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60 交流


「こんばんは魔王様。私の名はライツ、家名はシュレイです。以後お見知りおきを」

「ライツ・シュレイ?シュレイ男爵の子息か」


 私の前には、ユアンよりも青い髪の毛の、クリりとした紫の目をした男の人。推定年齢十八歳。一応言っておくと、魔族の中じゃ人の年齢なんて当てになんないので百八十歳くらいに思っておいてくれ。

 その人はニコニコ笑いながら近付いて来て、常に狐ちゃんの側に居る私に話しかけてきた。

 ユアンが不快そうにしてたけど気にしない。私だって社会性を見に付けるのは大切なのだ。


「はい、父の功績を先代魔王様に認めてもらい、男爵になりました。私は最近、冒険者として国へ貢献できるよう努めています」

「ほう、冒険者と」


 確か、私の記憶ではシュレイ男爵って頑固で有名だった。

 息子さんが冒険者になるとか、絶対ゆるしそうになかったのにな。

 息子には甘いのか。


 シュレイ男爵はドラゴンとかを倒してはいないけれど、雑貨屋?を営んでいて、それで王国に十年連続無償奉仕をしていた(自主的に)ので、男爵への階級を遂げた。チャンチャン♪


「私も興味があってな。ランクは?」

「はい、今年Aになります」

「……」


 待ておい。

 A?S・A・B・C・D・E・Fの、A?


「戦闘が得意なのだな」


 無難な言葉を言う。何故って?

 こいつ、ユアンより全然弱いからだよ!なにこれ?この冒険者がA?ビサでもS行けると思うよ?

 いやいやいや、待ってよ待って待って、え、私の周りの人たちが強すぎるの?ねえ!


「はい、ですが周りの人が強く、Aランクも維持が大変で」

「そうか。私はギルドに詳しくない、今度教えてもらえると助かるな。国としても、ギルドの存在は欠かせないから」

「ふ、魔王様は良い人なのですね。私のような者にも好感を持って接して下さる」

「いや、素直にすごいと思うだけだ」

 

 社交的な会話を交わしていると、狐ちゃんが私のドレスの裾を引っ張った。もうここに用はないらしい。見てみると、もう粗方の種類は食べ尽くしていた。

 食欲旺盛だ。


「では失礼する」

「はい」


 んー、良い人ではあったけど、根っからの善人って感じはしなかったな。犯罪の一つは犯してる。今度調べてみよー。

 次に前に立って軽くお辞儀をしたのは、騎士服を着た騎士サマ。髪は紫、目は薄紫の魔法タイプ。それでも剣を下げてるから、多分あの剣は魔剣に分類されると思う。結構カッコイイ方。でもユアンの方が数十倍強い。私の強者と弱者を見分ける目は鍛えられてるからね。


「私は王国騎士のクアスと申します」

「魔王のミルヴィアだ。隣の子は狐種。名前は明かしたくないらしい。後ろのはユアン、私の専属騎士だ」

「ああ、やはりその方は騎士でありましたか」


 この人はトロンとした垂れ目で、優しい感じ。間違ってもユアンやアイルズみたいな言葉は言わないような初心そうな人だった。女性と付き合った事無いんだろうなー。


「ですが、私の記憶ではそのような方は王国騎士団に属していなかったと思うのですが?」

「ああ、私が見出して引っ張った」

「……そのような方をそばに置いて、よろしいのですか?」


 ん?どゆ意味?


「その方は素性の知れぬ方と見えます。少なくとも私は、信頼出来ぬ人を後ろには置きません」

「信頼出来ぬ人?」


 私の目が妖しく光る。怒りに震えはしないけれど、静かな怒りを灯した目でクアスを見る。

 誰がそう決めた?誰がそう言った?


「魔王を怒らせたの」


 傍でぽつっと狐ちゃんが呟くけれど、私の耳には半分も入ってこない。その後に続く言葉も、私は知らなかった。


「――魔王の側近への口出しは、禁句なの――」


「決め付けるな。お前のような者を置く方が、私には背中を刺される危険を感じるな」

「なっ!」

「人の信じている者を侮辱するな。それは私を信じられぬのと同じことだ」

「っ!」

「では失礼する。お前と利く口は私にはない」


 私は騎士に背を向けて歩きながら、蹲ってしまいたかった。


 やっちゃったやっちゃったやっちゃったあああ!

 絶対騒ぎは起こさないって決めてたのに!うわあ……。


「ユアン、さっきのは取り消しで……」

「はい」

「?」


 あれ、素直……。

 なんでだ?と思ってみてみると、ユアンはぱっとそっぽを向いた。なんとなく、薄らと頬に赤みがさしてる気が。や、気のせい?んん?


「ユアン、どうしたの?」

「なんでもありません」

「???」

「魔王、すんごく鈍感なの」

「は?」

「……」


 狐ちゃんは何を諦めたのか、はあっと息を吐くと手当たり次第に食べ始めた。その小っさい体のどこに入ってんだ?

 一応言っておくと、バイキングの皿十皿分は優に超えてるよ。食べ過ぎ、と言いたいんだけど、別にお金が取られるわけじゃないしいいか。


 次に私の前に来たのは小太りのおじさんで、恰幅がよさそうだった。太ってはいるけどぶよぶよなわけじゃなく、笑顔を浮かべているのでむしろ人が好さそうな印象を受ける。む、大公かな?


「失礼します魔王様、私サンドル公爵と申します。お兄様には随分とお世話になっていて」

「お兄様が?」


 おー、ここに来てお兄様がご活躍。お兄様も結構政務とかやっててすごいしね。

 でもサンドル公爵?そんなの報告書に書いてあったっけ?あれは一年の内の報告書だから、えっと、この一年以内に公爵になれば……爵位ってそんな簡単に上げれたか?


