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24 霊魂

今回は多少の暴力的な表現があります。

血等は出ませんし過激ではありませんが、苦手な方は引き返すことをお勧めします。

 

「びっくりしたの。私、こっちに来てまだ三日だから」

「…あなた、魔王に討伐された」

「そうなの。おかあさんもおとおさんも、居ないし、それどころかもう狐族は残ってないの」

「正確には、狐族じゃなくて」

「無種族。それがどれほど屈辱的な言い様で、どれほど侮蔑の意味を込めていて、どれほど狐族が軽んじられているかを表す種族名なの。私は永遠、その名で我が種族名を語らないの。それより、あっちのあの人、大丈夫なの?」


 エリアスの事をすっぽり忘れて会話をしていると、後ろで殴り合う音が聞こえて振り返った。

 エリアスはそこらへんの小枝をちょくちょく飛ばして妨害してはいるものの、素手の相手の方がかなり強い。多分取っ組み合いになったら勝てないくらいに、強い。それだけじゃない。エリアスはスタミナがない。今だって、ハアハアと息切れしながら応戦してる。私が援護出来たらいいんだろうけど、エリアスは回避に気を取られて私が援護という可能性を丸きり無視してる。


 動きが遅いとか拙いとかは無い。ただ、相手の方がずっと速いしずっと力技。これが空手とか柔道とか、決まった動きの競技なら絶対エリアスが勝つ。でもこれは実戦で、形もない。だから、絶対的に相手が有利。技術じゃない、力の差。


「きっと負けるの」

「さっきみたいな援護は?」

「嫌なの。さっきはあなたが助けてくれたから援護したけど、その人を助けた人の援護なら不必要。そんなに簡単に、魔族に力は貸せないの」

「…!」


 唇を噛む。この子は本気だ。この子は本音でしか喋ってない。だから嫌だ。手伝ってくれてもいいじゃないかと思ってしまう。

 もしこの子が手伝ってくれたら、勝てるのに。エリアスは行動パターンが読めなくて、読む暇が無くて、大変だからあんなに苦戦してるのに。

 今私が援護出来ないのは、入り込む隙がないから。一瞬の隙に入り込めるように、二人の動きを視る。さっきオフにした五感強化と『視界良好』をオン。


 相手、男が蹴る。エリアスが避けて脛を蹴る。その隙を狙って、男が右から殴る。回避。エリアスが男の後ろに回ろうとする。それも、隙を見せない男のせいで出来ない。そこを狙って男が蹴る。回避、無理。せめての抵抗でバリア。それも、弱い。全部が、弱い。崩れている男の体勢に付け込む力が無いほど、エリアスの意識自体朦朧としていた。お腹を殴られ、足を殴られ、腕を振るった際に防御され、頭に最弱だろうとダメージを与えられる。エリアスだって、限界だ。霊魂族が、『操霊』を使う隙もないほどに、エリアスは押されていた。


「エリアス!霊魂を!」

「無理、だ!」


 エリアスは力を込めて男のお腹を蹴り飛ばした。


「チッ!ちょこまかと逃げやがって」

「お前…人間だな」

「ご名答」


 男はにやにやと笑いながら、距離を取ったエリアスに詰め寄る。エリアスは距離が開いたのを好機と見て大きくバリアを張って男を阻む。

 

「え?」


 思わず声を上げる。女の子を見ると、頷いていた。


「あの人、人族なの。私が何より軽蔑してやまない、人族なの」

「人…どうして、人族が魔族領に」

「人族では、人の奴隷は禁止されているの。だから、こっちに来たの――魔族でも亜人族でもなんでもいいからお金を稼ぐために」

「ふーん…」


 なんだ。

 つまり、庇護対象外か。


「それに、知らないの?魔族は、奴隷を奴隷としては扱わないの」

「は?」

「あくまでも金銭関係で買い取るお手伝いさんなの。悪いけど、その点では魔族は責められないの。だから誘拐とかありえないの」

「は、え、どういう…?」


 つまり、なに。

 肉体労働っていうのはただの私の家に居るメイドさんみたいな仕事なだけで。

 性的関係とかを迫るような対象ではないと。


「奴隷市とか言うと響きが悪いの。でも、この前見てきた限りじゃ、奴隷の子達は奴隷じゃなかったの。正確には、『金銭で買い取られる、その家の主からは逃げられないけれどある程度人間としての尊厳は認められる存在』なの」

「長いね。自由はあるって事?」

「ある程度、なの」

「つまり?」

「主の許可があれば、大体おーけーなの。しかも大体おーけーを出すの」

「……」


 それは奴隷というのか、はたまた家政婦と言うのか。


「だけど、人族では、違うの。確かに人族もそう扱うけど、その裏で、奴隷を奴隷として扱ってしまう悪い奴らが居るの」

「…そりゃまた」


 えっと、そっちの方が正しいんだけどね、奴隷と呼ぶなら。奴隷、どれい、ドレイ。奴隷…あ、わけわかんなくなってきた。


「つまり、あいつらは人間って事ね」

「そうなの」

「じゃ、庇護対象外、むしろ敵。死人は出さず大人しくこの国から去ってもらおうっと。エリアスがやってくれる」


 ピシッ、とエリアスの結界が割れてくる。

 割れてほしいんだけどね。このままじゃ、どうにもなれないから。多分、もうエリアスは『操霊』が使える状態。結界内で白い渦が巻き始めてる。


 バリンッ!


