55 魔王の王座
と、アイルズが仲間に加わったところで、私は机を元に戻すべく手を叩いた。
んん、これ結構難しいな。魔力の加減が、微量の魔力を注ぎすぎるとちょっと揺らぐ。お、これか。
何度か体験した、しっくりくる感覚が。パズルがパチンと嵌った時みたいなしっくり感。たまんないんだこれがー!
「手伝いますよ魔王様」
「お」
感覚的に何かが軽くなり、アイルズが半分担ってくれたのだと分かった。おお、アイルズも魔法タイプ――魔法使える人多いなこの集団!
お兄様・普段魔法・肉弾戦得意
ユアン・普段剣・魔法は補助
エリアス・ガッツリ魔法
ビサ・剣・魔法は補助全般得意
コナー君・非戦闘タイプ
new→アイルズ・魔法・剣術もまあまあ
お兄様が特殊だなおい!まあお兄様は絶対肉弾戦でしょ。剣を使わない殴り合いだったら、右に出る者は居ない。どこでだれを戦わせるかーみたいなのも、魔王としてちょっと勉強しておかなきゃいけない類だったりするのかな。常識として普段はユアンに戦わすって感じ?
ああでも、アイルズも結構強いし戦わしていいか……待て、ビサも結構強い。二人に埋もれて見えないけど、ビサ兵長だからね?一応平隊員ってわけじゃない。
「魔王様、私は魔王様を諦めたわけではありませんよ」
「諦めていない?」
「そうです。あなたは可愛らしくて綺麗で、諦めろという方が無理ですね」
「諦めろなんて言わない。振り向かせてみせろと言うだけだ」
「男らしい」
「外面はな」
内面はめっちゃ女の子っすよ。ユアンに遊ばれるくらいだしね(自慢になってない)!
女の子云々は置いといて、アイルズって魔法をドカンと発動って言うよりも細かい作業が得意なのね。あれだ、裁縫とか得意な子だ。
って言うか、さっきからアイルズ以外の男性陣の視線が痛い。
やっぱりアイルズを引き入れたから?いやいや、アイルズだって執事だしさすがにそこまでは。じゃあ諦めないと言ったから?いや、私がいいって言ったんだから不満はない――違うか、私が良いっていったから不満なのか?でもそこまで好かれてるとは思えない。
「何だ?」
振り返ってユアンに聞くと、ユアンが笑ったまま視線を向ける。あ、これ叱られ、
「口調が違うので、違和感があって」
「口調?」
何の事?だっていつもはこうじゃなくても、外ではこうじゃん。普通じゃん。
「執事にその口調は良いんだが、せめて俺達とは普通に会話してほしいな。違和感が半端じゃない」
「だ、けど」
「アイルズに悪いと思ってるんなら不要だよ。彼には必要無いから」
「でも」
「ミルヴィア、それカッコいいけど僕とは普通に話して」
「う」
コナー君、そんな無邪気オーラ出さないで。すごい罪悪感に苛まれるから。お兄様もエリアスも、そんなにいつもの方が良いかなあ。別に変わんないと思うんだけどなあ。
「じゃあ言うが」
「はい?」
「いつもの方が良い。ずっといい」
「……」
そんなストレートに言われても、困るというか。だって単純に疲れるんだもん、アイルズとそっちとで口調分けるの。だったらアイルズもその口調でと思うけど、うーん、まだそこには達してない気がするし。私基本的にはここの皆とエレナさんにしかあの態度じゃない。あああと狐ちゃんと少年……多いな意外と。
どうしよう。じゃあ普段もこれにするって言うのは違うだろうしね。
「分かったよ、努力するよ」
「ありがとうございます」
「ふふ」
コナー君が嬉しそうに笑う。コナー君にはいつも通りの口調を心がけよう。可愛いし。
「へえ、私にもそれを使ってくれませんかね?」
「嫌だ」
「どうして?」
「まだ信用しきっていないからだ」
「はははっ、そうですかそうですか。ユアン、どうやら私はあなたに恨み言が山ほどあるらしい」
「まだまだあなたを負かす要素はありますよ」
「どうでしょうね、段々減って行くかもしれませんよ」
「待て待て待て。ここで戦うなよ」
「仰せのままに」
「魔王様がそう言うのなら」
なんっだその魔王様至上主義。苦笑いしか出来ないよ。
私大して強くないのに、なんでそんな敬うかなー。実力で言ったら、ここではみんなの方が強いくらいなのに。コナー君とビサには勝てるかもしれないけど、コナー君に関しちゃ本当に非戦闘系だしねー。
ん、眠い。
私は欠伸を噛み殺す。その際ちょっと視界が揺れたから、やっぱり五時起きはきつかったらしい。
うあ、頭痛い。なんでだろう。やっぱ寝不足か。でも大丈夫でしょ、耐えられる。
「魔王様、あちらの席へどうぞ」
「あちら……って」
まさかあのドデカイ王座の事言ってる?マジ?あそこに座んの?覚悟が足らないんだけど?っつーか覚悟がいくつあっても足らない気がするんだけど?ねえ?