「ああ失礼、私はサンドル公爵ではありませんでしたな。いやはや、昔の名前を使ってしまいいけませぬ」

「……?余談はいい、名前は?」

「私ですか。私の名前はサンドル・イリュージェット。当代大公の弟です」

「っ!」


 大公に弟が居るとか聞いてないんですけど!

 ユアンを見ると、笑っているけれどどこか意外そうな表情。狐ちゃんを見ると、食事の手を止めてイリュージェットをじっくり見ていた。


「あなた、大公の、弟、なの?」

「そうだよ、お嬢さん……、っ!」


 狐ちゃんが、動いた。私はテーブルナイフを握っての狐ちゃんの真っ直ぐな動きに「回避する余地あり、ただしイリュージェットは即座に動ける体格でなし」と判断し、ユアンに目配せしてからすっと退いた。

 ユアンが狐ちゃんのナイフを華麗に取り上げ、そしてそのままテーブルにナイフを置くと狐ちゃんの鳩尾に軽く拳を一発。


「うぐっ……」


 狐ちゃんは鳩尾を押さえながら、俯いた。

 軽、く……?

 さっと周りを見渡すと、騒ぎに気付いたのは数人。ただ、その人達は関わりたくないと思ったのか、すぐに話題に戻った。よしよし。


「狐ちゃん?」

「何、なのっ……魔王はやっぱりそっち側なのっ!」

「そっち側も何もないよ。っていうか落ち着いて。大公弟に何か用」

「用も何も、狐ぞっ!?」


 やばい、と思った瞬間、ユアンが狐ちゃんの口を押えていた。迅速だ。

 

「そこまでですよ――ミルヴィア様、ここから先は」

「そうだね。狐ちゃん、後で聞く。イリュージェット殿、失礼した」

「い、え。その人、何なのですか?魔王様のお友達で?」

「ああ」


 イリュージェットは露骨に不快だという顏をしたけど、私の友達だぞとはっきり言うとその表情を消し去った。分かりやすいやっちゃなー。


「そうですか、元気がよろしいのですね」

「そうだな」


 うーわー、嫌味だあ。

 イリュージェットはニコニコしながらも、狐ちゃんに敵意――殺意を向ける事を忘れていなかった。それも、狐ちゃんの圧倒的な殺意に呑み込まれて周りには気付かれそうにない。


「イリュージェット殿、申し訳ないが早めに済ませてもらう」

「ああいえ、良いのですよ。私は兄がお世話になりますとお伝えしたかっただけです。では」


 イリュージェットは厄介事をあからさまに避けるように、その場から立ち去った。

 なんだったんだ?結局。ただ挨拶したかっただけには思えないけど。それにしても、あいつと狐ちゃんって何か因縁が?


「あ……あ、う」


 うわっ、やばっ!

 狐ちゃんが今にも泣きそうな声を出していたので、サッとユアンと一緒に端っこに連れて行く。するととたんに、狐ちゃんは泣かずに私を睨み付けた。


「どうしてあいつを庇ったの!」

「お客だから」

「どうしてあいつを刺させてくれなかったの!」

「風紀が乱れるから」

「どうしてあいつを……ッ殺させてくれなかったの!」

「あなたが」

 

 私はしゃがむと、狐ちゃんと目線を合わせた。


「人を殺すと、あなたが死ぬから」

「私は!あいつを!殺せるなら!死んだって!構わないッ!」

「冗談」


 この国では、人一人殺すと極刑になる。裁判はする。冤罪ではない事を調べ尽くし、本人が自供したら極刑に。ずっと前に魔王が真読魔法を込めた『真実機』に向かって話すと、嘘は言えないらしい。だからわざとやりました、と真実機に向かって言わせ、嘘じゃない、本当にやったと思われれば裁判は決する。

 

 狐ちゃんがもし極刑にでもなったら、そもそも調べられた時点で狐族とばれるだろう。

 人一人殺したら極刑、それは日本ではかなり重いけれど、戦争している国から見たら物を盗んだら罰金なんて考えられないだろう。


「狐ちゃん、いいの?死んだら少年に会えなくなるよ?」

「お兄ちゃんは!私があいつを殺したら、楽に……ッ!」

「待って。どういう事?」

「お兄ちゃんはあいつを憎んでるの!だから!私が!」

「何だ、私怨ですらない」

「ッ!」


 思わず漏れた言葉に、狐ちゃんがものすごい目で睨んでくる。

 んー、分からないでもないんだけどね、他人(ヒト)の仇を打とうとするのは。でもだめなもんはだめだ。殺人は多分、私が前世の事もあって一番許せない所業だ。


「狐ちゃん、これは言いたくなかったけど、私は魔王だからね、殺人者を出すわけに行かないのよ」

「それ、は」

「それにあなたがここで他人の敵を討つって名目で大公弟を殺したら、狐族の誇りなんてなくなるよね、血で染められるよね?」

「う」

「そもそも、少年は敵を討つなら自分の手でやりたいんじゃない?」

「うう」

「それが分かったら、ほら、何があったか言ってごらんよ。私がどうにかできるかもよ?」

「あいつは――」


 シャラララン……


 あ。

 音楽始まっちゃった。


「神様が後にしろと言っている……」


 私は神様信じてないけど。

閲覧ありがとうございます。

今回出て来た人たちは、後々活躍してもらう予定です。あくまで、予定です。でもこの後一切登場しないという事はないと思うので。

次回、ダンスが始まりました。ミルヴィアが踊るのは最後ですが。

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