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25 終わりを告げるヒマワリ

「ところで私達、当たり前の様にチルフィーと会話をしているけれど、なんで?」


 和室で外出の準備をしながら、頭にチルフィーを乗せたアリスが言った。


「さあ……多分ボルサのチャネリングのような魔法が掛かってるんじゃないか? どうなんだチルフィー」


 そのチルフィーはプリンを少し食べてお腹をさすり満足していた。

 残りは隠れ家の仲間へのお土産と言っていたが、既にアリスがお裾分けだと言いながら新品のプリンを3個用意していたので、チルフィーの残りは俺が食べておいた。


「ん~……よく分からないでありますが、言葉が通じなくて困った事はないであります」


 今一要領を得ない回答だったが、まあ精霊と言うぐらいなので多種多様な種族と意思の疎通が出来るのかもしれない。チルフィーの隠れ家でその辺りの話も聞いてみよう。


 と、俺は色々な話が聞けそうでワクワクしながら、手帳を新たにゲットしたボディバッグに入れた。


 ナイフホルダーも少し改造し、太めのベルトに直接2つ付けていた。

 ベルトには他にも小物が入るような小さめのケースを装着していて、どんなズボンを穿いてもベルトの付け替えをすれば済むようなっていた。

 ボディバッグも体に密着しているので、一々戦闘開始時に置かなくても済むようになった。

 これで少しは異世界冒険者らしくなったかもしれない。


「準備も済んだし出発よ!」


 俺のマイナーチェンジを全く意に介していないアリスが言った。

 そのアリスは相変わらず赤い小さめのリュックを背負っており、ブタのぬいぐるみも健在だった。

 だが、アリスの宣言はまたしても引き戸を逆に開けようとした事によって出鼻を挫かれた。


「……お前いい加減その引き戸に慣れろ。外から中から同時に開けてケガをする事が無いように片方は打ち付けてあるんだっての」

「もう! なら左側が開くようにしなさいよまったく!」


 アリスは渋々右側の引き戸を開けながら言った。


「お前、なんで毎回左側を開けようとするんだ?」

「なんでかしら……左利きだから咄嗟の行動は左手でしちゃうのかも」

「えっ、お前サウスポーだったのか? 飯もメモも右手でやってるよな?」


 俺がそう聞くと、アリスは歩きながら両手をモミモミとした。その頭の上では、チルフィーが正座をしながら俺達の話を聞いている。


「お爺様にどうせなら右手も使えるようにして、両利きになれと言われたのよ。なにかと便利だからって。でもどうしても左手には少し劣るわね」

「ふーん……。あれ? じゃあなんで魔法は右手で撃つんだ?」

「……あっ! 本当だわ、なんで私右手で撃っているのかしら! 魔法少女サッキュンのサキちゃんがそうしているから!?」

「……サキちゃんとかは全く知らんけど、次から左手で撃ってみろ。命中率上がるんじゃないか?」


 俺は左手で構えているアリスに言った。

 心なしか、サウスポーの方が様になっている気がした。





 俺達は西メインゲートから出て花畑へと向かっていた。

 狼の為に開けておいた北メインゲートもしっかりと施錠しておき、念のために3ゲート全てに再び片栗粉防衛を行った。

 毎回面倒だが、まあアリスがまたテキパキと掃いてくれるだろう。


「この先に天然の地下水路へと続く洞窟があるであります!」


 一つ一つの種類の花に反応するアリスの腕を掴みながら花畑を横目に歩いていると、暫くして大きな岩場が見えて来た。

 狼の住処と少し似ているその岩場の脇にはチルフィーが言っていた洞窟があり、案内人なしでは決して入る気にはならないような雰囲気を漂わせていた。


 俺は近づく前に一度立ち止まり、チルフィーに尋ねた。


「あの洞窟の中にシルフの隠れ家があるんだよな?」

「そうであります! さあさあ入るのであります!」

「入る前に、俺達になにをさせたいのか説明してくれないか?」


 俺はジャオン1Fの和室でした質問を再び繰り返した。


「先程も言いましたが、それは直接族長から聞いて欲しいのであります!」


 アリスの頭に座って緑色の長い髪をなびかせながら、チルフィーも同じ返答を繰り返した。


 俺が言われるがままに洞窟に入るべきか迷っていると、花畑の終わりを告げるように囲んで咲いているヒマワリと背比べをしているアリスが口を開いた。


「チルフィーみたいなシルフが沢山いるだなんて夢の国ね! 早く入るわよ!」


 まさか罠じゃないだろうな……妖精や精霊って意外と肉食だったりするよな……。


「さあさあ早く歩くのであります!」


 俺は近づくにつれ、やたらと急かすチルフィーが更に疑わしく思えて来た。

 そう思うと、言葉が通じる事までが怪しく見えてきた。


 疑心暗鬼を生ず……か。

 鬼が出るか蛇が出るか……うわヘビは嫌だな……。


 俺はそのヘビから連想し、獣ガチャガチャの赤いカプセルから出て来た物を思い出した。


――我が名は玄武


 そう名乗ったカメの周りには、黒いヘビが巻き付くようにニョロニョロとしていた。


 どう使うかは分からないけど……よりによって玄武って……。

 四聖獣で一番弱いイメージがあるんだが……朱雀とか青龍とか白虎の方がカッコイイし……。


 あまり使役する気にならない玄武だったが、とはいえ早めに使い方を覚えなくてはならない。

 カメと言えば防御のイメージがあったが、俺のイメージ通りかどうか。


「ほら、早くあなたも歩いて!」


 俺はアリスに促され渋々洞窟へと歩いた。

 まあここまで来たら覚悟を決めるしかないか。と、一度気を引き締め直した。


 そういえば……魔法少女サッキュンのユキりんが能力を授かった場所もこんな洞窟だったな……。


 俺はそう考えながら、宙に浮かぶチルフィーの後に続き洞窟へと足を踏み入れた。


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