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46 飛行


 やば、どうやって降りよう。急降下しようかな。


 ビュオオオオ!

 

 怖!?

 

 降りようにも、羽を止めたら真っ逆さまに落ちる。降りるんじゃなく、落ちる。

 これ、周りが暗くなったら危険じゃない?野鳥の魔獣は夜に出る、って唄った唄があったような気が。確かその歌詞ってめちゃ怖くてグロい歌詞だった。これ子供に聞かせるの!?って感じの。


 いや、そろそろ現実逃避を止めよう。現実を見て検証しよう。


 今私は、飛んで降りれなくなってます。

 時刻は夕方の六時ごろ、そろそろ辺りが暗くなって街灯も蝋燭なので上までは届きません。

 なお、嵐は過ぎましたが曇りなので月明かり・星明りも期待できないでしょう。

 そしてそろそろ鳥の魔獣、即ち鳥獣の出てくる時間です。


 ……詰んだあああああ!

 なにこれやばいじゃん下手したらずっと空で生活しなきゃいけなくなる!

 

 降りよう。覚悟を決め――


 ボオオオオ!


 無理!

 痛い怖い息が出来ない果てしなく地面が遠いー!


 もう一度羽を動かす。んう、そろそろ鳥獣が出て来てもおかしくない――


「ギャアアア!」


 悲鳴のような声。ただし掠れた汚い声で、しかもバサッと言う羽の音。まるで獣のような。

 そりゃあそうでしょう。

 獣ですもん。


「うわっ!なにこの鳥!あ!」


 前世で見た鳥に似てる。うん。何だっけあの恐竜。あ、そか、プテラノドン?だっけ。そっくり……うんぎゃあああ!

 

 熱い赤いブレスが、私のいたところスレスレを通り過ぎる。羽が少し焦げたけど、魔力で形成された部分だからか、痛みは感じないしすぐに再生された。


 プテラノドンが!プテラノドンがブレスを!あれ!?恐竜ってブレス吐くっけ!?(大混乱)


 ブオオ!

 

 次のブレスで正気に戻される。さっと回避し、迎撃。手のひらで魔法を作る……と。


「うああああ!」


 今度は羽に気を配る余裕がなくなり、羽がボロボロと崩れて落ちかける。仕方なしに魔法の構築を終了し、羽に魔力を送り短剣を抜く。こうなったら、肉弾戦しか……!


 ただ、ここは空。地の利は相手にある上に、こちらは羽根にも気を配らないと落ちる。冗談じゃない、こんな鳥獣に負けて落ちてたまるか!

 私が短剣を構えると、プテラノドンも私が敵意を抱いたと確信し、一度引いてからまた突っ込んでくる。それを最小限の動きで躱し、すれ違いざまに短剣を伸ばして相手の羽を切り裂く。

 

 そこで、あっさり短剣が届いた事に驚く。そして、


「血が……」


 プテラノドンの切り裂かれた場所から血が出ず、かと言って再生もしないのを見て力が抜けていた。


 魔力は血に宿る。その魔力が魔石に移ったら?血は、どうなる?体内器官が不要になったら?血は、どうなる?


 私は血が出ない生き物を見て、すっと下ろしていた短剣をまた構える。生物と言うべきかもあやふやな存在。しかも私の大好物の血が出ない。

 最早、私の中に地の利などと言う概念は無くなっていた。

 思う事は、ただ一つ。


 ――生き残れ。


「ギャアアア!」

「甘い!」


 突っ込んでくるプテラノドン。それを避ける。嘴が私の右腕を掠って血が出た。その血を、生き物の証を、ぺろりと舐める。すぐに治癒され、考えなしに突っ込んでくるプテラノドンを避け、避け、攻撃を入れる。

 このままだと消耗戦だな。埒が明かない。仕方ない、攻めるか。


「はあっ!」


 私は、迷わず短剣を投げた(・・・)。そうする事で何をしたかったのかと聞かれれば、こう答えると思う。

 『この戦いを、生死も賭けない相手の負けで終わらせたかったから』。

 短剣は、プテラノドンの胸を貫いていた。

 

 しかし、穴が開いた胸からも血は溢れない。悲鳴も出ない。ゾクッとした。生き物……これが?違うよ、これは『動く生き物に似た物体』だ。


「っ、終わらせて、あげる……!」


 落ちる短剣を拾い、プテラノドンに突っ込む。プテラノドンは、飛ぶ事すらままならない状態だった。そりゃあそうだ、痛みは感じなくともバランスは崩れる。

 このまま突っ込めば、終わるんだ。プテラノドンの、生きていない一生が。

 

「――――!」


 プテラノドンに突っ込み、あと少しで終わり、というところで、躊躇った。ほんの数瞬だったと思う。でも、その数瞬で、プテラノドンは準備を整えてしまった。


 ブオオオオ!


