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50 ダンス


「遅かったな。待ったぞ」

「私は待っていてほしくなかったかな」


 私は公爵家の大広間で、一人で立っているエリアスと対面した。エリアスの格好はいかにもダンスに向きそうな白と黒の布で作られた服で、にこりともしないままこちらを見ている。眼鏡をかけてるせいか賢く見える。

 眼鏡って、得だよねー。


「エリアスとダンスとか、なんかの冗談でしょ?」

「冗談か。俺だって別にお前と踊りたいわけじゃない。カーティスに頼まれて仕方なく」

「なあにが『仕方なく』だよ。断わりゃ良かったじゃん」

「旧友の頼みだ、無碍には出来ない」

「武士か!」


 しかもなんだ旧友って!お兄様エリアスの事好きなわけじゃないよ!?

 

 ここらへんで今の私の格好を説明しておこう。

 私の格好は、ドレス、だった。足首まで隠すふわりとしたレースのドレス。色?薄い赤だよ。吸血鬼をイメージしての事なんだろうね。頭には、薔薇みたいな花飾りも付いてる。綺麗なんだけど、私の黒い髪と目と合わさると不吉っぽくない?

 それに……


「不満らしいな」

「そりゃ」


 いつもの短剣を外されちゃってるんだよね。なんとなく腰のバランス的に落ち着かない。私はちらりとユアンの方を見る。短剣はユアンが持っていた。んー……やっぱりユアンに預けるっていうのも不安要素なんだよなあ。


「お綺麗ですよ」

「違うから!ドレスの感想求めてるんじゃないから!」


 むずかゆくなるような事言わないで!?私褒められるの慣れてないから!

 もーさー、女ったらしの言う事と言ったらもう。


「まあ、似合っているな」

「両サイドからの攻撃止めて……普通に恥ずかしいから……」


 確かに似合ってた。うん、似合ってましたともドレスは。ドレスはね?でもさ、あのさ、褒められ慣れしてない人にとっては地獄なの。褒め殺しって言葉、知ってます?


「ほら、早く来い。早めに終わらせたいだろう?」


 エリアスが手を出してくる。んん……無駄にカッコイイ分なんか緊張する。でもエリアスと私で、踊れるかなあ?さっきはああ言ったけど、エリアスもまあまあ背高いし――あれ?

 エリアスの近くまで来て手を取ってみると、結構踊れる身長差だった。なんで?と思ったけど、どうやらエレナさんから強制的に履かせられたヒールのおかげだ。ヒールなんて履いた事なかったけど、コツコツと響く足音が小気味よくて気分が上がる。


「ヒール……」

「エレナさんに強制されたの。で、どうやって踊るの?」

「俺に付いてくればいい」

「それさ、取りようによってはすごくカッコイイ台詞なんだけど、今使われても困るというか。どうすればいいのか素人の私にはとてもとても……ッ!?」

「いいから付いてこい」


 グイ、と体が引き寄せられる。やば、密着する……これ、結構困る。

 

「エリアス、ちょっと」

「何だ?」

「こ、れ、恥ずかし」

「我慢しろ」

「……っがま、ん」

「そんなんじゃ踊れないだろう」


 それはまあそうなんですけどね。


 そして、音楽が始まる。恐らく初心者用の、緩やかな音楽だ。どうしてだろうと思ってみてみると、『音声記録機』なる魔導具が置かれているので、あれだと思う。音声記録機は最大五つの音楽が記録できる魔導具で、貴族の中でも高位な人しか持っていない魔導具だ。

 ちなみに値段は小金貨一枚+大銀貨八枚。日本円にして約百八十万円である。

 地球のCDの偉大さが分かるね。


 エリアスがステップを踏む。何故か慣れてるみたいで、こっちもついて行けた。タン、タン、とヒールの音が大広間に響く。本番は魔王城の離れにある宮廷。いつかは私も足を運ぶ所だし、道を覚えておかなきゃ――と言っても、多分覚えなくても行ける。


「右足を出して、引いて、こう」

「んんっ……」


 ステップ自体はあんまり難しくない。戦い慣れしてる私としてはゆったりとしたステップが少し苛立たしい気もするけど、こちらも慣れてしまえばまあまあだ。


「覚えが良くて結構」

「うるさい、早く終わらせたいだけ……」


 この体勢キツイのよ、意外と。心臓がバクバク言ってる。あれ、私前世含めて人とこうやって密着?するの何年振りだ?赤ちゃん以来か?

 

 ツキンッ

 

 あ。やば、これ……


「エリアス、ちょ、もう、終わり……」

「どれだけ照れ屋なんだ」

「ちが、あ、足いた……」

「は?」

「足が、痛い……ヒール、慣れてないから……っていうか本当に痛いし勘弁して」

「ミルヴィア様?」


 音楽が止み、エリアスに離してもらったところで蹲る。せっかくのドレスだけど、『風塵』で汚れを取り払えば問題ないし。私はヒールを脱ぐと、足をさすった。痛いのは右足。治癒魔法、使おうかな。


「静かなる道ゆえの負傷、それらをすべて除け。痛除」


 痛いのは引いた。でもまだ若干ツキンツキンと痛む。

 つー、これは考慮してなかったな。ヒールなんて慣れないもん履いてたら、痛くなるのは当たり前か。思えば前世でも履いた事なかったしな~。バランスは取れるけど。


「ところでエリアス、どうしてエリアスがダンスの講師なんて。どうせ旧友の頼みだけじゃないんでしょ」

「ああ、まあな。夢魔退治だ」

「夢魔退治?それがどうかした?」


 あと八日後の夢魔退治。舞踏会の翌日だし、けっこう疲れてると思うから嫌なんだよねー。


「日にちを決めた責任を取ってくれとカーティスに言われてな」

「なるほど、納得」

「治ったなら再開するぞ。一週間で最高難度のステップまで覚えるんだからな」

「冗談は程々にして!?」


 無理でしょ!私の身体能力がどれだけ高くても、ヒールでそれは無理でしょ!


「ヒールの事を考えてるんだったら、すぐ慣れるだろ」

「ヒールの恐ろしさを知らないな!?結構疲れるのよ!?」

「ミルヴィア様、ですが、相手は貴族なのです。最高難度のステップくらいは踏めるようになっておかなくては」

「うー……」


 そんな正論っぽく言われても、きついもんはきついんだよな~。ヒールが痛くなくなる魔導具とか、ないかな?あ、それとも疲労回復痛覚軽減の魔法を纏わせたらどうだろう?でもそうだな、どっちにしろ魔力の可視化をしないと……早く覚えたいなあ可視化。どうすればいいんだろう。そうだ、ビサとの訓練の合間にやって、それと……


「痛みが引いたんなら続けるぞ」

「お、う――うん」


 私はヒールを履いて立ち上がると、そこから延々三時間、休み休みでダンスを続けた。

閲覧ありがとうございます。

エリアス、ダンスは踊れます。それに最高難度まで踊るって事は、エリアスも踊れるって事なんですよね……。

次回、特別編です。神様のお話です。ミルヴィアの呼び名が神楽になりますが、ミルヴィアの名前はミルヴィアなのでよろしくお願いします。

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