67 休憩
狼の群れを倒した後、私達は疲れたので木陰で休憩していた。
え、私?疲れてませんが何か?
全部ビサとユアンがやっちゃいましたが何か?
だってさー、私何かした方が良いかなって思ってうろうろしてたら終わってたんだもん。早すぎじゃない?もうちょっと時間掛けよーよ。結局リーダーが誰か分からないまま終わったし。
「大体さあ、私噛み付かれたぐらいじゃ全然平気だよ?ほら、もう治ってるし」
私は傷があったところを指差して言う。もう跡もなく治っている傷は、治癒魔法なく治ったものだ。吸血鬼の自然治癒力、恐るべし!
そこまで考えたところで、ビサがゆるゆると頭を振った。
「師匠が一瞬でも痛みを感じたのですから、殲滅させるに足る行いです」
「んな大げさな。ビサとの手合わせの最中、何回も私の事打って来たくせに。今さらだよ、今さら。ユアンだって、手ぇ出すなって言ったじゃん」
「直前、許可を頂きましたので」
「ほとんど脅しみたいなもんだけどね!」
なんなのあの恐怖!私ビサまで怖いって感じる事無いと思ってたのに。ビサとコナー君だけが安全だと思ってたのに、とうとうコナー君一人になっちゃったよ。
「ミルヴィア様のお手を煩わせるわけにはいきませんでしたので」
「あのくらいの狼の群れ、別に何とも……」
何とも無い、わけじゃないけどね。でもちょっとは頼って欲しいっていうか。
一人だけ仲間外れは寂しいじゃん。
ビサは買ったおむすびをもぐもぐと頬張っていた。そんなお腹減るの?
そう思いながらユアンもちびちびとおむすびを食べてるので、私も付き合いで食べてる。
「このおむすび美味しいね。何が入ってるんだろ」
「この味はヨードーの種ですね。混ぜられているので、ほんのり赤いでしょう」
「んー、そう?良く分かんないや」
『視界良好』オンにしてるのになあ。やっぱ調子悪いのか。
はむはむとおむすびを食べてると、また狼らしきものの気配が伝わってきた。ビサとユアンも気付いたようで、臨戦態勢になっていた。早い……。
ちょっと呆れながら、一気におむすびを食べ切る。次は私にやらせてくれないかなあ。あ、だめですよねすんません。
二人の真剣な目を見て、任せる事に決める。
「まったく、ちょっとは休めば?」
「いえいえ、師匠、狼共を蹴散らす機会は逃すべきではありませんよ」
「恨みが深い……」
大した怪我じゃなかったのになー。
新しいおむすびに手を付けながら、二人の戦い様を見守る。あーやりてー。
十匹の群れを殲滅させると、私は土魔法で周りの土を集めて埋めた。せめて安らかに眠れ。
……この祈りも魂のない魔獣に関しては無意味と分かると虚しいけど、罪悪感が薄れる気がするし、良いでしょ。
終わって戻ってきた二人に、お疲れーと軽く言う。
「にしても、肝心の獲物が全然出てこないけど。二人とも、気配ある?」
「無いですね。獣の気配もすっかり失せましたし」
「あんだけ戦えばね!」
多分周りの獣も怖気付いちゃってんだよ。強い狼をあそこまで叩きのめしたんだし。そうじゃなくてもマンティコア倒したしね。やっぱりあれはここらへんのボスでしょ。それを倒したって、武勇伝だよ?ビサも頑張ってたし、何より怪我無く終われたって凄すぎる。
もうお腹いっぱいだな。大きいおむすび二つも食べりゃあ五歳児には十分か。
とは言え疲れたなあ。何がって、二人の剣舞はすごすぎてため息が出る。劇を見てる気分だった――やられていった狼達の事を考えたら、不謹慎極まりないけど。
「はい終わり終わり、進もうよ」
「師匠、失礼ながらあと少し」
「ん、何、疲れた?」
「はい……」
「ふうん」
まあ、疲れるか。
ビサはまたおむすびに手を付けて、ぱくぱくと食べる。ユアンも食べてるところを見ると、結構疲れたらしい。なんでだろう……まあ、ユアンも疲れるか。
「ミルヴィア様は疲れていませんか?」
「いや、全然?ちょっとお腹減ってたけど、さっき食べたから今はもうお腹いっぱい」
そういや、どうしてお腹減ってたんだろう。ああ、ここまで歩いて疲れたからか。森まで距離あったし、緊張もしてたし。
「ところでミルヴィア様」
「うん?」
「後ろを」
「後ろ?」
ユアンに言われて後ろを向く。何があるんだろう、って……
「やあ、剣の一族さん、魔王。奇遇だな、こんなところで会うなんて」
「ッ……」
「そうだ魔王、こないだは妹が世話になった。その点に関しては礼を言うし、手ぇ貸してくれるって点に関しちゃしてやったりと思ってるぜ」
「しょ、しょ……」
頭の上にチョコンとのった耳。
しゅるりと細い尻尾。
あんた……ッ!
「少年!」
私が叫ぶと、少年は悪戯っぽくにやりと笑った。
「夢魔退治、早速手伝ってもらうぜ?」
閲覧ありがとうございます。
少年出ました。最後の台詞に関しては、次回明らかになります。
次回、少年と歩きます。




