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80 馬車の中

 これは本格的にまずくなって来たぞ。ユアンとエリアスに単独行動って言っちゃったから、夜まで探しには来ないと思う。やばい、やばい、やばるすぎ。

 ……混乱してる。なんだやばるすぎて。


『安心、する、の。きっと、まお、の、ごえいが――』

『狐ちゃん!?起きて、起きて!』


 やばいこの人、寝る!

 慌てて足をバタつかせる。男が、狐ちゃんを軽く叩いた。よし成功。


「おめえ、暴れるんじゃない」


 私は必死な風を装って、頷く。男は満足気ににやりとした。

 『以心伝心』を通して、治癒魔法をかけようと試みる。おお?結構簡単に出来る。感覚共有は、ないみたいだね。


『いひゃい……なにふうの……』

『寝たりするからでしょ?良いから早く教えなさい』

『何をなの』

『喧嘩の原因。忘れたとか言う言い訳は通用しないよ。自分から飛び込んだとはいえ、巻き込まれてんだから』


 鈴……まだポケットには入ってるけど、対の鈴?がないなら来れないんだっけ。


『黒鈴は猫族が相手に渡すもの。白鈴は一族の中で受け継がれていくもの。お兄ちゃんが故郷を追われた時に唯一持ち出したもの』

『ものっていうのが「の」付いてるから口癖言わないで楽だね……』

『そこなの?いいから黙って聞いてるの』


 だってなんか重苦しい空気なんだもん。こういうの苦手で……シリアスとかほんと勘弁……。


『昨日お兄ちゃんの帰りが遅かったの。その事はいつもの事なの。でも、その後お兄ちゃん、私の事を邪険に扱ったの。ちょっと傷付いたけど、しょうがないって思ったの。お疲れなのかも、とかなの』

『良い人だねえ』

『で、夢魔とどんな会話をしたのって聞いたら』

『うん』


 あー、ここか。ここだなここでしょ。

 

『そんな奴らの話なんか死んでもしてやらないって……言ったの』

『おー』


 ドカーン。

 レーヴィ、ちょっとやり過ぎたな。まあ、ちょっと言い聞かせとくか。いくらなんでも少年が可哀想すぎる。


『どうしてって聞いたら、ぜってえ聞くなって言ったの。それでまたどうしたのって言ったら、お兄ちゃんぶちぎれたの』

『おう』


 早いけど、仕方なかろう。かなりの傷を負ったんだなあ。きつく言い聞かせておこう。

 レーヴィに対するお仕置きを考えながら、狐ちゃんの話を聞く。今や狐ちゃんは猿轡を噛みしめていた。


『お兄ちゃんが、怒ったの……!』

『あー』


 それが悲しかったのねー。うん、分かるよ。大切な人怒らせたら嫌だよね。


『それで、お兄ちゃんが鈴を置いてったの』

『えー』

『探すな、って言ってたの……』

『ほほー』

『っていうか何なの、さっきから魔王緊張感のない声ばっかりなの』

『しゃーないじゃん。なんかこういう声出してないと不安で不安で』


 狐ちゃんが意外そうにこちらを見る。

 何……?


『魔王、怖いの?あんなに強い人達に囲まれてるのに、怖いの?』

『怖いよ?いずれ見つけてくれるとは思うけど、その時どれだけ体に傷があるのか』

『今に見つけてくれると思うの……でも、こいつら無駄に頭が良いから、ちょっとは時間が掛かっちゃう、かもなの』

『だよね~。まあ、いつか見つけてくれれば、一週間後でもいいや……』


 諦め気味に呟く。

 だってこいつら、馬車から私らの臭いが漏れないように、遮臭結界張ってるんだよ?私らの姿が外から見えないように、魔導具のカーテン掛けてるし。

 これは結構見つけてもらうのはムズいと思うな。自力での脱出はおそらく、無理だろうし。


「なあ、ボスはなんて言ってるんだ?」

「こいつらの事か。さあな?あっち行って顔見て決めるっつってた」


 耳を塞いでないのは、多分逃がさないって言う自信があるからかな?まあとりあえず、落ち込んでる感じを見せつつ聞き耳を立てよう。

 あと、多分固有魔法(ユニークマジック)は使えるっぽい。でも縛られてるせいで羽は出せない。でも『魅惑』で抜け出せるかもしれない。どっちにしろ戦えないから、この馬車が止まってからになりそうだけど。


「銀髪の嬢ちゃんは奴隷市だろうな。黒髪の嬢ちゃんも、きっと奴隷だろ。気に入ったらボスがもらうかもしれんがな」


『御免被りたい』


 『以心伝心』で、私と狐ちゃんがハモる。顔を見合わせ、そっとため息を吐いた。

 人間族領で売られるんだろうなー。どうせなら魔族領で売って欲しい。こっちなら良心的だろうし、そもそも魔王だと気付いた途端放り投げられ……じゃないか、多分家探してくれるんじゃないかな。

 ボスの奴隷とかなったら、一発で心臓止めてやる。


「なあ、あの小屋の周り、ちゃんと結界張っておいただろうな」

「心配すんな。ちゃんと不可視結界と気配遮断結界張っといたから」

「むぐっ!?」


 私が喘ぐ。それを見て、男達が満足そうににやにやと笑った。

 チッ、まさか結界張ってあったなんて。エリアスが居ればどうってことないとは思うけど、これで見つけてもらうまでの期間が延びた。


「お前、結構顔綺麗だなあ?俺んち来るか?」

「……」

 

 顎を掴まれる。

 何、それ。

 気に入らない。


『魔王、抑えるのっ!』

『一瞬、一瞬だけ』


 魔力全開放。殺気を顕わにして、男を睨み付ける。男は怯んだように後ずさりし、どさりと座った。すぐに魔力と殺気を納める。


『狐ちゃん』

『ハイ』

『次もしこいつらが私に手ぇ出して来たら、ごめん、多分暴れる』

『やめてほしいの……』


 私の言葉に、狐ちゃんがはあ、とため息を吐いた。

 狐ちゃんと会話をして、かなり良い情報を入手できた。


 少年が寝床に帰れば、SOSが出た事に気付くらしい。そしたら多分少年は屋敷に来る。少年の話を聞いたら、ユアンとエリアスとお兄様が異変に気付く。その後、捜索。みたいな。

 これには『こうなるといいな』っていうのばかり含まれてる。少年はSOSに気付かないかも。屋敷に来ないかも。異変に気付かないかも。まあ、さすがに異変に気づいて捜索なしっていうのは有り得ないと思うけど。

 ま、今はこれくらいしか手段がないしいいか。


 そして、キイという音がして反動が来た。どうやら馬車が止まったらしい。


「着いたぞ」


『狐ちゃん、どう?』

『澱んだ空気に禍々しい瘴気。あまりにも空気が穢れすぎてるの。誰もここには近付きたいとは思わないの』

『ふうん』


 狐ちゃんは種族上、こういうのに敏感だからね。

 馬車を下りる。

 そこは木に囲まれた、何故か近付きたいとは思えない、木で出来た小屋だった。

閲覧ありがとうございます。

喧嘩の原因はレーヴィです。二人のどちらかが悪いって事はないかと。

次回、屋敷に居る人達の話をやります。ミルヴィアが連れ去られてからの話です。

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