表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/246

71 お説教


「それで、なんであんな事したのか教えてくれますかね?」


 私は仁王立ちしながら、引き攣った笑みを浮かべて正座中のユアンと少年を見下げていた。っつーか見限っていた。私の隣で気まずそうにもじもじしてるのはまだ眷属に成っていない夢魔少女。近くで寄ってくる魔獣をこちらを気にしながら退治しているビサ。


 夢魔少女とビサには何の罪もない。だけど、この痴れ者野郎と片棒を担いだ奴は許せん。


「黙ってないで何とか言ったら?まずは人に勝手にキスするヤツから」

「ミルヴィア様、あれは正当なる理由があります」

「じゃーそれを喋りゃあいいじゃんよ。私から何か言ってくるのを待ってんじゃない」

「まず、あの吸血鬼は血を求めていました」


 ユアンは少し焦った様子で言葉を綴る。

 へえ、それで?


「次に、精神的ショックから立ち直るには更なるショックを与えなければいけませんでした。どちらかを優先させてもだめです。吸血鬼は血を求めますし、吸血鬼はミルヴィア様に成り得ません」

「……」


 へえ?

 私はにこにこしながら二人を見る。ユアンはもう弁解の余地がないと悟ったらしい。


「すみませんでした」


 と、謝って来た。それに対して、私は、


「謝って済む問題だとでも思ってんの!?この夢魔さえ気まずそうにしてんのに!」


 夢魔が引くってどんだけだよ!

 そう思って地面を踏むと、そこら一帯が地割れした。あ、やばいやばい、後で戻しとかないと。少年は割れた地面を見て、震えながらも気丈に私の方を向いた。


「さっきより今のが強ぇんじゃねえかって思い始めたぜ」

「そりゃどうも。で、その痴れ者の行動に手を貸したあんたは、どういう釈明をするのかなあ?」

「いいと思ったからやった、それだけだ」

「いいと思ってんの、今も?」


 顔を近付け、氷魔法の『氷霧』で辺りの温度を下げながら問うと、少年はふいと顔を逸らした。おいコラ、逃げてんじゃねーぞ。


 ガンッ!


 私は近くにあった拳くらいの大きさがある石を踏んで、粉砕した。砂利になった石が辺りにばら撒かれる。とうとう少年も、覚悟を決めたらしい。


「悪かった」

「それで済む問題でもないけどね?で、夢魔さん」

「ハイッ!」


 一番怯えてるのはこの子らしく、肩を震わせながら目に涙を浮かべていた。それもまた欲情的で、男の人はそそられるんだろうなあと思う。私は殺気を解いて、少女、いやもう少女じゃないか、幼女の方を向く。


「幼女さん」

「幼女さん!?な、なんじゃ、三百年生きた儂を幼女と呼ぶのかの?」

「だって私の眷属に成るんでしょ」

「そうじゃが……ん!?もう儀式を始めるのかの?」

「まあ、そうだね、そうしようか。それであの後二人を嬲っていいよ」

「!」


 夢魔が嬉しそうにぴょこんと跳ねる。それとは相反して、痴れ者達の顔が蒼白になった。そんなに夢魔が嬉しいか。そうかそうか、喜んでもらえると私も嬉しいな。

 そういう意味を込めて微笑みかけると、ますます二人の顔が白くなる。


「師匠、『吸血』を始めるのですか?」

「うん、そうなんだけど……」


 言いながら、懸念を思い出す。


「魔獣って、血、ないよね?」

「神楽、無いわけでないぞ。不要だから流さんだけじゃ。わざわざ流して、そこらを血塗れにする事ないじゃろ?じゃから、流そうと思えば血は流せる」

「へー」


 魔獣、結構なんでもアリ?

 そう思いながら、幼女に後ろを向いてもらい、首筋に牙を当てる。

 う、なんか背徳的な絵柄だな。どうしよ、いいのかなあ。やっぱりお兄様とかエリアスが居るところでやった方が……やり方知らないし、あーでも、このまま街中を歩かせるのもだめなのか。

 ぐるぐる回る思考の中、バシッとビサが言った。


「早くしなければ、カーティス殿とエリアス殿が心配されますぞ」

「それは嫌!」


 心配なんてされてたまるもんか!

 そう思って牙を首筋に突き立てる。


「ああっ!」

「ふぁ?いひゃはっは?(え?痛かった?)」

「い、いや、い、いいのじゃ、す、済ませてくれい……っ!」

「???」


 血を吸う。甘美な味わいで、甘い味だった。例えるならそうだな、蜂蜜みたいな。

 でもいつまでも蜂蜜を吸ってたら飽きるし、血も飽きちゃったら嫌だから、渋々ながら牙を離す。そして、詠唱をするんだけど……まあわかんないわな、呪文なんて。だからオリジナルでいいんだと思う。


「周りに魅惑を振り撒く夢魔よ、ここに神楽の眷属と成る」

「つ、慎んでお受けするぞ、我が主よ」


 夢魔はふるふると震えながら、答えた。

 しばらくすると正気に戻ったようで、ふうっと息を吐いた。

 そして、魅惑的な笑顔で痴れ者達を振り返った。


「儂は神楽の眷属と成った。じゃから神楽の言の葉はすべて聞かなくてはいかんのじゃが、神楽よ、最初の命令は何ぞ?」

「こいつらを限界まで『労って』あげなさい」

「了解したぞ、主様よ」


 多分この二人、明日は無事じゃすまないんだろうなーと思いながら、私達は森の出口に向かって歩きはじめる。


 ……にしても、疲れてたけど、血を飲んだ途端緩和されたなあ。後でエリアスに詳しく聞く必要があるのかも。

閲覧ありがとうございます。

お説教と吸血回でした。お説教は次回もねちねちねちねち続きます。

次回、眷属と成った夢魔が皆とお話します。もちろんミルヴィアも居ます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