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70 鬼化解除

 さて。

 男性は倒した。じゃあ誰の血を流す?

 あ。あの少年、傷治ってる。つまんないの。

 じゃあ誰にしよっかな。あの女の子は血の臭いがしないし。かと言って男性の血は流せないし。流したとしても美味しいとは思えないし。

 だとしたら今魔獣と戦ってる人って事になるんだろうけど、あの人はあの人で忙しそうだし。

 どーしよ。

 

 そうだ、魔法を使えばいいのかな。

 えーっと、やり方は。

 魔力を集中。造るのは暴風刃。これがかなりの破壊力を誇る。


 それを辺り一帯に発射する。え?そう、辺り一帯に。

 木が倒れ、少年と夢魔がしゃがみ、ギリギリ射程圏外に居た人が冷や汗をかく。

 血は……でない。

 

 結果に愕然としつつ、次の魔法を考える。氷風刃でもやってみようかな。

 氷の鋭い刃が付いた風魔法。今回は刃パレードにして見ようと思う。

 鋭い刃は半径三十メートルのものを一掃――のつもりだったのに、少年が防ぎきる。ただ、その反動で短剣を取り落した。でも、それだけでかすり傷一つ負っていない。

 わ、すごい。


「すごいね」

「お褒めに預かり、光栄だ!」

「おっと」


 でもさすがに短剣か。魔法派の人居ないのかなあ?

 そう思いながら、向かってくる少年を軽くあしらう。むう、素早さタイプか。私とは相性が悪いな。一瞬で決着付けるか?


「お主!」

「なんだ!」


 私が逡巡していると、女の子が少年に声を掛けた。


「そやつの攻撃を受けるでないぞ!攻撃が頬を掠れば血が出、ますます暴れるじゃろう!」

「チッ、難しい事言いやがって」

「そうだよね、難しいよね」


 なんだ、難しいんだ。弱いなら遠慮は要らない、かな?

 氷殺刃。さっきの氷風刃のもっと強い版。少年はそれが一瞬で生成されるのを見て、唇を噛んだ。


「お前、何だよ、最強かよッ!」

「最強だよ。吸血鬼だもん(・・・・・・)


