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122 強情+笑顔=愛され上手

「見てちょうだい、橋が架かったわよ!」


 月の迷宮4層の宙に浮かぶ光の橋を見て、アリスが声をあげた。

 その下には底の見えない大穴。『やっぱり床、消滅するのかしら?』と、わざわざアリスが片足を乗せて試した結果の産物だった。


「ああ、やっぱ三属性の床を輝かせれば向こう側に行けるんだな……」


 輝く床の3つの模様に目を向けながら、俺は呟いた。


「さあ行くぞ。赤と黄色……つまり3つ中2つの模様を輝かせた俺が先に渡る。青のみのお前は大人しく後ろから付いて来い」

「そこをことさら強調されるとムカつくわね……。くだらない事で勝ち誇っていないで、早く渡るわよ!」


 さりげなく先に渡ろうとする強情なアリスを追い抜き、俺は少し緊張しながら光の橋に足を乗せ、そのままあまり下は見ないようにして渡り切った。


「あら、宝箱が開いているわよ。それに、ボスを倒していないのに階段下れそうよ? おかしいわね……」


 渡り切った先に佇む宝箱を見てアリスが言った。


 そりゃ開いていて当然だ。ここの宝箱は未来アリスとともに開け、そして入っていた薬を一気飲みしたのだから。そのせいで、未だ謎の刻印が首筋に刻まれている。


 しかし、俺はそれを誤魔化す為に、


「神だ、神の仕業に違いない!」


 と、とりあえず神のせいにしておいた。


「なんだかあなた、必死に何かを隠そうとしていない? 怪しいわ……」

「怪しくない!」

「まあいいわ。知恵熱で熱くなってきたから推理は中断したけれど、迷宮を出たらゆっくりプリンを食べながら、1層に戻っていた謎と宝箱が開いている謎を解くとするわ。ホームズは私だっていう事を見せてあげるわよ!」


 アリスはそう言ってから階段まで歩き、頭上に座って首を傾げているブタ侍と話しながら下りて行った。



 月の迷宮5層。ここは、未来アリスと必死に首無し死ビトであるデュラハンを倒した場所。


 性質上、部屋や通路の配置は変わっているようだが、それでも未来アリスとの思い出が詰まった感慨深い空間で、歩いているだけで思わず感傷的な気分になってしまう層だった。


「あら、大きな部屋に出たわね。あの床の数字はなにかしら」

「……な、なんだろうな」


 正解は魔法少女サッキュンの誕生日……すなわち0309だけど、俺が正解を知ってるのもサキちゃんの誕生日を知ってるのも知られる訳にはいかねえ……。

 確か、正解を順に踏めば扉が現れるんだよな……。


 と考えていると、『適当に踏んでみるわよ!』と、アリスは野球のホームベース大の石板に飛び乗った。


「なにも起きないわね。これはただのオブジェクトね、先に進むわよ」

「おいホームズ……謎を速攻諦めるな」

 

