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200 人族の温もり

前回、話の投稿を間違えました! 申し訳ございません……!

こちらが本来の200話となります。

 ラルドさんに与えられた部屋を出て、ユアンとエリアスが過ごす部屋へ行く。アルトも一緒だ。エリアスに任せてしまおうと思って連れて来た。

 軽くノックしてみると、返事があった。

 わくわくしながらドアを開ける。


「もう行くのですか?」

「ほどほどにして帰ってこい」


 いつも通りの笑顔を浮かべるユアンと、面倒そうに借りた本を読むエリアス。そのページをめくるスピードが尋常じゃない。読んでるのか疑うレベル。


 アルトは私が何も言わないうちにさっさと部屋の中に入って行った。物分かりがいいね。付いて来たいというかと思ったんだけど、疲れたのかな。

 アルトにもお土産買ってきてあげよう。

 やっぱり絵本とかがいいよね。人族領にしかないような奴。


「うん、行こ。色々見てみたいんだよね。エリアス、お小遣いちょうだい」

「ユアンに渡してある」

「マジ? どれくらい?」

「言ったら無駄遣いするだろう」

「それなりなのね。了解。じゃ、ユアン出発しよっか。人族領のご飯とか食べてみたいんだよねえー」

「お前な、今から敵陣に乗り込むようなものなんだぞ。もっと警戒したらどうなんだ」


 敵陣って言われてもなー、私からしてみればそれほどの脅威に見えないって言うか。

 ぶっちゃけ人族が束になってかかってきても、私達が勝てると断言できるね。

 皆強いし、何より魔族最強の魔王がいるんだからね。

 負けるわけがないって。


「勝てる勝てないの話じゃない。騒ぎになるかならないかなんだぞ」

「はいはい、分かった分かった。安心してよ、『変化』が解けない限り大丈夫なんだから」

「魔力配分に気を付けろよ」

「分かってるって。心配性だな」

「心配してるわけではない。分かったならいい、さっさと行って帰ってこい」

「はは、そうするよ。アルトも、行ってきます」

「うん。なにか、あったら……ぼくが、どうにかするから」


 心強い。

 私は微笑んで、ユアンを引き連れて屋敷を出た。ユアンと二人で出かけるとか、出会って間もない頃を思い出す。あの時、路地裏で襲われたんだっけ。懐かしい。

 今ではそんな不覚は取らない。

 返り討ちにしてやる。あの時の倍ぐらいのお仕置きをしてやる。


 そもそもの話、路地裏に行かなきゃいいだけってのもある。

 魔族領での路地裏にすっかり慣れちゃってるから感覚がマヒしてるけど、前世でも路地裏に行くときにはそれなりの危機感を抱いていたはず。

 現代日本よりも平和だからねー、あそこ。それにしてはボケてないのが不思議。


 と、意味もない事をつらつら考えてると、あっという間に城下町に着いた。多くの商店が並んで、人も多い。恰好や建物が中世っぽいことを除けば、本当に日本を思い出す町並みだった。

 獣人とかいないからね。

 純然たる人族。


「不思議ですね」

「だね。さて、どうしようかな。みんなにお土産選んで、買って帰ろっか。お土産を見て回るだけでも楽しめそう」

「あそこに雑貨屋がありますよ」

「ちょうどいいじゃん! 行こ!」


 外でこうやって一般人として振る舞えるっていうのは貴重だ。金髪金眼の幼女と青髪の青年として、楽しく散策するとしましょう!


 雑貨屋で狐ちゃんの髪飾りとか、アルト用の腕輪とかを買いつつ、ユアンと話す。人目を気にせずユアンと話せるっていうのは結構楽しい。

 なんだかんだ、この世界に来てから初めの方に遭遇したからね。付き合いはそこそこ長かったりするのだよ。揉めた回数は誰より多い気がするけど。


「こうして話すのも久しい気がします」


 タイミングよく、あるいはまた心を読まれたのか、ユアンがそう言った。


「そうだねぇ。私もそんな気がする。周りの目を気にしないでいいなんて、人族領(ここ)も悪くないね」

「ええ。たまに向けられる好奇の視線がとてもとても煩わしいですが」


 まあね。魔族領よりも人の出入りが激しいせいか、確かに視線は気になるね。

 ユアンったら、悔しいことに美男子だから。めっちゃ注目浴びてるのは確かだよ。


「ミルヴィア様も注目されていますよ」

「ユアンのおまけ程度の視線しか感じませんが?」


 黒髪の時ならいざ知らず、こうやって馴染む髪色になってみれば、私はあまり目立たないのだ。元々そこまで整った顔立ちじゃないし、整っていたとしても子供なんだからじろじろ見られることはない。

 だから私に向けられる視線は、ほとんどが『あのイケメンが連れてる幼女は何者だ?』的なもの。

 完全なとばっちり。


「それにしても、何よりいいのは、黒髪の――」

「お嬢ちゃん、ちょっといいかい」


 はっとして振り返る。急なことで警戒してしまって、あやうく短剣を抜くところだった。ギリギリ我慢できたのは、その人に敵意がないと気づけたからだ。気付けなかったら流れで抜いてしまっていたかもしれない。

 あぶね。

 黒髪とか言いかけてたよ。


「ほい。落としてたよ」


 声を掛けてくれた男性が、雑貨屋の袋を渡してくれる。家族連れらしく、後ろには奥さんと子供がいた。私は気後れしながらおずおずと袋を受け取る。


 ――人族。


 犬の耳や尻尾が生えてるわけでもなく、翼で羽ばたけるわけでもなく、秀でもせず、劣ってもいない、そんな種族。不言魔法は使えなくて、全員が人並みの生活を送る。

 それらの事がすごく不思議で、私はまじまじと男性を見つめてしまった。

 総合的に言えば、魔法が使えること以外は前世の人間と変わらないっていうのに。私の感覚は魔族の方に相当染められているらしい。


 ユアンを伺えば、ユアンもにわかに緊張している。さすがに剣には手を伸ばしていない物の、その準備はしていた。いつもの笑顔も消している。

 抑えてくれよ?

