41 お出かけ
ユアンが出て行った後、私はベッドに潜りながら色々と考えごとをしていた。
まあ主に魔法の事ですよ、魔法の事。もっと強くなる秘訣、みたいなのを探ってたわけですよ。
私とて最強を名乗る身として鍛錬を怠らない見事な根性してますからね。
そーいや、私って魔族で最強なんだよね?じゃあ、人族ではどうなんだろう。今度人族と戦ってみたいな――あ、ビサが居るからビサと戦おう。追放されたんだからあんまりあてには出来ないけど、強いでしょ、多分。
っとと、思考が逸れた。
そうそう、魔法の事ね、魔法の事。
正直言って、前に私がやった風呂場での魔力の直接操作?あれ、出来ない気がする。
いやね、やろうと思えばできるのよ。魔力開放に魔力を具現化させたものを滲ませればいい。
だけど、やろうとすると多分皆怒る。
皆って、お兄様、ユアン、エリアス、等の面々。特にユアンはこの前心配してたし。
まあね。
やるなって言われてやらない私じゃないけど。
つまり、然るべき年齢になるまでとっておこうと言ってるのですよ。具体的には七歳くらいまで。あと二年。
それまでにやれる魔法はすべて使うってのが私の作戦かなあ。
そういえば、ユアンが、一年前に私がどうとか――
言ってた、ような――
すうっと、私は吸い込まれるように眠りの中に沈んで行った。
「ミルヴィア様、起きて下さい」
「んぁ…」
目を開けると、ユアンの顔。目元が柔らかく、本当に笑っている感じだった。
おー…。
「本当の笑顔だぁ」
「あなたは…私を何だと思ってるんですか。もう九時を回っています。カディス様は既に準備を終えていますよ」
「あー、おー、うー。眠い…あと五分」
お決まりの言葉を言いながら、布団を頭まで被る。ぼうっとした頭の中で、そっかー、九時かー、とアホみたいに考えていた。
それも束の間。
ものすごい勢いで、布団が引っぺがされた。
「…寒っ!」
「そうです、その格好では寒いでしょう、早めに長袖に着替える事をお勧めします」
「ささささ寒いよ…ななななんでここんなにささ寒いの…」
「そりゃあ、嵐なんですから寒いのは当たり前でしょう。ほら、早く着替えて。防水コートは二着しかありません。早く着替えてください、ほら、早く」
「急かしすぎだって…」
布団を手探りで探しながら、私は呟いた。そして、薄く眼を開ける。と、反対側にエリアスが居るのに気が付いた。
…っ!
「うわあああ!なんで居んの!」
「驚きすぎだ。ただユアンが、俺がいるとすぐ目覚めるだろうからと連れて来たんだ」
ユアンの方を見てみると、にっこりと笑っていた。悪い笑顔だ。
これ、悪戯が成功した時の…イラつく顔だ!
「起きたでしょう?」
「地獄の果てで泣き喚け!」
私の蹴りは、すれすれで避けたユアンには届かない。しかし、魔力は血に混じっている。それは即ち、足にも魔力は通っていると言う事だ。私は、足の先に炎を発生させるべく超・小声で詠唱――
「すべてを燃やす灼熱の炎よ、忌まわしき害獣を追っ払え!害炎!」
というのは無理だったので、大声で言う。ちなみに今のは私独自の詠唱だったので、ユアンは知らない。その内容を聞いて、若干顔が引き攣った。
そしてそのまま、二発目をユアンの脇腹に入れる。
「でやあ!」
「っ、ですが避けられます――、!」
ユアンが驚愕に目を見開き、更に避けようと踏み込む。
そう。
私が炎を足に纏ったのは、ただ単にその威力を増させたかっただけじゃない。私の足の後を追うようにして燃え盛る炎が追ってくる。私の足の軌道を、そのまま炎が追うのだ。それを、ユアンは予想してなかったがために反応が遅れた。この隙だ。
「はあっ!」
足に纏った炎をそのままに、床を蹴ると軸にした右足ではなく左足でユアンを蹴る。利き足じゃないので威力は半減。しかし、不言魔法で出来る限りの『豪風』で追い風にし、右足の二倍の威力を出す。
「――!」
ユアンは避け切れない。何故なら軸足の炎を纏った足がユアンの足首を払って、わずかにバランスを崩したからだ。そこを狙って、左足が追撃――
そして、ユアンが不敵に笑った。
「残念」
「うあっ!」
ユアンはスイとバランスを崩したままに左に体をずらし、左足の軌道から外れた。そして、私の左足を掴むと私をベッドの上に倒す。
うわあ…やられた。
やれると思ったんだけどなあ…。
「やっぱりさっきの床の踏み込みが足らなかったか」
「単なる技量の差じゃありませんか?」
「厳しい!」
「朝っぱらから何バトルを始めてるんだ。早くカディスのところへ行け」
「ん、そうだね。夢魔君待たせても悪いか」
「その夢魔とか言う呼び方だが、止めておけ。変な顔される。せめてカディスで統一だ」
「…はーい」
本当はお兄様の真名であいつを呼びたくないんだけど…しょうがないか。ここは妥協。
あくびをしながらベッドを下りて、扉を開けて廊下に出る。寒っ!何この極寒!吹雪でも吹いてるんじゃないの!?
