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特別編 笑

 ふむ。

 あの少女、夢魔退治には失敗すると皆踏んでたのですが、見事やり切ったようですね。それにしてもスムーズに行きましたこと。やはり事前の接触が鍵だったのでしょうか。未来と言うのはどこまでも変わる者ですからね。

 おそらく事前の接触が無ければ、一触即発の事態になって吸血鬼化した時に負けが確定した事でしょう。それは兄の手柄でもありますが、あれもあの子が引き起こした事態なのですから、あの子の手柄とも言えるでしょう。


 何より、あの吸血鬼化の解除方法、あれを見た時は面白かったですね。笑いました。どちらかと言うと苦笑でしたが、ファーストキスをあの場で奪われてしまっては、彼女も怒るでしょう。

 ゾーロはあの青髪の子を許さないでしょうけれど。


「もしや、今俺の事を考えてはいなかったか?」

「!」

 

 後ろから聞こえてきた声に、私は振り返りました。

 私の空間は常に雪が降っていて、私はその中心でいつも経って考えごとをしているのですが、その中に無遠慮に踏み込んでくるのは番兵のクーストースと、


「神楽関連の事で話がある」


 ゾーロくらいでしょう。


 ゾーロ。

 九つの尾を持ち、トワルを魅了した、私と共に居る初期からの神です。

 容姿は金色の髪と目を持っています。服装は明るい色の半袖で白い肌を惜しみなく見せ、下だけは長ズボンでそれが妙に似合う男性。


 ゾーロは冬が苦手でしたね。雪は消しましょう。降り積もった雪は消せませんが、いずれ溶けるでしょうね。


「あの子の事ですね。ええいいですよ。ちょっと待っていてください」


 椅子二つとテーブル、その上に温かい紅茶を出します。そこに腰掛けるよう促すと、ゾーロは無遠慮に座りました。本当、無遠慮の象徴みたいな神です。

 私も座ると、話題を開始します。

 あの子に関して。


「手短に言う、あちらの世界へ行く方法を教えてくれ」


 本当に手短ですね。

 そう思いながらも、紅茶を啜りました。体が芯から温まって、寒いのを忘れそうです。


「……随分短絡的ですが、それはどうしてです?」

「決まっているだろう、神楽に会うためだ。知っているんだろう、あちらに行く方法は」

「もちろんです、私の仕事は種族を絶えさせない事ですから」

「なら教えてくれ、神楽に会う方法を」


 なるほど切羽詰まっていると見えますね。あの青髪の子がキスをしたからでしょう。あの子ならあれだけで恋に落ちかねませんし、切羽詰まるのも無理はありませんが。


「ですがゾーロ、トワルはどうするのですか?トワルははゾーロが居ないとなると、あなたの想い人を無限に攻撃しかねませんよ?」

「そんなのお前がさせなければいい」

「無茶を言いますね。私だって忙しいのですよ?」


 ため息を吐きつつそう言うと、ゾーロの表情がいよいよ余裕のないものに変わりました。ああ、そうでした。ゾーロを救ったのはあの子でしたね。


『私は道標なんて立ててあげない。怪我したあなたを背負ってもあげない。ただ』


「一緒に居てあげる……でしたっけ」

「蒸し返すな、その言葉を真に受けてる自分に嫌気が差す」

「その言葉を他の人に言ってほしくないんでしょう?」


 ゾーロの愛は本物だと思います。ですが神と人の恋はどう在っても成り得ず、彼は諦める他ないのです。それに、僅かな希望が合ってしまうから、彼は諦められずに求めてしまうのです。

 つくづく彼女は罪ですねえ。


「行きたいのでしたら、行けばいいのですよ。でもこれ以上登場人物が増えると読者さんが混乱してしまうので、せめて天界で会って下さい」

「なんだ、登場人物とか読者さんとか」

「いえいえ、まあそれらを置いておいても、世界が許容量を超えて爆発してしまう恐れがあるので、天界で会って下さい。その間世界がクールダウン出来ていいと思いますよ」


 世界は決められた容量があります。それを超えると、爆発したり、天変地異が起きるのです。いくら神の恋と言えど、民を犠牲にするなど絶対にだめです。だめ、絶対。


「そのためにはどうすればいい?」

「夢を使えばいいのではないですか?そのための魔法構築など、余裕でしょう?」

「まあ、余裕と言えば余裕だが、そうじゃない、そんな事をして神楽は平気なのか?」


 あくまで彼女の身を案じる。

 本当、トワルには見せられない素顔ですね。


「平気ですよ。彼女の身に負担はかかりません。それどころか神と接するのですから、ストレスが抹消されるでしょうね」

「あの時話した記憶は……蘇るのか?」

「ああ」


 この世界で過ごした記憶ですね。

 彼女は前にここへ来て、私達と『仲良く』なりました。それで神意を受けたのですから、恩恵はあるでしょう。そうですね、例えば、平和なところの王になる、とかですか。


「ええ、一時的にですがね」

「!」


 ゾーロの顔がぱあっと音がしそうなほど明るくなり、意を決したようでした。


「ですが、あなただけに会わせると言うわけにはいきませんねえ」

「……なんだと?」


 話が違うとばかりに睨み付けてくるゾーロを、にこりと笑って見ます。それでもゾーロからの殺気は止みませんでした。ふふ、怒らせてしまいましたかね?


「当たり前ではないですか。あの子がここに来るのですよ?ニフテリザもセプスも、クーストースも、ルスキニアだって会いたいでしょう。あの子は愛されているのですよ、分かってるでしょう?」

「愛されてばかりじゃあないだろう」

「そうですね、トワルと彩里には嫌われていますが」

 

 誰からも愛されるだなんて土台無理な話なのですよ。ですが気難しい神を味方に付けるあの子は、カリスマですね。

 ああでも。

 感情を操るのですから、当然ですか。


「もちろん私も会いたいですよ」

「二人きりは、無理か」

「いえ、こちらとあちらでは時間の流れが違いますし、それぞれがあの子と二人きりになれる時間は作れます。あの子にメロメロなのは、クーストースもですしね」

「あいつは親愛だ」

「ふふ、親みたいですしね」


 年齢的にはご先祖様に当たりそうなのですが。

 ゾーロも紅茶を喉に流します。少し余裕が出来たとみるべきでしょうか。


「いつだ」

「?」

「いつ、あちらと繋げてくれる」

「そうですね」


 色々イベントがある事ですし、少し先になりますが。

 そう前置きしてから、私は言いました。


「一か月ぐらいです――あちらの情勢が乱れなければ」


 それが一番、難しいのですけどね?

閲覧ありがとうございます。

神様の感覚での時間なのですが、一応神様とミルヴィアはいつか会います。

次回、レーヴィに屋敷の案内をしてあげます。

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