 結界崩壊、それと同時のエリアスの『操霊』の詠唱。


「冥府に行けず現世に漂う霊魂達よ、我が手に集い願え!前世の願いを今此処に!」


 びゅうん、と唸る音が聞こえる。


「我ら、集いし力ある霊魂なり」

「我ら、主に命じられ動く霊魂なり」

「我ら、主に命じられればこの姿を棄てる覚悟なり」

 

「良い覚悟だ、お前ら。さあ、あいつの魔力ならいくらでも吸い取ればいい」


「我ら、主様に食事を命じられて有難い限りなり」

「我ら、主様に食事を命じられて恐縮の限りなり」

「我ら、主様に食事を命じられて幸悦の限りなり」


 三つの霊魂は、エリアスの右腕、左腕、そして胸に集った。

 なりって…コ〇助みたいだな。そんな明るいトーンじゃないけど。


「お前達、行け!」

 

「了」

「了」

「了」


 三つの声が重なったのか、それぞれ言ったのか、それは分からない。そのままに、霊魂達は動き出す。そして、気付いた。エリアスの頭の上で丸くなって怯えている霊魂に。


「…エリアス、その霊魂何?」

「こいつか。こいつ、子供で戦いに向かないのに来てしまったらしい」

「へえ?」

「やめろぉおおおおぉおぉおおおお!」



 響く絶叫。耳を劈く絶叫は、霊魂達に魔力を吸われ尽くした男の声だった。

 う、うるさい!そんなに痛いの?苦しいの?

 男はガクガクと震えていて、気絶寸前。いっそ気絶してしまえば楽なんだろうけれど、纏わる霊魂がそれを許さない。


「我ら、主様に命じられて汝の魔力を吸い尽くす霊魂なり」

「我ら、姿形のない唯一つの姿なき姿在る生き物なり」

「我ら、主様の命なしでは生きられぬ前世の姿の残滓なり」


「もういい止めろ」


 さすがに男が哀れに思ったのか、エリアスが中止を命じる。命令に従い、霊魂達がするすると離れて行った。それでも、男の震えは止まらない。


「悪いな」


 エリアスが男の首筋にそっと触れただけで、ビクッと男が震える。そんなに怖いんだ…もしかして、エリアスって敵に回したらやばいタイプの人間?

 

「お前が魔族だったら、手加減したんだが」

「…う、ぐう」


 そのまま気を失う男。私は、不言魔法で出来る限りの治癒をしてやった。何故って?…だって可哀想なんだもん…。


「それで?私はもう行くけど、あなた達はどうするの?」


 女の子は首を傾げて聞いてきた。銀狐の女の子。一応友達になっておきたいのは山々だけど、魔王に恨みがある辺り、難しそう…かな。


「帰るよ」

「じゃ、私も帰るの。きっとお兄ちゃんが心配してるの」

「待って!」

「何なの?」


 女の子が訝しげに聞いてくる。


「私を、恨みますか」


 私の静かな声。私は五歳だけど、十八年分生きてきたから少しは人間を知ってるつもりだ。人の恨みはそうそう消えない。八つ当たりでも、仲間が狩られたのだ。魔王が変わりましたかはいそうですかと引くような人はあまりいない。

 

「…恨む。すごく、恨む。もし、あなたが何の害もない種族を狩ったなら、なの」

「待って!」

 

 また跳ぼうとする女の子を引き留める。女の子は面倒くさそうにこちらを見た。皆さん、そんな顔をしたら人間傷付くんですよ。ねえ。知ってました?


「私の家に来ない?」

「…は!?」


 女の子は心底訳が分からない、と言うように目を見開いて叫んだ。


「お願い、ちょっとでいいから話を聞かせて。私は何も知らない。お願い」


 女の子は、品定めするように私を見た。そして、悪戯っぽく笑顔を浮かべる。


「いいの。少しくらいなら、話してやらない事もないの。ただ、お兄ちゃんを連れて来るからお兄ちゃんと相談してから、なの。だから、明日なの。明日、お兄ちゃんと相談しておーけーされたらあなたの家に行くの。あなたの家は…あなたの、名前は?」


 私は息を吸った。そして、目の前の女の子を見つめる。


「私の名前は、ミルヴィア。公爵家の娘。そして当代の魔王。宜しく」


 私が手を差し出すと、女の子は悪戯っぽい笑顔を浮かべながら握手に応じた。


 …まあ、まずはお兄様にこの腕輪を渡してからかなぁ…。

閲覧ありがとうございます。

地味にお兄様の事を忘れかけていたミルヴィアです。

次回、お兄様とのその後です。時間的には、お兄様と朝ごはんの後です。

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