78 単独行動
ユアン・エリアスとの三百四号室。
早朝で、かつユアンとは昨日の事もある。私もユアンも、全然気にしてないけど。
ちなみにユアンが少年を起こしに行くと、ベッドの上に書置きが残されてたらしい。
『覚えとけ』
だとか。
多分これ、レーヴィ宛だよね。手紙には涙の痕があったとかあったとかなかったとか。頑張れ少年、負けるな少年。
「ユアン、今日は各自単独行動ね」
いきなり放たれた私の言葉に、ユアンが固まる。
ふっふっふ、私、今日は用事があるのだ。それは飛行!『変身』による天空の飛行!
そんな、内心ウキウキな私に対し、ユアンがピシャリと言う。
「だめです」
「酷い!」
私が叫ぶと、ユアンは深く息を吐く。エリアスは我関せずとばかりに本を読んでいた。
けど、この機を逃すわけにはいかない。いざとなれば決闘で話を付けよう。
結構辛いのよ、一人の時間がないのは。
「ユアン、あのね、私はあなたが引っ付き虫になっちゃうのは嫌なわけ」
「はい」
「兎にも角にも私は一人が好きだし、何よりも飛ぶのが好きなの。いい、空にユアンは連れてけない」
「跳びましょうか?」
「いい、要らないっ!そうじゃないじゃん、私が言いたいのはそうじゃないじゃん。一人になりたいって言ってるんじゃん」
「ですが、」
「私だって一人で居たい!」
「もし攫われたら」
「ユアン」
さすがに見かねたのか、エリアスが口を出してくる。
よし、味方か!
私が期待してエリアスを見る。
「過保護だ」
「ですが!」
「魔王だろ」
「そうだよね」
「攫われたら好きなようにすると良い」
「そうだよ、ね……?待って、エリアス、ロクでもない言葉が聞こえた」
味方に裏切られた気分だ。実際裏切られたし。
まあいっかなー。攫われる気ないしさ。攫われて好き勝手されるのはいただけないけど。
「よーし、じゃあユアン、私が攫われたら何でもいう事一回だけ聞いたげる。ただし、性的な事はなしだよ、それはさすがに嫌だから」
「……仰せのままに」
交渉成立。交渉って言うより一方的な妥協案だけど、一応は自由をもらった。
考えてみれば魔王って王様なんだし、単独行動が許されないのも納得は行く。
でも、ねえ?
さてさて、考えてもらおうか。
十八歳の思春期女子が、部屋に閉じこもる時間も与えられずにどこに居ても人が居る。
耐えられるか。いや、耐えられない。
だって、考えてもごらんよ。
四六時中ずっとユアンに付き纏われる。お風呂・トイレ・就寝中以外はずっとユアンと一緒。これ、ノイローゼになるんじゃない?
てなわけで、私は窓まで歩いて行くと窓をパーッと開け放った。
「いってっきまーす!」
「やめっ……!」
そこから、遠慮なく自由に向かって跳ぶ!
ふわりと、体がどこからも支えられていない浮遊感と不安感。地面が間近まで迫るけど、当然地面とキスするつもりなんてさらさらない。
魔力を込めて羽を形成し、そこから一気に飛び上がる。
高い所は怖いけど、不要な速度は出さないし、何より自分で操作しているっていう安心感がある。だから絶叫マシンとは一味違うんだなー。
この爽快感、解放感、晴れ渡る空を見上げながらの飛行。
何より久々の一人。
無駄にテンションの上がる私は、もう気を遣わなくても羽に魔力を送れる。自動ポンプみたいな感じかな?いや、見て無くてもいいんだからちょっと違うか。
とにかく、結構楽。
羽ばたくのは自分でやらなきゃいけないけどね。
「さてっと、どこ行くかなー」
知り合いを探してみようかな?いやいや、森の方に行って害獣駆除ってのもいいかもねー。
久々の一人に浮かれる私。
でも、すぐにああだめだと思い直す。
そもそも害獣駆除とかしたら皆うるさいじゃん。
私には口うるさい仲間が四人いる。一人は家族だからこそだけど。
ユアン。
エリアス。
お兄様。
ビサ。
この三人が 私が危険な目に遭って黙ってるはずがないんだから、もう。
好かれてるのはいいんだけど、ちょっと過保護すぎるきらいがある。私は平気なのに。五歳って事を考慮しても精神年齢的には大人だし。
ん?
あ、いや……。
目覚めて一か月くらいなんだから、まだ二十歳ではないのか……。
ちょっと気落ちしながら、空を飛びまわる。途中で何人も私を指差して騒いでたけど、ほっといて大丈夫でしょ。
あー、何をしようかな……。
出来る事ならこのままぶらぶらしていたいけど、うとうとして寝ちゃいそうだし。
そうだ。魔法の訓練でもしようかなー。
私が今からやるのは、操作魔法。分からない人は『1 三百四号室での教え』参照。
私いろんな魔法磨いて来たのに、操作魔法だけは例外だったからねー。あれは錬金術と大差ないし、難しい上に爆発したりと被害が出る恐れがあった。
でもここは。
周りを見渡す。雲が所々に浮いてるだけの、空中。爆発しようとどうなろうと、被害は最小限に抑えられる。それに私は一応魔王、操作魔法くらいはマスターしとかないとね。
これが終わったら多分治癒魔法に行くんだろうけど、あれは対象が居ないとできないし。
「さて、と、操作魔法を練習するのはいいとして、どうやろうかな」
何するかは決まったけど、どうやるかは決まってないんだよね。
考えてみれば、これも対象が無いと……って。
私は、口元に笑みを浮かべながら、近くに浮かぶ雲を見た。
「操作魔法の簡易魔法」
雲の元まで飛んでいき、雲の中に手を埋める。
「物質変換」
雲の物質を水滴からちょっと変えて、弾力を持たせ、柔らかくし、尚且つ軽さも交えて密集させる。
のが、物質変換なんだけど。
「なにこれ難しっ!」
さすが魔法の中でも一番難しいと言われる操作魔法。
けどなあ。
それより上の真読魔法を操る私からしてみれば、操作魔法なんてマスター出来てないといけなんだなあ。
魔力を集中。
目の前の雲の物質変換ではなく物質移動を行う。
詠唱はしない。あるにはあるんだけど、言葉を発して集中できないよりイメージに集中した方が効率的だ。
数分間、魔力を集中させる。
そして、ある結論に至った。
無理くね?
いや、これ物質を一から学ばないとできないって。それも魔力的な。地球の学校でやるような事じゃない事を。
魔力と物質の在り方。
こんなん地球じゃやらないでしょ。
無理と言う結論に至って、深く息を吐く。雲の上でゴロゴロしたかったのに。
肩を落としながら、何気なく眼下の城下町に目をやった。
そこはいつかの路地裏で、視線を所々に向けながら眺める。見慣れた景色を上から見るのは新鮮だーとか思いながら。
んで、そこで繰り広げられていたのは、見慣れこそしないものの、見覚えのある光景だった。
狐ちゃん、なんで男達に連れ去られそうになってるの?
閲覧ありがとうございます。
操作魔法は、『使うまでの段階を考慮すると』真読魔法より難しいです。
そして久々のミルヴィアの単独行動。
何も起きないわけがない。
次回、狐ちゃんを助けに参上。




