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45 自主練


「あーあ、エリアス。そんなところで待っちゃって、人恋しかった?」


 私がエリアスに近付いてそういうと、エリアスはふんと笑った……鼻で笑われるとか、勘弁してよ。私そっちの属性はないんで。


「見つかって追い出されただけだ」

「人の事鼻で笑っといて理由がそれ!?見つかって追い出された!?町一番のお医者さんが!?」

「誰が町一番のお医者さんだ。町一番なわけあるか」


 私の動揺を余所に、エリアスが呆れたようなため息を吐いた。

 いやいやいやいやいや。

 呆れてるのはこっちですよ。なんで見つかってるんですか。


「お前の心の中の疑問に答えようと思うが、掃除の侍女が入って来たぞ」

「ほらまたそうやって読む……ってあれ?じゃあなんで侵入で逮捕されてないの?」


 お父様に見つかったら一発でしょ。そうじゃなくても私が居ないんだから庇えないし……。


「何とかした」

「何とかって?」

「何とかだ」

「だから何それ」


 頑として口を割らないエリアスを睨んでから、ユアンの方を向く。ユアンは私の視線に気付くと、さらににこりと笑った。


「誘惑でもしたのですか?」

「ああ、そゆことか。まったくもう、罪だよねえ」

「僕の家でそういうのは止めてほしいなあ」

「お前ら……まとめて霊魂の餌にしてやってもいいんだぞ?」


 からかうような私達の口調に、エリアスが怒気を顕わにしてでっかい、本当にでっかい水の球を作り出した。私はごめんごめんと軽く謝ってから、そこから話題を逸らすべく話し始めた。

 おっかないおっかない。からかうのも程々にしなくちゃね。


「それで、どうするの?帰るの?」


 私が言うと、エリアスが水を手のひらで吸収してから頷いた。ちょっと残念。まだ話したかったりしたのに。

 でもまあ、水害での怪我人が居るのかもしれないし、しょうがないか。


「ギルドにボランティア募集が入ってるんだ。顔を広めるためにも受ける」

「へえ、エリスってギルドに登録してるんだ?」

「ああ。じゃあな、ミルヴィア」

「じゃあね、エリアス」


 エリアスはパシャパシャと水たまりを歩きながら行ってしまった。私達が起こした騒ぎ聞いたら、怒るかなあ。いやでも私何かしたってわけじゃないもんなあ。

 ただ謝っただけだし、怒らない、怒らないよね?

 私達は庭に入り、いつもの家の感覚にふうっとため息を吐く。


「じゃあ僕はずっとほったらかしにしていた政務があるから。じゃあね」

「はい、お兄様。頑張って」

「うん、頑張るよ」

 

 お兄様はタフィツトへ、私とユアンは庭に行った。コナー君が居たらラッドミスト撃退計画を話せたんだけど(勘で見つけてさっと殺る)、居なかった。


「どうするのですか?ここに来て、訓練でも?」

「そうそう。『変身』のね、訓練」


 ちょっと試したい事があってね――と、私は言った。蝙蝠になれるんでしょ?

 すっごい興奮するんですけど!自分で空を飛ぶとか、人類の夢じゃん!?希望じゃん!?

 ……コホン。そういうわけで、私は蝙蝠になろうと思ってるんですよね。


「『変身』の訓練ですか。それは容易に出来る事じゃないと思いますが……」

「だからこその訓練でしょ」

 

 魔力の流れを意識する。蝙蝠を想像する。悪魔みたいな羽。小さい身体。小さい脚。ちょっと吸血鬼性は残しておきたいから、鋭い牙。

 カッと力を込め、魔力も込める。体が熱い。体が冷たいようで熱い、変な感覚。何か、『私』から呼ばれた時の感じかもしれない。

 あれ?そう考えたらやばい気がしてきたぞ?確かあの後、魔力が興奮……ッ!?

 沸々と沸く魔力。グアアッと熱くなる体。


 マズイ。力を抜け。

 力を抜くと、とんでもない寒気と鳥肌が襲ってくる。それを避けるべく力を入れ、魔力の循環を促し、体が熱くなり、力を抜けば寒気がする。悪循環だ。


「ユアン、ヘルプ!」

「はい、ミルヴィア様」


 ユアンが手のひらに丸い何かを作り、思いっきり私にぶつけてきた。寒っ!?なにこれ水!?寒いー!


「なんて事してくれたの!服がびちゃびちゃ!」

「ああ、はい、失礼しました」

 

 糾弾する私に、ユアンは手のひらを向けてきた。え……嫌なよか


 ブオオオオオオオオ!


