27 プリティーサウスポー大魔道士
「よいか小僧、魔法とはマナを使用する行為全般を指す言葉ですのじゃ。主なものでは精霊術や幻術、呪術や風水術などですのじゃ」
ほうほう……結構聞いた事のあるような言葉が並んだな……。
「じゃあ、アリスのはどれに属するんだろう?」
「ほうほうほう。お嬢様の魔法は是非見せて頂きたいものですのじゃ」
俺と族長、それにアリスの頭から俺の頭に飛び移ったチルフィーが一斉にアリスに目を向けた。
「いいわ、このプリティーサウスポー大魔道士の魔法をしっかりと見ていなさい!」
と言いながら、アリスは水路に向かって右手を構えた。
「……お前自分でサウスポー名乗ったんだから左手で撃つの忘れるなよ」
「ああそうね!」
アリスは仕切り直し、水路に向かって左手を構えた。
「アイス・アロー!」
ズシャーー!
アリスの撃った氷の矢は、水路の天井から伸びるツララのような細い岩を貫いた。
「おお、狙ったのか? 偶然か? ああ、偶然だな」
「失礼ね! 狙いバッチリよ! 生まれ変わった新生サウスポープリティーサウスポー大魔道士アリスを舐めないでちょうだい!」
「サウスポー2回出て来たぞ」
「生まれるという意味も2回使ったであります!」
振り返って族長を見てみると、驚いたように目を見開いていた。
「これは驚きましたのじゃ……今のは比較的簡単に扱える精霊術ですのじゃが、細いとはいえ岩を貫くような威力はそうそう出ないはずですのじゃ……」
「おお! アリスは精霊術師か!」
「いや……一言で精霊術師と片付けるのはあまりに勿体ない逸材ですのじゃ……。精霊術とは四大元素を具現化するもの、それを四大精霊に例えてそう呼んでいるだけですのじゃ。お嬢様のこれから次第では、直接四大精霊の力を扱う大精霊士……更には精霊王になる事も可能ですのじゃ」
俺はベタ褒めされているアリスを再び見た。
鼻をヒクヒクとしながら輝く瞳は二億四千万にも届きそうな瞳だ。
「聞いた!? 世界一可愛い上に世界一の精霊王ですって!」
「そこまでは言ってないだろ……」
木の椅子の上に立って俺の後頭部を両手でチョップし始めたアリスに言った。
左手で三三七拍子をしながら、右手で3本締めをしている。
こういう無駄に器用なところも魔法の扱いに長ける理由なのだろうか?
「なあなあなあ! 俺のマナはどんなもんなんだ?」
良くてアリス以上、悪くて平均値以上。そういう返答を期待していた。
「お嬢様のマナを100としたら、小僧のマナは0.001ですのじゃ」
族長はシラーっとした顔で言った。
「小数点エグいな! だったら0の方がスッキリするわ!」
「生物でマナ0は存在しないですのじゃ。花も鳥もカエルも、全てがマナの恩恵にあずかっているのですじゃ」
両手で大きい円を作りながら族長は続けた。円はこの惑星を表しているのだろうか?
「それに……小僧は体内に獣を住まわせておるのですじゃ。それは幻獣ですのじゃ」
「体内に獣……幻獣……なんとなく幻獣って単語は使ってたけど、イメージ通りだったのか」
鎌鼬、木霊、玄武……ミニチュアが消える時に必ず体温が少し上がった気がしてたけど、やっぱ気のせいじゃなかったのか……。
俺は3体の幻獣を思い浮かべ、更に質問をした。
「そもそも幻獣ってなんだ? 魔法とは違うのか?」
「ほうほうほう。やはり小僧は知らずに幻獣と契約したのですじゃな……幻獣のような命を消費するものはマナを消費する魔法と相対するものですのじゃ。幻獣と契約するという事はマナを捨てるという事ですのじゃ」
「えっ! 命を消費するって……寿命が縮むって事か!?」
「そうではないですのじゃ。小僧に分かりやすい言葉で言うと……HPを消費するものですのじゃ」
HP……えらい元の世界的な言葉が出て来たけど、チャネリング的な魔法が掛かってる族長の言葉を俺がそう理解してるだけか?
HPを消費するってのは、最初に鎌鼬を使役した時に感じてたけど……。
それにマナを捨てるって……。
「マナを捨てるって事は、俺はもう魔法覚えられないのか?」
「覚えられたとしてもマナが極端に少ないので使用できないですのじゃ。幻獣使いの他にも魔剣使い、剛体術使いなども魔法と相対するものですのじゃ。要するに、命を消費するものか、マナを消費するものか、どちらか一方しか会得出来ないですのじゃ。もっとも、どれも才覚がなければ会得出来ないですのじゃが」
一呼吸してから、更に族長は続けた。
「まあ……例外はどの世界にも存在するですのじゃ。最強の幻獣使いの騎士と呼ばれる金獅子のカイルは最強の幻獣使いでありながら、魔法の扱いにも長けているのですじゃ。その名の噂はこんな隠れ家の族長にも届いているのですじゃ」
金獅子のカイル……最強の幻獣使いの騎士であり、魔法も凄い奴……か。
なんだそれ前提が覆ってるじゃねーか、ずるいな……。
「ふう……喋り過ぎたのですじゃ。お嬢様とチルフィーは飽きて子供達のテントを見ているのですじゃ」
あれ、いつの間に?
族長の言葉通り、アリスはシルフ族の子供達のテントを寝転びながら覗いていた。
「アリス……お前俺の話に興味ゼロか」
「終わったの? じゃあ、あなたも見てご覧なさい? 凄い可愛い子達よ!」
アリスが捲っているテントの入り口から覗くと、木で造られたベッドにアリスのタイツと赤いTシャツが上手く敷き詰められていて、その上で4人の子供シルフがスヤスヤと眠っていた。
チルフィーや族長と比べてまだ羽は小さかったが、時折ピクピクと小さく羽ばたかせていた。夢の中で花畑の上を飛んでいるのかもしれない。
「無邪気そうに寝てるな……」
俺は感想はそこそこにして、族長に聞いた。
「子供達以外のシルフはどこにいるんだ?」
今度は族長以外の全員の視線が族長に集まった。
「花の化け物に捕まっているのですじゃ。お嬢様と小僧にはそれを討伐して頂きたいのですじゃ……」
「どうかお願いであります! あたしと族長だけでは無理なのであります!」
族長の横に並んで頭を下げたチルフィーの後に、もう一度族長が続けた。
「やられたらやり返す……それがシルフ族の硬い掟ですのじゃ。どうかお願いしますのじゃ」
「任せてちょうだい! ……あなたも、もちろんOKよね?」
アリスは即答してから、俺の顔を覗き込んだ。
硬い掟にしては、随分と他人任せだな……。
と思ったが、シルフ族の子供達の寝顔を見た後の答えは一つだった。
「任せろ! GOですのじゃ!」




