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29 3人のフィストバンプ

 食人花の最後のあがき。

 俺はその全身全霊をかけたであろう迫り来る根のヤリに対し、初使役の玄武で迎え撃った。


「出でよ玄武!」


カメェェェェェッ!


 その瞬間、手のひらの前に現れた玄武の前方にバリアが展開された。

 いくつもの緑色に光る六角形は甲羅のように形取り、迫る根のヤリをいとも簡単に弾いた。


「やっぱり防御的な幻獣か……。とは言えぶっつけ本番すぎたな……ってうわああ!」


 よく見るとマンホール程の黒い甲羅の玄武にしっかり黒いヘビが巻き付いており、口を限界まで開いて俺を威嚇した。と同時に玄武ごと消えた。


「黒ヘビまで毎回出て来られたらたまらんな……」


 根のヤリを最後に、生命活動を停止したように見える食人花へと目を向けながら俺は言った。

 一度勝利の手応えを感じた後の不意打ちだったので、慎重にゆっくりと確認する為にその元へ向かった。


 だが、ゆっくりと歩くのは慎重な為だけではなかった。


 ……少し足がフラつく。

 命を消費する幻獣か……玄武みたいな強力なバリアを展開するものは消費が多いのかな。

 これじゃ何度も使役出来ないな……そこは俺の鍛錬次第か?


 俺は玄武が入っていた赤いカプセルを思い浮かべた。

 鎌鼬や木霊が白だったのに対し玄武は赤だったので、レア物という事なのかもしれない。それならば消費が多くても納得がいく。


「カメちゃん凄かったわね! 黒ヘビちゃんも可愛い!」

「食人花完全に動かないであります! 今度こそ勝利であります!」


 アリスとチルフィーが同時に言った。


「ああ……バリアーは役に立ちそうだな」


 俺はチルフィーに向けて拳を突き上げ勝利を喜ぶと同時に、アリスには玄武の感想を返した。

 するとアリスは俺の拳に自分の小さな拳をコツンと当てた。


「フィストバンプよ! チルフィーもほら!」

「こうでありますか!」


 チルフィーも更に小さい拳を俺達の拳に勢いよく当てた。


「おつかれ!」

「おつかれさま!」

「おつかれさまであります!」





 岩山に囲まれた草原の風はとても気持ちが良かった。

 その風に吹かれてアリスの細くて長い黒髪が舞うと、アリスはそれを楽しんでいるかのように頭を押さえた。

 

「ほら、巻けたぞ」


 伸ばされたアリスの右足首に包帯を巻き終えると、風との遊びがひと段落ついた様子のアリスが足元に視線を移した。


「あら上手ね、ありがとう」


 低い岩に座って逆の足をブラブラとさせながらアリスは続けた。


「じゃあ靴を履かせてちょうだい」

「……」


 俺はその場で立ち上がり、アリスの首に軽くモンゴリアンチョップを入れた。


「ぐえっ……なによ! 履かせてくれても良いじゃない!」

「自分で履け。じゃないと俺の靴を履かせるぞ」


 俺は靴を脱ぎ、警戒しているアリスの顔に近づけた。


「ぎゃああああ! や、止めてちょうだい! そんな汚物を近づけないで!」

「汚物って……酷いなお前」


 靴の臭いを嗅いでみた。ふむ、まろやかでいてコクのある良い香りである。


「あなた、つむじと体臭は素敵なのに靴は最悪ね……」

「た、体臭?」

「いえ、なんでもないわ。それよりチルフィーはまだかしら」


 チルフィーは俺がアリスのグネった足を観ている間、天日干しされているシルフ族を探すと言って飛んで行ったままだった。


「この岩山のどこかかな。これ、人が登って探すとなると時間が掛かりそうだな……」


 俺は岩山を見回しながら言った。


 チルフィーは討伐に向かう最中、この岩山を越えた先に大きな湖があると言っていた。まさかそこまで探しに行ったのだろうか。


 俺がその湖をなんとなく想像していると、靴を履き終えたアリスが首を傾げた。


「そう言えば、シルフ族は天日干ししてから食べようとするのに、なんで同じようにマナが豊富なハズの私をそのまま食べようとしたのかしら? それにいくらなんでも私ぐらいの大きさだと、一口で飲み込める訳がないわよね」


 アリスがどうでも良い疑問を口にした。


「黒い薔薇……花言葉は愚か者だ。まあそういう事だろ」


 俺は適当な花言葉を作り、頭にハテナマークを浮かばせているアリスに言った。


「そういう事ね!」


 バカで助かった。


 そうこうしていると、チルフィーが岩山を飛び越えて戻って来た。


「発見したであります! こっちの岩山のすぐそこであります!」

「おかえりチルフィー! 飛び回って疲れたでしょ? ジュース飲む?」

「頂きますであります!」


 チルフィーが即答すると、アリスはリュックからペットボトルのオレンジジュースを取り出し、溢れないようにキャップに注いだ。


 それを受け取り一気に飲み干したチルフィーは、その場で大きく宙返りをしてから俺達への案内を始めた。


 「さあさあ! こっちであります!」


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