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52 舞踏会支度、そして宮廷

 夢から戻ると、何だか体が怠かった。大方、魔力が沸々と沸いてるんでしょ。前回みたいなことはなくとも、やっぱりちょっと負担がかかるのかな。

 まあいいや、ではでは。

 お休みなさーい。



「おはようございます、ミルヴィア様」

「んあ……おはよ、ユアン」


 この一週間で、ユアンに起こされるのはすっかり慣れてしまった。最初はもれなく、朝っぱらから戦いになってたけど。まだ一発も当てた事ないけどね!


「あれ、なんか、早くない?」

「そうですね、舞踏会なので、ドレスの準備やセットアップに時間がかかるのですよ」

「なるほど」


 欠伸をしながら起きて、周りを見る。まだ多分五時頃だ。

 こんな早起き、前世合わせて久しぶりだなあ。


「おはようミルヴィア」

「ああ、おはようございま、え!?あ、お兄、様?」


 お兄様が柔和な笑みを浮かべて立っていた。反射的に身構えたけど、考えてみればお兄様なんだから身構える必要はないよね。あー、何だ、ユアンとの毎朝の戦いで、朝は警戒する癖が付いちゃってんだな、うん。気を付けないと。

 私はもう一度、「おはようございます」とにっこり笑って言った。正直まだ眠いけど、眠気は振り切って。


「エレナが準備をしてくれている。行こうか、ミルヴィア」

「はい。ユアンはどっかで待っててよ、お着替えだし」

「承知しました」


 部屋を出てから、衣装室に行く。

 なんか緊張するなあ。舞踏会ってどんなところなんだろう。下見とか全っ然してないけど、そういうもん?それとも魔族が大雑把なの?

 うわ、柄にもなく緊張してる。うわあ、うわあ。なんでだろう、前世の音楽会とかでも緊張した事ないのに、やっぱり規模が違うから?立場が違うから?っつーか来る人全員が貴族だから!?

 それにしてもなあ。

 魔王であるという実感が、まさかこんな形で襲ってくるとは。魔王ってこんなめんどくさかったの?


「おはようございますミルヴィア様、今日はお天気もよろしく、午後から始まる舞踏会もさぞ盛り上がる事でしょう」

「午後から?」


 エレナさんの言葉が引っ掛かる。んん?確かに朝っぱらから舞踏会をやるとは思ってないけど、午後から?今五時なんだけど。

 あれ?

 じゃあどうして今私起きてるの?どうして?

 ちらっとお兄様を見てみると、いつも通りの優しい笑顔。だけど、その笑顔が今、何だか悪巧みをしてる人みたいな笑顔に見える。


「ドレスを選ぶには時間がかかるだろう?」

「もしかしてなんですけど、これから午後までずっとドレス選んだりお洒落のために使うんですか?」

「そうだよ。宮廷まで行くのは馬車だから、お淑やかにしてるんだよ」

「……はい」


 言い返せん。じゃあ。


「ではお兄様、お兄様の礼装も楽しみにしていますね」

「期待に応えられるよう、頑張るよ」


 お兄様が艶然と微笑む。本当、無駄に艶めかしい。もっといい服を着たら、絶対女性からダンスの申込みが絶えないだろうと思ってしまう。

 羨ましいわー。


「今日は早いな」

「!?え、エリアス」


 なんで勢揃い?これでコナー君でも来たら、本当に皆揃っちゃうけど?


「ミルヴィア!おはよう!」

「おはようコナー君。早いね」


 うん。

 うん。

 噂をしたら来るだろうなーみたいな事は思ってたよ。

 そして、私が注目したのはエリアスとコナー君の服装。

 エリアスは黒と白のシックな感じにまとめられて、眼鏡だけはいつも通りだった。

 コナー君は鮮やかな緑色のネクタイを締めて、八歳なのに大人っぽい。っていうか、この二人はどうしてこんな早起きしてるの?


「僕は優先者だって言ってもらったんだ」

「コナー君もですか!?」


 いつの間に!いつの間に皆読心スキル手に入れちゃってんの!羨ましい!


