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26 強大なマナ

 洞窟は、奥に地下水路がある為かジメジメとしていた。

 所々に水溜りがあり、気を抜くと足を滑らしそうになる程に足場も濡れていた。

 俺はアリスに転ばないように気を付けろと注意を促し、俺自身も5年物の擦り減った靴の先に力を込めながら歩いた。


「あそこでなにか動いたわ。ちょっと懐中電灯貸してちょうだい」


 俺が手渡す前にアリスは懐中電灯を取り上げ、洞窟の地面の隅に近づきながら照らした。


「ぎゃああああああ!!」


 風の精霊の住処には相応しくない、馴染み深いアリスの悲鳴の先には、口をプクーっと膨らませたカエルがおりアリスを見つめていた。


「か、か、か、か、か……帰る!!」

「待て! 今更帰ろうとするな!」


 俺は逃げ帰ろうとするアリスの腕を掴み、放り投げられた懐中電灯を拾った。

 ヘビは大丈夫なくせにカエルは苦手らしいアリスは、それ以降あまりキョロキョロせずに前を向いたまま俺のシャツの裾を掴み歩いていた。


「着きましたであります! ここが我が一族の隠れ家であります!」


 先頭を浮かびながら進んでいたチルフィーが飛び回りながら言った。


「明るいな……」


 懐中電灯のスイッチを切り、洞窟の壁や天井で薄く光っている苔のような物を見回した。

 

 洞窟内部は思っていたより広く、なるほど隠れ家のようにかなり小さいテントがいくつも建っていた。

 脇には落ちたら絶対に助からないと思えるような水路があり、勢いよく水が流れていた。


「か、カエルはいなそう?」

「多分いないと思うぞ……ってかカエル以外にもなんの気配もないな」


 気配というか、もっと具体的にいうと何者の姿もなかった。それはソフィエさん達の村でも感じたような、不気味な印象だった。


「風の精霊というよりは、ドワーフの住処のような洞窟ね」


 俺のシャツの裾から手を離したアリスが少女らしい感想を漏らした。


「寂しいのであります……元々の故郷からも逃げ、この隠れ家までもがこのような事に……」


 チルフィーがアリスの頭の上に立ち、少しだけ核心に触れた。

 俺としてはそのまま語って欲しかったが、そこは族長に任せるらしく、案内されながらシルフの隠れ家を歩いた。


「さあさあここが族長のテントであります! 入るのであります!」

「いや、小さすぎて入れねえよ」

「そうでありました! いやあ大きすぎる種族というのは不便でありますね!」


 と言い、チルフィーはテントの中に入って行った。


「中はどうなっているのかしら」

「やめろアリス、ほじくり開けようとするな」


 危機一髪。アリスが膝をつきながら腕を中に入れてテントを掻き回そうとする前に、チルフィーとともに年老いた男性の精霊が出て来た。


「私が族長ですのじゃ」





「ほうほうほう。このお嬢様があの衣類の持ち主ですかな」

「そうなのであります!」


 俺とアリスは近くにあった手頃な木の椅子に腰を下ろすように促され、座りながらシルフの族長の話を聞いていた。

 木の椅子とは言っても、彼らにとっては食卓を囲むテーブルかもしれない。


「持ち主としては凄く気になるのだけれど、私のタイツやTシャツをどうするつもり?」


 怪訝そうな表情のアリスが聞くと、族長は近くのテントを指さした。


「あそこのテントの中で、シルフ族の子供達が眠っておりますのじゃ。その寝床にあなた様の衣類を敷いて使わせて頂いておりますのじゃ」


 族長は、必要以上と感じるぐらいに丁寧な言葉で言った。


「そう……子供達のお布団として使うのね。じゃあこれも使う?」


 アリスはリュックから罠に使った靴下とトレーナーを取り出し、脇に置いた。


「おお、この様な素晴らしい物を宜しいのですかな? 有り難く使わせて頂きますのじゃ」


 アリスの行いに感動して膝をつきながら言う族長を見ながら、俺は1つ質問をした。


「衣類ならショッピングモールにいくらでもあるのに、なんでわざわざアリスのを盗んだんだ?」


 そう聞くと、族長は俺をキツく睨んでから言った。


「貴様は黙っておれ小僧! お嬢様の衣類は有り難き寄贈! うるさい貴様を打つ鈍器は我が愛蔵!」


 韻を踏んで怒られた。


「この小僧はお嬢様のなにですかな? 悪い獣ですかな?」

「従者よ! 私達は主人と従者の関係よ!」


 お嬢様と呼ばれて調子に乗っているアリスが言った。


「ほうほうほう。従者ですか、どうりで」


 どうりでなんだよ、この糞ジジイ……。


「族長! お客様にあまりに失礼であります!」


 チルフィーが族長にいい事を言った。よく見ると可愛いなお前。


「コホンッ……何故お嬢様の衣類を好むかという話でしたかな?」


 わざとらしい咳を一つした後に、族長は再びアリスの方を向いた。


「なるほどなるほど……お嬢様は自身の強大なマナに気が付いておられないようですじゃな」


 マナ……?

 村での三送りの前にボルサが言っていた……それに、俺達も三の月へと昇っていくのを見たあれの事か?


「お嬢様が身に着けていた衣類にも、マナの痕跡が強く残っているのですじゃ。子供達の布団にそれを使えば、強く逞しく育つはずですのじゃ」

「ま、マナってなんだ?」


 無視された。聞こえていないフリをして鼻をほじっている。


「アリス、同じ質問をしろ」

「いいけれど……あなた、なんでそんなに嫌われているの」


 アリスが俺の質問を繰り返すと、族長は言った。


「マナとは、生物の根源その物ですのじゃ。分かりやすく言うと魔法の源のような物ですのじゃ」

「魔法の源……アリスはそれが多いのか……」

「多いなんてものではないであります!」


 チルフィーが宙返りをしてからアリスの頭に座った。


「並みの魔法使い10人分はあるのであります! こうやって頭に座っているだけで、強大なマナが伝わってくるのであります! ああ~居心地が良いのであります!」

「そうですのじゃ。それもその幼さで……末は精霊王か大召喚士か大魔道士……ですのじゃ」


 精霊王……大召喚士……大魔道士。


 俺はそれらを手帳にメモりながら、隣に座っているアリスを見た。


「あなた聞いた!? 私の才能!!」


 もの凄い目を輝かせながらドヤ顔をしていた。


「ほうほうほう。私の言葉を必死にメモに残すとは、思っていたよりもマシな獣小僧ですのじゃ」

「誰が獣小僧だ! ……まあでも色々教えてもらえるのはありがたいからな」

「……いいじゃろう。もっと詳しく話してやるのですじゃ」


 族長は地面に降りてから続けた。


 なるほど、このジジイは褒められると口が緩むタイプか……。


 俺は族長の話を聞きながら口角を上げた。


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