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29 庭での出来事

 

「へえ、コナー、こんなところまでやっているんだね」

「はい、カーティス様」


 あの後、お兄様がコナー君に添え木が届いた事を直接伝えたいと言うので、連れて来た。どこにいるかは勘だったんだけど、当たったみたい。

 私、方向鋭敏じゃなくて勘が良いんじゃない?


「添え木はもう届いてるから、ラッドミストが出ても大丈夫だよ。というか、まずはラッドミストの駆除をした方が得策かもね。添え木は両親に秘密で注文したんだし、あんまり頻繁に発注するわけにはいかない」


 綺麗な花を愛でるように触れながら、お兄様は困ったような笑いを浮かべた。うーん、カッコイイ。

 

「でも、害獣駆除の魔導具はそうそう売っていませんよ?」

「トィートラッセになら売ってると思うよ」

 

 私が言って、ちらっとユアンを見る。ユアンは笑ったまま頷いた。うーん、嘘くさい。


「じゃ、僕とミルヴィアが明日出掛ける時、買ってくるよ」

「え、あ、そうでしたね、お兄様」

「…」

 

 コナー君がじーっと見てくる。

 気付いてるよ。

 前から私がお兄様って呼ぶ時、コナー君が首を傾げながらこっちを見てる事は。なんでだろう。呼び方がおかしいのかな。


「コナー君、この呼び方おかしい?」

「え、うん、違くって」

「??」


 率直に聞いてみると、コナー君はおろおろしながらお兄様と私を見比べた。


「あ、あんまり似ていないなぁ、と。なんて言いますか、雰囲気も、ピシッとした感じとふんわりした感じとで全然違いますし」


 どっちがピシッとしててどっちがふんわりした感じなんだろう。

 私がふんわりか?だとしたらすごく笑える。私がふんわりした感じになるのは、コナー君の前でだけなのになあ。ユアンの前じゃ、ピシッと言うより…シーンって感じの冷たい雰囲気なのに。


「ミルヴィア様は冷たくありませんよ」

「その読心術、欲しい」


 どうして分かるんですかあなた…怖いッス。


 お兄様の顔を見てみる。確かに、似ていない。髪色と目色は魔力の現れだからいいとして、顔のパーツの配置から何まで、全然違う。私が前世と同じなんだから当たり前なんだけど、ここまで似てないと不自然かもしれない。


「ミルヴィア、近い」

「すみません」


 凝視していると、お兄様から注意が入った。さっと退く。

 どうして似ていないのかと言われれば、答えはきっと『前世の顔と同じだから』と答えるんだろうけど…そう言うわけにもいかないし。


「どうしてでしょうね」

「魔王だから、じゃないかな?魔王は顏が綺麗と決まっているし」

「お兄様も十分綺麗なので、似ていても問題ないかと」

「そこは知ってるつもりだよ」

 

 …。


「ま、まあ、三人は綺麗ですし」

「…」


 いつの間に私の顔が綺麗だと言う事で話が進んでいるのだろうか。

 そこはいいか。綺麗だと言われて不快になるほど器が小さいわけでもない。


「あ、この花綺麗だね」


 と、私は半ば強引に話を逸らせた。すかさずコナー君が食い付く。私が指した花は、黄色い花だった。パンジーみたいな黄色ではなく、薄めの、綺麗な花だった。


「そうでしょ?ドンルって言うんだよ」

「へえ、綺麗。ね、一本もらっていい?」

「うん、いいよ。うわあ!待って!」

 

 そのまま茎を切ろうとして、コナー君が全力で止める。え、と思った時にはもう遅く、ぷちっと綺麗な音と共に花の茎が切れた。とたん、体に電流が走ったかのような感覚があった。

 違う、本当に電流が走ったのだ。手先から全身に散るように、手先から足先まで、首元まで、腰まで、全体がビリビリする。


「うっ、くっ、あ、」

「ミルヴィア!」

解呪(イルズ)!」


 コナー君が唱えると、ふっと電流が収まる。だけど、まだ手先足先、そして胸元が痛い。そこはちょうど、赤魔石がある場所だった。


「ミルヴィア、花の呪いって恐ろしいんだから、ちゃんと手を合わせて――」

「は、なの、呪い?」

「まさか…知らないの?」

「し、知らな、~っ!」


 じわあっとまた広がって行く熱い感覚。思わず花から手を離した。


「花は、ちゃんと敬意を払わないで摘んだ人を一時であれど呪うんだよ」

「そう、なんだ」

「花の種類によって呪いは様々だし、固体によって呪いの強弱もバラバラだけどね。これからは、気を付けないとだめだよ?」

「うん、ありがとう」


 『夜中に笛を吹くと蛇が来る』的な子供騙しじゃなかったのか…気を付けないとな。

 ん、それにしても強い呪いだな。プライドが高いんじゃないか?