窓の外を見てみると、相変わらずの大嵐。まだ止みそうにないけど、本当にお昼には止むんだろうか。ビサ、期待してるよ、最小値で。
歩いて歩いて、衣装室へ。そこで、いつもの格好に着替えてから外に出てタフィツトに向かう。タフィツトへの道は、憶えてないけど勘で行けるんだからスゴイと思う。
コンコン
「はい、あ」
夢魔、違った、カディスは、出てくると艶美な顔で笑った。変わんないな。
「おはよう夢魔、もといカディス」
「おはよう妹君、もとい魔王様」
「外での呼び名は…『君』とかで結構」
「了解です魔王様」
「うむ、苦しゅうない。という事で、はい、じゃあ出発しよう…あ!その格好で出る気!?」
「そうだけど?」
カディスが着ていた服は、黒い服に白いコート。シルクハットのようなものを被っていて、顔はいくらか隠れてるけど、ちらりと見える顔が幻想的で奇麗すぎる。
「てかそのシルクハット、何それ。似合ってるけど、変な感じ」
「ほら」
ぽふっと、私の頭に何か置かれた。探ってみると、ツバのついた帽子だ。白くて綺麗だったけれど、私としては元の帽子の方が結った髪の毛を隠せて好きだな。
「それ、断水仕様の帽子。それは適用範囲が体全体だからね、外すとえらい目に遭う」
「外しません」
レインコートだけじゃなく、こんな帽子まであったとは…さすが公爵家。
結構好きだな、このデザインといい使い方といい。
「そうだ、それ、ボクが作ったんだ。どうかな?気に入った?」
「いいえまったく好みません」
「ふふ、なら良かった」
絶対読まれてるし…。こういうところ、お兄様っぽいんだよ。中途半端で気に入らないけど。
あ、そうだ。
「お兄…カディス、お金、持ってる?」
「ん?持ってるよ?それにしても、そっか、君はボクとカーティスが同じに見えるんだね」
「今のは言い間違い。で、どのくらい?」
「小銀貨七枚」
「じゃ十分。行こうか。いろんなところ案内してね。私は全然何も知らないから」
「はいはい」
お兄様と夢魔を一緒にしちゃうとは、私もちょっと気を付けた方がいいんじゃないか?いくら顔が同じといえ、迂闊すぎる。
私達は誰にも気付かれないように家を出た。その時、本当に水が入ってこなかった。しかも遮音もされているようで、雨の音も聞こえない。
すごいな、これ。カディスが作ったと思わなければ、感心できる。
城下町に出ると、誰も居ない街道を二人で歩いた。傍目から見れば、凄く変な二人組だろう。
「あそこが本屋だ。なんでも売ってると言っても過言でもないよ。魔法教本もあるから、晴れの日に行ってみると良い。他にも三百四号室にはない本がたくさんあるはずだよ」
「あそこから行くとトィートラッセなのは知ってるよね?トィートラッセには、あっちから行く裏道があるんだ。裏口に着くよ。今度行ってみたら?え、今日行く予定?…あとでカーティスになったら行ってくれ。ボクはあそこのお婆さんが好きじゃあない」
「あそこは串カツ屋――え、行った事がある?ああ、一人で出た時か。美味しかったでしょ?あそこは近所でも評判のお店だからね。安いのも商売繁盛の秘訣だ。店主も優しいから。子供好きでも有名だよ」
「あっちは、トィートラッセとは別の魔導具屋だよ。店名は確か、アルディとか言ったかな?バル・ボーンズの息子が営んでる店だよ。まあまあの品揃えだ。トィートラッセには遠く及ばないけど、日常的な物が集まっているので人気だ」
「ここは洋菓子店。カーティスのお気に入りの店だ――ちょっと、そんなに食いついちゃ…たいていの店は嵐の日は休みなんだから」
「あそこは喫茶店。ああ、よく気付いたね。そう、ここは食堂街というエリアだよ。この喫茶店はパン類より麺類が美味しいかな、バルパ麺を揚げた物は美味いな」
「ん?ああ、あの大きい店は大衆食堂だね。あそこは美味しいけど、味より量って感じだ。ボクはあんまり好きじゃないかなあ。ボクは量より味だし、カーティスも小料理屋とかの方が良いみたいだし」
とまあこんな感じで城下町を一周し、気が付けば二時間が経過していた。ご飯を食べてもいいんだけど、私は吸血鬼、カディスは夢魔、食事は必要ない。
ふーん、こうやって見るといろんな街道があるんだな。
食堂が集まる食堂街、道具屋などが集まる小間物街。今回はそこまでしか行けなかったけど、他にもたくさんある。
色んなものが売っている店が集まった大雑貨街、遠くからも商人が集まり、民衆の好む定番商品が格安で買える店が集まる民衆通り、文字通り住宅街、私達が住んでる貴族街、避難場所が多い避難街等々。
そして。
「ねえ、約束の冒険者ギルド」
私が今日一番楽しみにしていた、冒険者通り。そこに在る冒険者ギルド。
「…やっぱり行くの?良いけど、嵐の日ほど依頼が殺到するものだから、荒くれ者は結構いると思うよ?むしろギルドで寝泊まりする輩も居るくらいで」
「いいじゃん、行こうよ。楽しみにしてたんだから」
「はいはい、分かったよ」
なんかだんだん、夢魔がお兄様っぽくなってきたような…ちょっとずつ、目覚めてるって事かな。面倒見がいいって気がするもん。
そして私達は、一番大きなドーム型の建物、冒険者ギルドへ歩みを進めた。
閲覧ありがとうございます。
城下町のさらっとした説明でした。これからかかわって来る店もあるかもしれません。
次回、冒険者ギルドでちょっと事件です。




