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6 護衛と城下町へ

 う。

 頭痛い。割れそう。グラッグラする。

 嫌な夢だったな。夢に出てきた青髪の男性誰なんだろう。


「お目覚めですか?ミルヴィア様」


 聞き覚えのある、静かな声に目を開ける。朝日が窓から差し込んでいて、私の横には夢に出てきた男性。


「ぎゃあああ!」


 私はベッドの上で出来うる限り後ずさった…って広っ!滅茶苦茶男性が遠いんだけど。ベッドのマットレスはふわふわだし、毛布も羽みたいに軽い。安眠出来てたわけだ。

 

 あれ?あれ?夢じゃないの?私、もしかして現実で石飛ばして弾かれた?


「あ、あなた、もしかして、私の石弾いた人ですか?」

「そうです。憶えていたんですね。剣の柄で気絶させたので憶えているかどうか分からなかったんですけど」

「…」

 

 この人は、強い。剣だけだったら、絶対私に勝つ。接近戦だったら、負ける。お兄様には魔法で負ける。この人には剣で負ける。だったら?


「昨日は暴走しかけたところ、止めて下さりありがとうございます」

「おや」


 意外そうな声を出す男性。私はそろそろと後ずさった距離を戻った。やっぱり広い…キングサイズのベッド二つ分…。一人用が…逆に空しい…。


「怒っているかと思ったんですが、カーティス様が仰っていた事は本当のようですね」

「お兄様が言っていた事?」

「強い人を好むと、嫌われたかと懸念する私に言って下さったのです」

「ああ…」


 あの二匹が弱いって言ったからか?どうしてそうなった?

 

 間違ってないけど。


「そうですか。で、あなた誰です」

「カーティス様から聞いていませんか?」

「何も」


 私に言われてもな。お兄様、ほとんど何も教えてくれなかったし。


「私は魔王様の護衛を務めさせて頂く事になりました、ユアンと申します」

「ユアンさん」

「護衛ですから、ユアンで結構です」

「いえ、ユアンさんで。…カッコイイですね」

「…」


 ユアンさんは笑ったまま動かない。

 もしかして、自覚あります?言われすぎちゃって慣れましたパターンですか?


 私は自分の格好を見た。柔らかい生地のパジャマ。


「あの、この格好って?」

「エレナさんが着替えさせていましたよ」

「ああ」


 ユアンさんとかお兄様じゃなくてよかった。


 うん、護衛ね。護衛。そりゃ、公爵令嬢で魔王なら護衛くらい付くか。私以上に強そうだし。なんていうか、あの私との戦いの場面で普通に喋れる辺り、私の石攻撃に関しては(・・・・・・・・)、ユアンさんの方がお兄様より防ぎやすい。

 私の普通の魔法なら、お兄様が防げる。私の魔法を通した物理なら、ユアンさんが防げる。本当に相性がいいのはこの二人か。


「これからはどこへ行くにもお供させて頂きます。ミルヴィア様…いえ、魔王様の方がいいでしょうか」

「いやホントミルヴィアにしてください」

「はい、では、ミルヴィア様。今日のご予定をお伺いしても?」

「予定…?」

「はい」

「えー、あー、うーん」


 何にも考えてなかった。魔王って何してればいいんだ?政務?副官とか居ないわけ?


「あの、副官とか居るんですか」

「居ますよ。ミルヴィア様が八歳になれば会えます」

「そうですか」

 

 つまり、八歳までは自由にしろ、と。


 困ったな。本読むとか。いや、もう昨日粗方読んじゃったから読みたいのほとんどないんだよね。べんきょ…嫌。やめておこう。どうしてとかじゃなく、気持ちの問題。かといって何もしないのもなんだし、どこか遊びに行くか。


「ここって城下町ですか」

「はい。城下町アシュタンブルドです」

「じゃあ、遊びに行きたいです!」


 右手を挙げて頼む。


 やった!城下町!本屋あるかな!?物語も欲しい!あの部屋にあったのは、図鑑とか魔法、魔物、種族の事を書かれた物ばかりだった。

 あっ、それと魔導具も造ってみたい。じゃあ魔導具屋とかにも行こうかな。

 いろんなところに行ってみたい。


「早速着替えないとですね!ユアンさんも!」

「はい?ミルヴィア様は部屋着ですから着替えるとして、どうして私まで…?」

「絶対目立ちます。悪目立ちはしたくないんです」

「でしたらミルヴィア様の黒髪でもうアウトだと思いますよ。黒髪黒目の方はこの世界にはほとんどいませんから」

「え、そうなんですか?」

「万智鶴様以来じゃないでしょうか」

「へー」


 珍しいんだ。


「じゃあ、結っておきます。髪ゴムとかあります?」

「どうぞ」

 

 ユアンさんは自分の髪を縛っていたゴムを渡した。主人に護衛のを渡すってどうなんだ?私はすごく嬉しいけど。はらりと縛っていた髪が落ちる。短髪だけど、伸びてたらしい。少しだけ結んでいた。気付かなかったけど。


「ありがとうございます」


 長い黒髪をお団子に結う。さらさらしてるから、結びにくい。結び終わると一つ頷いた。


 ん?


 ユアンさんがじっと見てる。

 イケメンにそんな見られると、照れちゃう(はあと)


「美しい、ですね」

「は?」

「あなたが」


 何言ってんの、このイケメン?

 仮にも主にそういう感情抱いていいんですかー?


「ありがとうございます」


 今ならまだ間に合う。お世辞として受け取っておくから、引き下がりたまえ。

 ね、お願いだから引き下がってよ。

 そんなにうっとりした目で見ないでくれよー!