 歩き出すアリスの腕を掴んで制止し、俺は正解に導こうと何気なくヒントを口にした。


「数字と言えば、まず浮かぶのは誕生日だな。試しに、なんか好きなアニメキャラの誕生日でも踏んでみたらどうだ?」

「好きなキャラと言えば魔法少女サッキュンのサキちゃんだけれど、キャラに誕生日なんてあるの?」


 うわ……こいつサッキュン好きを公言してるくせに、誕生日を知らないのか。

 ありえねえだろ……。マジで引くわ……。


 とも言えず、俺は無表情を貫きながらヒントその2を告げた。


「さ、サッキュンか。全然知らんけど、『サ』ッ『キュ』ンか……」


 それから約30分。ヒントその51でようやくアリスは正解に辿り着き、正面に光の扉が現れた。


「な、なんだか完全にあなたに導かれた気がするわ……。気のせいかしら……」

「気のせいだ。ってか疲れたな……」


 そして現れた扉の先に足を踏み入れた瞬間、俺の頭の隅にとある疑問が湧いた。


 ……あれ、ここって確か、ボスであるデュラハンがいただけだよな。

 もう倒してあるんだから、別にこの部屋を出現させなくても良かったんじゃ……。


 しかし、アリスは前向きだった。


「なにもないけれど、この扉を開ける事が5層攻略の要なのね! さあ、早く先に進むわよ!」

「そ、そうだな! 多分、扉を開ける事によってボスが消滅するとかなんだな!」


 ポジティブすぎるアリスに合わせ、俺は言った。

 ブタ侍は、床の上で腕を組んで首を左右に傾げている。


「なにかがおかしいでござ――」


 俺はブタ侍の言葉をド突く事によって遮り、頭の上に座らせてから、数字部屋を後にしたアリスを追い掛けた。



 湧いていた数体の死ビトを処理しつつ、俺達は5層の階段部屋へとやって来た。

 目の前には既に開いていて空っぽの宝箱。アリスやブタ侍がグダグダと何かを言い出す前に、俺は先手を打つべく、ボディバッグのチャックを開けながら宝箱の前に立った。


「くそっ……! 4層に続いて5層の宝箱も中身が無いのかっ!」


 半ギレの演技をしつつ、俺は声高に叫ぶ。


「なんで中身がないんだ! 降りて来い、神!」


 そして天井を睨みながら、再び神の仕業という事にしておく。


「あなた、珍しくキレているわね……。まあ、無い物は仕方がないわ。6層へと進むわよ!」


 チョロイ。こんな簡単に誤魔化せるなら、やはりこいつはワトスン役が似合っているな。


 と考えながら、階段まで歩を進めるバカとブタに注視しつつ、俺はバッグから取り出した短い杖を宝箱に放り込んだ。


「ああっ! 待てアリス、宝箱の中に杖が現れたぞ!」

「ホント!?」


 目を輝かせながら駆けて来るアリス。その姿は、これからの異世界生活で騙される事がないよう、俺がしっかりしないとな……と気を引き締めるには十分過ぎるものだった。





 月の迷宮6層はこれまでと違い、どのフロアも広々としていた。

 しかし、それ以上に分かりやすい相違点があった。


「この部屋も怪物だらけだな……」

「ええ、食人花とミノタウロスが2体いるわね」


 外から中の状況を確認していると、奥の通路の壁に人影が映った。


「反対側の通路から死ビトが入って来たわよ!」

「ああ……敵が増えたな……」


 アリスが気付かない程度に肩を落とした瞬間、死ビトがミノタウロスに襲い掛かった。


「なっ……あいつら同士討ちを始めたぞ!」


 武器も持たない死ビトがミノタウロスの腕に噛み付く。

 それを振り払ったミノタウロスは、巨大な斧を力任せに振り下ろす。


「っ……!」


 鮮血が飛び散り、無機質な迷宮の壁を彩る。しかし、当然それは真っ二つになった死ビトの物ではなく、上腕部を噛み千切られたミノタウロスの燃えるように赤い血。


「同士討ちなどではござらん。死ビトにとっては、マナを宿す全ての生物が敵でござる。逆も然り」


 アリスの頭上のブタ侍が言った。


「なるほどな。じゃあ、敵の敵は味方……とはならないか」


 俺達の存在に気付いたミノタウロス2体と食人花。

 まるで、檻に放られた餌を見据えるような目を一斉にこちらに向ける。


「ミノタウロスはお前を狙ってるぞ! 殺意を俺に向けるから、お前はここから撃て!」

「了解よ!」


 目を赤く光らせる食人花の太い根から、青い攻撃軌道が伸びる。


「打ち弾き!」


 もう何度も見ているそのヤリのような一撃をダガーで弾き、駆け寄って化物の中心を位置取る。


「出でよ青鷺火!」


グワァッ!


 青鷺火が俺に向けて青い炎を放つと同時に、加えてミノタウロス2体の目も赤く染まる。


「アリス! 俺は防御に専念するから、お前――」


 次の瞬間、俺は見えない何かに何かをされ、アリスの元まで吹っ飛ばされる。


「痛っ……!」

「大丈夫っ!?」


 アリスが屈み、心配そうに俺の顔を覗き込む。


「あ、ああ……。派手に飛ばされたけど、大した事はないみたいだ……」


 衝撃波を食らったような感覚が体全体に残っている。

 ダメージは少ないように思えた。しいて言えば、右手に少々の痺れ。


「……またか」


 俺は、未来アリスと打ち倒した4層のボスを思い出しながら呟いた。


 ……また見えない系の敵か!

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