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65 出発

 ユアンに誓いを立ててもらった翌朝、私は伸びをしながら目を覚ました。

 ん?珍しくユアンが来る前に起きられたな。どうしてだろ。 


 昨日緊張で全然寝れなかったとか?でも、だとしたら私のキャラじゃないしなあ……。

 まあいいか、大した問題じゃない。

 ベッドを降りると、衣装室に向かう。久々にユアンの同行がないな。一人ってこんな心地好かったっけ。これからは程よく一人の時間を作るようにしよう。考えてみればずっとユアンと一緒ってのもアレだしね。

 

 衣装室で着替えを探す。珍しくメイドさんも居ないから一人で。

 なーにがいっかなー?そうだ、ジーンズ生地の短パンとかで良いか。

 無いかなー……お、あった。ジーンズ生地とは全くと言っていいほど違うし色もくすんだ青じゃなくて真っ青だけど短パンってだけでオシャレって感じじゃないけど、あった。

 これに半袖の白いシャツっぽいのを合わせて、うん、これでオッケー。


 着替えたところで、ジャンプしたり羽を出したりで動きやすさを確認。よし、カンペキ。

 最後に鏡の前で昨日買った髪ゴムで髪をポニーテールに結わき、右と左のバランスを確認して、頷く。

 

 コンコン


「ん?」

「ミルヴィア様、いらっしゃいますか?」

「おー」


 すっげーいいタイミング。

 ドアを開けると、ユアンがいつもの笑顔を浮かべて立っていた。でも、私の格好を見て固まる。

 あれ、似合わない?


「ミルヴィア様、その格好……」

「あー、だめだった?着替えようか?」

「いえ、勿体ない。似合ってますよ」

「そう?ならいっか」


 勿体ないって……。

 改めて自分の格好を見る。虫刺されとかが気にならないでもないけど、治癒魔法を使えば何とかなるでしょ。


「ビサ様とエリアス様が来ていますよ」

「早!エリアスまで来てんの!?」

「はい、その格好で行かれたら、とても驚かれるかと」

「え、そんな変?」


 私的には結構いいと思ったんだけどなあ。


「とても可愛らしいからですよ」

「昨日も言ったけどさあ、本気の人に言いなさい」


 私はそう言いながら外に出て、二人が居るという三百四号室に向かう。

 驚かれる、かあ。ほんとかなあ。


「失礼するよー」

「ああ、ミルヴィ……」


 ノックした後に入ると、ビサとエリアスが向かい合って座っていた。そして私を見るとエリアスが何か言いかけ、固まる。

 ビサは私の格好を見ると目を見開き、エリアスと顔を見合わせる。

 え、マジ?そんな驚く?私全身が隠れる格好ばっかりしてると思ってたの?


「ミルヴィア、それは……」

「んー、変かな?やっぱ着替えてく――」

「師匠!絶対着替えないでください!」

「それも良く分かんない!」


 呆然とするエリアスと、食い気味に言ってくるビサ。二人を足して二で割ったらちょうど良さそうなのに。

 エリアスはしばらく目を閉じて考えた後、口を開く。


「そんな露出の多い格好をしていると、攫われるぞ?」

「酷っ!私そんな無防備じゃ」

「へえ」


 エリアスの目が細められた。来る、と思ったとたん、風の刃が私めがけて飛んでくる。腰の短剣を抜き、すべて弾く。――直後。


「!?」

「油断しすぎだ、馬鹿」


 エリアスが目の前まで迫っていて、後ろに重心が偏る。やばい、と体勢を立て直そうとするも、間に合わない。

 衝撃に身を構えたけど、それも軽い衝撃だけだった。薄目を開いて見てみると、ユアンとエリアスが両方から支えていた。

 ……。


「それって一部の女子にとってはサービスショットだけど、私はどっちかでいいかな」

「咄嗟にやっただけだ」

「守ると誓いましたし」


 まあね?そうだろうけどね?

 でもさあ、私は数人のルート選んだ覚えはないわけよ。

 護衛?医者?兄者?弟子?友達?

 どのルートも選んでないわっ!

 逆ハー形成した覚えもないわっ!


 まあそんなこんながあった後は大したイベントもなく、三百四号室で雑談しつつ夜を待った。



 夜。外に出て来た私達は、心地良い爽やかな風が吹く中でどうやって道中の魔獣を倒すかで盛り上がっていた。


「やっぱりさあ、魔石を一突きでしょ!」

「師匠、魔石は固くて普通の長剣では割れませんよ?」

「んじゃあ首をちょん切る」

「エグイ事を言いますよね、ミルヴィア様って」

「そーかなあ。良策じゃない?」

「まあ、そうですが」


 エグイって自覚はあるけどね。やるのはビサだし、やり方は勝手なんだけど。

 と、そこまで言ったところで、お兄様が屋敷から出て来た。あれ、書類整理は?


「放って来ちゃった」

「……ありがとうございます?」

「なんで疑問符になるの?」


 それはいいのか?いや、私にとっては嬉しいけど、後々の仕事が増えるだけじゃあ。

 お兄様は私の格好を見ても固まらず、一言、


「似合ってるよ」

 

 と言ってくれた。紳士ッ!

 でも一瞬驚いた表情をしたのを、私は見逃さない。そしてこの場に居るのは気配に敏感な人ばかりなので、多分全員見抜いてる。


「ではお兄様、行ってきますね」

「うん、行ってらっしゃい」

「ああ、そうだ。行きに『弁当屋ツハシ』で弁当を買うのを忘れるなよ」

「それ、どうして?さっきご飯食べたじゃん」


 そう、ついさっきかなり豪勢な夕飯を食べてきたところ。美味しかったけど、私はあんまり食べなかった。なんか食欲沸かないんだよねー。風邪かなあ。


 ああ、そうそう、睡眠作用のある長剣は、造れなかった。作用としては出来るんだけど、そうなっちゃうと剣の切っ先が丸くなっちゃって、とてもじゃないけど実戦では使えない。

 だからまあ、普通に斬るしかないんだよね。


「ではお兄様。じゃあエリアス。今度こそ本当に、行ってきます」

「気を付けるんだよ」

「せいぜい死ぬな」

「私不死身ですが!」


 そんな事を言いながら、大きく手を振って門を出る。


 明日の朝には、帰って来るよ!

閲覧ありがとうございます。

『弁当屋ツハシ』はエリアスの知り合いの兄弟が営む店です。かなり珍しい夜までの営業で、冒険者から人気があるお店。オススメは魔物ニーワリの卵炒め。

次回、森の中で無双です(主にビサが)。

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