てかさー、私まだ魔王になって一か月経ってないのよ。微妙に。あとちょっとで一か月だけどね。それなのにいきなり王座っぽいのに座れと言われても。
いや、うだうだ言っててもしょうがない。正直に言おう。
怖い。
当たり前じゃん。あれだよ、全校生徒の前で演説とかしてごらんよ、私のHPはマイナス領域に達するよ!?私結構上がり症なんだけど!
あーあ、いっその事魔王の固有魔法に『演説』とかあったらいいのに。私話下手な方だと思うしさ。
「ミルヴィア、いつか座る事になるんだから。それにあの席は魔王以外は座れないよ?」
「座れない?どういう事ですか?」
「魔王以外が座ると呪いが掛かるんだ」
え。何それ。怖くね?間違って座った子供とかどうなるのよ。
「どういう原理で」
「さあ。何せ大昔に作られた魔導具だから、詳しい事は解明されていないんだよね」
「へえ、そうなんですか」
そういうのは世界共通(宇宙共通?)なのね。地球でもエジプトとか解明されていないっていうのが多いって聞くし。
「ミルヴィア、早く座れ。俺が付いて行く」
「は?なんでエリアス?お兄様とかユアンじゃなくて?」
できればお兄様が良いんだけどな。一番の身内だし。
「資格無き者は近付けないんだよ」
「二人って資格無いの?」
へー、なんでだろう。強いのに……って、強い弱いじゃないのか。基準が分からんな。
「お前が任命式を行えば近付けるが、ユアンもカーティスも『ミルヴィア』の護衛と兄であって、『魔王』じゃないだろ」
「じゃあなんでエリアスは良いの」
「俺は、霊魂族だからな」
「ふーん?」
その理由がさっぱり分かんないけど、まあ何かあるんでしょ。
王座、ねえ。
王座、かあ。
「怖がっているなら今さらだな。お前が魔王だと、生まれた時から決まっている。いつか、ここに居る誰もがお前を畏れ敬う」
「……っ」
頭に甘い痺れが走る。吸血鬼の魔王様。マズイ、怖いなんてものじゃない。
今まで魔王だとか名乗ってたけど、そうだ、そんな生半可な覚悟で名乗っちゃだめだった。私だってちゃんとしないといけない。私は魔王なんだから、強いんだから。
「う」
「どうした」
「何でもないよ」
せめて強がる私。意味ないけど。怯えてるのは誰の目から見ても明らかだろうし。
「師匠」
「何」
「私は師匠が魔王だろうと吸血鬼だろうと師匠と呼びます」
その言葉が何気に、すごく嬉しかった。私でいいと言われてるみたいで。
息を吸う。ん、気付かなかったけど、友達の家の匂いみたいだな。
なんかぐっとなれた感覚に近付いた気がして、一歩踏み出す。高いヒールに軽い衝撃。うわあ、緊張してるなあ。身内しか見てないし、ただ座るだけなのに。これはどうしようもないか。
段があり、そこを上った先に王座がある。そこまでは皆ついて来れるらしい。私が一歩一歩踏み出すのと同じ速度で、皆が歩く。
たった数十歩で付いてしまった王座の前で、全員が停止する。ここから先に進めるのは私とエリアスだけ。それも怖い。
目の前を据え、ミルヴィアではなく魔王として切り替えて。一歩一歩、壇上へ。エリアスは珍しく後ろを歩いていた。これは別に儀式でもなんでもないはずなのに、場がピリピリとしていた。椅子に座ること自体は儀式じゃなくとも、これから執り行われる舞踏会は魔王の発表会だ。それも、不安を膨らます要素になる。
段を上がり切り、椅子と向かい合う。金色の装飾に、クッション部分は赤い色。銀色も使われていて、それほど派手なわけじゃない。その椅子に背を向けて、覚悟を決めて、目を瞑ってからストンと腰を落ち着ける。その途端安心感が襲ってきて、エリアスが右隣に来たのが感覚的に分かる。柔らかい椅子に座ったまま目を開ける。
初めての王座から見た景色は、皆が居て、そして宮廷の大広間を見下ろせるほどの圧倒的な高さだった。
閲覧ありがとうございます。
前回は予定変更してしまって申し訳ありません。ちょっとここで王座の話入れておかないと長引きそうだったので……。資格無き者の話が出ましたが、ここらへんはもう少し後で掘り下げていく予定です。
次回、エリアス目線での本編です。




