62 踊ってくれますか
私はわちゃわちゃした現場を鎮めた後、静かに流れる音楽のペースが緩やかな物から少し速くなった。どうやらここから自由参加らしい。私の出番はまだまだ先!即ち、暇!
なので私は暇な時間を使って、魔力を眼に流すのを繰り返していた。そこで新しいチャンネルを発見したのだ!
なんと光の道筋!焦点をずらす事で、この光はどこから入ってどこまで伸び、どれほど明るいかの解析が可能。そして僅かな光に焦点を当てれば、暗い所でもかなり目が利くだろう。『視界良好』があるからどこまで必要になるかは分からないけど、かなりいい。
消費魔力も、風4で光2って感じだし。便利だよね。
まだ魔力のチャンネルは見つからない。暗証番号が百桁くらいもある金庫を開けようとしてるみたいだよ。一つ一つ試して言っても、空回りする時があれば、小さな金庫が開いちゃったりさあ。
「予見眼」
「え?」
後ろを振り向くと、目を細めたお兄様がこちらを見ていた。なんだろう、叱られるわけじゃないのにゾクッとする。
ワタシナニモシテマセンヨ?
「ミルヴィアが使ってる魔力を眼に流すやつ。それだと思うな」
「予見眼」
「そう」
なんだろう、お兄様の目が真剣だ。どういう事?怖いんですが。
「あの、えと」
「何?」
「……いえ、なんでも」
さっき私、何か気に障るような事言ったっけか?や、警戒してる時の顔だ。
っあー、そらそうか。しょうがない、今は我慢しよう。
後考えるべき事は……そうだ、さっきの氷塊、どうやって造ったんだろう。全然記憶にないんだけど、不言魔法で出来たって事はかなり熟練って事になる。だけどあれ造ったの初めてだし。
ちょっと不安に思って、手に魔力を込めて形を想像する。すると、小さく脆い氷塊が浮かび上がった。でも、それだけだ。さっきみたいな大きさも強度もない。それに、一瞬でパキンと弾けて冷たい結晶だけが手のひらに残った。それをぱっぱと振り払い、ふうと息を吐く。
どういう事だろ。あの一瞬、有り得ないくらいの力が出たって事?火事場の馬鹿力?だとしたら火事は幻です。
まあおふざけはともかくとして、んん、そういえば詠唱による魔力の形成は上手くなったし緻密になったけど、不言魔法は全然練習してなかったな。どちらかと言えば剣の方に重きを置いてた感じ。
魔法も鍛えるか。
「お兄様」
「ん?」
「私、魔法の訓練がしたいです。付き合ってもらえませんか?」
「いいよ、もちろん。ミルヴィアはあと、固有魔法を伸ばしたらいいと思うな。そうそう、僕は『変身』を見た事ないからね、見させてよ」
「分かりました」
よしよし、良好。にしても、私魔法派のはずなのに最近剣ばっかやってたなあ。なんで、ってビサが剣だからか。誰か私と互角で魔法派の人――
「じっ」
「……なんなの、と聞くと碌でもない答えが返ってくる予感なの」
「妹ちゃん、強くなりたくない?」
「なりたいの。けどお兄ちゃんは剣だし、私は剣なんて握れないの――非力で」
「じゃあ私と訓練しない?」
「は?なの」
「そこで口癖を忘れない妹ちゃん、私結構好きよ」
やっぱり私と同等の魔法を使える子がいいからねー。お兄様だとお兄様が上回り過ぎて張り合いがないって言うか。私も本気で戦いたいからね。最近はビサとも張り合いが出て来たし、今度は魔法系だよね!
剣はユアンに教わって、ビサと実戦。
魔法はお兄様に教わって、妹ちゃんと実戦。
これぞ黄金!
「一人でにやにやしてるところ悪いけど、私もそこまで暇じゃないの」
「嘘!?」
放浪の民じゃないの?てっきりそうだと思ってたのに、違ったのか。
忙しいって何だろう、ご主人様選び?
「ホントなの。お兄ちゃんのシゴトを手伝うの」
「シゴト?」
「シゴト。悪いけど内容は言えないの――ギルドに秘密で悪人捕まえてるとか、言ったら怒るの」
「何やってるの?言っちゃうとか馬鹿なの何なの?」
「はっ!」
「わざとらしい!」
え、ホントに間違って言ったわけじゃないんだよね?違うよね?そうじゃなきゃ救い無くなって来るよ?
私は驚いたように手を止める狐ちゃんもとい妹ちゃんを見ながら顔を引き攣らせる。
「まあどっちにしろ忙しいの。他を当たるといいの」
「えっ!だって他に誰も居ないし!」
「そこだけ聞くと魔王の交友関係の狭さが窺えるの」
「う」
だって、しょうがないじゃん。近くに居るのってお兄様とユアンとエリアスとコナー君とビサとアイルズしか、って、いつも思う事ながら男ばっかだし!