 口を開けたところでギリギリ避けたから実害は無かったものの、熱い余波が私を襲う。これがあるって忘れてた!なんて迂闊な!

 やばい、羽が焼かれ……再生。

 またブレス。ギリギリで避け、短剣を突き立てる。それでもまだ、鳥獣の動きは止まらない。魔石を取り出さないといけないって事?無理、だよ、こんな、命が無くても、私、


「私、は」

「ギャアアア!」


 今度は突っ込んできた。避ける。無理だと自覚してしまえば、もう無理だった。避け、躱し、短剣を振るおうとしては下ろし。

 そしてとうとう、四度目のブレスで右の羽を完全に焼かれた。すぐに再生しても、逃げる事しか適わない。

 今日初めて使う羽を駆使し、そこから逃げる。それでも、一度標的と戦ったプテラノドンは追ってくる。

 マズイ。これじゃあ、何も出来ないまま――


「師匠!私です、さあ!」


 下で聞こえた声。見てみれば、人影がこちらに向かって手を振っていた。『視界良好』をオンにして、人影を見る。ビサ、だった。ビサが、ギルドのドームの上に登って手を振っている。


「私が何とかします故、私も空へ!」

「はあ!?」


 んな事言ったって、この羽じゃ二人なんて……あ。これ、魔力で形成されてるんだよね。

 じゃあ、大きさも自在なんじゃ?

 

 そう思い、込める魔力を倍にしてみる。羽が倍になった。これで多分、ビサも運べる。でも、あそこまで行くには降りないと。怖い。痛いよ?

 ……いや。


「オッケー、行ってやるよ!」


 弟子にカッコ付けたいのは、当然だよね!


 ビュオオオオオ!


 羽を閉じて真っ逆さまに落ちる私は、風を切っていた。そして、ドームギリギリに来てからまた羽ばたき……


「っ!」

「!」


 ジャンプしたビサの腕を掴み、上空に引き上げることに成功した。そのまま、ビサには背中に乗ってもらう。案外軽かった。


「た、高いですな」


 ビサの慄いたような声が聞こえた。私はビサの声を聞きながら、頷く。

 

「そりゃそうだよ。空だもん。で、大丈夫?」

「師匠のサポートが欠かせませんが」

「そんなの」


 プテラノドンを見る。私の通って軌道をなぞって、追ってきている。私は、ペロリと風に長時間当たって乾いた唇を舐めた。


「急降下に比べたら、安いもんだよ」


 苦笑しながら言う。風の音で遮られないように、大声で。ビサは負けじと大声で私に話す。


「では、あの鳥獣のギリギリまで行ってください!」

「了解!」


 引き返し、プテラノドンに突っ込んでいく。プテラノドンは、訳が分からずじっとしていた。

 あれ。どこまで行くの?ねえ?あとちょっとだけど?


「師匠、失礼!」

「うぐっ」


 いきなり背中に衝撃が来て、ちょっと高度が下がる。ビサを見てみると、上空に躍り出て長剣を振るっているところだった。


「あ」

「うおおおお!」


 ビサの長剣が、プテラノドンの急所?を一突きにした。そのまま、プテラノドンを抱える。え、何してるんだろう。というかあんた、そのまま行くと落ちるよ?


「師匠!早く!」

「あ、ああ、そゆこと」


 羽を伸ばし、バサッと羽ばたき。プテラノドンを抱えるビサを背中に乗せて、もう一度羽ばたく。ひやりと当たる風が気持ちよく、しかもちょうど真っ暗になってきた。


「ビサ、ありがとうね」

「いえいえ、師匠のお役に立てたと思えば、こんな事なんでもありません」

「……でもさあ」


 さっきのビサの剣を思い出して、首を傾げる。


「さっきみたいな力任せはいいとして、結構技術は拙いね。直す必要があるよ」

「ははは、明日からの訓練、期待していますぞ」

「おうともよ」


 にやっと笑い、『視界良好』をオンにしたまま、屋敷に向かった。


 ……そういえば、急降下は克服できたけど着陸ってどうやるんだろう。


「ビサさん、お伺いしたい事がありまして……」

 

閲覧ありがとうございます。

プテラノドン(?)の登場でした。ミルヴィアにとって初めての本格的な戦闘でもあります。初めての戦闘が上空って、結構シビアですよね。

次回、訓練開始です。

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