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勇者編 大好きな婚約者

久しぶりの勇者編ですが、短いです。


「このままでは魔王と戦うまでもなく負けるぞ! 来週から訓練の日数を増やす!」


 師匠であるデリックは大声をあげて僕を罵倒した。必要ないと抗議しても聞いてくれないし、父様と母様も無言だった。許せない。僕は勇者なのに。人族で一番秀でているのに。

 許せない。


 僕は訓練が終わってから、どうしようもない怒りを抱えて眠った。翌朝夢から覚めても、怒りは消えない。

 勇者の固有魔法(ユニークマジック)は『人望』だ。それを使った召使達は僕を信頼し敬いつくしてくれる。だから僕は側近の召使には『人望』を掛けていた。僕は元々保有している魔力が少ないのだけれど、それは森で取れるとある薬を飲めば補充されるのだ。

 僕は常にその薬を持っていて、好きな時に魔法を使って好きな時に薬を飲む。

 前に城下町の民が「魔力枯渇で苦しんでいる人のために薬を」などと訴えていたが、知ったことか。


「ラードル様。お薬、こちらにございます」

「ああ」


 召使から薬を奪い取る。こいつはかなり綺麗な顔で、たまにうっとりと僕を見つめる仕草だけは好きだった。

 顔が綺麗なだけの無能――そうとも言えるが。

 しかし、『人望』のおかげで言いつけた仕事はきちんとこなす。


「ラードル様、本日お昼に訓練がございます。通常訓練とのことです」

「なんだと!? 今日は休みだろう!」

「訓練の日数を増やすと申し付かっております」


 召使は内心で怯えながら、顔だけは取り繕っている。

 僕が怖いなら師匠に抗議でもすればいいのに、馬鹿な奴だ。

 抗議すれば首を切ることもできるのに。


「チッ、分かった。下がれ!」

「失礼します」


 召使が下がると、僕はやり場に困った怒りを本を投げることで発散した。遠くに飛ばされた本は、壁に当たって背表紙の隅がへこむ。

 まじめにやっていないとはいえ、剣を握って何年も経つ。握力と腕力は同年代の人並み以上にあるはずだ。魔力が弱い分、ここは大きな自信になっていた。そんな力で投げられた本はひとたまりもないだろう。

 マシになった怒りをどうにか鎮める。それでも、腹の底で燻ったものがいつか吐き出される。召使や父様、母様にでもぶつけてやろう。

 もう少しすれば召使が食事を運んでくる。それまで眠って待つとするか。


 ベッドの上に寝転がる。広く、柔らかいベッドだ。このまま眠ろう――


「ラードル様。よろしいでしょうか」


 戸が叩かれる。その声が知った声だったから、僕は飛び起きた。もしこれが別の声だったなら、長剣を手に取っていたところだ。


「ああ! もちろんだ!」

「失礼いたします」


 入って来たのは、豪華なドレスに身を包んだ女の子だった。紫色の髪は前髪を眉の上で真っ直ぐにそろえ、紫色の瞳は憂う様に伏せている。

 僕の婚約者、リイラだ。


「リイラ。どうしたんだ? 何か用があったのか」

「いいえ。ただ寂しくなりましたので……ご迷惑でしたか?」

「いいや、いい。君なら大歓迎だ!」


 僕はリイラが好きだ。文句ひとつ言わずに僕の後をついて来る。一度たりとも反抗的な態度をとったことはないし、意見を言った事も無い。こうしてたまに訪れては、僕と過ごすのだ。


 ああ、なんて素晴らしい日なんだ! リイラが来てくれるなんて。リイラは同じ城に住んでいるけれど、彼女は彼女で忙しい。なかなかスケジュールも合わなくて、こうして顔を見れるのは月に一度だ。

 リイラがその予定を放ってでも僕のところに来たのは、寂しかったからか。朝食も食べていないだろうに。

 こういう、可愛いところがあるのだ。


「それで、今日は何をする? 遊ぶ道具ならばなんでもあるぞ!」

「今日は本が読みたいです」

「本?」


 さっき投げた本の事を思い出して、目を細めた。リイラがびくっと反応する。怯えているのか、紫色の瞳を揺らして悲しそうだ。

 おっと。リイラを悲しませるようなことはしちゃいけないな。

 僕は笑顔で取り繕った。


「そうか。だが、僕は嫌だ」

「……分かりました。ラードル様のお好きな遊びをしましょう」

「それでいいのか!?」

「はい」

「よし。何をするか。探してくる。朝食が運ばれてきたら要らないと言ってくれ!」

「分かりました」


 リイラは頷いて僕を見送った。

 僕はうきうきしながら娯楽室を漁った。見つけた玩具を数個持って、リイラの元に戻る。きっと喜んでくれるだろう。


 戻ると、リイラの前には朝食が置いてあった。


 僕の手から玩具が落ちる。驚くリイラの方へ一歩踏み出した。玩具が一つ潰れた。そのままリイラの手を握ると、ナイフとフォークを無理やり置かせる。

 濡れるリイラの瞳を、覗き込んだ。


「何故食べているんだ」

「ちょ――朝食、です」

「見れば分かる。何故僕が食べていないのにリイラは食べようとしてるんだ。遊ぶんだろう。それともリイラは食べながら遊ぶというのか? この僕を蔑ろにするつもりか?」

「ち、違います。……これは、下げさせます……」

「ああ、それはいいな。そうしよう」


 リイラからの提案を快く受け入れる。

 このまま食べ続けるなんて言われたらどうしようかと思ってしまった。場合によっては婚約破棄に留まらなかったかもしれないな。そうならなくてよかった。


「じゃあカードゲームをしよう。いいのがあるんだ」


 さっき落とした玩具の中から、一番好きなものを選んで取った。

 カードを切りながら、僕はリイラに笑って見せた。

閲覧ありがとうございます。

前回の勇者編が昔過ぎて憶えてない方もいらっしゃると思いますので、軽く説明しますね。


ラードルは勇者で王子です。横暴で訓練をまともにしないので師匠のデリックが困ってます。

勇者の固有魔法(ユニークマジック)は『人望』。人から信頼されます。

王族の固有魔法(ユニークマジック)は『禁欲』。三大欲求以外のすべての欲求をなくさせて廃人同然にしちゃうやつです。


『禁欲』は使ってはならないとされているから『人望』で人を操るという裏技をやってのけるラードル。悪知恵だけは働く。


次回、本編に戻ります。ユアンと訓練です。

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