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7 トィートラッセ

 そういうわけで城下町を歩いてるわけなんだけど、すごく周りから見られてる。

 うん。

 まあね?

 ユアンさん目立つもん。だってさ、青い髪が帽子から出て見えていて、帽子の下から覗く目は綺麗な緑色。小奇麗なローブに幼女が側に居る帽子をかぶっていてもイケメン男性。

 気になるでしょ?私だったら凝視する。十人中十人が振り返ってる。ほぼ100%。


「目立ちますね」

「はい。皆さんミルヴィア様を見ています」

「ユアンさんでしょ」

「違いますよ」


 絶対ユアンさんだ。だって女性がぼーっとユアンさんに見惚れてた。

 目ー立ーつ―!

 悪目立ちしたくなかったのに!大人しく行動したかったのに!でも多分お兄様を連れて来ても同じ結果になってたと思うし!


「あの建物ってなんですか?」

「ああ、呪い矯正学校ですよ」

「は?」

 

 聞き間違いじゃなければ、呪い、とか言っていたような。

 いや、魔法があるんだから呪いがあってもあんまり驚かないけどさ。

 

「呪い矯正学校では呪われた人を直すのです。これがかなり難しく、聖魔法ですら出来かねます。自身の精神で打ち勝つ他ない、とても厄介な魔法です。あまり呪いを使える人が居ませんから、城下町に一つあるだけで、他の町にはありませんし、もちろん教師も少ない。だから、通えるのは高いお金が払える一握りの貴族だけです」

「年齢とかは」

「年齢制限はありません。五歳以上ならだれでも入学できます。年齢別で授業を受けますが」

「授業?」

「普通の学校です。ただストレスを減らし、呪いに関しての教養が多いだけです」

「へえ。呪いをする人ってどれくらい居るんですか?」

「かなり昔の部族に確か、呪いの部族というのが居たと思います。もう正式名称を憶えているのは、あの学校のクァーシー先生くらいでしょうか」

「ふうん?」


 クァーシー先生、ね。へーえ、ふーん。先生の事まで良くご存じで。


「あの学校にはよくラッドミストが出ると聞きます」

「ああ、霧状になって罠を潜り抜けるネズミですよね」

「は、ねずみ…?」

「い、いえ!忘れて下さい!」


 あっぶねー。こっちではネズミって認知されていないんだった。ふう。こういうので気を使うのは疲れちゃう。


「ネズミ…ですか。確か古文書に書かれていたような」

「嘘!どの古文書ですか!?」

「ええと、倉庫の中だったかと。魔女文字で書かれていました」

「魔女文字…?」


 魔女文字っていうのは、ほとんどカタカナみたいなもの。英語だと『apple』だけど、それを『アップル』って言ってるような感じ。つまり異国語。『もしかしたら(・・・・・・)』……異世界語。


「どんな古文書ですか?」

「古くて茶色い表紙の…表紙には魔女文字で『知られない生き物』と」

「ま、魔女文字になる前の発音を教えてください!」

「ええと、確か」


 『知られない生き物』


 そう発音したユアンさんの口の動き、発音の仕方、強弱の付け方は、紛れもなく日本語で。

 私一人が転生したという考えを覆すもので。

 そして、転生した人は同じく日本人だと言う事を意味していた。


「……」

「この魔女文字がどうか――って、ミルヴィア様!?お顔が真っ青ですよ!」

「え?ああ、う…ん」


 言いようのない不安感に駆られた。誰が書いたの?誰がそれを見たの?会いたい。誰が、誰が――?