やっぱり、女性隊員を確保するために何が何でも妹ちゃんに入って貰わねば。
「でもさーあ、その戦力で役立ててるのー?」
「ん……それは」
「それにさーあ、少年も戦力が欲しいんじゃなーい?」
「んん、でも」
「あとさーあ、妹ちゃんが手伝ってくれたら、少年の手助けも少なからずするつもりなんだけどなー?」
「言質、頂いたの」
「え?」
妹ちゃんが、してやったりという顏でにやっと笑う。あー、なんかやらかしたなーと、その顔を見ながら思う。
「私が手伝ったらお兄ちゃんを手伝う――の、魔王?」
「そ、そりゃ、今私が言ったんだし」
「馬鹿っ!」
私がそう言うと、エリアスに頭を小突かれた。
痛いっ!
「何!」
振り返ると、エリアスが苛々したような表情でひそひそと話す。
「狐の狡賢さを忘れるな!」
「狡賢さぁ?」
「うんなのうんなの、私が手伝ったら魔王も手伝う、これぞ黄金比なのー」
「使い方間違ってない?」
妹ちゃん――いや、狐ちゃんはにこにこ笑いながら目的を達成したような顔をしていた。ぱあっとなっている。
何何、怖いんだけど……。
「今日私がここに来たのは、魔王と協力関係を築くためでもあったの。あ、言ってなかったの?」
「本当に目的達成しちゃったの!?」
「ふふふ、なの~♪魔王、魔王に二言は無いの?」
「な、ない」
「ばっ、おま!」
エリアスすまない、私にも女の意地ってもんがあるんでね。二言があるなんて言ったら、この狡賢い狐は何言うか分かったもんじゃないし。
狐ちゃんはうんうんと頷き、手を差し出してきた。
「よろしくなの、魔王。で、何民の日にやるの?」
「うーん……」
この国には一週間が日本と違う。
日本が月火水木金土日だとして、この国は、聖民の日、火民の日、水民の日、木民の日、金民の日、地民の日、闇民の日。ややこしいっ!
一応決まり事があるみたいで、結婚式等のめでたいのは聖民の日、法事等は闇民の日。
太陽神ルスキニア?を祀る太陽教はもっと細かく定めてるらしいけど、私はよく知らない。
「一応言っておくと、私の仕事の日は聖民の日と闇民の日以外なの」
「おお。んじゃ闇民の日で」
「聖民の日にしないのが吸血鬼っぽくて好きなの」
「こんなとこで吸血鬼の話持ち出さないでよ」
知られても何の問題もないけど、やっぱりね。
闇民の日に訓練が決まったところで、アイルズがすっと前に出て来た。妹ちゃんへの攻撃かと思って警戒を強めたけど、アイルズは一礼すると私に話しかけた。
「そろそろダンスのお時間です」
「!」
妙に落ち着いた声で、アイルズが告げる。その言葉を聞いた瞬間、私の体が跳ね上がる。
とうとうか!
引っ張りましたねーダンス!確かに今掛かってる音楽がもう止もうとしてる。うわ、また緊張してきたし!
王座の時ほどじゃないにしても、わけわかんない緊張がある。怖いと言うよりどうなるだろうと言うか。ああ、不安か。
「どうぞ真ん中へ」
アイルズがそう言うと同時に音楽が止み、皆が散らばった。お兄様とアイルズとユアンは反対側に回る。そっちが王座だからだとは思うけど。
私はゆっくりと歩みを進める。
うわあ、誰と踊ろう?
やっぱりアイルズは嫌だな、なんかちょっと怖いし。
エリアスかなあ。エリアスとは踊り慣れてるし。
お兄様とか?結構ダンスとか上手そうだよね。
コナー君は?いやあ、私達がどう思おうと使用人だし。
……いや、でも。
約束が、あるし。
だからと言って、でも、だけど。
一歩一歩進むごとに、心臓が早鐘を打つ。断わられたらどうしようとかじゃなく、周りの反応が怖いんだよね。
周りが私を見る。私は冷静な顔で、心の中ではドキドキしっ放しで。
怖いのを押し殺して、相手に歩み寄る。
「魔王様、お相手を」
アイルズが良く響く声でそういうと同時に、私は歩みを止めて、
「踊ってくれますか?」
そう言うと同時に、ユアンに向かって手を伸ばした。
閲覧ありがとうございます。
相手が分かりました。
次回、踊ります!とうとう!やっと!




