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72 集合

 道中誰とも会わずに帰れたのは、私達が無人ルートを選んだからだ。何故って、そりゃあ夢魔連れて街中歩けんわな。

 さっきはビサに煽られたけど、考えてみればどっちにしろ夢魔を連れて歩く事になるんだよね。さっきは混乱しててやっちゃった。

 そして道中、一番うるさかったのは夢魔だ。


「神楽神楽!あの建物は何じゃ!?でかいぞ!」

「冒険者がたくさん居るところ。ギルドって言うんだけど、」

「おおっ!何じゃあっちから良い匂いがするぞ!」

「聞いてないし……」


 っていうか訊いてたわけでもなさそうだった。

 屋敷に着くと、夢魔はきゃぴきゃぴと幼女の体を弾ませて喜んでいた。どうやら建物自体が珍しいらしく、中でも大きい屋敷に興奮したらしい。

 屋敷の中は誰にも見つからないようにこそこそ移動して、恐らく二人が居るであろう三百四号室に向かった。


 コンコン


「はい」


 ビンゴ。居た。中から聞こえてきたのはお兄様の声、かな?


「失礼します」

 

 一応言ってからドアを開けると、案の定エリアスとお兄様が本を開いて待っていた。二人からは疲れ気味の気配がする。

 ……ん?


「お兄様、寝ていないんですか?」

「まずは、挨拶」

「あ、はい、ただいま帰りました。……で、寝ていないんですか」


 眼光を鋭くして言うと、お兄様が苦笑する。

 うわー。


「寝ないとだめじゃないですか。また魔力が停滞しても文句言えませんよ」

「言うつもりはないよ」

「今は私の腕輪を貸してますけど、絶対じゃないんです。ちゃんと寝て下さいね!」

「夢魔……」


 全体的に、雰囲気が鋭いものへと変わる。ビサだけはなんだなんだときょろきょろしてたけど、大丈夫と意味を込めて視線をやると、落ち着いたようだった。本当に犬みたいだな。

 夢魔の方を見てみると、お兄様を見ながら笑っていた。いや、笑ってはいるんだけど、嫌いな相手を見る時に笑ってるみたいな感じだ。


「神楽よ、こやつは夢魔なのか?」

「一応ね」

「こやつ?夢魔?」


 ごめんビサ、後で説明する。

 ……あれ?段々お兄様の秘密を知ってる人が増えて行ってないか?あれ?これって私のせい?あれ?


「あなたは三百年生きた夢魔なのでしょう。僕からは敬愛の念を持ち接するしかありませんが、しかし……」

「うるさいぞ、黙れ小僧。儂のように長生きした者などいくらでも居るじゃろう。半端者め、儂はお主を夢魔として認めん。神楽」

「なに?」

「これは儂自身の感情じゃ、封じるかの?」

「別に、勝手にすれば?ただ、お兄様に危害を加えれば、ただじゃ済まさないけどね」

「そこまで嫌ってはおらぬよ」


 ほんとかな。すっげー殺気放ってんじゃん。ここに居る皆戦える人なんだから、殺気には敏感なんだよ?ビサだけだよ、オロオロしてるのは。

 

「……お前が夢魔か」

「そうじゃが……お主、霊魂族かの?」

「そうだ」


 夢魔が笑みを深くし、愉しそうに頷く。なんで?霊魂族がどうかしたの?

 まあ、突っ込んだ話は聞かないけどね。何故って?人にゃあ言えない事くらいあるでしょ。


「ところで、狐ちゃんは?どこ?」

「は?狐?無種族の?」

「ッ!」

「夢魔」

「了解した」


 少年が飛び掛かりそうになったので、夢魔に指示を出して止めさせる。具体的には、後ろから抱き着くようにしただけだけど、それだけで少年の動きが封じられる。同時に『魅惑』をオンにしたらしい。

 まったくもう、少年は焦ってばっかなんだから。


「無種族なんて呼ぶな!」


 絞り出したような叫びに、私も応援してあげたくなってきた。

 母性?

 

「嫌なんだってさ、エリアス」

「……だが、無種族狩りで家族を失った国民からは無種族は恨まれている。旧種族名で呼んだら刺されるぞ」


 平和な魔族領で刺されると言う単語が飛び出した。

 ん、お兄様、無種族って呼んでなかったよね?


「お兄様……」

「いやね?僕も人前では呼んでないよ?」


 ほんとですかあ?