「って、え、優先者?」

「うん。貴族じゃないけど、魔王と関わりがあったりすると舞踏会に出れるんだ。それで、優先者って言うんだけど」


 マジすか。

 思わずお兄様の方を見ると、にっこり笑ったまま頷いた。


「だってミルヴィアの友人だろう?」

「……後腐れない人、ですね」

「そうだね」

「師匠!」


 おー。

 おー。

 来た来た、私の弟子が。かーわいー弟子が。


 振り向いてみると、ビサが黒い軍服らしきものを着て走って来ていた。そのまま勢いで長剣を抜き放ち、襲ってくる。


「っと」

「!」


 軽く躱し、そのままお腹にパンチ。そして後ろに回ると短剣を抜き、長剣を弾く――


「やられませんよ!」


 そのままビサが振り向きざまに長剣を振るい、ギリギリで躱す。あっぶねー、油断するとここの所やられそうになるんだから、もう。

 振られた長剣。その上に立って、反動でジャンプ。短剣を空中で狙い澄まして放つ。短剣は長剣の柄に当たり、わずかではあるがビサの手に衝撃を与える。勢いのまま天井を蹴り、長剣の柄を持ってビサの手から抜く。勢いを殺すため、一回転。着地。成功。


「さすがです師匠、まさか不意打ちで負けるとは思いませんでしたぞ!」

「ははは……」

「えっと、これは?」

「お前ら何やってるんだ」

「ミルヴィア、すごいねー」


 顔を引き攣らせたお兄様の声と、突っ込むエリアス。そして場違い感がハンパない、コナー君の感心したような声。

 いや、最近ね、ビサが奇襲を仕掛けてくるようになったのよね。


「でもビサもまだまだだねえ。ユアンだったら長剣の上に乗られた時点で剣を横に振ってそこから次へ繋げさせるのを防ぐだろうね。あと」

「ミルヴィア、そこまでだ。お前、準備に時間かかるの忘れてないよな」


 エリアスが、顔を引き攣らせたまま言ってくる。おっと、忘れてた。


「あ、そっか。ごめんごめん、つい癖で。で、ビサは何で居るの?まさか、奇襲のためだけに入って来たの?」

「いえ、私は舞踏会の警備を!」

「それは……」


 ビサは強くなったんだけど、まだ昇進試験は受けてない。だからこんな警備なんかに回されちゃったとか。悪いことしたなあ。もうちょっとササッと鍛えちゃえばよかったか。


「師匠、聞いてください、師匠に弟子と認められたと軍曹に進言したら、舞踏会の警備という重要な役割をくださったのです!」

「あ、そう」


 重要だったの。


「では、着付けをしますので男性の皆さんは出て行ってください」


 『男性の皆さん』で、全員が反応した。ああ、とそそくさと皆が退散する。蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。ははは……。笑うしかない。


「ではミルヴィア様、お着替えしましょう。既に五着ほど選んでいます」

「あ、はい」


 衣装室に入ると、五着のドレスが大きい机に並べられていた。


 一つ目、赤い、足元まで隠れるようなドレス。細身で、レースがあまりついていないシンプルで大人っぽいドレス。

 二つ目、淡い桃色の、ふわりとした子供らしく可愛いドレス。レースが付いていて、胸元にもリボンが付いている。

 三つ目、薄い青と濃い青のレースが重なったドレス。大人しく、綺麗な印象を受ける。こっちも大人っぽいな。でも少しだけレースが多めで、足元までドレスで隠れる感じかな?

 四つ目、緑色の目立たない装飾がいくつかついたドレス。大人し目ではない。かと言って目立ちすぎという事もなく、私にはピッタリかもしれない。

 五つ目、これは……


「シンプルですね」

「はい」


 五つ目のドレスは、黒いドレスだった。体を囲うようにレースが付いた、綺麗なドレス。不吉な印象を受けても、どことなく惹かれる感じの。私の目と髪に似た、漆黒のドレス。


「これにします」


 迷い?何それ美味しいの?

 ないない、これが一番。


「分かりました。では髪の毛のセットもしますのでこちらへ」


 あと、サイズを合わせる微調整。装飾を加えたり、今日の調子に合わせた髪飾りを設える。

 これから出かけられるまで、八時間もかかりましたとさ。



 さてと、八時間後、つまり午後一時。私が皆の待つ大広間に行くと、こうなった。


「おお~」


 親戚が結婚式で綺麗なドレスを着た子供を見た時みたいな歓声。何かこっぱずかしい。


 私の格好は、黒いドレスに、真珠?のついた髪飾り、髪の毛は下ろしている。ヒールは黒くて、黒ずくめのはずなんだけどそのおかげで大人っぽい。それに細かく砕いたガラス片が散りばめられているドレスだから、蝋燭の明かりを反射したシャンデリアからの明かりでキラキラと光ってる。

 自分で言うのもなんだけど、うん、結構似合ってると思う。さすがエレナさん、仕事ができる。伊達に三百年生きてないね!