 

「あ、あの、そこまで凝視しないでもらえますか…?」

「ああ、すみません。つい」


 コンコン


「はい…お兄様!」

 

 扉を開けたお兄様が立っていた。いつから見てたんだろう。それに、笑ってる。

 笑ってるのに、笑顔が黒い……。

 

「ユアン、あまり妹に近付かないでくれるかな?」

「カーティス様、ミルヴィア様は注意を受けておりません。契約書に、ミルヴィア様からの指示以外受けないと明記してあったはずですよ」

「だからお願いをしてるんだ。僕が民間人の君に(・・・・・・・・)。ね?」


 お兄様!笑顔がめちゃくちゃ怖いです! 


「お、お兄様、私は平気で…」

「ミルヴィアは黙ってて?」

「はい!」


 逆らいません!私は大人しいお兄様の妹ですから!

 

 そして、ユアンさん!

 あなたの笑顔も十分黒いですよ!二人の間に火花が散っているのは私の幻覚でしょうか?


「ミルヴィア、城下町に行くんでしょ?」

「はい」

「じゃあ、僕も行こうかな」

「カーティス様には来て頂かなくて大丈夫です。政務も有るでしょう」

「可愛い妹のためなら、政務くらい一晩でやってみせるよ」

「いえ、結構です。私だけで守れますので」

「はは、遠慮しないで」


 さっきから二人の間からピシピシと音がする。多分何かしらに亀裂が入ってる音だと思う。怖すぎる。大人しい私は影のように存在感を消しています。


「カーティス様はミルヴィア様を美しいとは思わないのですか」

「可愛いとは思うよ?妹だしね。だけど、妹に近付くのは許せないかな」

「護衛なのですから近付くのは当然でしょう」

「そういった意味じゃないよね?」


 怖い。いったい何が二人を突き動かしてるんだか…え、私?違うよ?私こんなのしろなんて言ってないよ。

 でも、二人の本性が分かった気がする。


 お兄様は、シスコンお兄様。

 ユアンさんは、少し腹黒幼女好き。


 ふふふ。本好きにはたまらない本性だね♪ユアンさんの幼女好きに関しては予想だけど。変態なんてあの爽やかな笑顔に似合わない言葉ですこと。

 これ以上この空気に耐えられないので、言ってみよう。

 

「お兄様、私はユアンさんと二人で大丈夫です」

「ミルヴィア、でも」

「明日はお兄様と私でお出掛けしましょう。今日中に明日の仕事も終えられたら、ですけど」

「…」

「あ、無理、ですよね。ごめんなさい」

「やる」

「え」

「絶対やる。ユアン、妹に何かしないでよ」

「ミルヴィア様が拒絶なさるなら」

「ミルヴィア、絶対に拒絶してね」

「え、はい…」


 よし成功。絶対拒絶しろと言われるのは想定外だけど。よほどユアンさんが嫌いなのかな?


 お兄様が出て行くと、ユアンさんがいつも通りの笑顔を見せた。


「ありがとうございます。カーティス様は私を毛嫌いなさっているようで」

「どうして?」

「私がミルヴィア様の護衛に名乗りを上げたからでしょうか。私が言わなければ、カーティス様が護衛を務める事になっていたようですし」

「あれ、指名されたんじゃなくて名乗りを上げたんですか」

「はい。ミルヴィア様は小さい頃から見ていて、とても綺麗な方だと思っていました」

「え!?」


 綺麗!?

 私が!?


「冗談はやめて下さい」


 私前世とほとんど容姿変わらないんですよー?綺麗なわけないじゃないですか。年齢=彼氏いない歴だったんだから。


「冗談じゃありませんよ?」

「はいはい、ありがとうござます」

「本気にしてないでしょう」

「いいから準備しましょう。その騎士の格好じゃものすごく目立ちます。旅人っぽい格好に着替えて下さい」

「はあ、でも」

「いいから!ほらほら。それとも、ファッションセンスに自信ありませんか?」

「いえ」


 ムッとしたようにユアンさんが言った。よし、煽り作戦成功!負けず嫌いなのか。

 私とユアンさんは着替えに衣装室へ向かった。

 

 

 ――しばらくお待ちください――


 

 しばらくした後会ったユアンさんは、見事に綺麗なローブと顔を隠すような帽子をかぶっていた。かく言う私も、帽子の中に黒髪を隠している。髪の毛一本も見えていない…多分。


「お綺麗です」

「はは…」

 

 この褒め言葉は天然なのか?それとも計算?


「では、行きましょう」

「はい」


 私の一歩後ろを歩く辺り、護衛としての心得を感じるねえ。


 門を出ると、そこはまさにRPGに出てくるような城下町。石造の建物が立ち並び、向こうの方には魔王城がある。魔王城には魔王が定住していて、魔王が八歳になると魔王城に住むらしい。だから一応城下町。ちなみに今、城の中は空っぽ。魔王が居なければ誰も入れない仕組みだとか。

 町の中心部には丸いドーム型の建物。本によると冒険者ギルド。まあ、なんてRPGっぽいのでしょう。


「まず、どこに行きたいとかはありますか?」

「魔法関係の物が売ってあるところに行きたいです。特に魔導具を造ってみたいんですけど、いいところ知ってます?」

「トィートラッセが良いでしょうか」

「トィ…?」

「トィートラッセです。あまり知られていませんが、精密で知られる魔導具屋です」

「魔導具屋、トィートラッセ」


 あー言いにくい。トィートラッセ。とぃーちらっしぇ。あ、噛んだ。

 

「じゃあ、トィートラッセに行きましょう」

 

 私は、ユアンさんととぃーてぃらっひぇ…じゃない、トィートラッセに行く事になった。

閲覧ありがとうございます。

ミルヴィアが人になつく理由はだいたい自分より強いかどうかです。

次回、発音が難しいトィートラッセに行きます。

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