 そう思いながら見ると、肩を竦められた。それも様になっていて、呆れたようにため息を吐く。夢魔が少年の拘束を解き、私の隣に来た。私達が同じくらいの背だから、友達みたいだけどそこは誤解しちゃいけない、主従関係だ。もちろん、ガッチガチに束縛するつもりはないけど。


「まあとりあえずエリアス、この子の前じゃ控えてあげて」

「……ああ」


 渋々と言った様子で頷いたエリアスは、話を修正した。


「で、狐がどうかしたか」

「居ないの?てっきりここで待ってると思ってた」


 周りを見渡しながら言う。確かに狐の尾っぽも耳も見えないし、何よりあの幼女見えないな。

 あれ。

 あれれ?

 私は五歳(精神年齢十八歳)、狐ちゃん四歳、夢魔五歳ロリババア

 見た目幼女ばっかじゃね!?


「あいつは多分寝床に居るよ。寝てるかどうかは半々だけど」

「絶対寝てないよあの子。絶対待ってるよあの子」

「だろーな。かと言って確率は半々、五分五分だぜ?寝たかったら寝るからな、あいつ」

「猫より気ままな狐」

「俺はもっと気ままだぜ?」


 想像出来ねえだろ、と少年が得意げに笑う。

 未だ殺気を放つ夢魔は、無種族という言葉に反応したようだった。それも、今この場では押さえてくれたけど。つくづく、見た目と行動の一致しない幼女だなあ。


「この世界では種族差別は少ない。が、無いわけじゃないんだ。まったく政府に協力的じゃない種族、排他的な種族など様々だからな。もちろん盗難・窃盗・暴行・殺害・強盗等は起きていない」

「エリアスって詳しいねー」

「常識だ」


 マジで?私も覚えなきゃいけないやつ?てゆーか、魔王だし帝王学とか学ばなきゃいけないんだよね?あ、やだ。うん、本能的に嫌だ。

 私が勝手に慄いていると、とうとう夢魔が口を開いた。


「のう神楽よ、そろそろ儂に名前を付けてくれんかの。名で縛るという言葉もあるのじゃ、儂も神楽にいつまでも幼女だとか夢魔だとか呼ばれたくないぞ」

「んー。じゃ、候補を」


 私がそう言うや否や、それぞれがそれぞれの候補を述べだした。


「ポチ」←少年

「タマ」←エリアス

「セーナ」←お兄様

「アリジオン」←ユアン

「クラード」←ビサ

「レーヴィ」←私


 ………。


「最初の二人がマジでやる気無い……」

「しょうがないだろ、どうでもいいんだから」


 ハモった。

 ちなみに真面目に答えた四人の由来を教えてもらうと、


「セーナは人魚族語で『扇情的な』という意味だよ」

「アリジオンはサーペント語で『愛欲』という意味です」

「クラードはウィンディーネ独自の言葉なのですが、『欲情』という意味です」

「レーヴィ」


 あ。やばい、言えないなコレ。

 ちなみにレーヴィはフランス語の『レーヴ』をちっと変えたもの。ずっと前に小説で見た単語を引っ張って来たんだけど、こりゃ言えんな。


「響き?」

「一番適当じゃねえか」

「少年ほどじゃないよ。ポチって何ポチって」

「猫の天敵は犬だろ?」

「違う気がする……」


 しかもポチが犬ってのは宇宙共通認識なの?

 んー、にしても、早く決めないとな。そうだなあ、何が良いかなー。


「いや、レーヴィで決まりだろう。飼い主が決めたんだから」

「え、候補言わせておいて?」


 そりゃあないでしょ。

 と思ったんだけど、皆の目がマジだった。エリアスに同感らしい。

 まあ、夢って意味だけどさあ。いいのかな。結構懸念するつもりだったんだけど。


「……じゃあ、レーヴィで」


 私がそう言うと、夢魔改めレーヴィは嬉しそうに頬を赤くした。

 

「なら、今から儂の名はレーヴィじゃ!皆の者、そう呼ぶがいい!」

「偉そうなんだよ!」


 私が言いたかった事を、少年が代弁してくれた。

 その代わりにレーヴィの眼光が鋭くなった気がするけど、気のせい。

 

 お仕置き酷くなっても、知らないよ?

閲覧ありがとうございます。

とりあえず、旧種族の方たちは無種族と呼ばれるのを嫌がるという認識で大丈夫です。

次回、特別編を挟みます。

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