 その言葉に若干違和感を覚えたけど、大した問題じゃない。氷殺刃を手のひらで弄び、欠伸を噛み殺しながら事に当たる。

 なんだろうな、私夜行性のはずなのに、眠い――徹夜でもしてたのかなあ。


 そこらへんの記憶の辻褄が合わない。ちぐはぐな感じがして、首を傾げる。

 なんだろう、なんなんだろう。どこか変だなって感じがするんだよなあ。


 頭ではそんな事を考えても、手は動いてた。

 氷殺刃は少年を左右から挟み込んでいた。それを、器用に高くジャンプして避ける。馬鹿だな、空中では身動きが取れないでしょうに。

 そう思いながら、距離を取って氷殺刃をもう一度投げる。

 馬鹿、なのは私だった。

 少年はにやりと笑うと、氷殺刃を捕まえた。


 宛ら二刀流のように氷殺刃を持ち、シャインと音を立てて二つを擦り合わせる。鋭かった刃がますます鋭くなり、目を細めた。

 ――嵌められちゃった。うん、ちょっとだけ面白い。


 でもまずいなあ、せっかく武器を落とさせてたのに、また武器を与えちゃった。

 魔力供給を打ち切っても、既に新しく少年から魔力を流してもらっている氷殺刃は消えない。消えないどころか、少年はありったけの魔力を注いでいるようだった。

 まあまあの魔力はあるんだ。でもいずれ底を尽くだろうし、早めに決着付けとかないと。


「悪ぃが、俺はお前みてえに無計画じゃねえよ!」

「!」


 その言葉にかちんと来た後、ものすごい速度で繰り出された氷殺刃での攻撃に、私は回避に専念する事になった。

 頭の中では理解出来ていても起きている現実は納得がいかない。

 どうして、なんで、どうやって。


 少年の髪色が一瞬にして真っ黒になり、目の色も真っ黒になった。そのままめまぐるしく色が変わる。そして定着したように真っ黒な色になり、少年の赤い舌が唇を舐めた。


「頭では理解出来てるって顔だなあ?そりゃあそうだろうよ、お前にゃあいつの知識なんざ無いんだろ?」

「何を」

「冷静だな。だけどな、俺の勝ちだ。お前の知らねえことを俺が知ってるって時点で、勝ちなんだよ!」


 それは極論じゃないか。

 そう思った。それも間違いじゃないだろう。実際私の知らない事は知らない事だしね。

 だけど違った。少年の言っている『知らない事』は、私が知らない事も知らない事だった。


「お前は魔王だ。ちげえかよ?魔王が国民虐めて、愉しいかねえ?」

「ッ!?」


 まおう。

 マオウ。

 魔王。


 頭の中で言葉が反芻する。理解できない、理解しないと、無理解が、苦しめる。


 魔王?私が?魔王って何?魔王って何の事?魔王って吸血鬼とは違うよね?魔王は私じゃないよね?魔王は私であって私では?魔王は吸血鬼じゃないよね?魔王は血を求めたりしないよね?魔王は私のように暴れないよね?魔王は大切な人が居るよね?魔王は私みたいに考えを巡らせるたりするの?


 ――――有り得ない有り得ない有り得ない。


「ま、おう」

「ハッ、いいなその顔。馬鹿らしくて似合ってるぜ?魔王なら全然似合わねえけどよ、吸血鬼、お前ならすげえ似合ってる」


 なんも知らねえ馬鹿にピッタリだ、と、少年は子供らしくない口調でそう言った。

 魔王吸血鬼魔王吸血鬼魔王吸血鬼魔王吸血鬼魔王吸血鬼魔王吸血鬼魔王吸血鬼魔王吸血鬼魔王吸血鬼魔王吸血鬼魔王吸血鬼魔王吸血鬼魔王吸血鬼魔王吸血鬼魔王吸血鬼魔王吸血鬼。

 キャパオーバー。

 私の視界は明滅し、存在が不確かなものとなる。

 だめだ、血を求めないと私は吸血鬼じゃなくなる。

 吸血鬼で在るために。

 吸血鬼に成るために。

 

「悪いな魔王。ああいや、まだ吸血鬼か。こっから先は俺の領分だ、何とかさせてもらうぜ?俺の本業は悪人倒しだからな」

「私は悪人じゃ」

「悪人だよ、馬鹿。魔王じゃねえ吸血鬼は悪だぜ?」


 だから討伐なんてされんだ。

 少年は驚くほど単調な声で言った。何かと照らし合わせてるような声だった。

 だって、このままだと死ぬんだよ?このままだと貧血になるんだよ?

 分かってるの?ねえ、魔王が死んじゃうんだよ?魔王が不死であろうと、吸血鬼の特性としてそう言うのはあるんだから。


「ならば血を与えれば良いのでしょう」


 私の心を読んだような事を、男性は言った。その感覚は知っている。なんでだろ。


(おせ)ぇよ剣の一族、引っ張るのがどれだけ大変だったと思ってんだ」

「すみません」


 私は思いっきり後ずさった。吸血鬼は背中を見せない。その跳躍力を持って、後ろ向きに飛んだのだ。でも、そこまで行った時には男性は目の前に迫っていて。


「目、閉じてくださいよ」

「は!?」


 当然、言う通りになんて出来るはずもなく、私はむしろ目を見開いたままだった。男性の目が細められ、顔が近付く――唇が、触合う。


「!」


 ―――――――――!

 ………………………!?

 ~~~~~~~~~!?


 感覚に耐えきれず、男性を突き放そうともがく。というか飛んだ。羽を生やして、飛ぼうとした。でも飛べず、そして不意に入って来た甘い味にトロンとなる。

 あう。


 甘い。渇いた喉が癒える。空いたお腹が満たされていく。

 ああ、お腹がいっぱいだ。私の出番は終了で、代わらないといけない。


 そして、私はとうとう存在を失った。


「ッ!?バッ、ユアン!?」


 唐突に寝てたのに起こされた感覚に包まれ、最初に感じたのは甘い陶酔感と唇の感触だった。

 何やってんのよこいつっ!馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの!?

 

 思いっきり突き放し、暴風の刃を持って襲い掛かる。つーか反射的にね。


「馬鹿!吸血鬼だけじゃなく魔王も馬鹿なのか!?俺が必死こいて張った結界破ろうとすんじゃねー!」

「はあ!?」


 私は暴風刃を持ったまま、少年と突き飛ばされたままのユアンを睨み付けた。


 ユアンのロリコン!

※ユアンはロリコンじゃありません※


閲覧ありがとうございます。

今回で鬼化の回は終わりです。

次回、ユアン正座、少年正座、夢魔は気まずく立っています。

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