「ひゃあああああああー!」


 思わず蹲って頭を抱える。ものすごい暴風が、私を襲っていた。それなのに植物等には全く風が当たっていない。どうやってるのかは分からないけど、多分私の後ろにバリアを張ってるんだと思う……とか考えてる余裕はなかったので、これは後から思った事だけど。

 とりあえず今は、蹲ったまま暴風に耐えるばっかりだった。


「もういい!乾いた乾いた!」

「おや、そうですか」


 ヒュウン


 風が止み、立ち上がろうとするとふらふらする。立ち眩み。ゆっくり座って、呼吸を整えて、もう一度立ち上がる。そしてゆっくりユアンに歩み寄り――短剣を勢いよく抜いてそのまま首を刎ね飛ばさんばかりにユアンの首に向けて放った。


「甘いですよ」


 難なく手のひらで受け止められ、ムッとする。離してくれたので、大人しく短剣を仕舞った。

 うーん、受け止められたシーンが見えなかった。それに受け止められた時、あんまり衝撃が来なかったしどうやって受け止めたんだろう。真似すれば……それにしたって見えないんだよねえ。


「それで、どうだったんですか?『変身』は」

「難しいかな。分かってたけど、早々簡単に出来るような事じゃなかったや」

「魔力の興奮状態ほど恐ろしいものはありません。無理をせずにゆっくり慣らしていくのが一番かと思いますよ」

「そうだね」


 早くやりたかったんだけど……そんなに上手くいかないか。

 蝙蝠って想像しにくいところがあるしね。そんなにじっくり見る機会のある動物じゃないし、しょうがないっちゃしょうがないんだとは思うんだけどさ。


「まずは想像しやすいところから、って言ってもなあ、想像しやすくって言っても」

「羽だけ想像してみては?良いんじゃありませんか?」


 羽だけって、まんま悪魔になってません?私が悪魔だって言いたいんですか?

 穏やかな顔でユアンを見ると、ユアンも笑顔を向けてきた。私とユアンの間にバチッと火花が散る。

 ん、でも待てよ?

 羽だけ想像して『変身』っていうのも、案外アリか?結構想像しやすいんじゃないか?それに悪魔の羽だけでも飛べるわけだし。


「しょうがない、やってみてあげよう」


 そう言って、私は羽を生やすイメージをする。黒い羽。蝙蝠みたいな羽――。


 バサ……


「うひゃあ!?」

「おお」


 いきなり羽が生えたなんとも言えない感覚。背中を突き破って出て来た羽のはずなのに、痛みは無かった。どっちかっていうと、にゅいって感じ。横を向いてみると、悪魔みたいな羽が。

 なんだろう……すごい感動。


「良かったですね、ミルヴィア様」

「う、ん。ありがとう、ユアン」


 ショックのあまりユアンにすらりとお礼を言えてしまった。羽を動かしてみる。それだけで、ちょっと浮いた。地面が足を離れる感覚は不安だったけど、すごく楽しい。


「ユアン、ちょっと飛んでくる!」

「は!?お待ちくださいミルヴィア様!」


 バサア!


 思いっきり羽ばたく。一気に、屋敷を真上から見下ろせる位置まで飛び上がった。そこから、もう一度羽ばたく。次は前に進んだ。どうやってって言われても、どうやって歩いてるの?みたいな質問と同じで説明できない。ただ、本能的に分かった。また羽ばたく。

 

 うわあ……綺麗な景色。地球と違って緑が多いからなおさら綺麗!飛ぶのがこんなに楽しいなんて知らなかった!


「――――――!」


 下でユアンの叫ぶ声が聞こえるけど、無視。そのまま山の方まで飛ぶ。蝙蝠の羽のはずなのに、ばたばたしなくてもいい。それは多分、私の羽が私の体を支えるより少し大きめだからだと思う。いやあ、ファンタジーだねえ。

 あー気持ちいい。このまま寝ちゃいそう……うおっと。


 飛ぶのを止めてしまうと、とたんにバランスが崩れる。これ楽しい!

 これは多分、初めてスケートが滑れた、初めてスキーが出来た時みたいな高揚感。ずっとやっていたい、ずっと滑っていたいって思う。でもそうもいかない。何故ってちょっと辺りが暗くなってきた。仕方ないので、大きく迂回して屋敷に戻った。明日またちょっとやってみようっと。


 私は屋敷のところまで来ると、降りようと思って急降――んん?


 これ、どうやって降りるんだ?

閲覧ありがとうございます。

作者も、スケートで滑れたはいいもののどうやって止まるんだ状態に陥ったことがあります。壁にぶつかって止まりました。

次回、ミルヴィアが飛行したままになります。

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