73 案内人
「じゃあ、俺は帰」
「お仕置きがまだだから帰らせない」
「はあ!?」
少年はまだ帰っちゃだめです。
エリアスも泊まってくみたいだしね。
それにしても目がパッチリ。やっぱり吸血したからかな?いつもより元気な気がする。
クイ
「ん?」
「神楽よ、このデカイ屋敷を歩きたいぞ。良いかの?良いかの?」
「えー」
レーヴィが上目使いで頼んでくる。目がキラキラしてて、ホントに期待してた。どうしよう、一人で歩かせたら『魅惑』振り撒いちゃう気がするし、私も行くか。
「私も付いてっていいならいいよ」
「うむ、了解した。案内してくれ!」
「いいよー」
私もあんまり詳しくないんだけどね。
というわけで、私・レーヴィ・ユアン・ビサ・少年のグループで、屋敷内を見て回る事になった。お兄様とエリアスは積もる話があるらしく、待ってると言ってた。
「てゆーか、ビサもう帰っていいんだよ?」
「いえ……その、皆さん居るのに私だけ帰るのは……」
「あ~……ごめん察してあげられなくて……」
そりゃ帰りづらいわな。あれだ、会社で先輩が残業してる中々帰れないみたいな(会社行った事無いけど)。
三百四号室はもういいか。じゃあ次――
「後は小部屋しかない!」
「嘘じゃろ!?」
「じゃあまあ屋敷内ぶらぶらして……ああ、魔導具部屋は行けないか。あとは庭かな?庭は結構きれいだし。まあ先に一番近い私の部屋行く?」
「師匠の部屋ですか!?」
ビサが食いついてきた。食いついてきた割には遠慮がちに視線をさ迷わせてた。気まずいの?何故に?と思ったけど、もしかしてオンナノコの部屋だから?
いやいやいやいや……そんな男の子っぽいのはビサだけだよ。ユアンもエリアスもお兄様もずかずか入って来るよ。
「いいじゃん、来なって」
「そうですか?」
遠慮はいいよーと言いながら、私の部屋に向かう。少年は何でもなさそうな顔してたけど、耳が薄ら赤くなってるのを私は見逃さない。
こういう初心なトコ、可愛いよねー。
私の部屋に着くと、まずはレーヴィが反応した。
正確には、何人も寝転がれそうな、ベッドに反応した。
「ほほう、このベッドに寝転んだ人数を教えてもらえるかのう」
「人数?」
えーと。
私でしょ?あとは……じゃなくて!
「私だけだし!ていうか何その聞き方!オヤジ臭い!」
「じゃが、儂の嗅覚は鋭いぞ?あと一人は寝転がっておろう」
「えー」
誰?
お兄様は違うでしょ、エリアスも。ユアンも違うし、あれ?
「ああ、ユアンか」
真っ先にビサが反応し、次に少年がヒュー、と口笛を吹き、レーヴィが面白そうに笑った。違うよ?そういう意味と違うよ?
あれは確か、買い出しの時だったか。蹴りを入れた時、ユアンが倒れたんだよね。その時ベッドに横たわったから、多分あれの事言ってるんじゃないかな?
それを伝えると、皆面白くなさそうに唇を尖らせた。ビサだけはほっとしたような表情だったけど。師匠が恋するとなるとそんなに不安か?
「このドレッサーは使っとらんのか?」
「うん。使う必要ないし」
「ふん、妬ましい限りじゃ」
私は子供だからというつもりで言ったのに、レーヴィはジト目で見てきた。それから私の全身舐めまわすように見て、はあと息を吐く。
「この体じゃない時は、使わしてもらうかのう」
「いいけど、ちゃんと片付けてよね」
そっか、大人の姿になったらお化粧するのか。
羨ましいな。前世じゃ一回もやった事無かったし、大人になったらやってみようかな?幸い最高級の化粧品は揃ってるみたいだし。
「ふむ、ここは堪能した。次じゃ!」
「はいはい」
なんか口調と相俟って、レーヴィの方が魔王っぽいんだけど?
