58 招かざる客人
どうして?なんで?どうやって?
私の頭が様々な疑問で埋め尽くされる。出来る事なら駆け出して行って、手を掴んで、宮廷の外にほっぽり出したい。ユアンも気付いたようで、こちらを見て頷いた。
っ、う、なずかれても、少年は?少年は居ないの?どこへ――どうして!
「次は貴族達だ――どうした?」
「なんでも、ない」
「挨拶はしろよ」
「うん」
入ってくる貴族達を見ながら、気が気じゃない。やばい。あの子を今すぐ外に出さないと、やばい。
さっきは不要だと思ったから言わなかったけど、さっきのユマダ伯は狐族狩りにも先代が参戦している。それで父を失っているはずだから、因縁深い。
ていうか、またねとは言ったけど、今だとは言ってないよ!
「っ、当代魔王のミルヴィアだ」
「はっ!魔王様へお目通り叶い、嬉しい限りでございます」
「いい、入れ」
「はい!」
ひょっとしたらお兄様辺りは、私の様子のおかしさに気付いたかもしれない。でも、そんなの気に留められないほど、私は取り乱してたんだと思う。逆に飛び出さなかっただけ及第点だとも思う。
だけどやばい、本当にどうしよう。魔王である私が友人と明かすわけにはいかない。魔王である私が無種族を庇うわけにはいかない。
あああ!さっきあんなに高揚感に浸ってたのに、いきなり魔王って称号が邪魔になった!要らないよこんなの!友達一人守れなくってどうすんだっての!
「ミルヴィア、どいつだ?」
「え?」
「どいつがお前にそんな顔をさせてる?何が問題だ?」
「……エリアス、それ」
「話は聞く。遮音結界を張っておく。だから話せ。怒らないし、何も言わない」
「ありがとう」
感覚的に、何かの内側に入ったというのが分かった。エリアスがこっちを向け、さあ話せと威圧してくる。
やだなあ、そんな焦んなくても。
「私の友達が混じってるんだ」
「友達?誰だ、庶民か?」
「うん。というよりもっと問題と言うか、街道を歩いてても問題な……」
「何だ、犯罪者か」
「ちょい!犯罪者って言った事より、私に犯罪者の友達が居るって納得したのが信じらんない!」
何だ、じゃねーよ!と突っ込みたくなる。
てか半分突っ込んでる。
「無種族なの」
「は?」
「はって、ほら、あれだよあれ。路地裏で見かけたじゃん。誘拐されかけてる女の子」
「ああ」
「あれ、狐族の子だったんだよね」
「はあ!?」
エリアスはこっちを睨みながら叫ぶ。遮音結界を張ってても、万能じゃないんだから静かにしてほしい。そう思って睨むと、怒らないと言った事を思い出したのかぐっと言葉を呑む。
「それで?そいつがここに来てると」
「そうそう」
「そうか……じゃない!どういう事だ!」
「こっちが聞きたいわ!」
乗り突っ込みしてんじゃない!
いいからとにかく打開策を!
「チッ、予定より貴族を入れるのを数分早めてお前が何かするしかない」
「何かって何?例えば?どうやって?」
「友達だと宣言すればいいだろう。どうせ耳や尻尾は見えない」
「何言ってんの?見えるじゃん」
狐ちゃんの事を指差して言えば、エリアスが首を傾げる。しばらく何か考えるように沈黙してから、もしかして、と前置きしてから疑問を口に出す。
「お前、何かの可視化を行っていないか?」
「可視化?んなもん……」
今はやってるわけ、と答えかけて、そういえば私いつもチャンネル合わせのために目に魔力送ってるよな、と思った。
魔力だか空気だか雲だか何だかに、偶然チャンネルが合えば儲け物くらいに思ってたんだけど、何も見えないのが続いている。そのうち意識しないでも魔力を送る事に成功した。今はそれの最中。
「やってる」
「お前、どこまで規格外なんだ」
「何それ、可視化なんて魔力送りゃあ誰だって出来るし」
魔力送るだけでいいんだもん。
そう思って言うと、エリアスが額に手を当てたままため息を吐く。今日は心労っすか?
「そんなことが出来るのは、この世界でお前を除いて二人だ」
「嘘!?マジ!?」
「マジ、だ」
その人の情報が知りたいんだけど、まあ今は後回しで。
要は私以外には尻尾と耳が見えないって事なんだから。つまりは私が友達って言っても問題ないって事か。良いなそれ。友達宣言。
「んじゃ早速」
「だめだ、待て。あと少しで将来有望な若者が来る。挨拶してからにしろ。出来ればさっきみたいに行き詰ったような感じで喋るな」
「あい」
ちぇー。
「結界を解く」
言った通り、結界が解かれる。それとほぼ同時に、ドアが開かれた。そして、次々に若者?が入ってくる。将来有望な若者……。
「わ、わたしあっ!」
噛んだ。出だしから思いっきり噛んだな。
入って来たのは、綺麗な紫色の髪をした男性だった。あ、さっきから男性ばかりだけど、女性も居るよ。ただ代表のあいさつに男性が多いだけで。
「私は吟遊詩人をしております、アルマ・ユーテスと申しますっ!」
「よく来た。私は魔王のミルヴィアだ」
「はひっ!」
「入れ」
吟遊詩人がどうして居るんだろー。
うわ、すごい人。
見渡す限りに人が居て、全員がこちらを見上げている。机には美味しそうなディナーが並び、執事やメイドさんが待機して、いつでもお酒を注げるようになっていた。色とりどりのドレスを着た婦人や紳士が立ち、とても綺麗な景色だ。
私もドレスを着ているけれど、黒いドレスは私だけで目立つ。だけど魔王として、いいと思う。
でわでわ、開始の合図を、魔王様。
「これより舞踏会を始める――無礼講で、楽しんでくれ」
わっと、会場が湧く。おー、何だろうこの優越感!でも私としては狐ちゃんが気になってそれどころじゃない!
「んじゃエリアス、下りるね」
「ああ」
壇から降りると、周りがビクッとする。でも私から漂う無害オーラに安心したのか、一礼してからまた話し始めた。よし、掴みは順調。
うむ、すごい人数。皆楽しんでくれてるようで、何より。
狐ちゃんはドレスだった。銀と金の綺麗なドレス。無駄な装飾は一切ない、ただし元が良いせいか華やいで見える。そしてその狐ちゃんは、早速デザートコーナーで何かを頬張っていた。
私はそんな狐ちゃんのところまで来ると、ポンポンと肩を叩いた。
「いらっしゃい狐ちゃん――ところで、どうしてこんなところに居るのかな?」
閲覧ありがとうございます。
狐ちゃんの出番微妙でした。台詞が一つもないと言う。
次回はちゃんと狐ちゃん喋りますよ!




