74 お弁当のワケ
屋敷内を一周して戻ってくると、お兄様とエリアスは三百四号室の椅子に座って向き合ったまま一歩も動いていなかった。逆にすごい。水取りに行ってもよさそうなのに。
「ただいま戻りました」
「いらっしゃい。じゃあ座ってね」
さて、ここで問題!
この場に居るのは私・エリアス・お兄様・ユアン・ビサ・少年・レーヴィの七人!
対して椅子は二脚のソファーが一脚!子供の私がソファーに座るとなれば、ソファーには後二人しか座れない!
さあ誰が座りる!?
「んじゃ俺が」
「儂が」
えー、結果的に言えば、椅子にお兄様とエリアスが隣同士で座って、私と少年とレーヴィの子供組がソファーに座った。ユアンとビサは立ってる。私より立場が下の人が立つらしいんだけど、だとすればレーヴィも立つべきなんだよね。でもレーヴィは真っ先に座っちゃったから。
遠慮を知らないらしい。
「えーっと、えー、私とレーヴィ以外は全員眠いと言うのが総意でしょうが……」
「まったくだ。私に関しては早く帰って寝たい」
「んん、それにしては目パッチリだね?」
「こいつが寝かさなかった」
エリアスが親指で隣を指す。お兄様がにっこりと笑った。なるほど、寝かせないためにずっと話してたわけだ。その内容が気になるところだけど、まあ今は置いとくか。
私は足を組むと、背凭れに体重を乗せる。それを見て、エリアスが目を細めた。
「魔王っぽいな」
「何それ。魔王だもん」
両者の間に、良く分からない緊張感があった。それに対して私は微笑み、レーヴィを見る。白髪を指で弄びながら、幼い顔に似合わない妖艶な雰囲気を漂わせていた。
大人になればいいのに(物理)。
レーヴィの真似をして髪を弄ってみると、レーヴィとは真逆の黒い髪が目に入った。あれ?
「レーヴィは魔力少ないの?」
「うむ、無いに等しいの。じゃがよく見てみぃ、体内の魔力は皆無じゃが、空気中に漂う魔力を従わせる力を持ち得ているのが魔獣じゃからの」
「空気中に漂う魔力」
それの可視化を実行すれば、イケるか……?レーヴィには魔力が見えてるのか?だとすればその見方を教われば直接操作も不可能じゃない?
いやいや、そうしたらレーヴィに私が魔力の直接操作をやろうとしてるってばれるじゃん。これはばれちゃいけないんだよねー。七歳までは封印してるとは言え叱られるのは目に見えてるし。
「まあ、魔力を操るのは知能のある儂みたいな『例外的種族』だけじゃから普通の魔獣は魔法は使えん」
「ふうん」
「まあ、魔石を動かすのは魔力じゃから、肉を食べて魔力を奪い補給するんじゃよ」
「ふうん……え?」
待て、今私の聞き間違いじゃなければ、相手から魔力を奪うとか言ってなかった?あれ?じゃあ私も怪我したから魔力奪われたりしてたわけ?
聞いてないけど。
じろっとエリアスを睨むと、ふいと顔を逸らされた。おい!
「じゃあ、あのお弁当って!」
「魔力を奪われたら腹が減るからな」
「どーりで皆よく食べると思ったら!」
どーりでユアンも遠慮なくぱくぱく食べてると思ったら!
どーりでおかしいと思ったら!