「その本の著者は誰でしたか」

「R・T・Cと書かれていました」

「R・T・C…」


 知らない。魔女文字で書かれていたのか。それとも魔法文字だったのか。


 知らない方がよかったような気もする。知ってしまえば会いたくなる。日本の話をしたくなる。古文書の中には、魔女文字でびっしりとその人の言葉が掛かれているだろう。


「ま、魔女文字に翻訳される前の物って残ってますかね」

「んー、難しいでしょうね。大体はその時の魔王様が所有して魔王城の金庫に保管されていると思いますよ。それも随分前でしょうから残っているか分からないし…魔王様が死んでしまったら魔王様の荷物は燃やすのが普通ですしね」

「そうですか」


 残っていて。お願い。


 ずっと祈りながら歩いていたせいか、ユアンさんが止まったのに気付かず通り過ぎそうだった。


「っと、着きました。ここがトィートラッセです」


 顔を上げた。その瞬間、転生の事なんて頭から吹っ飛んだ。


 地下へ通じる階段は螺旋状になっていて、覗いてみると地中深くまで通じている。ところどころに窓みたいなのがあり、そこには商品らしきものが飾られていた。すべてが美しく、音色を奏でる物や、冷えた首飾りなど様々だ。

 

 すごい…綺麗…。


「初めて来るんですよね?トィートラッセはあまり知られないので本では確認できませんが、品揃えも良くとてもいいお店ですよ」

「高そうですね」

「はい、このオルゴールなら小銀貨十七枚でしょうか」

「は!?」


 この世界のお金は日本円にするとこうなってる。


『小銅貨・百円

 大銅貨・千円

 小銀貨・一万円

 大銀貨・十万円

 小金貨・百万円

 大金貨・千万円』


 つまり、小銀貨十七枚=十七万円。どっひゃー!オルゴールが十七万!高い!

 いや、綺麗な音色だしおかしくないとは思うけどさ。でも、そのオルゴールが盗まれるかもしれない店頭(?)に飾られてるって事はもっと高いのがあるって事だよね?


「じ、じゃあこの首飾りは」

「うーん、大銀貨五枚で足りるんじゃないでしょうか」

「…」


 聞きました?奥様。五十万ですって。それを臆さず触れるユアンさんって何者なんでしょうねえ。


「欲しいんでしたら買いますが…」

「要りません!まったく!ほんとに!要りませんから!財布を出さないでください!」

「はあ」


 財布を出そうとするユアンさんを止める。大銀貨五枚の物を普通に買えるって、どれだけ金持ちなんだこの人。


「そんな慌てずとも、お屋敷からは月大銀貨五枚をもらってます」


 …ん?

 月に大銀貨五枚?はあ!?


「月収五十万!」

「はい?」


 高い!これは高い!いくらなんでも高い!普通に自分で悪者を追っ払える魔王の護衛で、しかも安全安心魔族領での護衛だっていうのに、高い!しかも聞く限りじゃ衣食住揃えてもらって、その上剣まで支給されるのに、高い!


「…ぼ、ぼったくりました?」

「失礼な。私はむしろ値切りましたよ。カーティス様は月に小金貨を一枚くれようとしていたんですから」


 月収ひゃっくまっんえーん!


 じゃなーい!


「どうして!?」

「高めに出さないとちゃんと護衛をしないと思ったそうですよ。そんな心配なさらずとも、ちゃんと護衛は致します」

「お、お願いします」


 大銀貨五枚でも十分な月収だけどね?だって生活の一切を保証されてるんだよ?しかも自由付きだよ?しかもしかも、私すごくいい子よ?


 ずーっと下まで降りた時、ようやくドアが見えた。木で出来たごく普通のドアがあった。そのドアを軽くふれて開ける。キーイ、とあの家ではありえないような軋んだ音を立てながらドアが開いた。


「おーや、随分と若いお客様だこと」


 いたのは明らかに羊族と思われる角を生やした老婆だった。

 

 中には色とりどりのチャームやグラスなどの雑貨が並んでいた。天井からは手のひらで握れるくらいのいろんな透明な入れ物がぶら下がっていた。

 なんだろう、あれ。


「うん?その坊やはラットス坊やの息子だね?大きくなったね」

「どうも、トィーチ様。今日はミルヴィア様が魔導具を見たいと仰ったので」

「ミルヴィア…それが名か?」

「そう」


 とりあえず簡潔に済ます。敬語がいいか、お父様達に向ける口調がいいか、まだ分からないからね。


「お前さん、目の色が真っ黒だね」

「トィーチ様、余計な探りは…」

「あんたは黙ってな、ラットスの呪いの息子!」


 呪いの息子…?