 たとえ襲われたとしても、斬るようなことはしないでよ?


「観光客かい」

「は、はい」

「はっはっは、慣れてないだろうと思ったもんでな、気になったのさ。どうだい、この町は。楽しいかい?」

「皆さん優しいし、楽しめてます……あの、袋、ありがとうございます」

「いいさ。子供のうちは優しさに甘えとくんだな。そっちの兄ちゃんも、迷子にならないように手でも握っといてやりな」

「……お心遣い感謝いたします」


 ようやく笑顔になって、ユアンが言う。警戒の必要なしと判断したのか、両腕も下げていた。

 ユアンが警戒してないって事は、私も警戒しなくていいのか。

 金髪だとなめられて襲われるような気がしてたから、無駄に緊張しちゃったよ。


「にしても、二人で観光かい。珍しいこともあるもんだな」

「本当は他にもいるのですが、別行動中なのです」

「ほお。ま、ここいらは治安がいいからな。ゆったり見て回れよ。あ、スリだけには気を付けるように」


 治安がいいのか悪いのか。魔族じゃスリなんてあったら大騒ぎだぞ? 最近は魔王不在のせいで人族が入り込んで治安悪くなってるけど……。


「はい。気を付けます。本当にありがとうございました」

「おうよ。じゃあな」


 男性は手を挙げて、家族と一緒に反対方向へ歩いて行った。子供は落とし物を届けたお父さんが誇らしいのか、嬉しそうにしている。本当に、ごくごく普通の家族だ。

 私は思わず家族をじっと見つめてしまった。


 ――前世を、思い出す。

 今まで魔族の姿ばかり見ていたから、連想させなかったのに。あの家族と似た、両親の温もりを思い出して、一瞬胸が痛くなった。地球では、きっと愛発が上手い事やってくれてるとは、思うけど。

 どうしてるのかな。幽霊だから元気だよね、きっと。

 無事だといいな。


「ミルヴィア様、行きましょうか」

「…………」

「ミルヴィア様? どうかなさいましたか?」

「えっ? あっ、ごめん、何?」

「行きましょうと言っただけですよ」

「ああ、うん。行こう」

「大丈夫ですか? お加減がよろしくないようでしたら、もう戻りましょうか」

「大丈夫大丈夫。ちょっとぼーっとしただけ」


 そう、故郷を思ってセンチメンタルになってただけだよ。

 安心させようと笑顔を見せると、不安そうな顔で返された。なぜに。

 何か言いかけて、口を噤む。そして緩々と首を振ると、歩くように促してくる。私が歩き始めると、当たり前のように後ろからついてきた。

 よく考えたら、子供の後ろを青年がついてくるって結構変だよね。普通は隣り合って歩くもんだし。


「ユアン、隣来なよ」

「よろしいのですか?」

「まあ、出発前の『発言厳禁』の約束をすでに破ってるんだから、今更でしょう。はぐれたら嫌だし、来なよ」

「はぐれることはないと思いますが……」

「言っておいて何だけど、私もはぐれることはないと思う」


 若干渋りつつ、ユアンは私の隣に並んだ。こうしてみると兄妹みたいに見えるかもしれない。私のお兄様はお兄様だけなので、そう見られるのは本意じゃないものの、隠れ蓑としてはいい役割を果たしてる。


「先ほど、何を考えておられたのですか?」

「別にー。ああいう家族、いいなーとか思っただけ」

「家族、ですか」

「うん。家族の中ではお兄様としか出かけたことないもんでね」


 あの両親とお出かけは、さすがに嫌だ。もっといい両親のもとに生まれたかったわあ。改心してからはマシになったあの傲慢さも、当初はかなりイラついた。

 魔族って、犯罪が少ないだけで嫌な奴がいないってわけじゃないんだなって知った最初のきっかけだったね。

 ちなみに二番目はエルフ。


「そうですね。確かに、羨ましいかもしれません」

「あれ、ユアンも?」

「ええ。いつか、あんな風に家族で歩けたらいいですね」

「?」


 私の両親はあんなだし、ユアンのご両親は亡くなってる。

 無理じゃね?


「子供としてではなく、親として。あの家族のように、幸せな家庭を築いてみたいものです」

「……驚いた。ユアンって結婚願望あったんだ」

「ありますよ。私なんだとお思いなのです?」


 ユアンが苦笑する。

 だって意外じゃん。てっきり騎士に殉じるものだとばかり思ってたよ。


「そのためにはまず女たらしを治さないとねー」

「心外ですね。最近はミルヴィア様一筋で遊んでいなはずですよ?」

「私一筋云々はともかく、遊んでないのはその通り。でも、噂が消えるまで長期戦だね。好きな人が出来たら覚悟しないと。本気だって認めてもらうまで時間かかるよー、きっと」


 遊びだ何だと思われちゃう。

 私がそう言うと、ユアンはまた苦笑した。


「ええ、そのようですね」


 ユアンは目を瞑って、嘆息する。


「どうした? 疲れた?」

「違う意味で」

「はあ。休む?」

「いえ、むしろどんどん進んでいただければ治るかと」

「へー」


 疲れ切った表情のユアンにそれ以上追及する気になれなくて、小首を傾げながら進む。

 その日は結局、日が落ちるまで城下町で遊びつくした。

閲覧ありがとうございます。

前回は本当にすみませんでした……。本来のお話となります。

次回、予定を変更して勇者編です。

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