護衛編 行方不明
エリアス様に散々説得され、不承不承付いて行くことになった。エリアス様の話では、ビサ様に言えば何か協力してくれるらしい。
だけれど。
「そんな事、どうだっていいんですよ」
私が言った言葉は誰にも聞こえなかったらしい。それでもいい、これを聞かれたら変に勘繰られるだろう。
実際、私が直接捜した方がずっと効率がいい。跳び回り、彼女の跡を追って捜す。
猫族の少年は既に別れていた。カーティス様は、部屋で探るらしい。
つまり、ミルヴィア様を捜しに出たのは私とエリアス様だけだった。
もし誘拐されていて、もし震えていたのなら。
その誘拐犯、どうしてやりましょう。痛みの限りを与えた後、最終的には地獄を見せてあげるとしますか。
一瞬で逝かせてあげますなんて、格好の良い事は言いません。
一瞬で逝かせるなんてとんでもない。持つ知識を総動員して苦しませましょう。
でもその前に、ミルヴィア様を見つけ出す必要が――
「……ユアン、さん?」
気が付くと、エリアス様と庭で立っていた。そして、鋏を手にしたコナー様がこちらを見ていた。それさえも、今はどうでもいい。
おそらく、今私の心を動かすものは、無いのだろう。
「え……っと、随分、遅いですね。僕はこれから帰るところ、なんですが」
「そうですか」
我ながら、かなり無関心な声が出ただろうと思う。
エリアス様が何か言いかけ、止め、を繰り返している。コナー様は、武術の心得がなくとも、今の私の様子がおかしい事に気が付いたらしく、キョロキョロを辺りを見渡した。
そして、気付く。
「あれ?ミルヴィアは?」
「……」
私もエリアス様も、何も言わなかった。エリアス様が、私に何も言うなと言ったのだ。
それに従えるなんて、今の私は相当混乱していますね。
「ユアンさん、ミルヴィアは?」
無邪気に、コナー様が聞く。どう思っているのでしょうか。
ただ単に一緒にいないだけだと思ったのか、それとも異変に気が付いたのか。
「あの……?」
「ミルヴィア様は、居ません」
「居ない、って?」
コナー様は首を傾げた。エリアス様は、何言ってるんだと私の背中を叩く。
いいでしょう、どうせ、いつかばれるんですから。
「居ないってどういう事ですか、ユアンさん」
コナー様の目が鋭くなる。怒っているようであったし、悲しそうでもあった。どちらにしろ、関係ない。エリアス様はいよいよ焦っているようだった。
「なあ、庭師。そこらへんで止めないか」
「どうしてですか。僕はミルヴィアが心配です」
「うん、まあ、そうなんだろうが……」
「あなたも、子供の前じゃ普通じゃいられませんか」
「黙ってろ、お前は!」
「言いましょう、ミルヴィア様は攫われました」
「っ!」
二人が息を呑む。
コナー様は、最早怒りを隠さなかった。私を思い切り睨み、拳を握って震わせている。
「ミルヴィア……が」
「そうです」
「あなたが守るんじゃ、なかったんですか」
今にも手に持つ鋏で切りかかって来そうな危うさが、コナー様には見られた。
それでも私は謝りません。私だって、今は気が立っているのですから。
「守れませんでしたね」
「――ッ」
「やめろ」
コナー様が、私に向かって来ようとする。それも、エリアス様に制止され、ギリギリで抑え込んだ。そこで抑え込めるのは、恐らくあの子は慣れている。
いい機会ですから、実力を見てみたかったのですが。まあ、仕方ありませんね。
何もかも、ついでですから。
「あなたが、守るって言ったから」
「はい?」
「あなたは、ミルヴィアを守ると、誓ってました」
なんだ、見られていたのですか。
「悪癖ですね」
「そうですね」
コナー様は言い返さず、私を睨み付けた。睨まなくてもいいでしょう。
そう思うのは、私がコナー様を見て、逆に冷静になって云ってるからだと考察する。
もちろん、犯人を赦すつもりはありません。
「だから大丈夫だろうと――完全に、失念してました。僕がもっと早く気付けてれば」
「気付けませんよ。あなたは情報に疎い」
「ミルヴィアが出て行った事は知っています。帰ってないのも知ってましたが、ユアンさんが居るのでどっちにしろ大丈夫だろうと……それなのに!」
「情報通か。お前、そうなのか?」
「黙っててください!」
エリアス様が反応したけれど、コナー様が叫ぶ。エリアス様は素直に黙った。これ以上喋ると危険だと思ったのでしょう。
「僕は……僕が……」
「エリアス様、行きましょう。もう無駄です」
「お前、本当にあいつ以外興味がないんだな」
「興味がないわけでは無く、優先順位ですよ」
歩きはじめる。ビサ様がまだ訓練場に居ればいいのですが……。
「どこ行くんですか」
コナー様が凄む。まったく迫力はないが、呼び止められたので足は止めた。エリアス様も足を止めて、首を傾げた。
「どこ、とは」
「僕が捜した方が早いです」
「ビサのところへ行くつもりだが」
「ああ……あの人のところですか。あの人は訓練場にはいませんよ、多分。さっきここの前を通ったので……大衆食堂にでもいるんじゃないですか?」
「なるほど。情報、感謝する」
エリアス様はそう言うと、歩きはじめた。私もそれに続く。
その時のコナー様の目を、見逃したわけでは無かった。
闘争心に満ちたあの目を、私が見逃すはずがない。
閲覧ありがとうございます。
今回はユアンの心情が少なかったんですけど、それだけユアンが混乱してるって事です。
次回、ミルヴィアが攫われたので、神様達も騒ぎます。