「これ、どうする?要らないんだったら、戻すけど」

「戻すって…」

「これを、こうやって」


 切った花の茎と、切れた茎をくっつけてちょっと捻る。と、コナー君が手を離してもそのままだった。


「これ、添え木要らないじゃん」

「完全に切れないと出来ないし、一個一個やってたら魔力が切れちゃうよ。魔力の魔石があれば別だけど」

「魔力の魔石?」

「うん。多分ラッドミストから採れるんじゃない?」


 ピーンと来た。

 そっかぁ、ラッドミストから魔石が採れるんだぁ。


「お兄様、明日トィートラッセに行くのはいいですが、ちゃんと変装してくださいよ?」


 お兄様の方を振り返って言う。お兄様は目をパチクリさせる。

 

「変装?」

「ユアンと歩いてる時も、エリアスと歩いてる時も、注目浴びまくりだったので」

「エリアスと歩く?どこを?」

「街道を――って、あ、言ってませんでしたっけ。私、帰りはエリアスに送ってきてもらったんです」

「…」

 

 ん…やばい?

 明らかに、お兄様の顔が引き攣っていた。あ、これ、ユアンの話を持ち出した時のエリアスだ。

 あれ。

 あれれ?

 

 人間関係が良く分からないぞ?

 エリアスは多分お兄様を好いてる。お兄様はエリアスを嫌ってる(?)

 エリアスはユアンを嫌ってる。ユアンはエリアスを苦手にしてる。

 お兄様はユアンを嫌ってる。ユアンからのお兄様への感情は分からないけど、妹の私をイジる事でお兄様の反応を見て楽しんでるきらいがある。


 分からない。どういう事だ? 


「え…エリアスに何かされなかった?」

「されてません。というか、エリアスに限ってそれはあり得ません」

「そ、そうだね。あー、変装だったよね。だったら、ついでにトィートラッセで変装用の魔導具を買おうか」

「はい」


 本当におかしいぞ。うー、気になる。後でユアンにでも聞いてみるか。この三人の過去、色々ありそうだもんなあ。あ、でもエリアスはそうでもないか。過去フラグ立ってないし。


「んんっ、とにかく、明日はトィートラッセに寄ろう。それでいいね?」

「私もお供します」


 ピシッ


 場が凍った。主にお兄様が発する冷気によって。ユアン馬鹿…ここでそれを言うな。兎にも角にもコナー君を巻き込むな。


「こ、コナー君、あっちに行く用事はない?」

「えっと…さっきまでなかったんだけど、今出来たよ」

「じゃ、早めに済ませたら?」

「そうだね、そうさせてもらうよ」


 うまい具合にコナー君を誘導。この場から、私は別としてコナー君が去る事に二人は何の意義もない。逆にさっさと去ってもらって、この二人だけの穏やかで熱烈で冷えている会話を開始したいところらしい。


「どうして君が来る必要があるのかな?」

「私はミルヴィア様の護衛ですよ?あなたが不測の事態に陥った場合、どう対処するのです?」

「僕はそんな事にはならないよ。君と戦っても十分勝機があるように思ってるけど?」

「私も随分舐められたものですね。魔法使いには負けませんよ。剣で捌き切れます」

「僕の魔法をその剣で捌き切れるとでも?悪いけど、僕は君に負けるくらいなら死を選ぶね」

「おや、偶然ですね。私も、あなたに負けるくらいならば死を選びます」

「ふーん?随分な自信だね?」

「お互い様ですよ」

「あ、の」

「ミルヴィアは黙ってて?」

「ミルヴィア様は黙っててくださいね?」


 同時に言われる。そんな命令口調!お兄様はいいけど、どうしてユアンまでそんな口調で!

 そう思い、私は全力で叫んだ。


「はい黙ります!」


 こえーっ!こえーっ、こえーっ!

 嫌だぁ、まだ死にたくないー!ってか、この二人の殺気だけで死ねそうな気がするー!


「来ないでね?」

「行きますよ?」


 ああ…私、ここで死ぬんだな…誰にも気に留められないまま死ぬんだ…この二人のケンカだけで死んじゃうなんて、はは、チンケな人生だったな…私が死んだら、『私』も消えるのかな…ごめんね『私』…ありがとう『私』…。


「ミルヴィア、どうする?」

「ほぇ?」


 考えていた事が考えていた事だけに、間抜けな声が出てしまった。お兄様は首を傾げてから、私にもう一度説明した。


「ユアンが来るのか来ないのか、ミルヴィアに決めてほしいんだ」

「…」

 

 どっちを選んでもどっちかから恨まれそうな決断ですね、それ。

 とか言いたいけど、心なしか花が震えているほどの殺気を撒き散らしているお兄様に軽口を叩ける空気ではなく。

 私は渋々、口を開いた。


「来ないでほし」

「…」


 キラン、とユアンの目が光る。


「き、来てほし」

「…」


 キラン、とお兄様の目が光る。


「こ、来ないで」

「…」


 キラン、と(以下略


「き、来て」

「…」


 キラ(以下略


 こんなやりとりが十三回ほど続いた時、ついに私は、打開策を提示した。


「二人が戦って、勝った方の言う事聞きます」

「へえ」

「ほう」


 言ってしまってから、しまった、と思った。さっき二人が言ってた事を忘れたのか。

 あなたに負けるくらいなら死ぬと、両方言っていたじゃないか。


「正式な勝負なら手加減無用だね」

「正式な勝負なら雇用主でも傷付けていいんですよね?」


 お兄様は口元に笑みを浮かべて、魔力の塊を手に浮かべながら。

 ユアンは目を細めて、剣の柄に手をかけながら。


 二人はいよいよ、本当に殺気を互いにぶつけていた。

閲覧ありがとうございます。

花の呪いは多種多様です。

次回、二人が戦います。

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