 私を見て、ユアンが駆けてくる。

  

 でも、舞踏会か。

 舞踏会、かあ……。


「お綺麗ですよ、ミルヴィア様」

「あ、りが、と」

 

 また襲ってきた緊張で、声が上擦る。でもそれも、次に駆けてきたコナー君で吹き飛んだ。


「すごいねミルヴィア!そうだよね、主役だもんね、すごいよ!」

「ありがと」

 

 さすがコナー君。私に癒しを齎してくれる。すごいな。最早超能力。


「似合ってるぞ」

「ありがとーエリアス!」

「うん、いいと思うな」

「ありがとうございますお兄様」

「師匠、お似合いですぞ!」

「サンキュ、ビサ」


 一人一人にお礼を言ってから、皆で屋敷の外に出る。

 私は真ん中に居て、お兄様が前、エリアスが左隣、コナー君が右隣、ユアンが左斜め後ろ、ビサが右斜め後ろの囲まれながらの移動って感じ。何だこれは。護衛かこれは。SPか?本当に王様みたいじゃないか――ってああ、本当に王様なのかあ……。

 なんとなく感慨深い。しかも王様として発表されちゃうとは。

 怖いなあ。前世じゃ人当りとか全然気にしてなかったけど、気になるな。


「大丈夫ですよ、ミルヴィア様。いつも通り振舞えば」

「……ん」


 悔しい。悔しいけど、安心する。いつも通りがこれほど慰めになるとは、私も落ちたなあ。ああいや、仲間が出来多分上がったのか?

 どっちでもいいや、楽しいし。

 ん?

 あれ?


「お兄様、お母様達は」

「え?どうして?」

「どうして、って」


 だって両親は公爵じゃないっけ?記憶違い?


「二人は後発組だよ」

「どうしてですか?」

「ミルヴィア、あまり好きじゃないだろう?」

「それはつまり、先発は私の好きな人達、と」

「そうだよ。合ってるだろう?それとも他に」

「いえいえ、この四人で間違いありませんよ」


 男ばっか……どうしよう、今ばっかりは本気で狐ちゃんに来てほしい。助けて!狐ちゃん!

 まあいっか。逆ハー状態は慣れた(おい)。

 それよりも、やっぱりあの二人来るよねー。来ちゃうよねー。


「どうぞ」

「ありがとう」


 エリアスが開けてくれたので、馬車に乗る。キイ、って揺れたので驚いたけど、どうやら私の馬車には隣にコナー君、向かいにお兄様、ユアン。もう一つの馬車にエリアスとビサ――あの二人のコンビって見ないな。どんな会話してるんだろう、気になる……。


 馬車ではこれと言ったイベントはなく、たまに振動が来るくらいだった。そして従者の人から言われて外に出てみると、そこは。


「宮、廷」


 緑の鮮やかに輝く朝露のまだ残る庭、そして門扉から玄関までずらりと並んだメイドさんや小姓、執事さん達。奥には公爵邸など比べ物にならないほどに縦にも横にも大きな建物、建物の青い窓枠には透明なガラスが嵌められて、陽の光を反射していた。

 青く澄み渡った空にどこまでも伸びるかと思わせる高い塔があり、建物の形は四角くお兄様の話では中庭もあるらしい。立派な門扉が、二人の顔を伏せた従者により開かれる。


お帰りなさいませ(・・・・・・・・)、魔王様」


 一斉に、従者達が発声する。その揃いきった声に、ぶるっと震える。

 そして、玄関の前で腰に手を当て腹に手を当て、腰を折っている人が居た。


「お帰りなさいませ魔王様、お待ちしておりました。――待ちくたびれましたよ」


 顔を上げたその人は、ビー玉のようにくるっとした綺麗な銀色の目を持つ、銀色の髪をした、十歳くらいの少年だった。

閲覧ありがとうございます。

新キャラ登場。どういう立ち位置かは次回明らかになりますので。ダンス回はもう少し後です。

次回、新キャラとたくさん接します。

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