次はそうだな、ユアンの部屋か。
「というわけでユアン、案内して」
「私の部屋ですか?」
ユアンは心底驚いたようで、少し考えてから首を振った。
なんで?ねえなんで?私の部屋にはずかずか入って来といて、あんたの部屋には入れないとでも?
「私の部屋は雑多ですから……ミルヴィア様の入るようなところではありません」
「んー」
使用人の部屋はだめとか、そういう事?
じゃあしょうがないなあ、ユアンに案内してもらいたかったんだけど。写真とかあるのかなー、家族の。
「まあ一応、どっち方向?」
「西側です」
「よっしゃ行こう!」
西!西はこっちだね!
私が駆けだすと、皆よし来たとばかりに走り出す。ユアンは反応が遅れたけど、私は羽を生やして飛び回った。するとまあびっくり、何と言う事でしょう!
ユアンという札が掛かった部屋が目の前に!
……私の方向感覚すげえな……。
「もっと派手かと思っとったが」
「ほー、見かけに似合わず地味」
「ここは大人し目の部屋ですね」
「ユアンの部屋意外と地味だね」
「皆さん言いたい放題ですねえ」
木で出来た扉、中は机と椅子、ベッドに窓が一つ。小さ目の本棚には専門書(何のかは分からない)が並んでいて、写真も無ければ生活感もない部屋だった。
つまんない。
「ていうか全然雑多じゃない。物が一切ない」
「……」
ユアンが気まずそうに視線を逸らす。全然いいんだけどね。来てほしくなかっただけだろうし。まあ私は来たかったから来たけどね!
私はユアンのベッドに腰掛ける。ギシ、とスプリングが鳴る。
ふーん、私の部屋のベッドよりかは固いのか。
「……」
「何、皆無言で」
皆が信じられないと言うような表情で見てたので聞いてみると、少年が答えてくれた。
「さっきキスした相手のベッド座るとか、信じらんねー」
「だってビサ居るし」
ビサが居るなら守ってもらえるでしょ?
そう思って笑うと、皆が呆れたようにため息。
つーか私も自衛くらい出来るし、もしもの時は叫んでお兄様に来てもらうから危険じゃないんだけどね?
「何よりユアンはそこまでしない」
「信頼してっとさっきみてえな事やられるぜ?」
「それは否定しないけど、ユアン、やらないよね?」
「……やりませんよ、アイルズ様じゃないので」
「アイルズはやるのかー」
アイルズ、ね。
ちょっと気になるな。レーヴィが『魅惑』全開にしてたら、あいつ、揺らぐのかな?うわあ、すごい気になる。うわー、今度実験してみなきゃ!
でもそこまでやるアイルズって、相当なロリコンじゃん。
「どっちにしろ、そのアイルズとやらにも会ってみたいの。神楽が許可してくれるんじゃったら、夢に侵入してやりたいものじゃ」
「なにをやるの」
私達はユアンの部屋を出ると、次は厨房に行った後、庭に行った。
レーヴィは庭を見ると、感激して泣き出した。
そう、泣き出したのだよこいつ。
「儂が夢にまで見た庭園じゃ!ここ、誓いを立てたりするのにピッタリじゃな!」
ユアンが誓い立てたよ、とか言ったらますます泣きそうだったので何も言わなかった。ソッカー、ソウダネーとか言っただけ。
「じゃあ、今度コナー君と会ってみたら?『魅惑』オフね」
「庭師か!会ってみたいのう!今度朝に起きれたら、会っう事にするかの!」
「そうだね、そうしてみたら?」
月が沈みかけ、朝露に濡れた庭は、確かに神秘的だった。
閲覧ありがとうございます。
ユアンの部屋は参考程度に。これから出るかはわかりません。
次回、エリアスとの話です。