そう思ってエリアスを睨み付けていると、お兄様が落ち着かせようと声を掛けてきた。
「まあまあ、良いじゃないか。エリアスは不安にさせまいと」
「黙れ小僧、今はお主の喋る時間じゃない。お主は寝んと生きて行かれんのじゃろ?寝てはどうじゃ?」
「レーヴィ……」
お兄様が頬をかいて気まずそうにする。レーヴィ、かなりお兄様の事毛嫌いしてるよね。半端者、とか言ってたか。夢魔の中じゃ、狼男とのハーフなんてだめなのかな。
ふう、と息を吐いてから、レーヴィを宥めにかかる。
ったく、面倒なんだから。
「レーヴィ、ねえ、お兄様になんてこと言うの?」
「神楽、儂は」
「ねえ?」
睨みを利かせて言うと、レーヴィがぎゅっと唇を引き結んだ。
いや、さすがに種族間の事に文句とか言うつもりないし、お兄様は夢魔じゃないんだから夢魔の中で省かれようがどうだろうが私は構わないんだけど。
でもなあ。
お兄様が傷付くからなあ。
「お兄様を憎んでても嫌いでも大嫌いでも、私達の前でお兄様を罵倒するのは止めてね、悲しくなっちゃうから」
「……神楽がそう言うなら、従うが」
「おっけ、じゃあエリアス、続けよっか」
「何をだ?」
「この夢魔をどうするのかって話?」
レーヴィを指差しながら言うと、レーヴィは身を固くし、エリアスは目を細めた。さすがに、タダでこんな子を主従関係で居させてもらえるとかは思ってないよ。
エリアスは深い、それはそれは深いため息を吐き、トンと机を指で叩いた。
「お前はどうしたい?」
エリアスが聞いた相手は私じゃなくてレーヴィで、レーヴィは口を開かないままエリアスの出方を窺っていた。エリアスはまたため息を吐くと、次は私に問いかけてくる。
「こいつをどうするつもりだ」
「適度に制限掛けて自由にさせるつもりだけど」
「……適度に制限、の内容は?」
うーん、まだ詳しく決めてないんだよなあ。
出掛けるなとかはなしにしたい。やっぱり人権はないといけないし、精力供給もあった方が良いけど、そこは私の底なしの魔力で補って、となると。
「私に無断で外出しない」
「それだけか」
エリアスの目が鋭くなる。私はニコリと笑って応じると、説明しようと口を開いた。後ろでビサが居心地悪そうにしてるけど、ゴメンね、後でちゃんと話すんで。
にしてもレーヴィ、警戒されてんなあ。
「私、思うんだけど、レーヴィって元々規定内で生きてたんでしょ?警戒レベルは低めても問題ないと思うけど?」
「そうか?魔王の従僕になって、調子に乗ると言う事も有り得るが」
「そうかな?だとしたら私が責任取るけど。しないと私は信じてる」
「しないと言い切る事も出来ないだろう」
っあーしつこい!
なんなの、もっとスッと退いてくれてもいいじゃん。大丈夫だって言ってんだから。もしかして私信用されてないの?
いや、それはないか。いやでもどうだ、有り得なくもないんじゃないか?
エリアスが私を信じてると断言できる証拠もないし……。
あーっ!
苛々してて思考が逸れる!
ったくもう!
「分かったエリアス、じゃあレーヴィが人襲ったら、その度に一日ユアンに好き勝手させてやる!」
あ。
やば。
言っちゃった。
「……なら分かった、その誓い、守れよ」
「え、いや、違くて……」
「違くありませんよね、ミルヴィア様?」
「ユアンは黙、」
「まあ、ユアン、ミルヴィアから言ったんだから許すよ」
「お兄様!?」
「へーえ、お前、卒業すんのはええなあ」
「何を!?」
「師匠から言い出した事ですので、私は……」
「ビサまで!」
「ほほう、神楽、まああやつならば優しいじゃろ」
「あんたが何もしなけりゃ良いの!」
うわあああ!
こいつら失言したら逃さないつもりだ!
「じゃあ、神楽の貞操のためにも、何かするわけにいかないのう」
……まあ。
何はともあれ、レーヴィへの牽制にはなりそうだった。
「私は何かしてもいいんですけどねえ」
「お前は黙っとけ!」
閲覧ありがとうございます。
レーヴィは草食で少食なので、あまりガツガツは行きません。
次回、ミルヴィアとレーヴィの二人だけで話します。




