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100 寒い友達が訪ねてきたよ

 領主代理の要請は極めて単純なものだった。


「円卓の夜の間の、村人の受け入れですか」


 俺が復唱すると、領主代理は頷いてからキセルに刻みタバコを詰めて火を付けた。


「甥の視察を受けて決定した方針がこれさ。お前達のショッピングモールとやらは中々興味深い物が多いみたいじゃないか。武器も食料も豊富だと聞いたよ」


 一呼吸おいてから領主代理は続けた。


「ウキキもアリス嬢ちゃんも敵対する意思はない。突然領地に現れたショッピングモールも歓迎しよう。だからこその協力要請さ」


 逆に言えば、協力しないと敵とみなすという事か……。


 と考えていると、隣に座るアリスがソファーから立ち上がった。


「もちろん構わないわ! と言うか大歓迎よ!」

「そうかい。アリス嬢ちゃんはいい子だねぇ」


 領地代理は顔のシワを隠そうともせずに微笑みながら言った。周りに紫煙が立ち込めた。


「俺も構いませんけど……クワールさんは知ってるんですか?」

「クワールかい……まったく、厄介な男が村長になったもんだよ……。村の人間は誰も知らないよ、言ってないからねぇ」

「じゃあ大丈夫なんですか? クワールさん達はミドルノームの城やこの街への避難を希望してるんじゃ?」


 その辺で軋轢が生まれないかという心配を込めて聞くと、


「大丈夫よ! 楽しみだわ、むしろすぐにでも引っ越して来るべきよ!」


 と何故かアリスが俺の心配を制した。


「あの男は頑固だけど村人の事を優先して考えるだろうよ。だからアリス嬢ちゃんのいう通り、そこは心配ないさ」

「領主代理のおばあちゃん……もしかして、昔クワールおじさんと付き合っていた? なんだかそんな感じがするわ!」


 ……えっ!?


「……大昔の話さ」


 ……えええっ!?





 あまり聞きたくなかった衝撃の事実のあと、俺達は広くて立派なダイニングで豪華な食事を頂く事となった。


 馬鹿デカいテーブルには知らない男が1人。

 話を聞くと、ファングネイ王国の騎士との事だった。


「まさかアラクネの封印が解かれるとはね。僕がいたら華麗な薔薇の如く討伐したんだが」


 騎士の男は紺色の長い前髪を掻き分けながら言うと、そのままの姿勢でアリスに視線を向けた。


「可憐なお嬢ちゃん、初めまして。僕はファングネイ王国騎士団薔薇組のナルシード。ナルと呼んでくれ」

「私は園城寺アリスよ! アリスお嬢様でいいわ!」

「なるほど君は高貴な生まれだね? そのオーラが滲みでているよ」


 ナルと名乗る男が言うと、鎧を脱いで革のコート姿のアナがナイフとフォークを皿の淵に置いた。


「こちらも紹介しておこう。ウキキ殿とチルフィー殿だ。ウキキ殿は幻獣使いで、チルフィー殿は風の精霊シルフだ」

「であります!」


 チルフィーは小分けにしてもらった食事から一旦手を休めながら言った。


「風の精霊シルフ……お初お目にかかります。こんな愛くるしい精霊様と食事をともに出来るとは光栄だなあ」


 ナルは立ち上がり丁寧に頭を下げながら言った。


 ……これは、女には丁寧に接して俺はスルーのパターンだな。よし確認しておこう。俺はこいつが嫌いだ。


「それから、ウキキ君か。年齢は僕と同じぐらいかな? よろしく」


 あろうことか、ナルは微笑みながら俺に握手を求めた。


「よ、よろしくでっす!」


 予想外の行動に、つい声が裏返ってしまった。


「いやあ、こんな勇士達とテーブルを囲めるなんて嬉しい限りだ……。領主様、今夜のお招き本当に感謝致します」

「招いたのは騎士団長だったはずだけどねぇ。まあいいさ。ゆっくりしていっておくれ」


 領主代理がテーブルに置いてあるベルを鳴らした。

 新たに運ばれてくるフルーツやらデザート、それに数種類のアルコール類。


 元の世界でも滅多にお目にかかれない贅を尽くした食卓に、俺は感嘆の声を漏らした。





「いけ好かないな……ウキキもそう思うだろ?」

「……領主代理の甥、いたのか」


 屋敷のバルコニーから街の夜景を眺めていると、甥がワイングラスを片手にフラフラとやって来た。


「ナルシード……若くしてファングネイ王国騎士団の薔薇組副組長になった野郎。死ねばいいのに」

「口が悪いな……酔っぱらってるのか?」

「ボクだって戦いなら引けを取らない! ホウーアチャー!」


 甥は闇夜のバルコニーで見えないなにかを相手に手刀を繰り出した。


「ボクらだって女にもてたい! イケメン死すべし! そうだろウキキ!」

「俺を巻き込まないでくれるか? 俺、キッスした事あるし」


 と話していると、当の本人であるナルがガラス戸を開けてバルコニーに出て来た。


「もう領主代理の相手はいいのか? ……ってあれ、甥行っちゃうのかよ」


 ナルと話したくないのか、甥は無言で部屋の中へと戻って行った。


「僕は嫌われてしまったかな? 残念、彼とも仲良くなりたかったんだが……まあいい、今、話をしたいのはウキキ君だ」


 片手に持っているグラスを手渡しながらナルは言った。


「ああ、サンキュー」


 断るのも悪いので受け取り、一口飲んだ。シェリーのような酒だった。


「幻獣使いか……相当な手練れなんだろうね。同じグラディエーターとしてシンパシーを感じるよ」

「ぐ、グラディエーター!?」


 思わず、俺はその意外な単語を条件反射で口にした。


「知らないのかい? 僕ら〇〇使いは古代の剣闘士を始祖とした兄弟のような関係さ。己の命を削ってでも敵に打ち勝つ為に生み出された業さ」


 その話の内容に驚いていると、ナルは持っていたグラスをバルコニーの手すりに置いた。


「幻獣使い、剛体術使い、魔剣使い……そして――」


 途中で言葉を切り、鋭い眼光で俺の目を射抜いた。


「死霊使い……か」


 先に言ってやった。


「……言っちゃう? 僕の作った間を見ていただろ? せっかくウキキ君の反応を見ようと思ってたのになあ」

「反応を見てどうするつもりだったんだよ……。もしかして、俺が死霊使いじゃないかって疑ってるのか?」


 ナルは『まさか』と、おどけた顔で言ってから、


「死霊使いと言えば、レリアちゃんの従者の話は聞いたかい?」


 と引き続き人懐っこい表情をしながら言った。


「ああ、馬車で来る途中にアナの従者から聞いたわ。ずっと黙秘を続けてるんだろ?」

「そうみたいだね。ファングネイ王国にとっても新たに現れた死霊使いは脅威なのに、嫌になるよ」

「そうだな……。で――」


 俺は先程のお返しとばかりに、たっぷり間を取ってから続けた。


「お前はなに使いなんだ?」

「……僕かい? 僕は――」


 ナルが俺の目の前に片手を向けて広げた。

 そのままゆっくりと下げられる手を見ていると、突然黒いモヤモヤが手の周りに現れた。


「っ……!」


 死ビトを連想させるその黒いモヤモヤは段々と伸びていき、やがて剣の形となった。


「僕は魔剣使い」


 ま、魔剣なのかこれ!?


「勝負だウキキ君! おっと、グラディエーター同士は挑まれた闘いから逃げる事は出来ないよ?」


 ナルの構えるサーベルの赤い薔薇のような鍔が闇夜を彩った。


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