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75 種族

 少年には泊まってもらう事になった。狐ちゃんはどうせ寝てるだろうし、別に良いやと半ば諦めたように言ってたのを思い出す。

 二人への罰は夢の中で、レーヴィにやってもらう。

 ちなみに部屋割りは、少年が私の隣の部屋(かなり豪華な客室)で、エリアスはこの前と同じ部屋。ビサは遠慮しないでと言うと帰って行った。で、レーヴィはと言うと。


「いやいや、まさか今日会ったお主の部屋に寝泊まりする事となるとは、さすがの儂も考えんかったぞ」

「そだねー」


 レーヴィを一人にさせるとうっかり入って来たメイドさんが驚くって言う理由で、ここで寝る事になった。レーヴィは寝泊まりと言ってるけど、実質的にはこれからは毎日私の部屋で寝起きするので、居候って感じだ。

 うん、図々しい!


 それにベッドも一つだから、一緒に寝るんだよね。

 夢魔と言ってもレーヴィは夢魔(サキュバス)だし、危険はないんだけど。


 私達はさっとお風呂に入った後、私の部屋に来ていた。入浴シーン?カット。

 濡れた髪をタオルで拭きながら、レーヴィはドレッサーの前で鼻歌を歌っていた。よっぽどあのドレッサーが気に入ったらしい。


「そのドレッサーは自由に使って良いよ」

「言われなくともそのつもりじゃぞ!」

「おい」


 ちょっとは遠慮しろよ。

 そう思いつつも、ベッドにごろんと寝転がる。ベッドに水滴が吸い込まれてくのが見えたけど、後で乾かせば問題なし。

 私はベッドでゴロゴロしながら、レーヴィが鏡を見ながら髪を拭いてるのをじーっと見ていた。

 レーヴィ、お兄様の事相当嫌ってたなあ……。どうにもならないかなあ。


「何じゃ、無言で気持ちの悪い」

「ひどっ。いや、ね?レーヴィとお兄様、仲良くできないかなって」

「出来ぬな」


 結論早いなー。

 もっと考えた方が良いって、私思うよー。

 まあ、おふざけは置いといて。

 出来ないか。私としてはお兄様が罵倒されてるのはちょっと嫌なんだけど。


「では神楽よ、お主は血の旨味を知った吸血鬼を、吸血鬼として認めるのか?」

「んー」


 血の味を思い出す。

 あの甘さ、しつこさのないさっぱりした味わい。さらりとした液体が舌の上を滑って喉を潤し、胃に通って行く感覚。

 気付けば私は、舌なめずりしながらレーヴィの首筋をガン見していた。


「……それを答えとして受け取るとすればじゃな、神楽」

「はっ」


 正気に戻った。あぶねー、今にも齧り付くとこだった。

 レーヴィは髪を拭く手は止めずに、ドレッサーに置いてあった櫛で髪を梳かしていく。櫛は高級そうな牡丹の彫られた櫛で、それをさっさと使う辺りが遠慮のなさが徹底していた。


「夢に現れ精気を吸い性的な快楽を得、その上でその人物に好かれる。それは極上の味わいで、お主で言うところの血の味、人間で言うところのフルーツの味わいなのじゃ」

「なるほどねー」


 確かに、血の味知っといて血ぃ吸わないとか、私考えられないかも。

 ……やばいな、大分思考が吸血鬼に偏って来た。魔王としての自意識を確立しておきながら、吸血鬼としての思考もしていかないと。

 もしかして、夢魔であり狼男であるお兄様もこんな気持ちだったり?


「あの味は一度覚えれば忘れられん。あやつが忘れていると申すのなら、儂はあやつを軽蔑する。馬鹿馬鹿しい」

「あ、そこまでね。それ以上はちょっとキツイ」

「ああ、そうじゃったの、あやつを好いていたか、神楽は」

「ん、まあ」


 これ以上なく好きだと言いにくい雰囲気だよ……。

 それにしても、血を飲みたいなあ。さっき血の味思い出したせいで、喉が渇いてきた。いやまあ、喉が渇いたんなら水飲めよって話だけど。

 コク、と喉を鳴らす。その音に気付いたレーヴィが、くるりとこちらを向いた。

 そして、襟をクイと引っ張って首筋を見せる。


「飲みたいか」

「っ……いい。我慢する。ここで挫けたら後々大変な事になるから」

「そうかのう。禁欲は毒じゃよ、早めに開放してあげい」

「いかにも夢魔の言いそうな事ですねえ」


 てゆーか、幼女が幼女の首筋に噛み付いてる画って何?

 誰得?

 

 私はそばにあった水を呷って飲み干すと、渇きの癒えない喉を意識しながらレーヴィの首筋を見る。うわあ、我慢できない。


「……っ、やっぱり、」

「まあ神楽は和郎に吸わせてもらうとよいじゃろう。あやつの血も甘く美味いじゃろうよ」

「和郎?もしかしてユアン?」

「ん?そうじゃが?」

「……ユアンと呼んで」

「了解した」


 呼び名が多すぎる。

 まあお兄様は小僧、エリアスは小童、だっけ。それは別に良いか。和郎と言われても反応できる自信がない。っていうか何和郎って。どこの日本男児?あんな真っ青な髪した日本人居るわけないじゃん。


「ユアンの血は美味しいけど、ガッツリ吸った事はないからなー」

「ああ、飲まされておったの、口移しで(・・・・)

「うわあああやめてえええ黒歴史いいい!」


 ベッドに突っ伏してそう言うと、レーヴィがドレッサーを離れてポン、と肩に手を置いてくれた。何、と振り返ると、自信満々な顔でレーヴィが頷く。


「厳しい仕置きをするから、明日の朝を楽しみにしておれ」

「お願い!」


 手を握ってそう言うと、レーヴィがかかっと笑う。


 二人のお仕置き、すげーきつくしてもらったから、楽しみにしててね二人とも。

閲覧ありがとうございます。

小説の中での「人間で言うところのフルーツの味わい」というのはあくまでレーヴィの考えですので。思いつかなかったんですね、あの子。

次回、夜中・ユアン。

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