異世界の言葉が分かるようになったって事!?」
「俺達が分かるだけじゃなくて、相手にも伝わるって事っぽいな」
「明日ソフィエの村に行ってみましょうよ! 会話すればハッキリするわ!」
「おお……ついにソフィエさんと会話出来るのか」
早朝に見事な頭突きを食らった事を思い出した。
あれがもし、死ねよ変態と言っていたとすれば、俺は間違いなくショッピングモールに引きこもる事になるだろう。
「よし、とりあえずゲート行って侵入者を防ぐスキルを確認してこよう」
「そうね!」
*
「アイス・アロー!」
ズシャーー!
「おお、ビクともしないな……」
俺達はシールドスキルを試す為に、思い切ってゲートのガラスのドアに全力で攻撃してみた。
「壊れないなら壊れないでムカつくわね……」
「まあ分からんでもない。俺が試すからどいてろ68ダメージ譲」
「なによそれ! パンチングマシーンの数値!? アイス・キューブが垂直に落ちるだけじゃなければ試すのに!」
無駄な足掻きをしようとしているアリスをもう少し離れさせ、俺は鎌鼬を使役した。
「出でよ鎌鼬!」
ザシュザシュッ!
「ほら見なさい! あなただってビクともしないじゃない! あなたに使役されるイタチちゃんが可哀想だわ!」
「……木霊で上空から攻撃する、降り鎌鼬なら壊せる気がする」
「別に威力は変わらないでしょ! なに立派な技名みたいに言っているのよ!」
と、俺達は目的を半分忘れて破壊衝動を芽生えさせていた。
その後に壁に向かって同じ事をしてみたが、明らかに通常の壁ではなく傷一つ付かなかった。
「まあ、これでガラスのドアや壁をぶち破っての侵入は防いでくれる事が分かったな」
「含みのある言い方ね。他にどんな方法があるっていうの?」
「それは……そろそろ来る頃だ」
俺は更に含みをもたせて言った。