 ユアンさんは私を気にしながら口を閉ざした。顔が微妙に青ざめている。


「お前さん、そこのお前だよ」

「私はミルヴィア。それ以外は私じゃない」

「…ミルヴィア。帽子を取って、髪ゴムを解きな」

「嫌」

「解くんだよ。私の言う事が聞けないのかい」

「ミルヴィア様、トィーチ様の仰る事をお聞きください」

「私に命令する存在は許さない」


 半分嘘。命令されるのが気に食わないのは本当だけど、この人が怒ったらどうなるかも気になる。魔法という手段に出るのかどうか。


「そうかい。では」


 いきなり、店の中に不協和音が響く。わんわんと頭に残る嫌な音。

 何この音。超音波?何かが揺さぶられてる感覚。

 

「その嬢ちゃんの髪ゴムを解きな」

「…ぐ」


 ユアンさんが苦しそうな声を出す。その目がゆらゆらと空中を見つめる。

 

 …あー、これ、あれだ。お兄様が自分を見失いかけてる時の目だ。ユアンさん、何かされたんだね。


「ユアンさん」

「ぐ、痛い、」

「ほら、髪ゴムを解くだけで自由になれる。もし解かなければ、その仕打ちを嬢ちゃんにもしてやるよ」

「!」


 ユアンさんの目がカッと開かれる。

 

 うん、お兄様が完全に狼男兼夢魔(インキュバス)になった時の目だ。まずい。こんな狭い室内で魔法使って物を壊して賠償請求されたくない。

 

 ヒュッと何かが振られる。


 やられる!?


 まさか本当に斬られると思わなかったのに、長剣が振られた。さっと避けるも、次が来る。


「ユアンさん!やめて、うわっ!?」

 

 ヒュン!

 

 姿勢を崩して最後の一押しが振られる。それは私の頭を掠め、次の瞬間私の肩に髪が当たる感触があった。

 

「黒目黒髪、お前さんは魔力の強さはどこで表されるか知っているのかい」

「知らない」

「目の色と髪の色だよ。色が濃ければ魔力も濃い。分かるかい?」

「あなたの魔法は羊族の固有魔法(ユニークマジック)、『錯乱』?」

「分かるかどうか聞いてんだ。質問には答えな」

「正解。なら魔力の強さの話。今代の勇者は?」

「白だね。魔力ゼロ。ただし剣術は物凄くうまいらしいよ」

「そう」


 とにかく、ユアンさんを元に戻さないといけないな。右手をユアンさんの胸に当てる。直接触れた方がやりやすいから。


「悪しき意識よ振り払われろ、貴方(きほう)の意識よ自我を保て」


 ユアンさんの目が、いつものパッとした綺麗な目になった。私、もしかして正気に戻す魔法得意なのかな?


「すみません、ミルヴィア様。つい意識に飲み込まれました」

「別に良いですよ」

「あんたが欲しい物は?」

 

 トィーチ?さんが言ってくる。私は口を開いた。

 

「情報。呪いの事、勇者の事、魔導具の事」

「了解した。呪いの事は雑談で済まそう。勇者の事は大銀貨三枚だ。魔導具の事は一個買ってもらうのが良いだろうね。その上でその商品の説明をしよう」

「はい」

「まずは呪いだね?」

 

 好奇心から質問すると、トィーチさんが話し始めてくれた。

閲覧ありがとうございます。


補足です。トィートラッセはほとんど何でも売ってます。物、情報、人間関係、等々。ミルヴィアはトィーチの様子からそれを察しました。


次回、呪いの説明回です。


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